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神獣テイマーの異世界放浪記 〜未知なる食を求めて〜  作者: 葉山ローリエ
第二章:交易都市グランツ編 ~新たなる幻獣との出会いと、街を脅かす巨獣の影~
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第57話:黄金豚王のカツ丼と、ボムグレープの爆笑

荒野の中心で従魔たちの歓喜の雄叫びを聞いた俺は、アイテムボックスから調理器具一式を取り出し、腕まくりをした。


(腹ペコのみんなに、ガッツリ食べてもらう料理……よし、あれしかない! 『カツ丼』だ!)


カツ丼に決めたのには理由があった。

実は数日前、王都で買い出しをした際、市場の隅にある店で「とんでもないお宝」を見つけていたのだ。


『お客さん目が高い! それは他国からの輸入品で、どんな料理でも美味くなる魔法の粉だよ!』


店員にそう言われて味見したそれは――カツオと昆布の強烈な旨みが凝縮された『粉末の出汁』だった。

さらにその隣には、日本で食べていたものと遜色ない『味噌』まで売られていたのだ。普通の調味料と比べればかなり高かったが、俺は迷わず全種類を買い占めた。


(この世界に、なんであんな完璧な出汁と味噌が……? 他国の技術が凄いのか、それとも、もしかして俺みたいに転生してる日本人がいるのか?)


色んな考えが頭を巡るが、今はとにかく料理だ。

いつかその国にも行ってみたいという新たな目標を胸に、俺は巨大なAランク魔獣『黄金豚王ゴールデン・ボア・キング』の前に立った。


「ハク、タンク! 解体を手伝ってくれ!」


『任せろ!』


『承知した!』


ハクの鋭い風の爪と、タンクの豪快な牙と怪力によって、家ほどもある巨大な猪はあっという間に解体されていく。

俺はその見事な肉の塊を、愛用の解体用ナイフで部位ごとに綺麗に切り分けていった。


「うわぁ……とんでもなく美味そうな肉だな。綺麗なサシが入ってて、肉質も信じられないくらい柔らかい」


切り分けながら、俺はすでに次の料理のことで頭がいっぱいになっていた。

煮豚、焼豚、トンテキに冷しゃぶ……夢が広がりまくる。だが、今日の主役はカツだ!

俺は極上のロースとヒレの2種類の部位を分厚く切り出し、塩コショウで下味をつけてから、衣をたっぷりと纏わせた。

そして、熱した油の海へと静かに投下する。

ジュワァァァァァァァァッ……!!

荒野に響き渡る、小気味良い揚げ音。

きつね色に揚がった極上カツをサクサクと切り分けると、断面からは肉汁が滝のように溢れ出した。


次に、大きめの鍋に水と『粉末の出汁』、醤油やみりんの代用品となる異世界の調味料を合わせ、薄切りの玉ねぎを入れて軽く煮立てる。

そこへ先ほど揚げたばかりのカツを敷き詰め、上から溶き卵を豪快に回し入れた!

フツフツと卵が煮える甘辛い匂いに、背後からジュルリと強烈なヨダレの音が聞こえてくる。

俺は絶妙な半熟のタイミングで火を止め、サッと蓋をした。


「どんぶりによそって……仕上げに三つ葉に似た香草を乗せれば、黄金豚王の極上カツ丼の完成だ!!」


さらに、もう一つ。


「やっぱりカツ丼には、汁物がないとな!」


残った黄金豚王の豚バラ肉を薄くスライスし、たっぷりの野菜と一緒に炒め、『出汁』と『味噌』を溶き入れた至高の『豚汁』も用意した。


「さあみんな、お待たせ! がっつり食ってくれ!」


俺がそれぞれのお皿とどんぶりを並べると、みんなは凄まじい勢いで食らいついた。


『な、なんだこの旨みは……!? 甘辛いタレと、謎の深いコクが、豚肉の美味さを極限まで引き上げている!』


『がはははっ! 衣に染み込んだ汁と、トロトロの卵がたまらねぇ! 肉も歯がいらねぇくらい柔らかいぞ!』


「きゅぴぃぃ〜〜っ! この茶色いスープ(豚汁)も、すっごくあったかくて美味しいのぉ!」


「本当に……リオンの料理は、いつも私たちの想像を超えてきますわね」


『出汁』という新たな旨みの概念に、従魔たちは目を丸くして大絶賛している。

俺も自分のどんぶりを掻き込み、豚汁を一口すすった。


「くぅぅっ……! 沁みる……!!」


久しぶりの和食の味に、俺は思わず涙ぐみそうになった。

 ◇ ◇ ◇

食後の温かいお茶(に似た薬草湯)を飲みながら、俺はふと気になっていたことを尋ねた。


「そういえばリコ。さっき『一つ目の封印』が解けたって言ってたけど、まだ他にも封印があるのか?」


俺の膝の上で丸くなっていたリコが、小さな顔を上げる。


「ええ。記憶が少し戻ったことで、今の自分の姿や力に違和感を覚えているのですわ。記憶もまだ完全ではありませんし……おそらく、まだ封印が施されているような気がします」


「なるほどな……。これからさらに力を取り戻していけば、自力でその封印も解除できるかもしれないってことか。……ん?」


俺はハッとして、タンクとハクを見た。


「てことは、もしかして……タンクとハクも、封印が全部解けたら『人型』になるのか!?」


俺の言葉に、二匹は顔を見合わせた。


『がははっ、そいつは分かんねーな。なんせ、俺自身に人型になってた記憶がないからな』


『我も同じだ。だが……記憶がないという状態がリコと同じであれば、我々が人型になる可能性は十分にあると思うぞ』

俺は思わず想像してしまった。

タンクが人型になったら、きっと2メートル超えの筋肉ムキムキでイカつい兄貴肌の男だろう。

ハクは、銀髪で切れ長の目をした、クールなイケメン剣士といったところか。


(もしみんなが人型になったら……こうして同じテーブルの椅子に座って、一緒にご飯を食べるのも楽しそうだな)

俺はそんな未来を想像して、一人でニヤニヤと笑ってしまった。


「よし! それじゃあみんな、デザートいるかー? 今日は面白そうなフルーツを見つけたんだ!」


「きゅぴっ!? おもしろデザートってなにー?」


ルーがピョンと俺の肩に飛び乗ってくる。

俺はアイテムボックスから、市場で見つけた奇妙な果物を取り出した。


「これだよ。『ボムグレープ』だ!」


それは大きめの粒のブドウなのだが、よく見ると房の中で『一粒だけ』が薄っすらと光を放っていた。


「店のおっちゃん曰く、この『光っているやつ』から順番にちぎって食べるらしいんだ。ルー、いってみるか?」


「きゅぴ! たべるー!」


ルーが小さな前足で、光っている実を一つポイッと口に放り込む。


「あまーい! リオン、これすっごく美味しいよ!」


その言葉を聞いて、今度はハクが身を乗り出した。


『ふむ。ならば我にも一つ……』


ハクは次に光った実を狙って前足を伸ばした。

しかし、虎の大きな前足では細かい作業ができず、光っていない隣の実まで一緒に巻き込んでむしり取ってしまった。

――その瞬間。

パァァァァァンッッ!!!


「『!?』」


なんと、間違えて取った実が空中で激しく破裂し、紫色の大爆発を起こしたのだ。

爆発の衝撃が収まると、そこには顔面を紫色の果汁まみれにしたハクが、目をパチクリとさせてフリーズしていた。


「ぶっ……あはははははっ! ハク、お前顔がブドウまみれだぞ!!」


俺が腹を抱えて爆笑していると、プライドの高い白虎の額に青筋が浮かんだ。


『……フンッ!』


シュパッ!

ハクはイラッとした顔で、神速のスピードで実を一つ弾き飛ばした。


「げっ」


ベチャァッ!!

俺の目の前に飛んできた実が見事に顔面で破裂し、俺の顔も紫色のブドウまみれになった。


「なっ……やりやがったなハク! よーし、こうなったら!」


『がははははっ! お前ら、ちまちま食ってるからいけねぇんだ! こんなもん、一気に全部食っちまえば問題ねぇだろうが!』


俺とハクがブドウの投げ合いを始めようとしたその時、タンクが豪快に笑いながら、残っていたボムグレープの房を丸ごと大きな口に放り込んだ。


「あっ、おいタンク! それは流石に……!」


俺が止める間もなく、タンクがアゴに力を入れた瞬間。

ボボボボボボボボォォォォンッ!!!!!


『ぶごおおおおぉぉぉぉっ!?』


タンクの口の中で連鎖的な大爆発が起こり、巨大な口と鼻の穴から、紫色のブドウ果汁が火山のように勢いよく噴き出した。


「「『『…………』』」」


「……あーっはっはっはっはっ!! なにやってんだよタンク!!」


『がははっ……ゲホッ、これは流石に驚いたぜ……!』


『ふっ……自業自得だな、阿呆め』


「きゅぴぴぴっ! タンクのおはなからジュースがでたー!」


「もう……あなた達は本当にバカばっかりですわね。ふふっ」


紫色の果汁まみれになった俺たちは、荒野に響き渡るほどの大声で笑い合った。

激闘と修行の合間の、何気ない日常。

出汁の香りとブドウの匂いに包まれながら、俺たちは久しぶりに、腹の底から楽しい食事の時間を満喫したのだった。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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