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神獣テイマーの異世界放浪記 〜未知なる食を求めて〜  作者: 葉山ローリエ
第二章:交易都市グランツ編 ~新たなる幻獣との出会いと、街を脅かす巨獣の影~
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第24話:蜘蛛の正体と、スマホの代償

解体場から商会の建物内に戻った俺たちは、ロレンスさんの計らいで、商会専用の広く清潔な厨房を貸してもらえることになった。

厨房の広い調理台には、ロレンスさんが用意してくれた最高級の小麦粉や、新鮮な卵、新鮮な牛乳などが並べられている。


「さて、と……。まずはメインの具材だな」


俺はマジックバッグから、城塞都市リバニアの周辺で狩っておいた、硬い甲羅を持つ大きな蜘蛛の魔物――『シェル・タランチュラ』を取り出した。

実は、リコに「これ、絶対に美味しいですわよ」と言われてバッグにしまっておいたのだが、自分で調理するのはこれが初めてだった。


「……本当に美味いのか? 見た目は完全に不気味な蜘蛛なんだけどな……」


俺が少し引きつった顔で呟くと、リコが『ふふん』と胸を張った。


『リオン、何事も見た目で判断してはダメですわ。【森羅の叡智】の解析によれば、この魔物の身は、リオンの世界でいう“極上のカニ”と成分がほぼ一致していますの。だまされたと思って、まずはシンプルに茹でてみなさいな』


「カニ、ねぇ……。よし、信じるよ」


俺は厨房の大きな寸胴鍋にたっぷりのお湯を沸かし、塩を多めに入れる。そこにシェル・タランチュラを丸ごと投入した。

数分後、不気味な黒っぽかった甲羅が、茹で上がるにつれて鮮やかな“茹でカニ”のような赤色へと変化していく。


「あ、本当に色が変わった。匂いも……心なしか香ばしいカニの茹で汁みたいな匂いがするな」


お湯から引き揚げ、少し冷ましてから、包丁の背を使って頑丈な脚の甲羅をパキッと割ってみる。

すると中から、驚くほど真っ白で、ぷりっぷりのお肉がぎっしりと姿を現した。

俺はそれを一つ摘み、口に放り込んでみる。


「……っ!!! カ、カニだ!!! これ、完全にめちゃくちゃ美味いカニだ!!!」


あまりの衝撃に、俺は厨房で大声を上げてしまった。

外側のサクッとした食感のあと、口の中に広がるのは、とてつもなく濃厚な甘みと磯の旨味。日本の高級料亭で食べるタラバガニやズワイガニの、さらに上を行くような濃厚さだ。


『がはは! 兄ちゃん、俺にもくれ!』


わたくしもいただきますわ!』


タンクとリコにも身を分けてやると、二匹とも目を輝かせて「美味ぇえ!」「最高ですわ!」とむさぼり食べている。


「よし、決めた! この最高のカニ肉と、さっき猛毒を抜いたパラライズ・マッシュを使って、極上のクリームソースを作ろう! ロレンスさんが新鮮な牛乳も用意してくれたし、カニクリームコロッケも作れそうだ」


俺の料理人としての魂に完全に火がついた。


「……でも、一つ問題があるんだよな」


俺は調理台の上の小麦粉を見つめながら、腕を組んで唸った。


「俺、パスタの『麺』を粉から打ったことないんだ。元の世界じゃ、乾麺を買ってきて茹でるだけだったし」


そう。料理人とはいえ、手打ちパスタの正確な分量やこね方は専門外だったのだ。

俺が困っていると、肩の上でリコが『ふふん』と得意げに鼻を鳴らした。


『全く、リオンは詰めが甘いですわね。安心なさい、麺の打ち方なんてわたくしにかかれば造作もありませんわ』


「え、嘘? リコ、麺の作り方まで知ってるの?」


俺が驚いて振り返ると、リコは尻尾を揺らしながら、とんでもない事実を口にした。


『ええ。実は私、リオンがいた【日本】という国のネズミと、意識が繋がっていた時期があるのですわ』


「……はい? 日本のネズミと?」


『私、森羅の霊鼠ですからね。波長さえ合えば、異世界の同族ともリンクできるんです。その日本のネズミを通して、あちらの世界でも【森羅の叡智】を発動して、世界中のあらゆる知識やレシピを吸収しましたの。だから、手打ちパスタの黄金比率もバッチリですわ!』


「な、なんだってー!? お前、そんな凄い技で俺の世界の知識を持ってたのか!」


だから異世界の魔獣なのに、やたらと日本の料理や文化に詳しかったのか。全ての謎が解けて、俺は思わずポンッと手を打った。


「いやー、すげーな。知りたいレシピがいつでも一瞬でわかるなんて、マジで便利じゃん。なんかスマホみたいだな!」


俺が無邪気にそう口走った、次の瞬間だった。

――ガブゥッ!!!


「ぎゃああああああああああああっっ!!?」


俺の右耳に、凄まじい激痛が走った。

見れば、リコが目を吊り上げてブチギレながら、俺の耳たぶに本気で噛みついているではないか!


『痛っ! 痛い痛い痛いっ! ちょっ、リコ、離して、千切れるっ!』


『ふんっ! 次、わたくしのことを便利な道具スマホ扱いしたら、本当に噛みちぎりますわよ!!』


リコはプイッとそっぽを向きながら、ようやく牙を離してくれた。

俺は涙目で赤くなった右耳を押さえてうずくまる。


「いっっっっっっっっっっってぇぇぇぇ……」

そこで、俺はある戦慄の事実に気がついた。


「ま、待てよ……? タンクとの【能力共有】のおかげで、今の俺の物理防御力は『8500』もあるはずだぞ? 剣で斬られても傷一つつかないのに……なんでリコの噛みつきはこんなに痛いんだ!?」


『がははっ! 兄ちゃん、俺たちの繋がりは魂レベルだからな! 仲間からの愛のムチに防御力は関係ねぇんだよ!』


足元で小型化しているタンクが、面白そうに腹を抱えて笑っている。

なるほど、防御力貫通のダメージか……。俺は無敵の防御力を手に入れてすっかり油断していたが、一番恐ろしい攻撃は身内から飛んでくるのだと、深く深く反省した。


「……ごめん、リコ。俺が悪かった。二度とスマホなんて言わないよ。リコ先生、どうか麺の打ち方を教えてください……」


俺が土下座の勢いで謝罪すると、リコは『わかればよろしい』とコクリと頷いた。


『では、小麦粉に対して卵と水の割合を指示します。まずはボウルで粉の土手を作って……』


俺はリコの完璧なナビゲートに従い、真剣な表情で調理を開始した。

粉と水分が均等に混ざり合い、ぽろぽろとしたそぼろ状になったところで、体重をかけてしっかりとこねていく。


『もっと力を込めて! グルテンをしっかり形成させるのです!』


「おうっ!」


俺は額に汗を浮かべながら、生地が耳たぶくらいの柔らかさになるまで力強くこね上げた。

そして、それを薄く伸ばし、包丁でトントントンと等間隔に細く切り揃えた。

切り分けた麺をパラリとほぐすと、そこには見事な黄金色をした、美しい『生パスタ』が完成していた。


「よーし! 最高のカニ肉と生パスタが揃った! いよいよソース作りと、お待ちかねの『アレ』を揚げるぞ!」


未知の食材である猛毒キノコとカニ肉、そして最高の生パスタ。

俺は気合を入れ直し、フライパンとたっぷりの油が張られた鍋に火をつけた。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

「面白い!」「神獣たちが可愛い」「続きが読みたい!」と少しでも思っていただけましたら、

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