第25話:極上カニクリームパスタと、禁断のコロッケ
フライパンに火をかけ、バターをたっぷりと溶かしていく。
そこに、先ほど毒の部位を完璧に取り除き、細かく刻んでおいた『パラライズ・マッシュ』を投入した。
ジュワァァァッ! という心地よい音と共に、キノコが熱される。
猛毒キノコは熱を加えることで、信じられないほど芳醇で濃厚な『キノコの香り』を爆発させた。松茸やポルチーニ茸すらも凌駕するような、圧倒的で暴力的な香りだ。
「すげえ匂い……! これだけでも美味そうだ」
キノコがしんなりしてきたところで最高級の小麦粉を振り入れ、焦げないように炒め合わせる。粉っぽさが消えたら、ロレンスさんが用意してくれた新鮮な牛乳を少しずつ加え、ダマにならないよう丁寧に伸ばしていく。
とろみがついたところで、先ほど茹でてほぐしておいたシェル・タランチュラの『カニ肉』をこれでもかと大量に投入する。
仕上げに塩胡椒で味を調えれば、カニの旨味とキノコのコクが限界突破した『特製ホワイトソース』の完成だ。
俺はそのソースを半分に分け、片方のフライパンには茹で上がったばかりの黄金色の手打ち生パスタを投入し、ソースとよく絡める。
そして、残りの半分のソースは揚げ物のタネにするため、一度冷やして固める必要がある。
「ロレンスさん! このソースを冷ましたいんですけど、氷ってありますか?」
俺が厨房から食堂の方へ声をかけると、待機していたロレンスさんが「おや、冷やすのですね。それなら、いいものがありますよ」と笑い、奥から小さな水色で透き通った石のようなものを持ってきてくれた。
「これは『氷結晶』といいましてね。溶けることなく常に冷気を発生させ続ける、いわば溶けない氷です。魔力も不要で半永久的に冷やせるため、貴重な代物です。」
「へえっ! そんな便利なアイテムがあるんですね。さすが大商会だ」
俺はありがたく氷結晶を借りてバットの下に置いた。氷結晶から放たれる強力な冷気のおかげで、熱々のソースはあっという間に扱いやすい硬さに冷え固まった。
それを俵型に丸め、小麦粉、卵、そして商会のパンを細かく砕いて作った自家製のパン粉をまぶし、たっぷりの熱い油の中へ静かに滑り込ませる。
シュワァァァァァァァァッ!!!!!
厨房に心地よい揚げる音が響き渡り、すぐにニンニクやバター、そして香ばしいカニの匂いが混ざり合った、胃袋を直接鷲掴みにするような『極上の匂い』が厨房の外へと漏れ出していった。
「リ、リオン様! 一体何を作っているのですか!? 匂いだけで、商会の職員たちが仕事にならないと大騒ぎですよ!」
たまらずといった様子で、ロレンスさんが解体職人たちをゾロゾロと引き連れて再び厨房に飛び込んできた。
「ははは、ちょうど完成したところですよ。お待たせしました、グランツ初の最高のご馳走です!」
俺は食堂の大きなテーブルに、出来立ての料理を並べた。
一つは、濃厚な白いソースが黄金色の平打ち麺にこれでもかと絡みつく『極上カニクリームパスタ』。
そしてもう一つは、キツネ色に見事に揚がった丸い塊――
『カニクリームコロッケ』だ。
「こ、これが手打ちの麺料理……。それに、この揚げ物は……?」
ロレンスさんはゴクリと唾を呑み、まずはパスタをフォークに巻き付けて口に運んだ。
「……っ!?!? んんんんんんーーーーっっっっっ!!!???」
ロレンスさんはフォークを握ったまま、ガタガタと震え出した。
「な、なんという美味さだ……! この平たい麺、モチモチとしていて噛むたびに小麦の旨味が弾ける! そしてこのソース……先ほどのパラライズ・マッシュの濃厚なコクと、信じられないほど甘いカニのような身が合わさって、脳が震えるほどの美味さですぞ!!」
「おい、こっちの揚げ物もヤバいぞ……!」
解体職人のリーダーが、カニクリームコロッケにフォークを突き立てて半分に割った。
サクゥッ……!
完璧な衣の破裂音とともに、中から熱々で『とろ〜り』とした真っ白なクリームと、溢れんばかりのカニ肉がトポトポと流れ出した。
職人はそれを掬い上げ、ハフハフと熱がりながら口に放り込む。
「う、美味ええええええええええっ!!! 外は信じられないくらいサクサクなのに、中はとろっとろだ! 噛んだ瞬間に、口の中がカニの旨味で大洪水になっちまう!!」
「なんだこの料理は! こんな美味い揚げ物、生まれて初めて食べたぞ!」
職人たちもロレンスさんも、完全に理性を失ったようにパスタを啜り、コロッケを頬張っていく。猛毒のキノコや不気味な蜘蛛の魔物を使っていることなど、彼らの頭からは完全に吹き飛んでいた。
『リオン! 私の分のコロッケがタンクの口に消えそうですわ!』
『がははっ! 早い者勝ちだぜ、リコ! 兄ちゃん、このサクサクトロトロのやつ、無限に食えるな!』
足元では、小型化したタンクとリコも、顔の周りをソースだらけにしながら夢中でコロッケとパスタを平らげている。
「はははっ、おかわりはまだまだあるから、ゆっくり食べてくれよ」
みんなが「美味い、美味い!」と満面の笑顔で料理を平らげていくのを見ながら、俺は料理人としての最高の喜びを、この大都会グランツでも深く噛み締めていた。
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