第43話:ワイバーン襲来と、かっこつかない撃墜劇
翌朝。爽やかな朝日を浴びながら、俺たちは昨日助けたB級冒険者たちと朝食を済ませていた。
「それじゃあ、俺たちは一足先に王都へ向かいますね。また後で、ギルドかどこかで会いましょう」
「ああ! 昨日は本当に、何から何まで世話になった。気を付けてな、リオン!」
彼らと笑顔で別れを告げ、俺たちは再びタンクの広い背中に乗り込んだ。
『がははっ! いよいよ王都だな! 飛ばしていくぜ、兄ちゃん!』
タンクが力強く地を蹴り、街道を猛スピードで駆け抜けていく。
しばらく進むと、地平線の先に巨大な城壁と、天を突くような美しい白亜の城が見えてきた。
「おお……あれが王都か。グランツの街とは比べ物にならないくらいデカいな」
その圧倒的な規模に感心していた、その時だった。
「きゅぴっ!?」
俺の腕の中にいたルーが、ピンと長い耳を立てて空を見上げた。
「ん? どうした、ルー」
『リオン、あっちの空! 何か大きなものがこっちに飛んできてるよ!』
ルーの【索敵】が、上空の異変をいち早く捉えた。
目を凝らして空を仰ぐと、王都の城壁の遥か上空を、大きな翼を持ったトカゲのような魔物が悠然と旋回しているのが見えた。
『あれは……飛竜ですわね。Bランクの上位に位置する厄介な魔物ですわ』
俺の肩に乗ったリコが、即座に魔物の正体を看破する。
「ワイバーンか。こんな王都のすぐ近くに現れるなんてな……」
『リオン、少し様子が変ですわ。ワイバーンは本来、賢く群れで行動する魔物。一頭だけで王都のような大きな街に近づくのは不自然です』
「ってことは、迷子か?」
『いいえ。おそらく……『偵察』ですわ。今、あの一頭を確実に仕留めないと、群れに戻った後、集団で王都を襲いに来る可能性がありますわよ』
リコの言葉に、俺は背筋が冷えるのを感じた。
王都の城壁や門の周辺に目を向けると、上空のワイバーンに気付いた門番や兵士たちが、槍や弓を構えて慌ただしく陣形を組んでいるのが見える。
門の外で入国の順番待ちをしていた商人や冒険者たちの馬車も、空からいつ襲われるか分からない恐怖にパニックを起こしかけていた。
「マズいな。あそこで暴れられたら被害が出る。タンク、一気に距離を詰めてくれ!」
『おうっ! 振り落とされるなよ!』
タンクがさらにギアを上げ、王都の門に向かって爆走する。
「よし……あのワイバーンの注意をこっちに引くぞ! 【ストーンバレット】!」
俺が魔法を発動すると、拳大の岩の弾丸が凄まじい速度で上空のワイバーンへと飛んでいく。
だが、距離がありすぎたため、ワイバーンの硬い鱗にカツンと当たって弾き返されてしまった。ダメージは全くない。
「ギャァァッ!?」
しかし、挑発としては十分だった。
ワイバーンは不快そうな鳴き声を上げ、城壁ではなく、こちらへ向かって急降下を始めてきた。巨大な顎が、一直線に俺たちに迫る。
「来たな……。みんな、目を閉じろ! 【フラッシュ】!!」
俺は両手をワイバーンに向け、従魔たちへ警告を出した直後に全力で光魔法を発動した。
カッ……!!!!
太陽が落ちてきたかのような、強烈極まりない閃光が空中で炸裂する。
「ギャァァァァァッ!?」
目を焼かれたワイバーンは、完全に方向感覚と飛行能力を失い、錐揉み状態になって落下していく。
「もらった! 【神速】!!」
俺はタンクの背中を蹴り、爆発的な脚力で空中へ跳躍した。
ロレンスさんからもらった『ミスリル混成剣』を抜き放ち、落下してくるワイバーンの首元へ、すれ違いざまに一閃!
ズバァァァァッ!!
抵抗すら許さない鋭い太刀筋が、ワイバーンの首を鮮やかに切り落とした。
(決まった……! 完璧な一撃だ!)
俺は空中で剣を振り抜きながら、自分のスタイリッシュな討伐劇に内心でガッツポーズをした。
……が、次の瞬間。
「えっ……ちょ、ちょっと待って!?」
俺は気付いてしまった。
ワイバーンを斬るために『神速』の勢いで思い切りジャンプしすぎたせいで、俺自身がとんでもない高さ(ビル数階分)まで空中に打ち上がってしまっていたことに。
ヒュオォォォォォ……ッ!
風を切る音と共に、体が重力に引かれて猛スピードで落下を始める。
「だぁぁぁーーっ!? 高い高い高い! 怖いぃぃぃっ! ハクーーーッ! 助けてくれーーーっ!!」
さっきまでのクールな表情はどこへやら。俺は空中で手足をバタバタさせながら、情けない声で半泣きの悲鳴を上げた。
『…………』
俺の影の中から、呆れ果てたような顔をしたハクがスゥッと姿を現し、落下する俺の襟首をヒョイッと口で咥えて着地した。ストン、と、羽毛のように軽い着地だった。
『……やれやれ。主よ、今の主の頑強なステータスならば、これぐらいの高さから落ちても怪我一つしないだろうに。情けない声を出すな』
ハクがため息混じりに念話を送ってくる。
「た、確かにダメージはないかもしれないけど……でも、試した訳じゃないだろ!? 何より、高いところから落ちるのは理屈抜きで怖いんだよ!」
『一体、何をやっているんですの……』
呆れ返るリコの冷たい視線が突き刺さる。
(くそっ……俺のステータスは上がってても、メンタルは一般人のままなんだよ……。改めて、実戦経験の少なさを痛感するぜ……)
「と、とりあえず、ワイバーンの素材は高く売れそうだし、回収しておくか……」
俺は誤魔化すように咳払いをして、ズドォン! と地面に落ちたワイバーンの死骸に近づき、マジックバッグに収納した。
「ふぅ、これで一件落着……って、あれ?」
討伐を終え、俺はふと王都の門の方へ視線を向けた。
そこで俺は、とんでもない光景を目にしてしまった。
「「「「あ、あぁぁぁ……目がぁぁぁ……っ!!」」」」
なんと、城壁の上の兵士たちも、門の前でパニックになっていた商人や冒険者たちも、全員が両目を押さえて地面でのたうち回っていたのだ。
「あっ……」
そう。ワイバーンを墜落させるために俺が全力で放った【フラッシュ】の強烈な閃光は、周囲の人間も容赦なく巻き込み、広範囲の目潰しテロを引き起こしてしまっていたのである。
ワイバーンがいきなり光と共に消滅した(ように見えた)上に、集団で目をやられた人々は大混乱に陥っている。
「や、やばい……っ! タンク、早く! 今のうちにこの場から離れるぞ!!」
『あ、ああ! 分かったぜ兄ちゃん!』
俺は慌ててタンクの背中に飛び乗り、目を回している人々の群れから逃げるように、コソコソとその場を全力で立ち去るのだった。
王都の門をくぐるのは、みんなの視力が回復してからにした方が良さそうだ。
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