第41話:白虎の瞬殺と、小さなルーの特別な魔法
翌朝、俺たちはグランツの街を旅立ち、広大な街道を進んでいた。
周囲に人がいないことを確認し、俺は歩きながらみんなのステータスを確認することにした。
「【ステータス・オープン】」
目の前に半透明のウインドウが浮かび上がる。
俺のステータスは、魔力、敏捷性、防御力がほんのわずかに上がっている程度で、新しいスキルは増えていなかった。やはり地道な成長期に入ったらしい。
「次はルーだな」
「きゅぴ?」
俺の膝の上――ではなく、今はタンクの広い背中にちょこんと乗っているルーを見上げる。
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【名前】ルー
【種族】カーバンクル(幻獣)
【状態】従魔
【スキル】
・絶対防御
・テレポート
・索敵
・クリーン
・神速(逃走時)
「お、いっぱいスキルを持ってるじゃないか。どんな効果なんだ?」
俺が尋ねると、ルーはタンクの毛並みを小さな前足でギュッと握りしめ、少し申し訳なさそうに耳をペタンと寝かせた。
『……あのね、僕のスキル、あんまり役に立たないんだよ?』
「え? そうなのか?」
『うん……【絶対防御】はすごい結界を張れるけど、僕の魔力がすぐになくなっちゃうから長くは維持できないの。【テレポート】も、洞窟の中からお外に逃げたり、少しの距離を移動することはできるけど、遠くの街までは飛べないし……。【索敵】は目で見えている範囲くらいしか気配がわからないんだ。それに【クリーン】は……汚れや細菌を綺麗にしたり、状態異常を治せるだけだから、戦いには使えないの……』
ルーの声がどんどん小さくなっていく。リコやタンク、ハクといった、一国を滅ぼせるレベルの圧倒的な力を持つ神獣たちと自分を比べて、すっかり自信をなくしてしまっているようだった。
そんなルーの頭に、俺の影からスゥッと現れたハクの白い前足が、優しくポンと置かれた。
『何を落ち込んでいる、ルーよ』
ハクの落ち着いた、どこか温かい念話が響く。
『力とは、ただ敵を倒すためだけにあるのではない。我らが主を見てみろ。あれほどの力がありながら、美味しいご飯を作り、仲間を大切にするために使っているだろう? お前にも必ず、お前にしかできない役割があるはずだ。胸を張って、主の隣にいるといい』
「きゅ、きゅぅ……」
名前を呼んで認めてくれたハクの言葉に、ルーが驚いたように大きな目を見開く。
「そうだよ、ルー。どれもめちゃくちゃ凄いスキルじゃないか!」
俺も笑ってルーを見つめた。
「【索敵】は見えてる範囲だけでも、不意打ちを防ぐのには十分助かる。それに【クリーン】なんて、旅をする中では神スキルだぞ! 皿洗いや洗濯も一瞬だし、何よりお風呂に入れない街道の上でも、いつでも綺麗でいられるんだからな。……何しろ、うちの他の従魔たちは食べるだけで全然片付けないからさ。ルーがいてくれると、すっごく助かるよ」
俺がちょっと冗談っぽく嫌味っぽく言うと、俺の肩に乗っていたリコが「ギクッ」と身を硬くし、タンクが「あ、あれだぜ兄ちゃん、俺は、その……」と急に視線を泳がせて口ごもった。さらに、俺の影も気まずそうにスッと細くなり、ハクが気配を消そうとしたのがわかって可笑しかった。
「きゅぴ……!? きゅぴぃぃっ!」
『リオン……! 僕、役に立てる……? 嬉しい……っ!』
みんなのコミカルな反応と、俺からの大絶賛に、ルーは嬉しさのあまりタンクの背中の上でピョンピョンと跳ね回った。主人が喜んでくれたことが、何よりも嬉しかったようだ。
「よし、王都までは普通に歩くと1ヶ月かかるらしいけど、タンクに乗せてもらえば1週間で着く。この調子でガンガン進むぞ!」
『がははっ! 任せとけ、兄ちゃん! 俺の背中は乗り心地抜群だぜ!』
俺たちを乗せたタンクは、地響きを立てながら快適なスピードで街道を駆け抜けていった。
◇ ◇ ◇
数日が経った頃。
風に乗って、前方の街道から激しい金属音と悲鳴が聞こえてきた。
タンクを止めて木々の隙間から様子を伺うと、そこではB級と覚しき4人組の冒険者パーティーが、1体の不気味な魔物と死闘を繰り広げていた。
「くそっ! コカトリスめ……なんて凶悪な硬さだ!」
相手は、鶏の頭に蛇の尾を持つ巨大な怪鳥――Aランクの魔物『コカトリス』だった。
冒険者たちの状況は最悪だ。前衛のタンク役の男が、下半身からじわじわと灰色に変色し、完全に石化して身動きが取れなくなっている。
残りの3人は、その石化した仲間を庇いながら戦っているため、防戦一方に追い込まれていた。
(このままだと全滅するな……)
状況を察した俺は、影に向かって声をかけた。
「ハク、悪いけどあいつらを助けてやってくれ。手加減は任せる」
『ふん……承知した。我が主の命ならば』
ハクの念話が聞こえた次の瞬間――。
シュンッ!!
完全な無音。ハクが【神速】を使い、影から戦場へと一瞬で転移した。
冒険者たちが絶望に目を見開いたその刹那、コカトリスの巨体が不自然に静止した。
直後、ズサァァァッ! と、コカトリスの鳥の頭と、尾の蛇の頭が、同時に綺麗な断面を見せて宙を舞った。何が起きたのかすら分からないまま、Aランクの魔物が一瞬で絶命し、地面に崩れ落ちる。
「え……?」
「な、何が起きたんだ……?」
一瞬前まで死を覚悟していた冒険者たちが、武器を構えたまま呆然と立ち尽くす。
彼らの視線の先には、コカトリスとは比べ物にならないほどの、圧倒的で神聖な魔力を放つ美しい白虎が佇んでいた。
「ひっ……! びゃ、白虎……!? なんでこんな街道に神獣が……!」
あまりの威圧感に、3人の冒険者は腰を抜かしてその場にへたり込んでしまった。
そんな彼らを見下ろし、ハクは静かに口を開いた。
『安心するが良い、人間よ。お前たちに危害を加えるつもりはない。主に頼まれたゆえ、手助けをしたまでだ』
「しゃ、喋ったぁぁぁっ!?」
人間の言葉を話すハクにさらに大混乱している一同の元へ、俺を乗せたタンクが遅れて到着した。
「大丈夫ですか? 怪我はありませんか?」
「あ、あんたは……? まさか、その巨大な魔物と、その白虎は……」
「ああ、俺の従魔です。驚かせてすみません」
俺が苦笑いしながら告げると、冒険者たちは「従魔……!? 神獣を従魔にしてるのか!?」と、さらにパニックになっていた。
我に返った剣士の男が、石化している仲間の元へ駆け寄る。
「くそ、ライが完全に石化しちまってる……! 街の神殿まで運んで高位の解呪魔法をかけてもらわないと、手遅れになるぞ! すまない、彼を運ぶのを手伝ってくれないか!?」
「あ、それなら――」
俺が声をかけようとした、その時だった。
俺の服の裾から、様子を伺っていたルーがひょこっと顔を出した。
「きゅぴ……」
ルーは、苦しそうな顔で固まっている人間の盾役を見つめ、何かを決意したようにコロンと地面に飛び降りた。
『僕、やってみる!』
ルーが石化した男の足元にトコトコと近づき、額のルビーをピカッと輝かせた。
「【クリーン】!」
ルーの小さな体から、優しくて温かい緑色の光が放たれ、石化した男の体を包み込む。
すると、どうだろう。男の皮膚を覆っていた不気味な灰色の石化が、まるで嘘のようにサーッと消え去り、元の健康的な肌へと戻っていくではないか。
「……はぁっ!? お、俺は一体……動ける、動けるぞ!」
「なっ……石化が、一瞬で治った……!?」
高位の聖職者でなければ治せないはずの重度の石化が、小さくて可愛い魔獣の魔法一発で完全に完治してしまった。
冒険者たちだけでなく、治療を受けた本人までもが信じられないといった様子で目を丸くしている。
「きゅきゅ〜っ♪」
全員の驚愕の視線を浴びながら、ルーは嬉しそうに胸を張り、俺の足元へ戻ってきて誇らしげに鳴いた。
力だけが全てじゃない。自分の魔法が、ちゃんと誰かを救い、役に立てた。
少しだけ自信をつけたルーの小さな背中が、旅立ちの時よりも少しだけ大きく見えるのだった。
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