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1 安息日、決して破るべからずのーん

挿絵(By みてみん)


 ※挿絵イラストはもうしばらくお待ちください。




『我々ビグニティ教会が送ってきた歴代のハロたちは神殿学園の門寸前にて無念にもフィシス教徒に捕まり堕されていった』


『魔女に巣食われてしまう前になんとしてもたどり着くのだ』


『学園に潜むヴァーサー・クーラーの正体をあばき、魔族たちをフィシス教派の毒から解放せよ』


『良い知らせを待っているぞ、ハロ』


 ●


 夢見ヶ丘という呪われた街で足踏みし、一か月がすぎる。

 しびれを切らしたビグニティ教会から明日までに学園へ登校せよと警告ともとれる指令を受けた。

 街に住み着くすべての魔族たちの素性を調べ上げた。

 フィシス教徒も強大だが、影でヴァーサー卿を狂信する生徒魔族たちも大勢いる。

 ここに潜伏するまでに同行していた仲間は何者かに襲われ、全員堕されてしまった。

 どこからかこちらの情報が漏れている。

 学園内部の協力者との交信が強力な呪術によって妨害されている。

 魔族にとっての最大の聖地、夢見ヶ丘の地。


 そしてその中心部に建立する――


「――ヴァーサー・クーラーに呪われたビグニティ国の最後の砦、聖なる神殿学園」


 登校予定日の入学式は、フィシスを信仰する生徒魔族たちの警戒があり、騎士の待つ生徒会にたどり着けなかった。


 生徒会騎士が守る、人の姿を模した女神……金城コミン。それを狙う悪魔の哲学者……ヴァーサー・クーラー卿……。

 美しい秩序ある神殿学園が魔女に汚され、支配される前になんとしても生徒会入りしなければ……。


 しかし、これまで幾人ものハロたちがフィシスに捕まり処分されてしまった。

 私はこれに賭けることにした。

 夢見ヶ丘の七不思議のひとつ。

 ヴァーサー・クーラー卿がフィシス理論の中で唱えている。


 完全平和な”フィシスの安息日”。


 フィシス理論の暦の中で定められたこの日だけは、どんな狂暴な魔族も争いを止め、些細ないたずらさえも犯さない。

 すべての戦闘は停止され、故郷の家族や友人のもとへ帰るという習慣である。

 ヴァーサー卿の唱えるフィシス理論を信仰する魔族たちはこの安息日を固く誓っている。

 このフィシスの安息日は過去にも一切破られたことがない。

 この聖なる安息日ならば必ず神殿学園内部にたどり着けるはず。

 一方で教会の規定でも安息日の戦闘は固く禁止されている。


 しかし――。


 呪われたハロの宿命に終止符を打つためには今、ここでフィシスの安息日を破るしかなかった。


 深夜の学園は静かだった。

 街灯の明かりがちらほらと見えるだけだ。

 桜の花びらはほとんど散っており、地面に色あせたジュータンとして残っている。

 私は周囲を警戒しながら、校門の前に立つ。


『呪い仕掛けな女神たちよ、汝、愛すことなかれ……――』


 私は内通者から仕入れた、極秘の結界解除の呪文を唱える。

 すると、学園の敷地を囲んでいたフィシスの罠が静かに消えた。


「よし、フィシス教徒の仕掛けた偽装空間は解除された! これから学園に登校す――!?」


 目の前に小さき精霊が傷だらけな姿でふらふらと現れ、そのまま地面に倒れた。校門結界を司るビグニティの精霊だった。


「……え、えぽけ、ピクピク……」

「神殿を守る精霊よ! どうした!?」


 すると校門には大勢の大小ざまざまな生徒魔族が立ちはだかっていた。


「ヴァーサー卿の手下を誓う生徒魔族!?」

「見つけたガル! 安息日を汚す不届き者を捕まえるガル!」

「安息日になんで生徒魔族たちがここにいる!?」

「残念だったガルね! ハロが安息日を利用することを見破っていたガル!」

「くっ! そこをどけ! 今日という日の争いは安息日破りの禁忌者だ! 罪人だぞ! お前たちのボスのヴァーサー卿が許さないはずだ!」

「お嬢さまの安息を守ることも魔族の使命だガル! 例え安息日破りの罰を受けようと敵はやっつけてやるガル!」

「フィシスに狂った生徒魔族め――……!」

「クーラーさまの下僕たち! あの卑怯者なハロを捕まえて罪の十字架につるしあげるガル!」

「見つかってしまったなら仕方ない! 身分を隠す必要もない!」


 私は従魔族を召喚した。生徒魔族の誰よりも巨大で武装した上級従魔族が現れる。


「バキュリガキュリよ、ソーサリィーパワー全開! 突破するぞ!」


 私は身を隠していた分厚いマントを振り払う。

 すると生徒魔族たちは驚いて見えた。


「あれ、女の子なハロ? メスだったガルか! ガルガルガル、これはお嬢さまが喜ばれる手土産になるガルね!」

「学園のいたずら魔族に捕まる私ではない!」

「そういって何人のハロがソウルにされたかなガル!」

「ペコキ! 堕せ! ハロ!」


 生徒魔族たちが武器を振り上げる。


「女神さまを狙う教会の手先を捕まえるガル!」

「ヴァーサー・クーラーは魔女だ! お前たちはフィシス理論に騙されてるんだ!」

「その無礼なお口を永遠に閉ざしてやるガル! お嬢さまの懐に潜りこもうとするビグニティの手先はなんとしても排除するガル!」


 その小さな生徒魔族が指をふると、私の足元で呪術が発動した。


「――なに!? まさか、罠!?」


 地面から飛びだした赤い鎖が私とバキュリガキュリの脚に噛みつき、身動きが取れなくなる。


「騙されたガルね! 武器を使うと思ったガルか!? 安息日に暴力は禁止だガル! そのまま大人しく捕まるガル!」


 生徒魔族たちは手を出してこず、私が鎖に押しつぶされて地面に伏せるのを待っている。


「く、ここでは生徒魔族が有利か――!」


 突然に脚の鎖が切り裂かれ、自由になる。

 空を切るように何者かが私の傍に駆け寄る。


「ハロ――」

「お前、神殿学園の騎士か!? 内通していた協力者のマリスか!?」


 マリスはうなずき忠告する。


「今日は安息日、その計画は危険すぎる、撤退すべき――」

「まさか、ヴァーサー・クーラーにも知られて!?」

「そう。早く逃げないと彼女がやってくる――」

「いいや、魔女がなんだ! ここまで来れたんだ諦めたくない!」

「命が惜しければ、すぐ教会に退避すべき――」

「教会の使命を果たさずの帰還にも命はない!」

「それよりも安息日破りは重罪――」

「正義のためだ! なんとしてもこのまま神殿学園に登校する!」

「――御意」


 マリスはしぶしぶうなずき、手から伸びる3本のツメをとがらせた。


「どけ、生徒魔族たちよ。この手柄は敵襲を予言した吾輩ボッキンがいただく――ゥ”」


 ペッキン族にも似た小さく黒い魔族が先頭にいたおしゃべりを吹き飛ばし、前に出てきた。

 そして、ロウソクの火を手で撫でて何かの呪術を行おうとしている。


「禁忌者の身を女神さまへ捧げる――ゥ! そして、くくく、……おほめの御言葉をいただく――ゥ”!」

「捕まるわけにはいかない! あいつらをやっつけて学園へ飛び込む!」

「――サリス族を率い、突撃する」


 マリスは従魔族のサリスを召喚した。そして生徒魔族たちに斬りかかり、打ち倒していく。


「すまない、安息日よ! ……バキュリガキュリ続け! ハバネロ爆弾で援護する!」


 こちらの攻撃に対して、生徒魔族たちは防御するだけで、抵抗することはしなかった。

 安息日に従うためか、それにしても不自然だった。

 魔族たちは悲鳴を上げて退く。


「ギャルル~、こ、降参だガル!」

「……やはり選ばれし訓練された救世主、簡単には堕さぬか――ゥ”」

「生徒魔族たちよ、降伏しておとなしく学園の管理下に戻るんだ!」

「――こんな安息日に暴力はよくない……ゥ」

「なら学園へ通してもらう! 校門の罠をはずせ!」

「……よ、よろしい――……ゥ”」


 隣でマリスがぼそりと言った。


「学園を守るためとはいえ、敵味方共に守られてきた掟を……」

「そんなこと考えるな! 私たちがそれ以上の平和を築けばいい!」

「ヴァーサー・クーラー様、戒めを汚している不届き者はこちらですなのだ!」


 クレイジー・ソウルが暗闇から赤い目を光らせながら、上空でゆらゆらと動き、そう叫んでいる。


「安息日を暴力で汚している禁忌者はここにいるですなのだ!」


 暗闇に不気味な赤いハートの呪いが浮遊して、何かをここに導いている。


「汚れし言霊!? 邪気に群がる者たちがなぜここに!?」


 夜空から目の前に雷が落ちる。


「――ッ!」

「ぎゃるるるうぅぅぅ!」

「この雷は女神さまのお怒り――ゥ!?」


 生徒魔族たちは恐怖した。


「何をしているの――」

「しかし、ヴァーサー・クーラー様、吾輩は禁忌者を排除するために――」

「黙りなさい!」

「……ぼきッ!?」


 ヴァーサー・クーラーと、手下の魔女2人が校門のアーチの上に立っている。


「ガ、ガルたちは暴力してませんガル! 手を出したのはハロたちだけ―――」

「フィシス述懐、第1059鎖破を忘れたの?」

「安息日、決して破るべからずのーん」

「掟破りは公開処刑――ぞくっ」

「いいからヤった子は前に出なさい! お仕置きをあげるわ!」

「(ぶるぶるぶる……)」

「(がくがくがく……)」


 私は仁王立ちして魔族に説教するヴァーサー・クーラーたちに爆弾を投げつける。


「ん?」


 爆風が魔女たちを包み込み、巨大な火炎が火柱となり暗い夜空に打ちあがる。


「お、お嬢さま!? な、なんという罰当たりなハロだガルッ!」


 私のハバネロ爆弾は今日が初披露だ。

 その火力は手持ち武器にしては破格で、魔族たちが苦手とするハバネロの香辛料をエッセンスにしている。


「見たか! これが私がハロに選ばれた理由だ! 誰も耐えられる道理なんてな――!?」

「なんて罪な香りなの!」


 爆風を払いのけると、魔女たちはさらに険しい顔を見せる。


「爆弾が効かない!? ハバネロ爆弾の辛味が届かない!?」

「まあ、あの子ね……なんていけない子なの……」

「そういえば、ここら辺からずっと同じ香りがしてたのーん!」

「安息日を傷つけた香り……くんくん――……びくっ」

「……教えてあげなきゃね」


 魔女はスカートから赤いヤリを引っ張り出す。

 隙をついてバキュリガキュリが突撃槍で魔女に突進する。しかし、弾かれると逆に魔女のヤリを顔面に受けて膝から崩れる。


「く! な、なぜ攻撃が届かない!?」

「気は済んだ? さ、目をとじて――」

「う……やめっ、やめて!」


 魔女は手を振り上げると黒い電撃を集め、私に向かって放出した。


「――やめッ! うぁっ!」


 目の前が電撃に包まれ、体中がしびれる。

 電撃が収束すると、感覚がない。

 体中に違和感が駆け抜け、地面に落ちていた。

 驚くマリスの顔が遥か上空に見える。

 むしろマリスが巨大化したにも見えた。


「――ハロ! そ、その姿!」

「セラセラ!?」

「あれ、クーラーっち、ソウルで許しちゃうのん?」

「罰はもっと重いはず。魂を火あぶりにしてぐしゃぐしゃって感じに――……びくっ」


 ヴァーサー・クーラーは首を振る。


「何も心まで奪いはしないわ……」


 他の魔女は不満そうに首をかしげる。


「――サリス、敵に突撃しろ! 魔女を阻め!」

「――(ぶんぶん)」

「――何を恐れる、なぜ従わない! ビグニティの魔族が命令に従え」

「――(ぶんぶん)」


 従魔族サリスは静かに魔女に背を向け逃げ出そうとする。


「――逃げる気!? ――敵前逃亡は重罪!」


 マリスがサリスの背中に斬りかかろうとすると、魔女が立ちはだかりそれを制止した。


「安息日だから嫌がってるわね、あの子……」

「――ッ!? 魔女!」


 そのままサリスは暗闇に逃げてしまった。


「イヤよ、イヤ! 口のきけない子をそんな風にしちゃいけないわ! 愛のないセリフきかせないで!」

「――なにを!」

「その心の悪意に打ち勝つには愛を学ぶことね! 愛することの素晴らしさを教えてあげる、ここ夢見る丘の学園でね!」


 意を決して魔女に突撃するマリスの体に赤いヤリが巻き付き、体を激しく締め付けていた。

 ヤリに許されて地面に倒れたマリスは赤い光に包まれるとその姿は全く別の生き物になった。


「――(ッ!?)」


 逃げ出したサリスと全く同じ姿のマリスは、自分の体を見下ろして困惑している。


「あれ、禁忌者マリスがサリスに変身しちゃった……ぞくッ」

「のーん、あの禁忌者たちは運がいいのん……」


 私とマリスはヴァーサー・クーラーたちが消えるのを見送るしかなかった。




◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇




挿絵(By みてみん)


【作者つぶやき】デリス、マリス 人気デス

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