第46話:王都の賑わいと、名状しがたい『何か』
王都の巨大な門に辿り着いた俺たちは、当然のように門番たちに道を塞がれた。
「止まれ! おい、その巨大な魔獣はなんだ!」
王都は現在、異常な魔物の増加により厳戒態勢を敷いている。
ハクは俺の影の中に潜み、リコとルーは小さいためペットとして誤魔化せるが、タンクの圧倒的な巨体と底知れない魔力は隠しようがない。周囲から槍や剣を持った兵士たちがゾロゾロと集まり、完全に包囲されてしまった。
「待ってください! こいつは俺の従魔なんです! 決して人に危害は加えません!」
俺は必死にB級のギルドカードを提示しながら説明したが、兵士たちは油断なく武器を構えたままだ。
「信じられるか! これほどの魔力を放つ魔獣、並のテイマーに従うはずがない! 街の中で暴れられたら大惨事だぞ!」
一触即発の空気が流れた、その時。
『おいおい、物騒なモン向けんなよ。お前らが手を出さない限り、俺は絶対に手を出さねーよ』
「なっ……!?」
タンクが重々しい声で人語を話した瞬間、兵士たちの間に大きなどよめきが走った。
それを見ていた隊長クラスの壮年の騎士が、目を見開いて一歩前に出る。
「人語を解する高位の存在……。まさか、神獣か?」
「ええ、まあ……」
俺が曖昧に頷くと、隊長は武器を下ろすように部下たちに指示を出した。
「……確かに、人語を解するほどの神獣であれば、無闇に人を襲うような理性のない真似はしないだろう。しかし、神獣をテイムしているなど、にわかには信じ難い事実だ。念のため、ギルドと上に報告だけは通させてもらうぞ。通ってよし!」
「ありがとうございます!」
さすがは王都の部隊長だ。柔軟な判断のおかげで、俺たちは無事に王都の土を踏むことができた。
◇ ◇ ◇
門を抜けた先に広がっていたのは、今まで立ち寄ってきた街とは比べ物にならないほどの『大都会』だった。
石畳の敷かれた広い大通り、豪華なホテルのような外観の宿屋、外食ができるオシャレなカフェやレストラン。
武器屋の店先には、美しい装飾が施された剣や、強力な魔法のオーラを纏った防具がズラリと並んでいる。
さらに市場へ足を踏み入れると、様々な物資の中に、今まで一度も見たことがなかった食材が氷に乗せられて並んでいた。
「うおおおっ!? 魚だ! 海の魚があるぞ!!」
俺は思わず声を上げて駆け寄った。
王都は流通のハブになっているため、遠く離れた港町から魔法の氷で冷やされた新鮮な魚介類が届くらしい。
(魚! 醤油とみりんと魚! これで煮付けや海鮮丼、寿司だって握れるぞ……!)
料理人としての血が騒ぎ、テンションが急上昇する。
色々買って試したいことは山ほどあるが、まずは落ち着いて寝泊まりできる宿屋を探すのが先決だ。
「よし、まずは宿を決めて、それから――」
俺が歩き出そうとした、その時だった。
「――素晴らしい魔獣をお連れですね」
ふと、真横から声がした。
いつの間にか、一人の『男』が俺のすぐ隣に立っていた。
背格好も服装も普通。だが、その顔には笑顔が張り付いているのに、目が全く笑っていない。どこか、ひどく作り物めいた異様な雰囲気を醸し出していた。
「さぞ高位の魔獣……いや、神獣かな?」
「あなたはいったい……?」
俺が尋ねると、男は首を奇妙な角度に傾げた。
「申し遅れました。私は『■◆✕▲※』」
「……え?」
「あなた様のような『▼◎☆◇#』……」
なんだ?
男が口を動かしているのは分かるのに、言葉が全く頭に入ってこない。ノイズのような、ガラスを引っ掻くような不快な音が脳を直接かき回し、視界がぐにゃりと歪む。
あれ……なんか、意識が……。
『リオン! しっかりなさい!!』
「ハッ!?」
脳内に響いたリコの鋭い声で、俺はハッと我に返った。
気付けば、俺の肩に乗っているリコは全身の毛を逆立て、タンクは今にも突進しそうなほど重心を低くして、その男に強烈な殺気を放っていた。俺の足元では、ルーがガタガタと震えてうずくまっている。
「おやおや、お優しいネズミさんですね」
男はリコの殺気を受けても、全く動じる様子を見せない。
「こちらの牛さんは、怒ると怖そうだ」
「落ち着けリコ、タンク! ……あんた、どうしたって言うんだ?」
俺が冷や汗を流しながら前に出ると、男は口角だけを異常に吊り上げ、悍しい顔でニヤリと笑った。
「怖がらせてしまいましたね。昔から、動物には好かれなくてね。……つい、いじめたくなるんですよ」
背筋が凍るような純粋な悪意。
男は俺の顔を見つめ、楽しそうに続けた。
「あなたは、いっぱい持っていて羨ましい。……私も欲しくなってきました」
(こいつは、何を言ってるんだ……!?)
『リオン!! 嫌な予感がします、今すぐ離れてください!!』
リコからの悲痛な念話が飛び込んでくる。
「お、俺たち、用事があるので失礼します!」
俺は身構えながら後退し、足早にその場を立ち去ろうとした。
すれ違いざま、男がボソリと呟いた。
「次はその『猫ちゃん』も、見たいですね」
「……っ!?」
ゾクッ!! と、全身の産毛が総毛立った。俺は勢いよく振り返る。
だがそこには、大勢の行き交う人々がいるだけで、あの男の姿は影も形もなかった。
(猫……? あいつ、俺の影の中にいるハクの存在に気付いたのか!?)
あり得ない。ハクは【神隠し】という神獣固有の絶対的な隠密スキルを使っており、俺にすら気配を感じさせないのだ。それを、ただすれ違っただけの男が完全に見破ったというのか。
「リ、リコ……あいつ、何者なんだ!?」
俺が震える声で尋ねると、肩に乗ったリコは、今まで見たこともないほど動揺した声で答えた。
『……わかり、ません……』
「分からないって、リコは『森羅の叡智』を持ってるんだろ!?」
『あの者からは、何のデータも読み取れませんでした。ただ一つ分かったのは……あれが【人間ではない】ということだけ。それ以外、なにも、わからないのです……』
この世界のすべての知識にアクセスできるはずのリコが、「分からない」と答えた。
明らかに震えているリコ。限界まで警戒して今にも暴れ出しそうなタンク。そして、未だに怯えて鳴くことすらできないルー。
活気に満ちた王都の喧騒の真ん中で、俺たちは得体の知れない『何か』に、とてつもない絶望的な不安を感じていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
「面白い!」「神獣たちが可愛い」「続きが読みたい!」と少しでも思っていただけましたら、
ページ下部の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、毎日の執筆の何よりのモチベーションになります!
ブックマーク登録もぜひよろしくお願いします!




