第26話:氷結晶の出処と、大商人からの特別依頼
「ふぅーーっ……食った食った。最高の昼飯だったな!」
ロレンス商会の食堂で、俺たちは食後の高級な紅茶を飲みながら、大きく息を吐き出していた。
テーブルの上にあった大量のカニクリームパスタとカニクリームコロッケは、俺たちと、ロレンスさん、そして解体職人たちによって綺麗に平らげられている。
「いやはや……思い出すだけでも唾液が溢れてきます。私の長い商人人生の中でも、これほど衝撃的で美味しい料理は初めてでした。リオン様、本当にご馳走様でした」
お腹をさすりながら、ロレンスさんが深く頭を下げた。
「口に合って良かったです。……あ、そうだ。ロレンスさん、先ほど調理の時に貸していただいた『氷結晶』なんですけど」
俺がふと思い出して尋ねると、ロレンスさんは紅茶のカップを置き、少しだけ商人の顔つきに戻った。
「ええ。魔力なしで半永久的に冷気を放ち続ける、非常に高価な代物です」
「あれって、市場とかでは全然見かけなかったんですけど、どこで手に入れたんですか? もし手に入るなら、俺も料理の保存用に一つ欲しいなと思って」
俺がそう言うと、ロレンスさんは声を潜めて、興味深い話を聞かせてくれた。
「実はあれ、市場に出回ることはほとんどない、極めて珍しい自然の産物なのです。今うちにある氷結晶も、この街の北側にある大きな山で、数ヶ月前に冒険者が『偶然』見つけて持ち帰ってきたものを、私が大金で買い取ったのですよ」
「北の山、ですか。そんな場所で偶然……」
「ええ。私は商人として、こう考えているのです。その北の山のどこかに、まだ発見されていない『氷結晶の鉱脈』、あるいは大量の氷結晶が眠っているのではないかと」
ロレンスさんの目が、商機を見つけた商人のようにギラリと光った。
「もし大量の氷結晶が手に入れば、生鮮食品の長距離輸送や、貴族向けの避暑具として、莫大な利益を生み出せます。リオン様も、先ほど料理の保存用に欲しいと仰っていましたよね?」
「はい。あれがあれば、肉や魚の鮮度を気にせず、いつでも冷たいデザートなんかも作れますからね」
「そこで、リオン様に『特別依頼』をお願いしたいのです」
ロレンスさんは姿勢を正し、俺の目を真っ直ぐに見つめた。
「リオン様の持つ戦闘力……いえ、あのタンク殿の圧倒的な力と、リコ殿の類稀なる知識があれば、普通の冒険者では踏み入れられない山の最深部でも探索できるはず。どうか、北の山へ向かい、氷結晶を探してきてはいただけないでしょうか? もちろん、見つけてくださった暁には、市場価格を大きく上回る金額で全て買い取らせていただきますし、リオン様ご自身の分は自由にお持ち帰りいただいて構いません」
それは、冒険者としても料理人としても、願ってもないほど美味しい提案だった。
『ふむ。氷結晶の発生源ですか……。普通の山に自然発生するとは考えにくいですね。何か特別な要因があるはず。私の知的好奇心がくすぐられますわ』
『がははっ! 兄ちゃん、山登りか! 最近体が鈍ってたから、ちょうどいい運動になりそうだぜ!』
肩の上のリコと、足元のタンクも、やる気満々のようだ。
俺は二匹の頼もしい顔を見てから、ロレンスさんに向かって力強く頷いた。
「わかりました、その特別依頼、俺たちが引き受けます! ちょうどホーンブルの素材の買い取り代金(金貨30枚)もいただいたところですし、準備を整えたらすぐに出発しますよ」
「おおっ! ありがとうございます! では、吉報をお待ちしておりますぞ!」
ロレンスさんと固い握手を交わした俺たちは、商会を後にした。
マジックバッグには、解体職人たちが綺麗に切り分けてくれたホーンブルの極上肉がたっぷりと入っている。
「よーし! 氷結晶を見つけて、もっと美味い飯を作るための最強の冷蔵庫を手に入れるぞ!」
『ええ、行きましょう!』
『おうよ!!』
こうして俺たちは、まだ見ぬお宝(と冷蔵庫)を求め、交易都市グランツの北門から、巨大な北の山へと向けて元気よく出発したのだった。
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