第44話:解体のご褒美と、一大クランからの勧誘
王都の門前で引き起こしてしまった広範囲目潰し(フラッシュ)事故から逃れるため、俺たちは街道から少し離れた森の中に身を隠していた。
「ふぅ……あんな大勢巻き込むとは思わなかった。ほとぼりが冷めるまで、ここでやり過ごそう」
ギルドの解体屋にワイバーンを持ち込めば、「あの上空の飛竜を落としたのはお前か!」とバレてしまうため、自分で解体するしかない。
『お任せくださいな。わたくしの【森羅の叡智】で関節や内臓の位置を完璧にナビゲートしますわ』
「助かるよ、リコ。よし、サクッと終わらせるか」
リコの的確な指示のもと、まずは『ミスリル混成剣』で大まかに部位を切り分け、そこから先は解体用のナイフに持ち替えてスパスパと細かい筋や関節を外していく。
その作業の途中、俺の手がピタッと止まった。ワイバーンの体内から、信じられないほどツヤツヤとした、綺麗な小豆色の大きな内臓が取り出されたのだ。
「……これって、レバー(肝臓)だよな? 傷も全くないし、めちゃくちゃ新鮮だぞ。あ、これ、もしかしてレバ刺しいけるんじゃ……?」
前世の日本ではもう食べられなくなっていた、あの幻のメニュー。
俺は我慢できなくなり、取り出したレバーを薄くスライスした。そしてマジックバッグから、出発前に仕込んでおいたお馴染みの調味料――『ごま油』と『塩』を取り出す。
小皿に張ったごま油に塩をパラパラと振り、そこに一切れの飛竜レバーをくぐらせて、口へ運んだ。
「…………っっっ!!!!」
あまりの旨さに、声が出なかった。
トロリと舌の上でとろけるような、圧倒的にクリーミーな食感。前世の牛や鳥のレバーとは比べ物にならないほど濃厚な旨味が広がり、それでいて特有の臭みが全くない。ごま油の香ばしさと塩気が、その美味さを何倍にも引き立てている。
「美味すぎる……! なんだこれ、いくらでも食えるぞ!」
『きゅぴ? リオン、それ美味しいの? 頂戴!』
『がははっ! 俺にもくれよ、兄ちゃん!』
物欲しそうに見つめる従魔たちにも、ごま油と塩をつけたレバーを分けてあげる。一口食べた瞬間、みんなの目が真ん丸になった。
『なっ……!? なんですのこの濃厚な味わいは! この香ばしい油と塩の組み合わせ、悪魔的ですわ!』
『ウマすぎるぜ兄ちゃん! 生肉がこんなに化けるなんて信じられねぇ!』
ハクも影からスゥッと姿を現し、器用に前足でつまんで満足そうに目を細めている。
その様子を見ていた俺は、ふと素朴な疑問が湧いて、お皿を抱えながら尋ねた。
「いや、みんなが美味そうに食べてくれて嬉しいんだけどさ……。お前ら、生の魔獣の肉をそんなに食べて、お腹とか壊さないか? 生肉ってちょっと心配でさ」
俺の言葉に、リコが心底呆れたような顔をしてツッコミを入れてきた。
『……リオン。貴方、わたくしたちを何だと思っていますの? 倒した獲物をわざわざ料理して食べる魔獣や神獣が、どこの世界にいますのよ』
「あ、確かに……」
言われてみれば当たり前だった。いつも俺が作った料理を当たり前のように一緒に、しかも美味しそうに食べているせいで、従魔達が本来は生肉をバリバリ食べる側の「魔獣」だということを完全に忘れていた。
そんな俺の様子を見て、タンクが嬉しそうに鼻息を鳴らし、大きな頭をすり寄せてきた。
『がはは! いいんだぜ兄ちゃん! それだけ俺たちのことを魔獣と思わず、対等な仲間として扱ってくれてるってことだろ? 俺はすっごく嬉しいぜ!』
「タンク……。まあ、みんながお腹壊さないなら安心したよ」
俺はワイバーンの残りの肉や硬い鱗、魔石などを手際よく全てマジックバッグに収納し、解体作業を終わらせた。
「よし、片付け完了だ! それじゃあお待ちかねのメインディッシュを作るか!」
俺は気を取り直し、昨日仕込んでおいた合い挽きハンバーグをジューシーに焼き上げ、特製のテリヤキソースを絡めて『特製テリヤキバーガーセット』を作り上げた。ポテトとバナナシェイクも添えて、みんなで大満足のジャンクフード会を楽しんでいた、その時だった。
「きゅぴっ!」
ルーがハッとして空を見上げる。
『リオン、上から……凄いのが来るよ!』
ドサァァァッ!!
凄まじい風圧と共に、空から4人の人間が舞い降りてきた。飛行魔法を使ったらしい。
装備から放たれる魔力の質が、今まで見てきた冒険者とは明らかに別格だった。
「やあ。さっきのワイバーン、君がやったのかな?」
穏やかな声で話しかけてきたのは、リーダーであろう長身の剣士の男だった。
「えっと……何のことでしょうか? 俺たちはただ、ここでお昼ご飯を食べていただけですが……」
俺は適当に誤魔化そうとしたが、剣士の男はクスッと笑った。
「分かるよ。君、すごく強いでしょ? 後ろにいる魔獣たちも、見たことがないくらい相当強いね」
「え……」
俺は戸惑い、無意識に警戒して身構えた。
(リコ、念話で悪いけど、あの人たちの鑑定と解析をお願いできるか?)
(『ええ、お任せを』)
「おっと、驚かせてすまない。敵意はないんだ」
男は人の良さそうな笑みを浮かべ、胸に手を当てた。
「僕らは一大クラン【星天の導き(アストラル・クラウン)】。俺はリーダーで『剣聖』のジークだ。後ろにいるのが、『賢者』のセリア、『アサシン』のザック、そして『グラディエーター(剛剣士)』のゴルドだ。……君も冒険者かな?」
「俺はリオンです。職業は、テイマー。冒険者ランクはB級です」
「テイマーの冒険者とは珍しいね。これだけの従魔を連れているなら、君もギルドから王都へ召集されたのかい?」
「ええ、まあ」
俺が頷くと、ジークは真剣な目をこちらに向けて言った。
「よかったら、うちのクランに入らないか? 僕らはただのパーティーじゃなくて、将来的に国をも動かす新しい『ギルド』を立ち上げることを目標に動いている一大クランなんだ。今回は幹部のこの4人だけで動いているけれど、他にも有能な仲間が大勢いる。君のその強さと魔獣たちの力、ぜひうちのギルド設立のために貸してほしい」
その熱いスカウトの言葉が出た瞬間。後ろに控えていたザックとゴルドの表情が、一気に険しくなった。
彼らは血を吐くような努力をして、やっとの思いでこの最高峰クランの幹部に上り詰めたのだ。それを、どこの馬の骨とも知れない若きB級テイマーがいきなり中核メンバーとして勧誘されたのだから、目障りで仕方ないのだろう。
二人の男から明確なイライラと嫉妬が放たれる中、俺は冷や汗を流しながら考えるのだった。
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