第13話:頼れる重戦車と、初めての魔法
美味そうに飯を平らげ、俺に力を貸してくれると約束してくれたベヒーモス。
彼がふと、俺の肩に乗るリコを大きな瞳で見つめた後、少し照れくさそうに太い声を響かせた。
『ところで、リオンの兄ちゃん。俺からも一つ、頼みがあるんだが……』
「ん? なんだ、まだおかわりが欲しいのか?」
『がはは、それも捨てがてぇが、そうじゃねぇ。……その、主従の契約を結ぶにあたってよ。そこの霊鼠のように、俺にも新しく名前を付けてくれねぇか?』
ベヒーモスは大きな前足で、モジモジと地面を引っ掻いた。
『何百年もただの種族名で呼ばれてたからよ。兄ちゃんみたいな温けぇメシを作る主に、俺だけの名を呼んでもらえたら、これ以上ねぇ誉れだと思ってな』
「名前か……。うーん、そうだな」
俺は腕を組み、ベヒーモスの姿を改めてじっくりと見つめた。
ダンプカーほどもある巨体、岩のようにゴツゴツとした分厚い筋肉。まさに男のロマンが詰まった『重戦車』そのものだ。
それに、これからの危険な旅において、圧倒的な防御力で俺やリコを最前線で守ってくれる、頼もしい『盾役』でもある。
戦車、そして盾役。現代日本の知識を持つ俺の頭の中に、ぴったりな英単語が浮かび上がった。
「『タンク』ってどうかな? 重戦車みたいにデカくてカッコいいし、俺たちの立派な盾役になってくれそうだからさ」
『がはははっ! タンク、タンクか! 短くて力強くて、めちゃくちゃ気に入ったぜ! これからはタンクと呼んでくれや、リオンの兄ちゃん!』
ベヒーモス――いや、タンクは嬉しそうに巨体を揺らし、地鳴りのような声で笑った。
お互いに魂の底から納得のいく名付けを終えたその瞬間。
俺の前に再び半透明のステータスプレートが浮かび上がり、まばゆい光を放った。
【相互名付けおよび強固な魂の契約を確認しました】
【クラス『魔を知る者』の進行度が 17% に上昇しました】
【規格外スキル【能力共有】が発動します】
【対象:丑(土属性・タンク)のステータスが還元されました】
【リオン・共有ステータス】
・物理攻撃力:25 ⇒ 580
・物理防御力:15 ⇒ 8500
【追加スキル:【金剛不壊(微)】を獲得しました】
【追加魔法:【土魔法(初級)】を獲得しました】
「うわ、なんだこれ……。元の数値が低かったとはいえ、防御力が『8500』って、桁のインパクトが凄すぎるだろ。攻撃力も一気に跳ね上がってるし」
『ふふん、当然です。タンクはこれでも大地を統べる高位の魔獣。そのステータスがリオンに還元されたのですから、今のあなたの肉体は、並の戦士を遥かに凌駕する頑丈さを得ていますよ』
リコが自慢げに胸を張る。どうやら共有された能力値の上がり幅は、一般的な魔物の比ではないらしい。
新しく覚えたスキル【金剛不壊】の効果か、自分の体がまるで鋼鉄の鎧に包まれ、無限の怪力を得たような確かな万能感が全身に満ちていた。
「よし。タンクの力と、リコのサポート……どれだけやれるか試してみるか。目的のロックリザードの住処へ向かおう」
「……って、ちょっと待て。この先の通路、タンクの巨体じゃつっかえちゃうんじゃないか?」
俺が奥に続く通路の幅を見て指摘すると、タンクは『がははっ!』と笑った。
『心配すんな兄ちゃん。俺たち神獣は、魔力を調整して自分の体のサイズを自由に変えられるんだ』
そう言うと、タンクのダンプカーほどもあった巨体がポンッと土煙に包まれ、あっという間に大型犬――いや、少しがっしりした仔牛くらいのサイズにまで縮んだ。
「うおっ、便利だな。それなら狭い洞窟でも問題なく進める」
俺たちは乾燥した空気の漂う、洞窟のさらに奥へと足を進めた。
一本道をしばらく進むと、前方の暗闇から、ガチガチと不気味な岩の擦れ合う音が聞こえてきた。
『リオン、前方から魔物です。ロックリザードの生息域に群生する、頑丈な岩の甲殻を持った大百足――『ストーンセンチピード』が3体、こちらに向かってきています』
リコの演算サポートにより、暗闇の奥にいる魔物の正確な位置と距離が、頭の中に赤い光の点としてマッピングされる。
「3体か……。ちょうどいい、ここで新しい魔法を試させてもらう!」
俺は前方に進み出ると、へその下から魔力を練り上げ、右手の指先に集中させた。エイミーに教わった魔力操作の感覚に、タンクから共有された土属性のイメージを重ね合わせる。
「いけ……っ! 『ストーンバレット』!」
パァンッ!!!
洞窟内に激しい破裂音が響いた。
俺の指先から、拳大の硬質な石弾が、まるでライフル弾のような超高速で撃ち出されたのだ。
高速の石弾は、先頭を走っていたストーンセンチピードの頭部へと正確に命中し、その頑丈な岩の甲殻を木っ端微塵に粉砕した。
「すごい威力だ……! 次、地面から、来い……『ロックランス』!」
俺が地面を強く踏み締めると同時に、2体目のセンチピードの真下の地面から、鋭利な岩の槍が凄まじい勢いで突き出た。
ザグゥゥゥッ!!
不意を突かれた魔物は、自らの巨体を岩槍で真下から貫かれ、虚しく身悶えした後に動きを止めた。
魔法の威力と速度は、リコの演算によって寸分の狂いもなく最適化されている。素人の俺が放ったとは思えないほど、完璧なタイミングでの命中だった。
「キシャァァァッ!」
だが、最後の1体が、仲間2体の死体を乗り越えて目の前まで肉薄してきた。鋭い大顎が、俺の首元を狙って迫る。
『兄ちゃん、避ける必要はねぇ! 俺の腕力を乗せて、そいつをぶっ叩いてやりな!』
脳内に響くタンクの豪快な声。
俺は逃げるのをやめ、腰の古剣を強く握り締めて、正面から迎え撃つように振り抜いた。
タンクによって底上げされた圧倒的な腕力が、古い剣の軌道に爆発的な質量を乗せる。
ズバァァァンッ!!!!
重い破壊音が洞窟内に轟いた。
刃物で斬り裂いたのではない。タンクの怪力によって、ストーンセンチピードの巨体を、甲殻ごと力任せに叩き潰したのだ。
跡形もなく粉砕された魔物の破片が、地面に転がっていく。
ピコンッ!
【ストーンセンチピードの討伐を確認しました】
【リオンのレベルが上がりました】
頭の中に心地よいシステム音が響き、体の中から爽快なエネルギーが湧き上がるのを感じた。
「はは……やった。本当に、俺一人で魔物を倒しちゃったよ。しかもレベルまで上がるなんて」
自分の手を見つめながら、俺は確かな高揚感に震えていた。
ついさっきまで、ゴブリンにすら勝てないと言われていた最弱のテイマーが、高位の魔物を3体同時に、無傷で圧倒してしまったのだ。
『ふふん、見事な戦いぶりです、リオン。ですが、油断してはいけませんよ。この奥からは、先ほどの百足とは比べ物にならないほど強い、本命の気配がします』
リコがキリッとした表情で奥を睨みつける。
「ああ、分かっている。タンクの防御力があれば、そう簡単にはやられないはずだ」
『おうよ! どんな攻撃が来ようが、俺が共有した耐久力があれば蚊に刺されたようなもんだぜ。安心して突っ込みな!』
頼れる2体の相棒たちに見守られながら、俺は古剣を握り直し、試験のメインターゲットである『ロックリザード』の待つ最奥の部屋へと、力強く歩みを進めた。
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