第47話:不可解な特別依頼と、極上の竜カツ
「……みんな、大丈夫だよ。守ってくれてありがとうな。もうあいつはいないから、落ち着こう」
街の路地裏に移動した俺は、限界まで興奮して殺気立っている従魔たちの頭や背中を、優しく撫でまわした。
俺の温かい声と手のひらの感触に、タンクの荒い鼻息が少しずつ静まり、ルーの体の震えも収まっていく。
スゥッと、俺の影からハクが完全に姿を現した。
『まさか、この我らの隠密を突き破って気配を察知する者がいるとはな……。主よ、怪我はないか? 気分は悪くないか?』
ハクが深く青い瞳で、心底俺を心配そうに見つめてくる。
「ああ、大丈夫だよ、ハク。……よし! 嫌な空気になっちゃったし、気分転換にみんなで美味しいものでもパーッと食べようか!」
俺はあえて無理に明るい声を張り上げた。
従魔たちは俺の意図を察してくれたのだろう、顔を見合わせると、少しずついつもの明るい表情を取り戻してくれた。
「きゅぴ! 美味しいもの、食べるー!」
『がははっ! 兄ちゃんがそう言うなら、俺はいくらでも付き合うぜ!』
「よし、じゃあまずはギルドに行って、街道で倒したコカトリスの報告と素材の解体を依頼しに行こう」
まだお昼過ぎだ。俺たちは気を取り直して、王都の冒険者ギルドへと向かった。
◇ ◇ ◇
王都のギルドは、一国の中心だけあって信じられないほど巨大で、中には大勢の強そうな冒険者たちが溢れていた。
そんな中、俺が受付にAランクの魔物『コカトリス』の巨体(マジックバッグから一部提示)をドォンと出すと、周囲の視線が一斉に俺たちに集まった。
「おい、あの若さでコカトリスをソロで……?」
「いや、あの後ろのベヒーモスを見ろよ。テイマーか!」
瞬く間にざわつく館内。その騒ぎを聞きつけたのか、奥の部屋からガタイのいい厳つい男――王都のギルドマスターが姿を現した。
「お前がリオンか。グランツの街からB級のテイマーが来るとは聞いていたが……なるほど、その若さでコカトリスを無傷で討伐するか。明らかにB級以上の実力があるな。どうだ、近いうちにA級への昇級試験を受けないか?」
普通なら、冒険者として最高の名誉であり、喜んで飛びつくようなチャンスだ。
だが、目立ちたくない俺はやんわりと首を横に振った。
「いえ、俺はのんびり旅をしたいだけなので、今のランクで十分です。また機会があれば……」
「普通は上を目指すチャンスだと喜ぶはずなんだがな。変わったやつだ」
ギルドマスターはガハハと笑った後、少しだけ声のトーンを落とした。
「まあいい。それからお前、今この国で大勢の冒険者が集められている理由は知っているな?」
「はい。前の街で、ここを目指すように言われました」
「なら話が早い。実は今、国からギルドに特別依頼が来ていてな。お前も手伝ってくれ」
「特別依頼ですか?」
「ああ。内容は、最近増えている高位魔獣の討伐。そして……『霊峰ガルディス』の調査だ。普通よりも報酬はかなり多く出る」
俺は眉をひそめた。
「その、霊峰ガルディスの調査というのは、具体的に何をすればいいんですか?」
「……具体的にはわからん。どんなことでもいいから、異変があれば報告しろとのことだ」
「ずいぶん、ざっくりしていますね……」
まるで、何か重要なことを隠しているような依頼の仕方だ。
気にはなるが、ギルドマスターもこれ以上は語れないのだろう。
「分かりました、お受けします。ただ、今日は長旅で疲れたので、宿に泊まって明日から開始させてください」
「ああ、構わん。助かるよ」
俺はコカトリスの解体をギルドに正式に依頼し、前金を受け取ってギルドを後にした。
◇ ◇ ◇
宿屋は、さすが王都というだけあって、まるで高級ホテルのような綺麗さだった。
部屋に荷物を置いた後、俺は受付のスタッフに「従魔たちのご飯を作りたいので、どこか場所を借りられませんか?」と相談してみた。すると、快く「裏庭を好きに使っていいですよ」と言ってもらえた。
貸し切りの広い裏庭。周囲に人がいないことを確認し、俺は腕をまくった。
「よし! 今日は変な男に会ったり、ざっくりした依頼を受けたり色々あったからな! パーッと豪華に美味いもん食って、嫌なことは全部吹き飛ばそう!」
俺がマジックバッグから取り出したのは、さっき森の中で自分で解体しておいた『ワイバーンの肉』の塊だ。
「今日はこれで『竜カツ(ワイバーンカツ)』を作るぞ!」
まずは上質なワイバーンの赤身肉を、分厚いステーキサイズにカットする。軽く塩コショウを振り、小麦粉、卵液、そして細かく挽いたパン粉の順に衣を丁寧に纏わせていく。
裏庭に設置した大きな魔導コンロに油を並々と注ぎ、パチパチと音がするまで熱する。
そこに、衣をつけた肉を贅沢に投入!
ジュワァァァァァァッッッ!!!
心地よい揚げる音が響き渡り、黄金色の衣がみるみるうちに膨らんでいく。キツネ色に揚がったところで油を切り、ザクッ、ザクッと包丁で一口サイズに切り分けた。
「よし、お待たせ! 特製・竜カツだ!」
まずは何もつけず、シンプルに岩塩だけを少し振って、みんなで一斉に口へ放り込んだ。
サクッ……。
「「「「……っっっ!?!?!??」」」」」
全員の目が、今日一番の衝撃で見開かれた。
歯がいらないほどの半端ない肉の柔らかさ。噛んだ瞬間に、溢れんばかりのジューシーな肉の旨味と、上品な脂の甘みが口いっぱいに広がる。飛竜の肉がこれほどまでに美味いとは。
「信じられん美味さだ……! よし、次はこれだ!」
俺は出発前にグランツの街で作っておいた、あの日本の味を完全再現した『濃厚とんかつソース』をたっぷりと竜カツに回しかけた。
ソースが衣にしみ込んだカツを、炊きたての白いご飯(マジックバッグ常備)の上に乗せ、ご飯と一緒に勢いよくかき込む!
「んんんんんーーーっ!!! 醤油とスパイスの利いた濃厚ソースが、衣と肉の旨味に絡み合って、白米が無限に進む!! 最高だ!!」
『きゅきゅ〜っ♪ カツとソース、美味しすぎてほっぺたが落ちちゃうよぉ!』
『がははっ!! 兄ちゃん、このソースがかかった肉と白飯の組み合わせは反則だぜ! 箸が止まらねぇ!』
ハクもリコも、普段の気高さを忘れて夢中で竜カツを頬張っている。
さっきまで街で感じていた得体の知れない恐怖や、ギルドでの不可解な依頼に対するモヤモヤなんて、この圧倒的な「美味」の前には塵同然だった。
お腹も心もこれ以上ないほど満たされ、俺たちは明日からの調査に向けて、最高のエネルギーをチャージするのだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
「面白い!」「神獣たちが可愛い」「続きが読みたい!」と少しでも思っていただけましたら、
ページ下部の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、毎日の執筆の何よりのモチベーションになります!
ブックマーク登録もぜひよろしくお願いします!




