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神獣テイマーの異世界放浪記 〜未知なる食を求めて〜  作者: 葉山ローリエ
第二章:交易都市グランツ編 ~新たなる幻獣との出会いと、街を脅かす巨獣の影~
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第28話:神獣の鬼ごっこ

一切の気配を持たず、俺たちの探知をすり抜けて唐突に『勝負』を持ちかけてきた白き神獣。

その底知れない威圧感と強者の余裕を前にして、俺たちはただ息を呑み、立ち尽くすしかなかった。


「勝負って……。あんたみたいな凄いやつと、どうやって戦えばいいんだよ」


俺が警戒しながら尋ねると、白虎はつまらなそうに尻尾を揺らした。


「案ずるな、殺し合いをするつもりはない。ルールは簡単だ。お前たちが『私に一度でも触れること』ができたら、お前たちの勝ち。この洞窟にある氷結晶を好きなだけ持っていくがいい。魔法でも何でも、好きに攻撃してきても構わんぞ」


「触れるだけでいいのか? それなら……」


『リオン、油断しないでください。あの神獣、ただ者ではありませんわ』


俺の肩でリコが鋭く警告する。

だが、氷結晶を手に入れるためにはやるしかない。俺とタンクが深く頷き合うのを見て、白虎は青白い瞳を細めた。


「では、始めようか」


白虎がそう呟いた、次の瞬間。


「――消えた!?」


氷の床の上にいたはずの巨体が、ふっと陽炎のようにかき消えた。

残像すらない。視界からも、気配からも完全に消失している。


「どこだ……!? 上か!?」


俺たちが必死に周囲を見回していると、すぐ耳元で静かな声がした。


「どこを見ている」


「うおっ!?」


慌てて振り返るが、そこには誰もいない。

時折、青白い閃光のように白虎が姿を現す。俺もタンクも即座に反応して飛びかかり、魔法を放つが、全て空を切るだけだった。

数十秒後、少し離れた岩の上で、白虎は退屈そうに小さな欠伸をした。


「お遊びにもならんな。このままでは日が暮れてしまうぞ」


『舐められたものですわね……! 【広域隠密解除ディスペル・ハイド】!』


リコが苛立ったように小さな前足を掲げると、眩い光の波動が洞窟全体に広がった。

その瞬間、白虎の周囲を覆っていた不可視の魔力が霧散し、その美しい輪郭が空間に浮かび上がった。


「ほう……私の隠密を剥がすか。ただのネズミではないとは思っていたが……悪くない」


白虎は一切動じることなく、余裕のあるクールな態度を崩さない。


「だが、姿を捉えたところで、私に触れられるかな?」


言葉通り、姿が見えても状況は変わらなかった。

白虎のスピードは文字通り『神速』。俺たちが一歩踏み出す間に、三歩も四歩も先を読まれて軽々と躱されてしまう。全く歯が立たない。


『リオン、タンク! 少しだけ時間を稼いでください!』


俺の頭の中に、リコからの切羽詰まった念話が響いた。

リコの瞳に、膨大な情報を処理する光の文様が浮かび上がっている。【解析】と【高速演算】のフル稼働だ。


『がははっ! 時間稼ぎなら俺の出番だな! 出てこい!』


タンクが前足を力強く地面に叩きつけると、洞窟の地面からズズズッと巨大な岩の塊――ストーンゴーレムが3体立ち上がった。

タンクの指示で、ゴーレムたちと俺が四方から白虎を挟み撃ちにする。


しかし白虎は、「遅いな」と呟きながら、巨体の間を縫うようにして優雅に避け続ける。ゴーレムの重い拳も、俺の攻撃も、かすりもしない。

だが、その『無駄な時間』こそが、リコが必要としていたものだった。


『……演算完了。これより、勝利への作戦を伝えますわ』


リコの冷徹で自信に満ちた声が、俺とタンクの脳内に直接響く。

その完璧なシナリオを聞いた俺たちは、思わず口角を吊り上げた。


「よし……行くぞ、タンク!!」


俺は白虎に向かって真正面から突っ込んだ。

白虎は鼻で笑い、右側へステップを踏んで避けようとする。

その瞬間。


『目を開けたまま寝なさい! 【太陽の閃光ソーラー・フレア】!!』


リコが放った、洞窟内を白昼のように染め上げる強烈な閃光魔法。

「……っ!」と白虎が反射的に目を細め、視界を奪われた。


その一瞬の隙に、タンクが地魔法を発動させる。


『狭い部屋はお嫌いか? 【隆起する土壁】!』


ズゴゴゴゴッ!! と凄まじい音を立てて、白虎の背後と側面の地面から巨大な土の壁がせり出し、洞窟の空間を極端に狭めた。

そしてここからが、リコの真骨頂だ。

閃光が収まると同時に、リコは光魔法を使って、せり出した土の壁の手前に『元の広々とした洞窟の幻影ホログラム』を投影した。


「小細工を。視界を奪う程度で私を捕らえられるものか」


視力を回復させた白虎が、自慢の神速で俺から距離を取ろうと、大きく後ろへ跳躍した。ホログラムで作られた「何もない空間」へと向かって。

――しかし、神獣の直感は本物だった。

空中を舞う白虎は、見えない土の壁の気配を直前で察知し、空中で見事に身を翻して激突を回避したのだ。

だが、その驚異的な反射神経による『一瞬の停止』こそが、勝負の分かれ目だった。

体勢を立て直し、再び跳躍しようとした白虎の足元が、唐突に黒く沈み込んだ。


「なに……っ!?」


『がははっ、逃がさねぇぜ! 【重力場グラビティ・フィールド】!!』


タンクが前足を力強く踏み鳴らし、作戦にはなかった重力魔法を発動させたのだ。

数倍の重力が、白虎の巨体を一瞬だけ床に縫い留める。


「もらったぁぁっ!!」


俺はその隙を見逃さず、動きを封じられた白虎の白い毛皮に、ペタッと手のひらを押し当てた。


「……タッチ。俺たちの勝ちだ」


俺がそう宣言すると、白虎は拘束が解かれた体をゆっくりと起こし、静かに目を細めた。


「……まさか、幻影で退路を誘導し、さらに重力で動きを封じるとは。見事な連携だ」


『ふふん。どうです? ……と言いたいところですが、タンク。最後の重力魔法はわたくしの作戦にはありませんでしたわよ?』


『がははっ! 壁を避けるかもしれねぇって咄嗟の判断だ! 俺のファインプレーだな!』


リコの完璧な作戦と、それを補ったタンクの機転。この二匹のおかげで、確実な勝利を掴むことができた。

白虎は少しだけ口角を上げ、俺たちを見下ろした。


「約束通り、私の負けだ。氷結晶は好きに持っていくがいい」


「ありがとう。大事に使わせてもらうよ」


俺がホクホク顔で採掘の準備を始めようとすると、白虎が静かな声で問いかけてきた。


「お前たち。その氷結晶を持って、これからどこへ向かうのだ?」


「ん? ロレンスさんにこれを届けたら、世界中を旅して、誰も見たことがない美味い飯を作って回るつもりだけど」

白虎は少し考える素振りを見せた後、スッと立ち上がった。


「……この冷え切った退屈な洞窟にいるよりは、お前たちについて行った方が面白そうだ。私を連れて行け」


「えっ、いいのか!?」


俺から誘うまでもなく、思わぬ申し出を受けて驚いてしまった。


「お前たちのような規格外の連中を放っておくのは惜しい。それに……その美味い飯というのにも、少し興味があるからな」


気高くクールな表情を崩さないまま、白虎はそう言って尻尾を揺らした。


「そっか。じゃあ、改めてよろしくな! 俺はリオンだ。こっちがリコで、こっちがタンク。それで……お前の名前は」


俺は少し考えてから、白虎の目を見つめて言った。


「『ハク』だ。今日からお前の名前はハクだ」


「ハク……。ふん、単純だが、悪くない名だ。よろしく頼むぞ、我がマスター


こうして俺たちは極寒の洞窟で大量の氷結晶を採掘し、白き神獣『ハク』という新たな仲間と共に、さらなる旅へと歩みを進めることになったのだった。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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