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6 へー、ソッチ狙われてるの

 ソウルたちに襲われたことも説明した。

 そして今までのいきさつも話した。

 ただし、俺が偽りのハロであるという部分は当然伏せた。

 騎士たちがみつめる中、テーブルに文字が蒸発して白紙になった脅迫手紙を広げる。


「そんな大切なこと……なんで隠してたんだゼ!?」

「学園を脅かす者がいるなら早急に殲滅が必要です」

「協力してくれるのはうれしいけど、ほんのアドバイスだけで結構だ。犯人を捕まえるのは自分でできる」

「へー、ソッチ狙われてるなの」


 無関心を隠さずにポポが言った。


「そんなことより、ねーマリィ、どれ食べるなの?」

「くぅ! 食ゅ!」


 夢見が丘公園のスイーツのチラシを広げてきゃっきゃと輪をつくる。


「おい、ガルナビ、マリアたちが油断しているぞ、いつものようにちょっかい出さないのか……?」

「何言っているガル? もうすぐ安息日だガルよ、旦那。今騎士ちゃんをやっつけちゃお嬢さまに叱られるガル。だから今日は許してやるガル」

「本当に、魔族たち、悪さしないみたいさ……」


 マリアが俺の横に立つ。


「学園の悪い魔族たちをたどれば、必ずどこかで犯人とつながっているです」

「マ、マリア先輩……!? 犯人捜し、手伝ってくれるんですか!?」


 ●


 ついて来くるですと言われた通り、俺はマリアについていく。

 しかし、生徒会室を出て、10歩も歩かないうちにマリアはぴたりと止まる。


「……マリア先輩、悪い魔族って?」

「ペッキン族の番長です」


 マリアが立ち止まった横には女子トイレがある。


「お嬢さまはトイレの聖霊としてペッキン族を作ったんだガル」


 マリアに両手を縛られて自由を失ったガルナビがつぶやいた。


「トイレの聖霊?」

「ヴァーサー卿のフィシス理論の協定により、迷惑なソォスィン魔族を留学させてるですのは知ってるです、ハロ?」


 俺はうなずき、生徒魔族の厄介者なガルナビを見る。


「聖なる役目を担う場所には聖霊が憑いているです。学園のトイレ、校門、更衣室、理科室などです。ペッキン族の中でもいちばん扱いにくい生徒魔族がいつもチビと一緒にいるペッキンコッキンです」

「それは精霊ではなく悪霊だろ……」

「ペッキンコッキンは学園のペッキン族を取りまとめる番長だガル」

「ペッキン族が大きな社会を形成し、犯人の情報を握っているかもです。探ってみるといいです」

「なるほど!」

「ちなみにトイレの数だけペッキンが憑いているという七不思議の伝説は事実です。そのペッキンコッキンが皮肉にも生徒会室の隣のトイレにとり憑いているです」


 マリアが生徒会室の隣の女子トイレを指さす。


「七不思議の一つ、学園の女子トイレは異常にきれい―――」


 俺がつぶやき、マリアがうなずく。

 以前、金城コミンがペッキンコッキンに掃除しろと言いつけたのを聞いたことがある。

 マリアが女子トイレに入っていったが、棒立ちする俺に振り返り、不満そうな顔を見せる。


「なぜ付いて来ないです? 探す気ないならもう協力しないですよ」

「いや、でも……。お、お邪魔……します」


 俺は廊下を見渡し誰もいないことを確認し、女子トイレに足を踏み入れる。

 入口の手洗いには新鮮な切り花が添えられている。鏡もくもりなく磨かれているようだ。

 個室をのぞくとペーパーの先は三角に折られていて、窓にはネコやトリの小物が置かれている。

 どこをのぞき込んでも汚れなど一つもない。


「隣の汚い男子便所と比べ物にならない……これじゃ本当にトイレでランチできそうなくらいだ」

「あなたは女子トイレで食事したいのですか?」

「例えだ、誰かさんの」

「愛の妖精が好むコロンの香りも添えて、汚れなき空間に仕上がっているです」

「ペッキンコッキンたちはちゃんと掃除してるし、根は悪い奴ではないんじゃないですか?」

「これくらい学園に貢献してもらわないと、生徒魔族として受け入れている価値もないです」

「同感だ」


 ヴァーサー卿に滅ぼされたソォスィン国から留学生として魔族たちがここの学園に学びに来ているが、これまでいい評判を聞いたことがなかった。


「あ、いたです」


 マリアは掃除用具の上にある換気扇を指さす。

 そこにはペッキンコッキンが鼻提灯を作って、寝ていた。


「ぺ?……」


 すると片目が開いて俺と視線があった。


「ぺーすか、ぺーすか……」


 そしてまた眠りこくった。

 マリアを見たが無表情を変えていなかった。


「いつものことです」


 マリアが乱暴に壁を蹴るとペッキンコッキンが換気扇の上から落ちて、掃除用の流しの中に納まった。


「おい、ペッキンコッキン。ちょっとばかし目をあけてくれないか?」

「ぺー……すか、ぺー……すか……」


 俺は蛇口をひねり、水でペッキンコッキンの顔面を打ち付ける。

 さらにちりとりで叩いてみる。

 起きない。


「まだ男子トイレのお掃除が終わっていないのに隠れて昼寝しているとはいい度胸です」


 マリアは長いゴミはさみでペッキンの顔をつまみあげ廊下に放り出す。

 マリアは俺の懐に顔を押し付ける。


「ちょっと、マリアさん!?」

「ペッキンコッキン、おやつの時間です」


 マリアは俺からトウガラシ爆弾を奪い取ると、ゴミさみでペッキンコッキンの口の中に放り込む。


「……ごふッ!? ごほごほっ……」


 魔族に触れると起爆するトウガラシ爆弾がその口の中で爆発したようだ。ペッキンコッキンの顔から煙が上がり、びくっと体が少しはねたが、再び鼻ちょうちんを膨らましながらそのまま眠り続ける。

 そして、無意識にしむしゃむしゃと咀嚼して、爆弾の残骸を吐き出す。

 そしてまた眠り続けた。


「あなたの武器はへなちょこですか」

「昔は痺れて動けないほどの効果があったのだが、おかしいな、調合を間違えたか?」

「魔族は苦手に耐性をつけるです。もうトウガラシに慣れたようです」

「なんだか、負けた気がする……」

「いえ、実質負けです」


 マリアは先輩の話をしっかり聞くですと言うと、こう続けた。


「教会の研究者たちがヴァーサー卿のヤリを論破する理論を開発しているですが、そのヤリは時代や世界を越えても無敵の論破力を誇り続けているです。それに対して、騎士も鍛錬を欠かさず技を磨き続けなければ、フィシス兇徒から神殿学園を守れないです」


 俺はうなずくと、背後から小さい怒鳴り声が聞こえる。


「マリア、そこをどくんだぜ!」


 振り向くと、アクガリがバットを振り上げている。


「黒騎士と協力してオレを騙した仕返しだゼ!」

「アクガリ!? ちょ! 俺は黒騎士じゃな―――!」


 俺が身構えるとバットは空を切り、そのままペッキンコッキンの頭を殴打し、図太い音が響いた。

 殴られたペッキンコッキンは薄く目を開けたが、再び目を閉じる。


「ぺ~すか……ぺ~すか……」

「び、びくともしてない!?」


 遠くでこちらの様子をうかがっていたポポとクゥが助走を付けて駆けて来た。


「えり~と、ひっこんでるなの!」

「ぶったおすぅッ!」


 その2人が何をやろうとしているかを理解したマリアは、クゥ、ポポと手をつなぐ。


「あれをやるです」


 そして、3人は手をつなぎ背伸びをする。そして足元に幻想的な術式が浮かび上がる。


「おい、こんな狭いトイレで魔法を!? やめろ!」

「せーの! スーパービグニ―――」

「降参ッ! エポケッ! エポケッ!」


 3人が声を揃えて呪術を叫ぶと、ペッキンコッキンは飛び起きて両手を上げる。


「なんだ寝たふりか、バカにしやがって……」

「群れるとこんなに厄介な騎士ちゃんたちはいないガル! もうすぐ安息日なのに暴力はやめるガル! 降参した生徒魔族を攻撃なんて卑劣だガル!」


 マリアはガルナビの発言を無視して、ゴミはさみでペッキンコッキンを引きずりながら生徒会室に向かう。

 生徒会室に到着すると、尋問が始まった。


「ペッキンコッキン、とある容疑で捕まえているです。自白するです」

「そうなの!」

「ばかちんっ!」


 なんだかんだでポポ、クゥも俺を心配してくれていたんだな。


「ぺ?」

「なあ、ペッキンコッキン、この脅迫手紙に身に覚えがあるんだな?」


 ペッキンコッキンは頭のたんこぶをいじくり首をかしげている。


「俺を狙っているヤツに心当たりは?」

「ぺー?」


 ペッキンコッキンは手紙を見るとしばらく考え、首を傾げた。

 突然、ポポが俺から脅迫の手紙を奪い取り、ゴミ箱に捨てた。


「おい、ポポ!? 何しやがる!」

「そんな手紙なんてどうでもいいっつーの!」

「……え? 犯人探しの拷問じゃ――?」

「ウチらのいろんなアレがなくなったなの!」

「……なんだ、また何か盗まれたのか?」

「そうなの! もう、返すつーの!」

「魔族にお願いするときには生贄を差し出すガルね!」

「よく聞こえなかったです」


 その3人はまた手をつなぐ。


「エポケ! エポケ! 冗談だガル!」

「ぺ! ぺぺ!」


 ペッキンコッキンは体をがさがさと揺らす。すると色とりどりのプレゼントの箱が床を彩る。


「やっぱりなのッ!」

「本日の盗難事件の犯人です」

「なるほど、いたずら魔族に言うこと聞かせる方法そのいちと……」


 アクガリは手帳にペンを走らせる。


「アクガリ、ここの生徒会のやり方をあまり参考にしてくれるな」

「ペッキンコッキンよくやったガル! 騎士ちゃんたちに手間を取らせたガル! お嬢さまの邪魔者たちの撹乱かくらんに成功だガル!」

「ぺ!」


 ペッキンコッキンは胸をはっている。


「祖国の英雄だガル! ソースィンのヒーローだガル!」

「チビも同罪です」

「なんでガル!? 全部ペッキンコッキンの仕業だガル! ガルは関係ないガル!」

「友の罪は己の罪だ。仲良く一緒に十字架を背負え」

「こんなときだけ変な美徳を押し付けないでほしいガル! お利口なガルは安息日前はいい子にしてたガル! 旦那はガルの無実と誠実さを騎士ちゃんに説明する義務があるガル!」

「白を切って手間取らせたため重刑、道徳のお勉強のお仕置きです」

「け、これならガルも思いっきりプレゼント狩りしとけばよかったガル」


 3人は手をつなぐ。


「ぺッ!? エポケ! エポケ!」

「だ、旦那! 助けるガル! 無抵抗な生徒魔族たちがいじめられているガルよ!」


 ガルナビとペッキンが俺の足元にしがみついている。


「マリア先輩もういいでしょ。ガルナビたちもクリスマスくらいは仲良くしようよな」

「罪を許すわけにはいかないです」

「いたずら魔族をこっちに出すんだゼ!」


 コミンに脅されている自分の姿に似ていたのかペッキンコッキンをかばっていた。


「盗ったことは悪いが、本人たちもこんなふうにめずらしく反省しているし、何よりもうすぐ安息日なんだろ? ケンカもここらへんで手打ちにしたらどうだ?」

「……悪さしたのに見逃すのか!? ヤロはどっちの味方なんだ!?」

「犯罪を見過ごし、この生徒魔族をかばうですか?」

「ガルナビ、ペッキン、すぐにそれを持ち主のロッカーに返してきなさい!」

「ヘィ旦那!」

「ぺ! 御意ッ!」


 2匹の生徒魔族は生徒から盗んだと思われるプレゼントをかき集め生徒会室を飛び出した。


「会長さんのように優しくしても、魔族たちはつけあがるだけです」

「だけどこいつらはやられただけやりかえしてくる! 生徒たちに八つ当たりされちゃ金城も悲しむだろうし――! みんなが休んでいる安息日に仕返しとして決起したら大変なことに」

「じぃ……」

「プレゼントをもらえないと無性に寂しいんだよ……、少しは考えてみてくれても……な?」

「寂しい男にはつらい日って(ニヤリ)」


 ボノはほとんど初対面の俺をまた小馬鹿にした。


「なんだよ! うるさいな! 悪いかよ!」

「素直にウチらに頭下げて頂戴できれば、あげないこともないっつーの~」

「つけあがる点はこの女子も同じだな……」

「はあぁ? えりーと、聞こえてるっつーの! 欲しくないの!?」

「ああ、そうかよ! いらないねプレゼントなんか! 誰が欲しいもんか! 俺は今命を狙われているんだ! プレゼントなんてどうでもいい!」

「でででも、ほ、本当は欲しいんだろ!?」

「なんだと――ッ!」


 俺はペッキンコッキンが忘れた床に散らばる盗難品を指差す。


「ち、見ろよそこに転がってるプレゼント! 包み方もめちゃくちゃだし!」

「そうです?」

「DEARのつずりも間違ってるし!」

「え、うそ! そうなの!?」

「あとなんだよ、あのミミズみたいな文字!」

「ミ、ミミジぅ!?」

「あとその触手みたいなのがはみ出して、動いて――って!? い、生き物がはいってるのか!? 気味悪い!」

「ふぇ!? ちゃんと火が通ってなかったのかな……? 今度はレシピ通りなんだけど――って、気味悪いって!?」

「初めてですものアクガリさん、失敗しても仕方ありませんですの。気を落とさずに……」

「こんなプレゼントもらう奴もさぞ気の毒だろうな。こんな高校生のおままごとに!」


 周囲の女子は俺を囲んで睨みつける。


「むゅ……」

「――ぷん!」

「……です」

「な、なんで、みんな怖い顔して……何か、悪いことでもあったのか??」


 女子たちはみな床に散らばったプレゼントを見つめ黙り込む。


「えりーと、うざいなの!」

「プレゼントを期待して、手ぶらで下校する無様な男だって!」

「ハロくんはプレゼント、ゼロのくしぇに!」


 女子たちは俺を非難して、ぶーぶー言っている。


「ち……いちいちはやし立てやがって! ソースィンのヤツらまで――!」


 俺は自分のロッカーに駆け寄る。


「俺だって高校デビューしたんだ! 去年までとは違う! 今年はきちんと女性にプレゼントをもらってるんだからな!」


 長津田さんにもらったプレゼントをみせるために、ロッカーの扉を勢いよく開ける。


「――なの!?」

「――ひぇ!」

「――驚いたです」


 女子たちの顔から血の気が引いた。その視線の先には、ロッカーの扉を押しのけるように、大量の布が雪崩のように足元を埋める。


「ほら、こんなに大量の下着を――って!? これは!? どういうことッ?」

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