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2 ブルマなんだから脱いでも全然恥ずかしくないんだから!

 あろうことか、ついに俺の寮の部屋にまで侵入されてしまった。

 朝食終了間際になると朝寝坊が習慣化した寮生たちで狭い食堂は大混雑だった。

 寝ぐせ、寝間着のままのだらしない恰好の男子生徒たちが、半開きな目で朝飯を口に押し込んでいる。

 朝のニュース番組だけが食堂を賑やかしていた。今日は雪になるかもとキャスターが熱心に語っている。

 俺は朝食のデザートとしての付け合わせのヨーグルトをテーブルの上に乗っかっているガルナビに食わせて、他の生徒の飯に手をだすなという条件を突きつけた。

 ペッキンコッキンは残飯トレーに積み上げられた、他の生徒たちの食い残しを食い漁っている。

 部屋に戻った俺は暖房のスイッチを切り、封殺札やトウガラシ爆弾を内ポケットにしまい、登校前の支度を整える。

 手先が痛いほどに冷たく、窓ガラスまで凍ってるようだ。


「しめしめ、ここが旦那のアジトだガルね!」

「ガルナビ、そのケーキとジュースはクリスマスパーティにってコミンに頼まれたものだ。手を出すなら覚悟が必要だ、俺は知らないからな」

「お菓子、装飾品、クラッカーに隠し芸セット、ずいぶんと買いそろえましたね」


 運ぶのを手伝わせるために部屋に呼んだルアと雄太はパーティ用仮装グッズを見下ろしていった。


「今年も楽しい安息日になりそうですね」

「安息日?」

「この世界でいう、クリスマスというところです」


 雄太は納得していない顔でなるほどねと言う。


 『神聖な安息日だからパーティしましょ♪』と言い出したコミンは生徒会室の装飾せよとの命令を生徒会メンバーらに強制した。特に俺にだ。


「さすがです。彼女から女子高生らしさを引き出し学園に平和と安寧をもたらす考えですね」

「凶暴な魔族が暴れまわり世界が滅びる、あのパーティじゃなくて、普通のクリスマスパーティをやるんだ。トナカイの格好だってしてやる! アイツに魔女の格好をさせないためにはな!」


 俺はスクールバッグを背負い、パーティグッズを掴む。


「ガルナビ、雄太。物色してないで学校に荷物を運ぶのを手伝えって」

「旦那、この赤くて怪しい箱は何ガル?」


 ガルナビが隠しておいたそれを探し出していた。俺はぞっとした。


「おや?どなたへの贈り物ですか?」

「も、もしかして長津田さんへのプレゼントさ!?」

「ガル! 噂のクリスマスプレゼントだガル!」

「やめろ! なに開けようとしてる!」


 俺はガルナビのしっぽをつまみ上げ、それを奪い返す。


「ふふふ、意外とロマンティックなのですね」

「すぐに黙らないとマリアたちにお前が教会裏庭だってこと言いふらす!」

「それはかないませんね」


 ルアは掌を見せて涼し気に降参する。

 ガルナビたちを追い出し、部屋の入口の盛り塩ならぬ盛りトウガラシを念入りに補充してから荷物を引きずり部屋を後にした。

 ルアが振り返り、俺の寮を見る。


「外観のクリスマスの飾りもあって、素敵な男子寮ですね」

「朝飯と夕飯付きの市営の寮なんて、先生の家はどんだけ金持ちさ?」

「格安だ、訳ありでな。俺の部屋の前の生徒がいきなり失踪て行方不明なんだってよ。それに怪しい本や実験用具だけが大量に置き去りにされていたらしく、気味悪がった寮長が安く貸してくれた」

「へー」

「まあ、寮長からしたら今の住人の俺も同じく気味悪いようだが……」

「それで失踪したってのは、まさか七不思議!?」

「当時はそういうの信じてなかったから、値段が気に入ってすぐ契約した」


 町並みは12月の彩りが増し、人々はきたる聖なる夜に備えて忙しく準備を始めている。

 雪でも降ってきそうな空だ。


「急げ、生徒会の朝礼に遅れたらまたアイツがうるさいぞ!」


 俺たちが海岸沿いの通学路を走り出すと、最後尾のルアが俺を呼びとめる。


「上を」


 振り返ると、ルアは俺の頭上を見つめている。


「……なんだ?」


 寒空から潮風と共に白い紙が舞い降りてきた。

 白い紙は俺の顔の前でしばらく宙を泳いでいた。まるで捕まるのを待っているようだ。


「な、お化けの手紙!?」


 俺が手を差し出すと、紙は掌に着地した。


「魔術転送による文書のようですね。どなたからですか?」


 表面に『ハロへ』と書いてある。


「ハートのシール? 空からラブレター?」

「こういう手紙をもらって、悪いことが起こらなかった試しがない――」


 ルア、雄太、ガルナビが見つめるなかで、恐る恐る手紙の封をあける。

 角ばった文字が一列に細かく書かれていた。

 一瞬にして中途半端な眠気が吹き飛ぶ。


『キヲツケロ、偽リノハロ――?』


 声に出した瞬間、手紙は青く光り、文字だけが宙に吸い取られるよう消え去った。


「気をつけろ偽りのハロ、だってよ」

「そ、そんな、それって先生宛さ!」


 文字が蒸発して白紙になった手紙を見つめる。


「僕たち以外に貴方が偽のハロであることを知っている者がいるようですね。そして貴方を狙っている」

「きょ、脅迫状さ!?」

「極めて慎重に対処しなければいけません。貴方がハロでないことを知っているのはここにいる僕ら、それと教会裏庭、クーラーさんと一部の生徒魔族だけです」

「教会裏の仕業か? ルア」

「教会裏庭は貴方の味方ですよ。それに裏庭の動向は僕が把握しています」

「誰かに恨みを買った覚えは? どこかの魔族にひどいことしたさ?」

「昨日の夜も街のソウルたちにちゃんと残飯をくれてやったし……心当たりとしたら――」


 ガをくわえているガルナビが視線を集める。


「ガル!? ガルじゃないガル! 旦那をやっつける反逆計画はまだ先の話だガルよ!」

「そうかい、疑って悪かった。ところで、こんな脅迫に心当たりはあるか?」


 ガルナビは不愉快そうにガを吐き出し、首としっぽを横に振る。


「ひょっとして! 先生が狙われてるってことはおいらも……!」

「そうだ! 長津田さんが危ない! 元は普通の生徒だった長津田さんも狙われるんじゃないのか!」

「心配なさらずともサリスマリスが通学の護衛にあたっています」


 俺は手紙を降りてきた寒空をにら上げて叫ぶ。


「どこのどいつだ!? こんな脅しじゃ退かないぞ! 来るなら俺のところに直接来い!」

「ヴァーサー・クーラーさんの秘密を握る僕たちは敵に捕まることはできません。フィシスをよく思わない組織に貴方が捕まりそうになれば、証拠処分のために熱心なフィシス教徒のみなさんも襲い掛かって来ますよ」

「コミンに嫌われたら俺は何もかも終わりってか」


 ルアは俺の背中のクリスマスの装飾品を見て爽やかに言った。


「おおむね正しいと思います。彼女がこの夢見が丘に失望しないよう尽力することが、世界を平穏に保つ唯一です。金城さんが指をくるりと回して一言唱えればすべての秩序がひっくり返るほど不安定な世界に僕たちはいるのですから」

「馬鹿言え。いつかアイツをやっつける方法がわかるまでこうやって言いなりになっているだけだ!」


 始業のチャイム前なのに学内はすでに放課後のざわつきをみせる。

 こんな寒い中でもご苦労なことに、美術部の生徒たちの仕業だろうか、すでに校舎の壁や廊下にクリスマスの装飾が完成している。

 そして向かった先の生徒会室前にはプレゼントを持った生徒たちが群がっていた。

 その会話の端々から金城コミンや生徒会長という単語が聞き取れる。


「金城さんが喜びそうな気の利いたセリフと真っ赤なバラの花束を用意した方が得点が高くなりそうですね」


 ルアのおしゃべりを聞きながし、生徒たちを押しのけながら生徒会室の扉へ進む。


「ガツンといってやる。お前のせいで朝っぱらからひどい目にあっているんだってな」

「そうさ! あの魔女をやっつけられるとしたらそれは先生だけさ!」

「キャーッ!」


 俺が扉に手をかけると同時にその悲鳴が聞こえた。


「長津田さんの悲鳴!? またコミンだな!?」

「か、会長さんッ、や、やめ――!」


 割り込みはずるいと叫んだ女子生徒たちが俺の制服を掴んでくる。


「どいてくれって! ――抜け駆けだと? 違う俺は生徒会だ! 邪魔するな! どけって!」

「先生、これ、脅迫状落としてるさ!」

「そんなの後でいい!」


 俺は生徒会室の扉に体当たりする。


「会長さん、ごめんなさい! せっかく頂いたお洋服ですけど、ちょっと人前では抵抗あるの!」

「あきれたわ涼子ちん、うじうじしないでチャンスが来たら身を呈して飛び込まなきゃ! さ、脱ぐの!」

「(間に会いましたね。ご無事のようです)」

「(間に合ってねーし、無事でもねーよッ!)」

「お、お、お、男の子たちがそこにいます!」

「大丈夫、誰も見てないわ!」

「ほら、見てますよ! あそこに男の子たちが! か、会長さんッ!」

「なら丁度いいじゃない! 見せつけてあげなさい!」

「やめろ! 朝っぱらから! その手をやめないか!」


 一歩前にでて、金城コミンの横顔を鋭くにらむ。

 コミンの顔はにぃと笑うと、そのまま作業を再開した。

 気がつけばルアは書棚とむきあい書類の整理を始めていた。


「ぶるぶる……」

「びくびく……」

「ハロ、朝礼に遅刻です」

「そんなんじゃなくてマリア先輩! 何見物してるんです! いくら生徒会長でもあれはダメでしょ!」

「コミン会長さんを護るのが騎士の使命になっているです」

「生徒の秩序を護るのも騎士の使命じゃないのか!?」


 マリアは机の下でケラケラ笑っている魔族たちを睨みつける。


「会長さんを狙ういたずら魔族を警戒しているです」

「(ガルガルガル、騎士ちゃんもお嬢さまにやられちゃうガルね!)」

「(ぺっぺっぺ~!)」

「こここ、この朝礼って脱ぐのか――っ、胸にはまだ自信ないんだけど……、ってハロのヤロ!」

「アクガリ、なんでこっちの学園に?」

「さ、誘われた! 会長さんからお呼ばれだゼ!」

「クリスマスパーティがあるというので招待されたのですの」


 アクガリは夢見が丘学園の制服を着ている。


「わ、わかりました金城さん……、そういうことでしたら、じ、自分で着替えますから――ぁぅ……」


 涙目の長津田さんは笑顔を繕い制服を着た魔女に懇願する。


「ちょっと! いい加減やめろ!」

「いま忙しいの、見てわかるでしょ」

「ああわかったよ、ほら見ろよ! 言われた通りクリスマスの飾りもの買ってきたぞ!」


 俺はコミンの生徒会長デスクに荷物を放り投げる。

 ルアに賛同の意見を求めたがとっくに姿をくらませていた。

 アクガリが俺の背中をつっついていた。


「これからは神殿学園でもヴァーサー卿を追うんだゼ!」

「それは助かるよ。アクガリがいれば心強い。でも、なるべく早く魔女の正体を暴いてくれ」


 俺は手を止めないコミンを横目に睨む。


「べ、べ、別に、ヤロのためってわけじゃないんだからなッ!」

「ダレかを疑うなんてとんでもないわッ、アクりん!」

「ひぅ!?」


 コミンがすっ飛んできた。

 アクガリは成長が良好すぎる美人生徒会長に抱きつかれ、短く押し殺した悲鳴を上げた。


「社会を疑い、友を疑い、自分を疑い、やがて愛する人まで疑うわ! 素直な心で見つめればきっと自分の思い違いに気付き、素晴らしい景観に巡り合えるからね!」

「あの、会長さん! そんなつかむほどないからッ……――」

「サイズはぴったりそうね」

「ちょっ、会長さん!? 何して!? ――うっそ!? そこダメだってッ!」

「なんでプレゼント着てくれないの?」

「だって、あんなの恥ずかしくてっ――!」

「じゃあこの制服は没収ね!」

「な、なんでっ!? ……っ、ダメ! それ、それ脱いじゃったら――!」

「大丈夫よ、アクりん。ブルマなんだから脱いでも全然恥ずかしくないんだから」


 コミンはアクガリのスカートの中から白いブルマをひっこぬいた。


「うっそ! ――そんな……――」


 アクガリはぺたんと床に座り込み絶句する。


「バ、バカ! 何してるんだ! それより、なんだよさっきから服を着る着ないって!」

「(いじわる騎士ちゃんめそのまま堕ちてしまうガル!)」

「(ペペペ~!)」


 机の下から小さな歓声が上がった。

 生徒魔族たちを監視するマリアは机の下にきつい顔を向ける。


「チビたち、コミン会長にそれ以上近づけば強制退学処分届を教会に提出――!?」

「退学なんて絶対いけないわ、マリアちゃん! 頑張ってきたことを途中で投げ出すなんて!」


 前向き主義なコミンは”退学”という言葉に過剰反応した。


「学則69条を忘れたの!?」

「け、継続は、力なり――ですっ」

「わかってるなら夢がかなうまで続けなきゃダメじゃない! とにかく早く脱いで!」


 コミンはマリアの上と下からそれぞれ白い布を引っこ抜いた。

 アクガリは地べたを這いながらマリアに絡みついているコミンのポケットから恐る恐る白い布を奪い返す。


「ヤヤヤヤ、ヤロッ、あああ、あっち向いてよ!」

「す、すまん――」


 俺は窓の外に顔を向ける。


「べ、別にッ、これはブルマなんだゼ! ぜんっぜんッ恥ずかしくないんだゼッ――!」


 そういうと急いで白いブルマに片足を通そうとするアクガリの姿が窓ガラスに反射して見える。


「う、上から履くんだからな! 見られたって――ッちっとも恥ずかしく――……ひゃ!」


 アクガリの転倒寸前のところで俺はコミンに視線を戻す。


「見ろよ、みんな嫌がっているだろ! よせったら――!」


 すっかり剥かれてしまい、ほとんど肌色になったマリアを横目にしたので、すみやかに部屋を退出した。


「いつにもましてご機嫌ですね」

「敵前逃亡だ! なんでいつもお前はそうなんだ! 肝心な時にいなくなる!」

「貴方の知らないところで教会裏庭は世界平和のために手を尽くしていますよ。金城さん、クーラーさんに逆らわず距離をとりつつ、彼女のとる行動にあわせて被害を最小限にとどめるよう――」

「コミンのめちゃくちゃを黙ってみているだけだろ! ヤリが降りそうになれば自分だけ逃げやがって!」

「そうならないために貴方がいるのでしょう?」

「人頼みにしないでお前ら教会裏庭も一斉に詰めかけて学園からあの魔女を追い出せよ!」

「僕らはそんな無謀なことはいたしません。それに今日から僕ら教会裏庭も休業の準備をしています」

「……安息日ってやつか?」

「ええ、金城さんがあの様子でしたら、おかげさまで安全な休日を迎えることができそうです」

「コミンがあの調子でも安全と?」

「今日の放課後のチャイムと同時に安息日が始まり、すべての戦闘と任務を停止する予定です」

「わかったぞ……。さてはクーラーめ、みんながうかれているところにまた何か悪さする大作戦のつもりだな! 騎士たちの休暇中に街を襲うかもしれない!」


 ルアが首を振る。


「安息日を提唱し徹底させているのは、クーラーさんです」

「クーラーが!? あのコミンが安息日を!? 戦わない日を作ったって!?」

「各国教会や騎士団は停戦日としてそれを受け入れたのです。敵味方の隔たりなく、すべての者が平和を享受する日です」

「あんな無茶苦茶やる奴がこの日には仲良くしましょうってか――!?」


 廊下の窓からにぎやかな校舎を見渡し、ルアはうなずく。


「少なくとも安息日中は貴方を脅迫した犯人も悪事を働くことはないでしょう。聖なるクリスマスですからね」

「ならせめて今襲われている長津田さんをあの魔女から護るだけでも手を貸したらどうだ!?」

「ふふふ、御冗談を。僕などには到底……」


 濁した笑顔のまま消えていった。

 相変わらず生徒会室の中からは悲鳴が聞こえていた。



◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇



挿絵(By みてみん)


【作者つぶやき】イイゾモットヤレ

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