第42話:野営のハンバーグと、王都の不穏な噂
ルーの『クリーン』によって石化が完全に治り、冒険者たちは涙を流して喜び合った。
俺も一安心したところで、ハクが一瞬で首を落としたコカトリスの巨体へと目を向ける。
「それで、このコカトリスの素材はどうしますか? Aランクともなれば、かなりの金額になると思いますが」
俺が尋ねると、リーダー格の剣士が慌てて首を横に振った。
「いやいや! 倒したのはそっちの神獣だし、俺たちは命を助けてもらった上に石化まで治してもらったんだ。素材なんてとんでもない、全部あんたが持って行ってくれ!」
「そうですか? でも、元々は皆さんが命がけで戦っていた獲物ですし……なんだか横取りしてしまったみたいで、少し気が引けるんですよね」
俺は頭を掻きながら提案した。
「じゃあ、せっかくですから今日の野営はご一緒しませんか? お詫びというわけじゃないですが、俺が夕飯を振る舞いますよ」
「えっ、いいのか? 命の恩人にそこまでしてもらうのは……」
「気にしないでください。大人数で食べるご飯の方が美味しいですから」
俺が笑って言うと、彼らもようやく緊張を解き、「それじゃあ、お言葉に甘えよう」と頷いてくれた。
◇ ◇ ◇
街道から少し外れた開けた場所で、野営の準備が始まった。
俺はマジックバッグから、グランツの街で買い込んだ調理器具と食材を取り出す。
今回使うのは、以前仕留めた『ワイルドホーンブル(牛)』の肉と、市場で買った『グランドボア(豚)』の肉だ。
割合は7:3。この黄金比率が、極上の合い挽き肉を生み出す。
「よし、いくぞ」
俺は両手に包丁を持ち、まな板の上に置いた肉の塊を、ダダダダダッ! と凄まじいスピードで叩き切り始めた。
「お、おい……あんないい肉を、なんであんなにぐちゃぐちゃに叩き切ってるんだ?」
「そのまま焼いて食えばめちゃくちゃ美味そうなのに、もったいない……」
初めて見る調理工程に、冒険者たちが遠巻きにヒソヒソと不思議がっている。
だが、この手間が後で最高の感動を生むのだ。
細かく叩いて挽肉にしたお肉に、炒めて甘みを出したタマネギに似た野菜、卵、そして細かくちぎったパンを混ぜ合わせ、ボウルの中でしっかりと捏ねていく。
ペチッ、ペチッと両手でキャッチボールをして空気を抜き、小判型に整える。
フライパンに油を引き、ハンバーグのタネを並べると、ジュワァァァッ! と食欲をそそる最高の音が響き渡り、肉の焼ける香ばしい匂いが辺り一帯に広がった。
「きゅぴ? リオン、なんでこんなにたくさん焼いてるの?」
ルーが不思議そうに小首を傾げる。フライパンには、今日の夕飯の分だけでなく、明らかに多すぎる量のハンバーグが次々と焼かれていた。
「ハンバーグは応用がきくからね。焼いてマジックバッグに入れておけば時間が止まるから、いつでもすぐに使えるんだ。楽しみにしといてくれ」
「応用……?」
ルーが首を傾げていると、俺の肩に乗ったリコがピンと耳を立てた。
『ふふっ……応用で、パンに挟む……。まさかリオン、明日あたりに「あれ」を作るおつもりですの?』
「ああ。明日の昼飯は『ハンバーガー』にしようと思ってな」
『まあっ! 楽しみですわ!』
リコが嬉しそうに長い尻尾を揺らす。
ハンバーグがふっくらと焼き上がったところで、お皿に盛り付ける。
ソースは2種類用意した。出発前にグランツの街で仕込んでおいた本格的な『デミグラスソース』と、ケチャップとウスターソースを合わせた『家庭的な特製ソース』だ。
そして付け合わせには、ルーが育てた『魔力人参』をバターと少しの砂糖でツヤツヤに煮詰めたグラッセを添えた。
「お待たせしました。『特製ハンバーグ』です。熱いうちにどうぞ」
冒険者たちの前に皿を並べると、彼らはゴクリと喉を鳴らした。
「こ、これがさっきのぐちゃぐちゃにした肉……? 匂いだけで腹が鳴るぜ」
リーダーの男が、ナイフをハンバーグに入れた瞬間だった。
「うおっ!? なんだこの柔らかさ! ナイフを入れただけで、中から肉汁が溢れ出してきやがる!」
たまらず一口食べた冒険者たちは、一斉に目を見開いた。
「美味ぇぇぇっ!! なんだこれ、噛まなくても溶けるぞ!?」
「ワイルドホーンブルとボア、2種類の肉が合わさることで、こんなに深い旨味になるのか……! それにこのソース、今まで生きてきて食べたことのない複雑で濃厚な味だ!」
彼らは一心不乱にハンバーグを口に運び、感動の声を上げている。
さらに、付け合わせのグラッセを食べた魔法使いの男が、信じられないという顔で立ち上がった。
「おい、この人参……甘くてスイーツみたいに美味いだけじゃない! 食べたら、すっからかんだった魔力がみるみる回復してくるぞ!?」
「きゅきゅ〜っ♪」
その言葉を聞いたルーは、「えっへん!」と誇らしげに小さな胸を張り、自分の分の人参グラッセを美味しそうにモグモグと頬張っていた。
◇ ◇ ◇
美味しい夕食を終え、食後の温かいお茶を飲みながら焚き火を囲む。
すっかり打ち解けた冒険者たちと、これからの目的地の話になった。
「皆さんも、王都へ向かっていたんですよね?」
俺が尋ねると、リーダーの男が真剣な顔で頷いた。
「ああ。俺たちもグランツのギルドから、C級以上の強制招集命令を受けてな。急いで王都へ向かっていたんだ」
「やっぱりそうでしたか。詳しい状況は聞いていますか?」
「いや、詳細までは知らされていない。ただ……なんでも最近、王都周辺を含めてやけに『強い魔物』が増えてきているらしいんだ」
「強い魔物が……。だから急に、大勢の冒険者が招集されたんですかね?」
「ああ、おそらくその討伐や、いざという時の防衛力強化のためだろうな。今日みたいなAランクの魔物がウロウロし始めたら、一般の商人や旅人はひとたまりもないからな。王都のギルドもかなりピリピリしてるって話だぜ」
(なるほど。コカトリスみたいな強い魔物が増えているなら、確かに戦力はいくらあっても足りないだろうな)
俺は焚き火の炎を見つめながら、静かに頷いた。
詳しい理由はわからないが、王都がかつてないほどの警戒態勢に入っていることだけは間違いない。
いよいよ本格的な嵐の予感が漂う中、俺たちは王都への思いを新たにし、静かな野営の夜を過ごすのだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
「面白い!」「神獣たちが可愛い」「続きが読みたい!」と少しでも思っていただけましたら、
ページ下部の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、毎日の執筆の何よりのモチベーションになります!
ブックマーク登録もぜひよろしくお願いします!




