表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/121

7 予言のボッキン


 女子生徒たちのものと思われる下着、体操服や制服が無造作に散乱した。

 俺は頭を抱え、なぜこんな爆弾よりも危険なものが俺のロッカーにあるのか記憶をたどる。


「旦那! すごいガル! そんなにパンチュ盗んだガルか!」

「……ウッソ! さっきの体育の下着泥棒は、エリートが犯人なの!」

「……まさか、ヤロも泥棒の犯人だったなんて……だゼ――」

「……何ももらえないから下着を盗むなんて、まるで魔族だって」

「プレゼントもらえないから体操服盗んだのですの?」

「違う! 俺じゃない! だ、誰かが俺のロッカーにいれたんだ!」

「姫、これがモテない年頃な男子の正体ですよ!」

「ごご、誤解だっ!」


 騎士たちが次々と部屋を飛び出していく。


「おいちょっと! 脅迫手紙の犯人をいっしょに探してくれないのか!?」

「そんなのエリートが犯人なの!」

「もうヤロなんか知らないんだゼ!」


 少女たちは部屋を後にした。


「ちょっと、マリア先輩! みんなに言ってやってくださいよ! 俺はずっとマリア先輩といたし――」


 俺はマリアのうつむく横顔にすがる。


「……今後は先輩と呼ばないで欲しいです」


 マリアも部屋を後にする。


「そ、そんな……――」

「……旦那とは気が合うガルね」

「黙れ」

「ぺ!」

「ガルナビ、ペッキンコッキン、きちんと持ち主に返したんだろうな」


 ペッキンコッキンはうなずいた。


「一体誰が俺のロッカーにあんなものを……まさか! 脅迫の犯人が俺をはめてるんじゃ――!」

「ぺ」


 ペッキンコッキンがぶっきらぼうに手をさしだす。


「なんだ?」


 ヒキガエルの干物のようなくねくねうねる生き物を握っている。


「ぺぺ。感謝ノ気持チ」

「それ、くれるって?」

「そそそ、それは! ソォスィンの最高級な珍味だガル!?」


 ペッキンコッキンの掌でくねくねうねっているヒキガエルのような生き物を見たガルナビはよだれを垂らしている。

 飛びついてきたガルナビの顔を退ける。

 うなずくペッキンの手から恐る恐る気味悪い干物を受け取る。


「あ、ありがとよ……」

「ぺぺ。安息日、きっと役ニ立つ……」


 そしてペッキンコッキンは地面を指差しジェスチャーした。


「これを持って地下に行けばペッキンの兄弟が力を貸してくれるもかって言っているガル」


 ペッキンコッキンはうなずいた。


「地下……だと――」


 地下には厄介ごとしかないと知っている。


 ●


 廊下を歩きながら、これからの最善策を考えていた。

 俺は調理室にアクガリの姿を確認したので、そばに駆け寄り頭を下げてみた。


「そんなの知らないんだゼ! ヤ、ヤロなんか、一人で地下に行って狂った捕囚に捕まってソウルにされちまえばいい!」

「全部誤解なんだって! 信じてくれよ!」

「――それに、あんなところ、二度といくものかだゼ!」

「パンツを盗んだのは俺じゃないって! とにかく力をかしてくれよ!」

「……ひぅ、イ、イヤ!」


 少し涙目のアクガリは立ち上がり、俺から逃げるように走り去る。

 アクガリを逃がした俺は食堂を訪ねる。


「ということでもうマリア先輩しか……。誤解だとわかってもら――」

「――……あ、急用です」


 マリアは俺の話している途中で包丁と三角筋を放り出し、厨房裏から逃げる。

 当てもなく食堂から出る。

 すると、いちごミルクをテーブルに用意したルアがここに座って是非話を聞いてほしいという笑顔で、コーヒー缶を揺らしながら俺を見ていた。

 傍らに雄太もいた。


「ご存じの通り、地下の捕囚はクーラーさんの手下という貴方の最大の秘密を握っています」

「あのヴァーサー・クーラーたちの暴力の後、捕囚たちは地下に戻ったきり学園に危害はないし、マリアたちに俺の秘密を暴露してもない」

「しかし犯人に関する情報を得られる可能性があるにしてもリスクが高いと思いませんか? そもそも彼らは貴方に良い感情を持っていないはずです」

「むしろ騎士たちがいなくて丁度いい、俺たちだけでやる。聞き出すまでだ」

「あの先生!? 俺たちっておいらも入って――……げっ!?」


 雄太の腕を引っ張る。


「危険でも行くしかないだろ? 手掛かりがあるなら! な、雄太!」

「地下にはいい思い出ないさ! 楽しいクリスマスなのにわざわざ囚人に首とられにいくなんて――」

「犯人から襲ってくるのを待つつもりか? こんなことさっさと片付けよう。安息日に問題を持ちこしたくないだろ?」


 ●


 2人の合意を得ずに腕を引きながらあの地下への扉を蹴り、階段を下る。

 あの時と変わらぬ様子だった。

 牢屋までの地下道には使われなくなった学校の備品が放置されている。

 あのマリアたちも手を焼く、追い払いたくても立ち退き拒否するクレイジーラブの捕囚たちがこの地下に引きこもっている。

 ガラクタの山をかき分けて、不気味な札が張り巡らされている扉の向こう、地下の牢屋に踏み込む。


「やっぱり悪趣味なところだな。地上の学園と対照的に真っ暗な湿った世界だ」


 捕囚たちがひきこもる牢屋の入り口に手を触れる。


「く く く く …… ゥ”」


 中の暗闇からしゃがれた声が聞こえた。突然のことに俺は退く。


「何者だ!? 姿をみせろ! 今日はお前らに耳障りなことを言いに来たわけじゃない!」

「騎士を欺く偽りの救世主、ハロ。噂に聞いている。吾輩が追放されている間に囚われの兄弟たちがずいぶんと世話になったと聞く――ゥ”」

「誰だ!? お前も言葉が話せるのか!?」


 しゃがれた声が怒りを帯びている。


「揉め事を起こしに来たんじゃない! だから騎士もいない! 生徒会としてではなく、ヴァーサー・クーラーの使いとしてお前らと話に来た! 仲良くしてくれないか!」


 暗闇から湧きでるようにしゃがれ声の主の黒い影が目の前に現れた。


「うわ! でた! 魔族さ!?」

「見たことない顔だな、お前―――」


 そこには外見がペッキンコッキンに似ている魔族がいた。以前の囚人解放の騒動のときに、こんな顔は見たことがない。

 その凶悪な顔には怒りが張り付いている。

 俺は襲われないうちに、ペッキンコッキンの干物をつきだす。


「その奥でひきこもっている囚人たちに聞きたいことがある! 相談に乗って欲しい! それだけだ――!」


 その魔族は俺の握る干物を見つめる。


「貴殿らの地下への訪問はすでに予言していた――」

「予言……?」


 その魔族は俺の手からヒキガエルをかすめ取ると、自分の口に押し込んだ。


「くちゃ、くちゃ、―――げっぷッ……ゥ”」

「うげ……」

「ほう、懐かしき母国ソォスィンのまぎれもない誠の郷愁の味! 地上で戦うの兄弟の客人であるか……」


 その魔族は口周りを舐めまわし満足そうにいった。


「貴殿らの訪問を歓迎する――ゥ」


 その魔族はランプにをつける。


「吾輩は地下牢のボッキン。愛を求める囚人たちの面倒を見ていた――ゥ」

「面倒を見ていた?」


 ボッキンと名乗った魔族はクククと不気味にのどを鳴らす。


「まあいい……。ボッキンとやら、自己紹介は後でいい。急がないと巡回の番兵に見つかる。あの時みたいにここの囚人にひどいことするようなマリアたちならいない」

「くくく――、救世主が騎士と仲たがいしているとも予言している――ゥ。とんだ冤罪を着せられているようだな――ゥ」


 ボッキンという魔族はランプを見つめながら言った。


「な、なんだと!? なんで知ってる!? 誰からか聞いたのか? まさか、そ、それも予言なのか?」

「そう、予言を実践する吾輩に秘め事は無意味と思うべき――ゥ」

「何もかもお見通しってことなら、俺が迷惑かけるつもりがないことも知っているだろ? 用が済んだらすぐ帰る」


 ボッキンの背後から、別の魔族たちが手を差し出してくる。あの日の囚人たちだ。


「――ゥ」

「あ、あの時の囚人!?」


 雄太、ガルナビは後ずさりする。


「クレイジーラブの捕囚……」

「あの騒動を先導した首謀者は、あの日女神さまにソウルにされた――ゥ」

「……長津田さんを生贄にしようとしたりしたあの囚人はいないんだな?」


 囚人たちはうなずき、手を差し出してくる。


「……なんだよ?」

「仲間たちの分の生贄は――ゥ?」

「頼みごとの生贄――ゥ!」


 ボッキンと、捕囚たちは当たり前のようにそう言った。


「ち、欲張りな奴だな……、ほら、足りるか?」


 俺はそれを囚人たちの足元に投げつける。


「……おおぉ――ゥ”」

「汚らわしい――ゥ”!」

「これが制服をまとった地上の悪魔、否、女神さま――ゥ#」

「写真越しにも盲目の目玉がくりぬかれそうになる――ゥ”!」

「あの日から少しお目にかからないうちに、ますます呪わしくなられている――ゥ!」

「なんという魔女の偽りの制服姿! 呪われし笑顔!」


 生徒会の広報担当として撮影した金城コミンの写真を見つめ騒ぎだした。


「魔女……って言ったか?」

「この囚人たち、たまに金城コミンを魔女って嫌うさ……!」

「バカな囚人だガル! 女神さまに罰を受けたことを根に持っているガルね! 可愛さ余って憎さ百倍ってところだガル!」

「おい、みんな、取り込み中すまないが、ちょっと話をいいか――?」

「まぶしすぎて盲目の眼球がつぶれる――ゥ#」

「なぁ、写真に夢中になるのは後にして質問に答えてくれないか?」

「ぐふふ、失敬失敬。絶望と興奮のあまり、ないはずの心臓が止まりかけた――ゥ”! 焦らずともビグニティ騎士どもに知られない牢獄への獣道がある――、込み入った話はそこで――ゥ」


 俺はルアを見るが、肩をすくめ答えに困っている。


「立ち話もなんだ、こちらへ――、さあ……」

「言っておくが、俺がこのまま帰らなかったら騎士たちがここに探しにくるだろうからな」

「吾輩は偽りを信じて、自室に招き入れているのだぞ……?」


 ボッキンは笑い、牢屋の奥へと消えていく。


「ち、ペテン野郎め、安息日に罪を許され戻っていたガルか……」

「なんだあいつは? みたことない奴だ」

「安息日にガルから手柄を横取りしようとして罰としてお嬢さまにソウルとして追放された囚人だガル」


 ボッキンに案内された洞窟の中はゴミ置き場のようながらくただらけの小汚い空間だった。

 長く並んだ牢屋の中から、耳を刺すように刃物を研磨する魔族や、石ころを転がして喜んで騒ぐ囚人たちがいる。

 どの牢屋も扉が腐っていたり、鍵が壊れていたりと、囚人たちはいつでも脱獄できる状態だ。

 どの囚人も俺を見て襲って来たり、敵意を向けたりはしなかった。


「……、い、いっぱいいるさ……!」


 ボッキンが俺たちを指さし囚人たちに紹介した。

 しかし囚人たちの興味はこれだった。


「オーウェイ! ヴァーサー・クーラーさまは何を召されてもお美しい――ゥ!」

「おい、人数分くれてやったんだから話を聞けよ!」

「救世主ハロ、魔族社会では物品による買収ほど曖昧な約束はない――ゥ”物事の価値はすべて真に通じるかどうか――ゥ」

「食い物も、生贄の写真もくれてやったろ!」

「否! 事実は次の瞬間にすでに過去の惰性である――ゥ”」

「ったく意味のわからないことを、ほら! これで最後だ!」


 写真を囚人たちに放り投げる。


「オーウェイ! サーヴェイ! 呪わしい! 狂わしい――ゥ”!」


 囚人たちは、宙にまかれた紙幣に飛びつくように写真に夢中になる。


「その写真で全部だ! もうないぞ、いい加減にこっちの話を聞かないか!」

「そうであった、よろしい――ゥ”! こんなけしからん生贄を持ってどのようなご用件で――ゥ”?」

「さっきも言ったが、お前らの中で最近ここから出入りして、俺を脅迫している奴はいないか? 今なら怒らないから名乗れ!」


 囚人たちは一斉に静まりかえり、歓迎ムードがよくない雰囲気になる。


「な、なんだよ――?」

「ここから出る――ゥ”? 我々がこのエデンを放棄して地上の果樹園に逃げかえっているかと……鼓膜のない耳がそう聞き取ったのだが……」


 ボッキン、囚人たちから黒いオーラが漂い出す。


「さ”、寒い! 寒いさ”! 凍りつく”!」

「空気が呪われていくガル”!」

「嘆きの雨にお気を付けを」


 ルアの忠告でこいつらの黒魔術の黒い雨が相当に危険なことを思い出す。


「いやい”や”! 違うんだ!」

「救世主ハロ、吾輩たちを侮辱するために来られたのか!? 我々は一歩も引かずにエデンを防衛しているのだ――ゥ”まがい物ばかりの地上になどに興味はない! 吾輩に罰を与えた女神の世界など滅んでしまえばいい――ゥ#!」


 ボッキンは地面をぶったたいて叫んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ