第30話:白虎の恩恵と、神速の代償
交易都市グランツへと続く森の道を歩きながら、俺はふと自分のステータスプレートを取り出してみた。
テイマーは強力な魔獣と契約するたびに、その魔獣の能力の恩恵を受けてステータスが向上する。ハクという規格外の神獣が加わった今、俺のステータスがどうなっているのか確認しておきたかったのだ。
「どれどれ……って、うおっ!?」
プレートの数値を見た瞬間、俺は思わず変な声を出してしまった。
【リオン】
・職業:テイマー(E級冒険者)
・攻撃力:1200
・防御力:8500
・魔力:1500
・敏捷性:3000
《獲得スキル》
・【金剛不壊(微)】
・【魔を知る者(25%)】
・【神速】
・【隠密】
・【光魔法】
・【土魔法】
・【氷魔法】
「す、すげえ……! 敏捷性が『3000』まで一気に跳ね上がってる! 攻撃力や魔力も上がってるし、新しいスキルも増えたな」
俺がまじまじとプレートを見つめていると、足元を歩いていたタンクが興奮気味に鼻息を荒くした。
『がははっ! 兄ちゃん、実は俺もさっきから体の底から力がドンドン湧いてきてるんだよな! なんだか体が軽くてすげぇ調子がいいぜ!』
『ええ、私もですわ。ハクがリオンとリンクしたことで、リオンを経由して私たちにもハクの強大な魔力が還元されているんですのよ』
リコの言葉に、ハクは自分の前足を不思議そうに見つめ、軽く爪を立てた。
「……驚いたな。私と繋がったお前たちが恩恵を受けるのは当然だが、まさか私自身の魔力や身体能力まで、以前より格段に底上げされているとは」
ハクが涼しい顔のまま、しかし確かな驚きを込めて尻尾を揺らした。
「どうやら、私が一方的に力を与えたわけではないらしい。私自身もお前たちとの繋がり(リンク)で、これほど強化されるとはな……悪くない気分だ」
俺だけじゃない。リコもタンクも、そしてハク自身も、全員が確実に強くなっている。
これこそが、仲間と共に成長していくテイマーという職業の真骨頂なのだと、俺は改めて胸を熱くした。
「それに、【魔を知る者】も25%まで成長してるぞ。魔法スキルも、リコやタンクの【光魔法】や【土魔法】に並んで、ハクの【氷魔法】がしっかり追加されてるな」
俺が満足げに頷きながらハクを振り返る。
「なあハク、お前の能力って具体的にどんなことができるんだ?」
ハクは歩きながら、静かに答えた。
「私の能力か。主だったものは、気配と痕跡を完全に消し去る【神隠し(隠密の最上位)】、超高速移動の【神速】、そして【影分身】と【氷魔法】といったところだな。お前が得たスキルも、その一部を共有したものだ」
「神隠しに影分身……忍者の究極系みたいな能力だな。それに【神速】って、さっきの洞窟で俺たちを翻弄したあの速さか!」
男なら誰だって、超高速で動ける能力に憧れるものだ。俺はウズウズして足踏みをした。
「よし……ちょっとだけ試してみるか!」
俺は進行方向の開けた森の真っ直ぐな道を見据え、足にグッと力を込めた。
「いくぞ……【神速】!!」
――シュンッ!!!
発動した瞬間、景色が線のように流れ、爆発的な推進力が俺の体を弾き出した。
あまりの速さに風の音すら遅れて聞こえる。
「うおおおおっ!! すげええええ――」
と、叫んだのも束の間。
急加速した体感速度に、俺の**『動体視力』と『反射神経』が全く追いついていなかった。**
目の前に迫る巨大な木の幹。
「あっ、やべ――」
ドゴォォォォンッ!!!!
「ぐふぁっ!?」
俺は見事に顔面から木に激突し、その反動でカエルのように無様に地面を転がった。
『ぶっ……!! あはははははっ!! 兄ちゃん、カブトムシみたいに木に張り付いてたぞ!!』
タンクが腹を抱えて地面を転げ回り、大爆笑している。
「ふっ……くくくっ……。馬鹿な主だ。力だけ得ても、それを御す技術がなければただの自爆技だろう」
普段はクールなハクまで、肩を震わせて堪えきれないように笑っていた。
「いってぇぇ……。【金剛不壊】のおかげで無傷だけど、目は回るし衝撃で首がムチウチになりそうだ……」
俺がフラフラと立ち上がると、リコが呆れたようにため息をついた。
『まったく、後先考えずに突っ走るんですから。リオン、私が【森羅の叡智】の演算で、視覚情報と体の動作を強制的にリンクさせますわ。もう一度走ってみなさい』
「リコ先生……! お願いします!」
俺は気を取り直し、再び構えをとった。
リコの瞳に光の文様が浮かび上がると同時に、俺の脳内に周囲の地形データと最適なルートが次々と流れ込んでくる。
「よし……【神速】!!」
今度は違った。
景色が猛スピードで流れても、リコのナビゲートのおかげで、どこに足を置き、どのタイミングで曲がればいいのかが手に取るようにわかる。
木々の間を縫うようにして、俺は森の中を文字通り『神の速さ』で駆け抜けた。
「ははっ! 最高だこれ!!」
風を切り裂き、元の場所へUターンしてピタリと停止する。
「どうだ! 完璧に乗りこなしたぞ!」
俺がドヤ顔でビシッとポーズを決めた、次の瞬間。
「……あれ?」
ガクンッ、と急に膝の力が抜け、俺はその場にへたり込んでしまった。
息はゼェゼェと上がり、全身の筋肉が鉛のように重い。指先一本すら動かせないほどの極度の疲労感が襲ってきたのだ。
『あーあ。言わんこっちゃないですわ』
「体力の……消費が……激しすぎる……」
ハクが呆れたように俺を見下ろした。
「【神速】は魔力と体力の消費が激しく、短距離なら最強だが、長距離の移動には全く向いていないのだ。慣れぬ人間が調子に乗って使えば、そうなるのは当然だろう」
「もっと早く……言ってくれよ……」
完全にガス欠になった俺を見て、タンクが『がははっ!』と笑いながら歩み寄ってきた。
緊張感のない広い背中をぽんぽんと叩く。
『仕方ねぇな! 兄ちゃん、乗ってきな。街まで俺が運んでやるよ!』
「すまん、タンク……。頼む……」
俺はタンクの背中に文字通り「回収」され、ぐったりと突っ伏した。
ハクはそんな俺を見て「やれやれ」と小さく鼻を鳴らしたが、その尻尾はどこか楽しげに揺れていた。
こうして俺は、強大な力にはそれ相応の代償があることを身をもって学びながら、頼れる仲間たちと共に交易都市グランツへの帰路を進むのだった。
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