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神獣テイマーの異世界放浪記 〜未知なる食を求めて〜  作者: 葉山ローリエ
第一章:最弱テイマーの規格外な旅立ち 〜最強の神獣たちとの出会い〜

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第5話:鑑定の光と、不味い果実の使い道

清々しい朝の光が、貸し出された丸木小屋の窓から差し込んでいた。


「リコ、朝だぞ」


指先でツンツンと突つくと、リコは長いお髭をピクリと揺らし、気品ある動作でゆっくりと起き上がった。


『……おはようございます、リオン。今日の朝食のメニューは何ですか?』


「起きて第一声がそれか(笑)。朝飯は村長さんの家でご馳走になる予定だけど、その前にちょっと寄るところがあるんだ」


俺は苦笑いしながらリコを肩に乗せ、まずは村の広場へと向かった。

そこには、すっかり大人しくなったブラッドホースが、気持ちよさそうに朝の空気を吸い込んでいた。


「おはよう。昨夜はよく眠れたか?」


『ブルルッ』と嬉しそうに鼻を鳴らすブラッドホース。


だが、俺の目は、昨日毒針を引き抜いた左後ろ脚の傷口に向いていた。


「やっぱりな。針は抜けたけど、まだ少し赤く腫れてる」

動物好きゆえの観察眼が、傷の炎症を見逃さなかった。

俺は肩の上の相棒に視線を向ける。


「なぁ、リコ。この辺りで、傷の炎症を抑えるような薬草ってないか?」


『ふふっ、わたくしの演算能力を頼るとは賢明ですね。……検索完了。すぐ裏手の森に生えている『キュア・ミント』という青い葉が、強い消炎効果を持っています』


「よし、取ってくる。それをすり潰して塗ればいいのか?」


『お待ちください、リオン。ただ擦り込むだけでは効果が薄く、場合によっては悪化します。薬の調合は素人の知識で行うべきではありません。私が完璧な分量と手順を指示しますので、あなたは手足となってその通りに動いてください』


「了解。料理の腕には自信があるけど、薬の調合は完全に門外漢だからな。頼りにしてるよ、リコ先生」


俺は裏手の森で青い葉を摘み取ると、リコの厳格な指示の下、すり鉢で葉を丁寧にすり潰していった。

そこに村でもらった蜂蜜を、リコが指定した『数滴の単位』で正確に混ぜ合わせる。


「よし、リコ特製のお薬完成だ。ちょっとヒンヤリするぞ」


俺はブラッドホースの脚の傷口に、ペースト状になった薬を優しく塗り込んだ。


『ヒンッ……!』


痛みが和らいだのだろう。ブラッドホースは感激したように俺の胸に頭をこすりつけてきた。


「ははっ、くすぐったいって! でも、まだ完治したわけじゃないからな。今日は絶対に無理するなよ」


俺が優しく撫でてやると、ブラッドホースは安心したように目を細めた。

◆ ◆ ◆


「おお、リオン殿! 昨夜はよく眠れたかね!」


馬の治療を終えて村長さんの家に向かうと、温かい出迎えを受けた。


「はい、おかげさまで。ところで村長さん、もし良ければ、この村にある『鑑定の魔石』で、正式に俺の職業クラスを見ていいですか?」


「もちろんだとも!」


言された通り、俺が部屋の隅にある水晶玉にそっと手を触れる。

次の瞬間、水晶から眩い光が放たれ、空中に半透明のステータス画面が浮かび上がった。

ーーー

【名前】リオン

【年齢】20

【職業】魔を知る者(9%)

ーーー


「お、おい……これは……」


画面を見た村長さんが、ガタガタと椅子を鳴らして立ち上がった。


「ま、まをしるもの……!? 聞いたこともない! 普通のテイマーはただ『テイマー』としか出んのだぞ! それに、この横にある『9ぱーせんと』とは一体何の数字じゃ!?」


「あー……テイマーの派生か何かじゃないですかね? 俺、昔から動物の生態を知るのが好きな性質なので」


村長さんの大慌てな様子に、俺は心の中で適当な言い訳をして苦笑いする。

だが、肩に乗ったリコだけは、その意味を完全に理解しているように誇らしげにヒゲを揺らしていた。

ひとしきり騒ぎが落ち着いた後、村長さんがふと、深いため息をついた。


「……だが、我が村の『根本的な難題』が解決したわけではないのが辛いところじゃて」


「難題、ですか?」


「ああ。実はこの村、慢性的に『害獣』に畑を荒らされておってな。特に、村の特産品である果実の畑が、いつも収穫前に魔物に荒らされてしまうんじゃ」


村長さんは肩を落とし、悔しそうに首をる。


「その果実は、潰して汁を搾り、染料にするんじゃ。強烈な匂いを発するから、魔物除けや虫除けの道具として重宝しておってな。だが、魔物たちもその匂いが大嫌いだからこそ、効果が強くなる前の、実が若いうちに畑ごと荒らしに来てしまうのさ」


「へえ、魔物除けの染料ですか。……ちなみに、その果実って食べられないんですか?」


俺が料理人としての好奇心から尋ねると、村長さんは目を丸くして首を横に振った。


「食べるじゃと!? いやいや、とんでもない! あれは渋すぎて、とても人間の食える代物ではないぞ!」


出されたのは、小ぶりのオレンジ色をした果実だった。

俺はナイフで薄く切り、少しだけ口に入れて咀嚼する。


「……っ、ぶぉぉ」


思わず口の中の水分が全て持っていかれるような、強烈な渋みとエグみが襲ってきた。

間違いなく、日本の「渋柿」に酷似している。

だが、俺は料理人としての知識から、ニヤリと笑みを浮かべた。


「村長さん。この果実、皮を綺麗に剥いて、紐で縛って軒先に吊るしてみませんか?」


「吊るす? そんなことをして、どうするんじゃ?」


「風と太陽の光に当てるんです。そうすると、この食べられないはずの強烈な渋みが、嘘みたいに全部『極上の甘み』に変わるはずです。干し果実にするんですよ」


村長さんがポカンとしていると、ふいに窓の外から大きな鼻息が聞こえた。

見れば、先ほど薬を塗ってやったブラッドホースが、窓から顔を覗かせている。


『……あるじ……おれい……』


「え……?」


頭の中に、低く、かすれたような声が響いた。

『……はたけ……まもる……おれが……』


ノイズが混じったような、途切れ途切れの声。

だが、それは間違いなく、明確な『意志』を持って俺に語りかけていた。


「リコ……今、声が……」


俺が小声で尋ねると、リコは肩の上で静かに頷いた。


『ええ、ブラッドホースの声です。あなたの職業である【魔を知る者】は、現在9%。その数値が上昇し、魔物への理解と絆が深まっていくにつれて、いずれ彼らの声がハッキリと会話として聞こえるようになりますよ』


「パーセンテージが上がれば、会話ができるように……」


魔物を力で屈服させるのではなく、心を知り、絆を結ぶ力。

俺は窓の外のブラッドホースに向き直り、優しく微笑みかけた。


「ありがとう。お礼に、畑の周りに君の匂いをつけて、野生の魔物を寄せ付けないようにしてくれるんだな。……でも、足の怪怪我はまだ完治してないんだ。絶対に無理はするなよ?」


『ブルルッ!』


俺の気遣いに、ブラッドホースは力強く頷き、ゆっくりとした足取りで畑の周囲へと向かっていった。彼がマーキングをして回れば、普通の魔物は恐れをなして絶対に近づけないだろう。

渋くて食べられないと言われていた果実。

それが極上のスイーツに変わる日を楽しみにしながら、俺は村の難題をひっくり返すための大実験へと乗り出すのだった。

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