第33話:市場の発見と、未知なる甘味三種のアイスクリーム
ギルドでの報告を終えた俺は、熊肉の解体を待つ間、グランツの広大な市場へとやってきた。
「ハク、そのままだと目立ちすぎるから、少し小さくなれるか? タンクの上に乗ってれば、可愛い魔獣の子供くらいに見えると思うし」
「……ふん、注文の多い主だ。まあよい、この程度なら造作もない」
ハクが静かに目を細めると、その巨体が魔法のように一回り、二回りとしぼんでいき、虎の子供くらいのサイズになった。ぬいぐるみのようになったハクは、ひょいっとタンクの広い背中に飛び乗る。
『がははっ! ハクよ、軽くなったな! もふもふしてて可愛いぜ!』
牛の神獣であるタンクの上に、小さな白虎の神獣がちょこんと乗っている。道行く人たちも「可愛い魔獣の子供だな」と微笑ましそうに眺めているが、中身は規格外の神獣二柱だ。
交易都市の市場は、様々な国から集まった商品で活気に満ち溢れていた。
俺は屋台を順番に見て回り、フルーツが山盛りに並んでいる店で足を止めた。
「おじさん、これ美味しそうだね。くなんていう果物なの?」
「お兄ちゃんお目が高いね! それは南国から届いたばかりの『太陽の蜜果』だよ。よかったら一口食べてみな!」
店主が包丁で小さく切り分けてくれた果肉を、俺は口に運んだ。
その瞬間、口の中に濃厚な甘みと爽やかな香りが広がる。
(……すごいな。前世の完熟した桃とマンゴーを掛け合わせたような、とろけるような美味さだ!)
「最高だね。おじさん、これここの籠に入ってる分、全部もらうよ!」
気前よく買い占めると、店主はホクホク顔でおまけまでつけてくれた。
さらに俺は、アイス作りに欠かせない『バニラ』に似た甘い香りを放つ希少な木の実『バニール香豆』を発見し、こちらも一緒に購入した。
デザートの材料を無事に買い終えた俺たちは、市場の屋台でスパイスの効いた串焼き肉と焼きたてのパンを買い、軽く昼食を済ませることにした。
ハクも虎の子供サイズのまま、美味そうに肉を食んでいる。
お腹も満たされ、そろそろ商会に戻ろうかと歩き出した時――ふわりと鼻をかすめた香ばしい匂いに、俺の料理人としての本能が強烈に反応した。
匂いの元を辿ると、市場の片隅で、熱した鉄板の上に薄く生地を伸ばして焼いている屋台があった。
気になって一枚買って一口かじった瞬間、俺は確信した。
「……これ、黒麦って言ってるけど、間違いなく蕎麦だ」
俺はすぐにロレンス商会へと戻り、ロレンスさんに「市場で黒麦の粉を売っている商会を探して、大量に仕入れてほしい」と依頼した。
◇ ◇ ◇
「さて、ロレンスさん。お待たせしました。約束通り、新しく手に入れた氷結晶を使って、極上のアイスクリームを作りますね」
俺は商会の厨房を借り、さっそく調理に取り掛かった。
リコとタンク、そしてタンクの上から降りたハクが、興味津々といった様子で並んでいる。
「まずは、すべてのアイスのベースになる、王道の『バニラアイス』からだ!」
ボウルに新鮮なミルク、生クリーム、卵黄、砂糖を混ぜ合わせ、そこにすり潰した『バニール香豆』を加える。氷結晶の冷気で一気に冷やしながらかき混ぜると、甘く高貴な香りが厨房いっぱいに広がった。なめらかに固まった、真っ白なバニラアイスの完成だ。
「よし、ここからさらに二種類に派生させるぞ」
出来上がったバニラアイスの半分を別の器に分け、そこに潰したての『太陽の蜜果』のピューレをたっぷりと練り込んでいく。黄金色の果肉がミルクに混ざり、宝石のように輝く『フルーツアイス』ができた。
そしてもう一つ。俺は小鍋に砂糖を入れて火にかけ、濃い琥珀色に色づき、香ばしい香りが立ち込めてきたところで生クリームを一気に投入。ジュワァァァッ! と音を立てて完成した濃厚なキャラメルソースを、残りのバニラアイスにマーブル状に混ぜ込んだ。
「よし、完成だ! 『濃厚バニラ』『太陽の蜜果フルーツ』『特製キャラメル』の三種のアイスクリームだ!」
「おおお……! なんという贅沢! では、私はすべていただきますぞ!」
ロレンスさんが震える手でスプーンを伸ばし、まずはバニラアイスを、次にキャラメルアイスを口に運んだ。
「んんんんんんんんまァァァァァァァァァいっ!!! なんですか、この濃厚さは! 焦がした砂糖の香ばしさと生クリームのまろやかさが、口の中で完璧なハーモニーを奏でていますぞ!」
次にフルーツアイスを口にしたロレンスさんは、あまりの爽やかさに「はふぅ……」と幸せそうな吐息を漏らした。
『がははっ! 俺はこのキャラメルってやつが気に入ったぜ! ガツンとくる甘さが最高だ!』
『私はサン・ネクタのフルーティーな方が好みですわ。冷たくて、疲れが吹き飛びますわね』
二匹が夢中で頬張る中、小さな虎の姿をしたハクは、まずバニラアイスをペロリと舐めた。
「……冷たい。そして、この鼻に抜ける甘い香り。氷を司る私にとって、この冷たさは何よりの馳走だ」
次にキャラメルアイスを口にすると、ハクの青白い瞳がカッと見開かれた。
「……なんだ、これは。甘さの奥に深いコクがある。主よ、お前は本当に魔法使いではないのか? こんな味、数百年生きてきて一度も知らなかったぞ」
ハクは誇り高い神獣の姿も忘れ、虎の子供サイズのまま、夢中で三種類のアイスを交互に舐めとっている。肉球で器を抑えながら必死に食べる姿は、たまらなく可愛い。
「ハク、おかわりもあるからゆっくり食べろよ。でも、夜は『熊鍋』が控えてるからな」
「……熊の肉か。ふん、これほどの甘味を作るお前のことだ。そちらも期待させてもらうぞ」
ハクは満足そうに、もふもふの尻尾をパタパタと揺らした。
ロレンスさんに頼んだ蕎麦粉も無事に届いたようだ。
今夜は、最高級の熊肉と、異世界初の手打ち蕎麦で盛大な宴にするとしよう。
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