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神獣テイマーの異世界放浪記 〜未知なる食を求めて〜  作者: 葉山ローリエ
第二章:交易都市グランツ編 ~新たなる幻獣との出会いと、街を脅かす巨獣の影~
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第54話:王の決断と国宝の魔剣

食事を終えて一息ついた頃、裏庭のベンチに腰掛けたセリアさんが、真剣な面持ちで俺たちを見つめてきた。


「リオン君、食事の後に申し訳ないのだけれど……今回の件について少し聞かせてほしいの。ハクから聞いたわ。あなたたち、霊峰の頂上で【バハムート】にやられたって、本当なの?」


「……はい。本当です。俺の慢心のせいで、みんなを死なせるところでした」


俺が重苦しく頷くと、隣で聞いていたジークさんが爽やかながらも厳しい表情になった。


「それは本当かい? バハムートの目覚めなんて、国がひっくり返る一大事だ。リオン君、すぐにギルドへ報告しに行こう」


俺たちはセリアさんたちと共に、すぐさま王都の冒険者ギルドへと向かった。

奥のギルドマスター室で、王都のギルマスであるギデオンに霊峰ガルディスで見たもの、起きたことのすべてを包み隠さず話した。


「そ、そんな馬鹿な……ッ! 伝承の竜王バハムートが、本当に目覚めたというのか!?」


ギルドマスターのギデオンは机を叩いて立ち上がり、顔面を蒼白にさせて冷や汗を流した。


「至急、国王陛下に直接報告せねばならん! リオン、お前たちも城へついてこい!」


「分かりました。でも……タンクやルーを城に連れて行くのは目立ちすぎますよね。タンク、ルー、城には行かずにここで待っていてくれるか? ハクはいつも通り、影の中で頼む。……リコは、後で陛下へ説明する時に補助を頼むから一緒に来てくれ」


「きゅぴ!」


『がははっ、任せとけ!』


『承知した』


俺の指示に従い、ハクがスッと影に潜む。


「うむ。そこの小さなネズミなら目立たんし、同行を許そう」


ギデオンも深く頷き、俺たちはギルドを飛び出した。

 ◇ ◇ ◇

王城の巨大な正門に到着したものの、俺たちの前に並び立つ近衛騎士たちが、鋭い槍を突きつけて遮ってきた。


「止まれ! 予定にない訪問など受け付けられん。いくら冒険者ギルドの長とはいえ、無礼が過ぎるぞ!」


「急な訪問ですまない。だが、国王陛下に『霊峰ガルディスの調査結果が出た』とお伝え願えるか。陛下ならお分かりになるはずだ」


ギデオンが声を潜め、静かに、しかし有無を言わさぬ真剣な声で伝えると、騎士の一人が「し、少々お待ちを!」と慌てて城の奥へと走っていった。極秘調査の件を知る者として、その深刻さを察したのだろう。

しばらくして、戻ってきた騎士は先ほどとは打って変わって焦り狂った様子で頭を下げた。


「し、失礼いたしました! ギルドマスター・ギデオン殿、ならびにお連れの方々! こちらへどうぞ!」


俺たちは騎士の案内で、城のきらびやかな廊下を通り、国王がごく限られた最側近としか会わないという『極秘の謁見室』へと通された。

部屋の奥、豪奢な椅子に腰掛けていたのは、威厳に満ちた初老の男――この国の王だった。


「ギデオンよ。霊峰ガルディスの調査、何かわかったのか?」


陛下の一言に、ギデオンはその場に膝をつき、絞り出すような声で言った。


「陛下……恐れていたことが起こりました。王都周辺で急増していた高位魔獣の原因……それは、竜王バハムートの目覚めにございます」


「なんだとっ!?」


陛下の隣にいた大臣が、泡を食って叫んだ。


「ギデオン! 虚偽の報告ならその首を刎ねるぞ! いや……やはり、最悪の懸念が現実になってしまったというのか……!」


「嘘ではございません! こ、このテイマーの少年たちが、実際に頂上で交戦し、命からがら確認してきたのです! リオン、陛下に報告を……!」


ギデオンに振られ、俺が口を開こうとしたその瞬間。俺の肩の上から、凛とした涼やかな声が響いた。


『国王陛下。私は【森羅の霊鼠オラクル・マイス】のリコと申します。主の口から話すより、今からお見せする光景が何よりの真実ですわ』


「ネズミが、喋った……!?」


王たちが驚愕する中、リコは即座に淡い光の魔法を展開した。

空間に浮かび上がったのは、リコが魔法で記録していた、あの山頂での絶望の光景。

数十体ものSランク魔獣グリフォンがゴミのように転がる死骸の山。

俺の放った渾身のミスリル混成剣が、竜王の鱗に触れた瞬間に粉々に砕け散る瞬間。

巨大な尾の一撃で、俺とハクが引き裂かれる描写。

そして、絶望の咆哮をタンクが身を挺して受け止める光景――。

魔法が映し出す光景を見つめながら、俺は己の無力さと悔しさから、ぎゅっと強く拳を握りしめた。

室内は、水を打ったように静まり返った。国王はしばらくの間、深く黙り込んだ後、重々しく口を開いた。


「……お前たちが逃げ出した時、バハムートは追いかけてこなかったのか?」


「はい。俺たちを追撃することもなく、そのまま再び眠りにつこうとしているように見えました。……俺たちが、わざわざ追いかけてまで喰らう価値もないほどの獲物だったからだと思います」


俺の言葉に、国王は天を仰いで深く息を吐き出した。


「……もう一度眠りについたのか。伝承の通りだな。バハムートは『1度目の目覚め』で周囲の魔獣を呼び寄せ、力を蓄える。そして『2度目の完全な目覚め』の時、世界を破滅させる。おそらく今回は1度目の仮初めの目覚めだ。もし2度目であれば、我が国は今頃この世から消滅している」


「国王陛下。その伝承に間違いはありませんわ」


リコが真剣な瞳で陛下を見据える。


「バハムートは強者との戦いのみを望みます。目覚め始めた竜王の膨大な魔力に引き寄せられ、これからこの王都周辺には、災害クラスの高位魔獣がさらに集まってくるでしょう。そしてバハムートはそれらの魔獣を喰らって力を蓄え、完全に目覚めた後、強者を求めて世界を飛び回ります。戦いの余波だけで、国など容易く滅ぶでしょう」


「……伝承によると、次にバハムートが完全に目覚めるのは【1年後】。何としてでも、この1年で国を守る手立てを打たねばならん」


国王の言葉に、ギルドマスター・ギデオンが身を乗り出した。


「陛下、どのような対策を……!?」


「現在、王都にはC級以上の腕利きの冒険者や、名のある傭兵たちが集まっているはずだ。その中で『最も強い者』に、我が国に代々伝わる国宝の【魔剣】を与える」


「国王陛下! お待ちください! あれは我が国の象徴、そう簡単に――!」


大臣が慌てて止めようとしたが、国王はそれを鋭い一喝で黙らせた。


「黙れ!! この国が滅べば、国宝などただのゴミクズだ! 滅んだ後に、よその国が狙いに来るに決まっているだろう! バハムートを倒せる可能性を少しでも上げられるなら、国宝の一本くらい安いものだ!」


国王は立ち上がり、謁見室の窓から王都の街並みを見下ろした。


「1カ月後、王都の闘技場にて【武闘大会】を開催する! 大会に出るのは剣士以外でも構わん!」


「は、ははっ!」


大臣が青ざめながら一礼し、部屋を飛び出していった。

国王は最後に、じっと俺を見つめてきた。


「リオンと言ったか。霊峰ガルディスの調査、感謝する。……もしや、お主が連れているのは神獣か?」


「俺……私には分かりませんが、確かに神獣と言われることが多いです」


「そうか。今はそのネズミだけか?」


「いえ、他は外で待機させています。あとは……ハク、出ておいで」


俺が声をかけると、俺の足元の影から、スゥッと純白の毛並みを持つ巨大な白虎――ハクが姿を現した。


「おお……先ほどの魔法で見た白虎か……」


目の前に圧倒的な覇気を放つ本物の存在が現れたことで、国王はがっくりと肩を落とした。


「目の前にこの姿を見ると、あの絶望の光景がやはり真実なのだと突きつけられるな。できれば嘘であってほしかった」


その時、ハクが深く青い瞳を王に向け、低く冷徹な声を響かせた。


『王よ。武闘大会とやら、我らが出場しても構わぬのだな?』


国王は思案の表情を浮かべた。


「……テイマーなら魔獣を使うことに問題はないが、待機させている従魔まで使って暴れられては、試合がめちゃくちゃになる。魔剣を与える者は慎重に選びたい。試合に連れて行く従魔は【1匹のみ】に許可する」


『承知した』


ハクが静かに答え、再び俺の影へと溶けるように消えた。

こうして王宮を辞した俺たちは、重苦しい空気を抱えたまま、宿屋へと戻ってきたのだった。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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