第16話:規格外の報告と、神獣の正体
城塞都市リバニアの正門が見えてきた。
実技試験の会場だった岩山から無事に生還した俺は、二匹の相棒を連れて門の前に立っていた。
「と、止まれ! そ、その恐ろしい魔獣はなんだ!?」
門番の兵士たちが、血相を変えて槍を構える。
その穂先が向けられているのは、俺の隣を歩くタンクだった。洞窟内での宣言通り、牛ほどのサイズに縮んではいるものの、その岩のように隆起した筋肉と凶悪な二本の角から発せられる『強者のオーラ』は隠しきれていない。
「あ、すいません。この子は俺がテイムした従魔でして。実技試験から帰ってきたところなんです」
俺がテイマーの仮証を見せて丁寧に説明すると、門番たちは「嘘だろ……」と信じられないような顔をしながらも、なんとか街への入場を許可してくれた。
街の中を歩いていても、周囲の視線は俺たちに釘付けだ。
圧倒的な存在感を放つタンクが歩くたびに、道ゆく人々がさーっと道を空け、ざわめきが広がっていく。
「なんか、ものすごく目立ってるな……」
『ふふん、当然です。大地を統べる高位の魔獣を従えて歩いているのですから、もっと胸を張りなさいな』
リコが俺の肩の上でドヤ顔でヒゲを揺らしている。
そんな周囲の反応を背に受けながら、俺たちは冒険者ギルドの重厚な扉を押し開けた。
ギルド内は、試験から逃げ帰ってきた他の受験者たちや、ベテランの冒険者たちでごった返していた。しかし、俺とタンクが足を踏み入れた瞬間、酒場も併設された広いフロアが水を打ったように静まり返った。
「おい……あいつ、最弱職のテイマーだろ?」
「なんで無傷なんだ? それに、あんなヤバそうな魔獣、街を出る時は連れてなかったぞ……!」
俺を「どうせ死ぬ」と嘲笑っていた冒険者たちが、ひそひそと驚愕の声を漏らしている。
俺はそんな視線を気にすることなく、まっすぐに受付カウンターへと向かった。
「あの、実技試験の報告に……」
「は、はいっ! 確か、テイマーのリオン様ですね。えっと……その魔獣は……?」
以前、俺を憐れむような目で見ていた受付嬢が、タンクを見て引きつった笑いを浮かべている。
「テイムしました。それより、討伐証明なんですけど」
俺はマジックバッグから、ロックリザードから剥ぎ取った『巨大な岩の鱗』と『大剣ほどのサイズの鋭い爪』を取り出し、カウンターにドンッと置いた。
その瞬間、受付嬢の目がこれ以上ないほど見開かれた。
「こ、これは……ロックリザードの鱗!? で、でも、おかしいです! 私たちが試験用に指定した個体は全長2メートル程度の幼体のはず……。この鱗と爪のサイズ、どう見ても5メートルを超えた『主』クラスの変異種じゃないですか!」
受付嬢の叫び声に、ギルド内が再び大きくどよめいた。
「しかも……今回の実技試験、他の受験者は全員リタイアして逃げ帰ってきています。合格者は、リオン様ただ一人です……。テイマーの試験合格なんて、ギルド始まって以来の……」
ブルブルと震える受付嬢。
俺としては普通に試験をこなしたつもりだったのだが、どうやらとんでもない偉業を達成してしまったらしい。
「――おいおい、騒がしいと思ったら、面白いルーキーが帰ってきたみたいじゃねぇか」
その時、ギルドの奥の扉が開き、顔に大きな傷のある筋骨隆々の大男が現れた。
歴戦の戦士のような威圧感を放つその男は、周囲の冒険者たちが道を譲る中、俺の目の前まで歩み寄ってきた。
「俺はこのギルドのマスター、バルドだ。……おい兄ちゃん、ちょっと奥の部屋まで来い」
◆ ◆ ◆
通されたのは、防音魔法が施されたギルドマスターの執務室だった。
「さて……単刀直入に聞くぜ。お前、一体何者だ?」
バルドは鋭い鷹のような目で俺を見据え、そして俺の肩にいるリコと、足元でくつろぐタンクを交互に見た。
「俺の【鑑定】スキルが一切弾かれちまう。だが、古い伝承で読んだことがある。光を纏う白い霊鼠と、大地を統べる巨大な牛の化身……お前ら、もしかして伝説の『神獣』か!?」
「神獣……?」
俺がキョトンとしていると、肩の上のリコがやれやれといった様子で鼻を鳴らした。
『ふん。神獣だなんて、大昔の人間たちが畏れおののいて、勝手にそう呼び始めただけですわ。私たちはただ、己の在り方のままに生きている至高の存在に過ぎません』
『がははっ! 違ぇねぇ。俺は美味ぇメシが食えりゃ、神獣だろうがなんだろうがどうでもいいぜ!』
「ってことらしいです。まあ、頼りになる相棒ですよ」
俺が平然と答えると、バルドは顔面を蒼白にさせ、ドサッと椅子に深く腰掛けた。
「お、お前……自分がどれだけヤバいもんを連れて歩いてるか分かってねぇのか? もし国や教会にバレたら、お前ごと国宝級の軍事力として囲い込まれる……最悪、争奪戦で戦争が起きるレベルだぞ」
「またまた大袈裟な。俺はただ、色んな場所を旅して、未知の食材で美味しい料理を作りたいだけなんで。あまり目立ちたくないというか……」
俺が苦笑しながらそう伝えると、バルドは大きなため息をついた後、「がはははっ!」と豪快に笑い出した。
「こんだけ派手にやらかしといて目立ちたくないってのは無理な相談だが……まあいい。お前のその『飯を作りたい』って無欲な目は嫌いじゃねぇ。お前の詳しい能力や、その二匹の正体については俺の胸の内にしまっておいてやる」
「本当ですか? ありがとうございます」
「ああ。だが、実力は本物だ。ギルドの規定通り、一番下っ端のF級はすっ飛ばして、一人前の冒険者の証である『E級』からスタートしてもらうぜ。期待してるからな、異端のテイマーさんよ」
こうして俺は、バルドの粋な計らいもあり、無事にE級冒険者としての登録を完了した。
明日からの未知なる食材探しの旅に向けて、胸の高鳴りが止まらなかった。
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