第15話:祝勝会と、美味しい反省会
「ふぅ……」
大きく息を吐き出し、俺はその場にどっこいしょと座り込んだ。
激闘の余韻と疲労が心地よく体を包んでいる。だが、休んでばかりもいられない。
「さて、それじゃあ討伐証明部位と、お楽しみのお肉の解体を始めようか」
俺が立ち上がると、タンクが『任せな兄ちゃん!』と意気揚々と進み出た。
バリバリバリッ! メシャァァッ!
「……うお、すげぇな」
俺の古剣ではかすり傷一つつけられなかったロックリザードの強固な岩の装甲を、タンクは自慢の剛力と牙を使って、まるでミカンの皮でも剥くようにいとも簡単に剥がしていく。
あっという間に綺麗な赤身の肉塊となった巨大なトカゲを前に、今度は俺の肩からリコがピョンと飛び降りた。
『では、私は周囲に光の結界を張っておきますね。これなら、血の匂いに釣られて他の魔物が乱入してくることもありませんし……何より、結界内の時間を固定して【お肉の鮮度を最高に保つ】ことができますから!』
「いや、そっちの食い意地がメインだろ絶対……」
呆れつつも、その徹底したグルメっぷりに思わず笑みがこぼれる。
鮮度が完璧に保たれているなら、やることは一つだ。
俺は解体したばかりの新鮮な内臓から、ツヤツヤと輝く『レバー』を切り出した。
「よし、まずはこいつを刺身でいこう」
持参している調理器具や調味料は最小限しかない。だからこそ、素材の暴力的な鮮度をそのまま味わうのだ。
薄くスライスしたレバーに、火竜の岩塩をごく少量だけ振り、口に運ぶ。
「……っ! なんだこれ、めちゃくちゃ甘い!」
コリッとした小気味良い食感の直後、生臭さなど一切ない濃厚でクリーミーな旨味が、舌の上でとろけていく。
『ふにゃあぁぁ……! 新鮮なレバーの刺身、たまりません!』
『がははっ! 噛むたびに血の旨味がドバッと溢れてきやがる!』
極上の前菜を平らげた後は、メインディッシュだ。
魔導コンロに鉄板を乗せ、分厚く切ったロックリザードの尻尾の肉を豪快に焼き上げる。
ジュワァァァァァッ!!
ワニ肉にも似た、淡白だがプリプリとした極上の弾力を持つ肉が、熱せられた脂と共に暴力的な香りを洞窟内に撒き散らす。こんがりと焼き色がついたところで、俺たちは夢中で肉に噛み付いた。
肉汁で口の周りをテカテカにしながら、タンクがふと口を開いた。
『しかし兄ちゃん、最後の一撃は良かったが、道中の戦い方はかなり泥臭かったな』
「えっ?」
『ああ。俺の共有ステータスであのトカゲの突進を受け止めた後、魔法の『ロックランス』で下からカチ上げてひっくり返してりゃあ、柔らかい腹を簡単に狙えたぜ?』
『ええ、その通りです。そもそも、戦闘が開始した瞬間に『閃光弾』で視界を奪っていれば、あそこまでボコボコにされる必要は全くありませんでしたね』
肉を咀嚼しながら、二匹の相棒から容赦ない的確なダメ出しが飛んできた。
「……うっ。言われてみれば、確かにその通りだ……」
ステータスや魔法に頼るだけでなく、それをどう組み合わせて使うか。実戦経験の無さがモロに露呈した形だ。
『まあ、初陣にしては上出来ですよ。次はもっとスマートに立ち回れるよう、頑張ってくださいね』
リコがドヤ顔でヒゲを揺らす。俺は苦笑しながら、分厚いステーキをもう一枚鉄板に乗せた。
「ははっ、厳しいな。……でも、次にあんなヤバい奴が出てきた時は、お前らも絶対手伝えよ!」
俺が冗談めかしてそう言うと、リコとタンクは顔を見合わせ、楽しそうに笑い声を上げた。張り詰めていた空気が完全に解け、温かい絆の時間が流れていく。
祝勝会を終え、残った大量の肉と、討伐証明となる岩鱗や爪を前にして、俺はふと頭を抱えた。
「これ、どうやって持ち帰ろう……。さすがに全部は背負いきれないぞ」
『あ、リオン。あそこの岩陰を見てください。古びた皮袋が落ちていますよ』
リコに言われて近寄ってみると、そこには冒険者が使うようなリュックサックが転がっていた。中には何も入っていないが、口の周りに微かな魔力の陣が刻まれている。
「これ、もしかして……」
『ええ、【マジックバッグ】ですね。おそらく、過去にロックリザードに挑んで、勝てずに荷物を投げ捨てて逃げ帰った冒険者の遺留品でしょう』
なんという幸運。
俺は早速、大量の肉と討伐証明の部位をマジックバッグへと押し込んだ。見た目は普通のリュックなのに、どれだけ入れても重さが変わらない。
「よっしゃ、これで準備万端だ。……帰ろう、俺たちの実力を証明しに!」
頼れる二匹の相棒と共に、俺は試験の合格を報告するため、城塞都市リバニアの冒険者ギルドへと歩き出した。
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