32 クレイジーラブの捕囚なのだ――ゥ”!
大地が揺れた。
周囲の結界が消耗し、火花が飛び散っている。
地上の学園で暴動が起きているようだ。
おそらく逃げ出した囚人たちが暴れまわって学園を荒らしている。
ヴァーサー・クーラーは天井を見つめて、小さく溜息をした。
俺はうつむいている長津田さんに駆け寄る。
「長津田さん! 俺が嫌いなのはわかるけど、ここにいても危ないから一緒に地上へ――って!?」
長津田さんの体は冷たく、堅くなっている。
「……え、長津田さん!?」
ゆすっても反応がない。
「長津田さん、嘘だろ……、長津田さん! おい、コミンッ! 大変だッ!」
「アナタの盲目も重傷ね」
「……何を?」
長津田さんは急に立ち上がる。
「えへへ」
そしてメガネを外して俺に無機質な笑顔を見せると、首元には部品の結合部のような切れ目がある。
理科室でつっ立っていればいいものを、なぜこんなところにいるのか俺は怒りを覚えた。
「ダーリン、アタシ、きれい?」
「あの囚人めッ! いつの間に差し替えたな!」
「見て、捕まっちゃったよ!? 助けてダーリン!」
俺は触るなと吐き捨て、囚人たちが逃げた先を走り出す。
「もう乱暴! どうして!?」
「長津田さんはまだ囚人の元か! ……このまま国に帰すものか!」
「アタシも地上へ連れてって!」
俺は足に掴みかかるそれを振りほどいてヴァーサー・クーラーの元へ駆け寄る。
「お前は愛を持って接しろと言うが、あの囚人どもは一度徹底的に懲らしめる必要があると思わないか!? 二度とこんなふざけた――ぐあっ! 何する!」
魔女は突然に俺の胸に手を突っ込む。
「と、その前に」
魔女は引っ張り出した赤いハートを胸元にしまうと、俺は男の姿に戻った。
「黒騎士のソーサリィを返してもらうわ。見てらんなくてつい助け船をだしちゃったけど、これが逆効果だったみたいね」
「――ぅぐッッ! 頼むから、そう乱暴にしないでくれるか!?」
「これ以上、アナタに手を差し伸べてあげない。あとは自分の知恵で何とかしなさい」
「ねぇ、ダーリン、大丈夫!?」
「さあ、すぐに行く! 愛をもって囚人を止めなさい! アナタが愛の使者として口説かなきゃ、独我論をこしらえ再びこの牢屋に戻ってくるわ!」
「囚人は女神さまに首ったけだ! ハロが何を言おうが耳をかさない!」
「だ、か、ら、愛を持って接しなさいっ!」
大地が揺れる。
「できるでしょ! アタシにしたように乱暴でも、不躾でもいいから、あの子も奴隷もみんな救いなさい!」
「わかんねぇけど――、わかったよッ!」
俺は魔女の命令にうなずき、走り出す。
「もう気付きなさい、あの子が待っているのは黒騎士じゃない」
●
地下道を走っていると、騎士たちの姿が見える。
「ハロ、無事だったです?」
「マリア先輩! みんな!」
マリアたちが駆け付ける。
「アクっちが泣いて走ってたの! ソッチが何かしたなの!?」
「女の子を泣かせたなら、すぐに追いかけるです」
「ハロぅ! レッツ、ゴぅ!」
ポポとクゥは道を指をさす。
「わたしたちは暴れだした囚人たちを殲滅するです。ハロはアクガリを助けるです」
「みんな! 助かる!」
「ガルガルガル!クレイジーな囚人たちが神殿を汚し始めたガル! これは楽しくなるガルね! 騎士ちゃんめ、お嬢さまのお楽しみを邪魔させないガル!」
「ペッ! ペクソッ!」
性格の悪すぎる生徒魔族たちが駆け付け、マリアたちに対峙する。
「ヴァーサー卿の起こした混乱に便乗する生徒魔族も漏れなく殲滅です」
「女の子の心を乱暴にして許さないなの!」
「バカちんたち、みぃんな、お仕置きぃ!」
「オーウェイ、ヴァージン!」
「サーベェイ、ジェラスィー!」
「……決めたです。チビたちはデススタディお仕置き教室にて道徳の強化合宿です」
●
俺は階段を駆け上がり地上に出ると、学園全体が黒い雨に打たれている。
その黒い雨に当たると、肌に痛みを感じた。
気が付くとサリスマリスが迎えに来ていた。雨が当たらない軒下からこちらを見ている。
「こ、これも囚人たちの仕業か!?」
「――(こくり)」
校舎内を走る。
「アクガリはどこに行ったかわからないのか!?」
俺の後ろでサリスマリスがうなずく。
「アクガリの空を飛べる従魔族はヤリでやられた! そんな遠くに行けないはず!」
学園内に生徒たちの姿はない。
体育館に避難しているのか、そこだけ明かりがついている。
「おい、アクガリ! どこにいるんだ! 学園内は囚人で危ない! 出て来いって!」
窓の外を見る。
すると黒い雨で真っ暗な校庭で囚人たちが集まり、炎を灯して儀式のようなことをしている。
その中心には長津田さんが手に鎖をくくりつけられている。
俺は廊下の壁を殴った。
「ご無事で」
ルアと騎士の上級従魔族が現れる。
「何がご無事だ! あれが見えないのか!? 囚人は何をしようとしてる!」
「生贄を用いた黒魔術です。この嘆きの雨の発生源です。雨粒に打たれた者は融解され、彼らの力の源になるでしょう」
廊下にいても、周囲の空気から肌を刺すような痛みを感じる。
「なんて邪悪な呪術でしょう。長津田さんの生贄により黒魔術が完成する前に止めなければなりません」
「この黒い雨は、学園結界をも侵食スル――」
「止めようニモ囚人は圧倒的多数――」
「嘆きの雨にヨリ、我々は手が出せナイ――」
ガルボロカルホが片言で説明し、さらにハッフンパッフン、パリクナリクも続いた。
「上級従魔族も黒い雨で屋外へ出られず、囚人に手が出せません。騎士のソーサリィでしたらわずかな時間は雨に耐えうるのですが」
「とにかく長津田さんを救い出す、囚人をやっつける準備をしろ! 俺はアクガリを見つけ、それから儀式を止めさせる!」
ルアはうなずくと上級従魔族を連れて校庭へ向かった。
俺はルアたちと別れて校舎内を走る。
「アクガリ! アクガリ! どこに! はぁ、はぁ!」
窓からアクガリの姿を見つけた。
「あそこか!」
俺は階段を駆け上がる。
屋上の扉を突き飛ばす。
「あ、旦那!」
「アクガリは!?」
「血も涙もない騎士ちゃん、あそこでひとり泣きべそしてるガル!」
アクガリが屋上のフェンスを越えた縁で膝を抱えている。
「お前らだけこんなところで休んでないで、黒魔術を止めるのを手伝え!ついて来い!」
「ダメだガル!ガルたち魔族は雨に濡れるとすぐ溶けちゃうガル!」
「ペコ……」
ペッキンコッキンは時折顔に飛んでくる雨粒で痛がっている。
「――ぅぅ……信じてたのに……」
「おい! アクガリ!」
「ハロのヤロ? 来るな! こんなオレを見るなッ!」
「ここにいっちゃダメだ! この雨は危険だ! 囚人が変な儀式を始めてる!」
「知るか! 夢見が丘なんてさんざんだ! 愛にもうんざりだ! 大切なものも奪われて、もう大っ嫌いッ――!」
「だから黒騎士にも魔女にも関わるなと言った! 無事に国に送り届けるから、こっちに来い!」
「――なんで! どうしてこんなオレに優しくするの! あんなひどいことしたのに!」
「いいからこっちに!」
「――もう、お嫁にもいけないのに! 変な希望を持たせないで!」
「ああわかったから、……手を伸ばせ!」
「……なんで――オレなんかに……」
そう言いながらアクガリは手を伸ばす。
夜空から雨が落ちてくる。
アクガリの赤い髪を濡らし始める。
するとアクガリは俺から顔をそむけた。
「やっぱり、ヤロ、ダメだゼ……。オレには愛情がない――。誰もオレを必要としてない――」
「何を言ってる!? そんな後ろ向きになるな!」
「地下があったら入りたい気分なんだゼ――」
手を引っ込めたアクガリは足元から溶け出している。黒い雨に打たれて、アクガリの輪郭がぐにゃりと崩れていく。
「ダメだ、気を確かに持て! 弱ったソーサリィでその雨に濡れるな! 早くこっちに、アクガリッ!」
「ハロのヤロ、信じてやれなくて、ごめんだゼ……」
そういったアクガリは悲しそうな笑顔のまま黒い水しぶきとなりはじけ飛んだ。
そして屋上のアスファルトに溶けて広がり、流れてなくなった。
「アクガリッ!? おい、アクガリ!? 嘘だろッ……そんなッ!」
俺はアクガリを探して地面をさする。
「ダメだ、アクガリッ……! くそッ!」
「夢から堕ちた少女の心はいいものだ――ゥ”。憎しみのカースが奮い立つ――ゥ”」
雨が降り注ぐ闇の中からあの囚人が現れ、屋上に足を付けた。
「……囚人。アクガリをどこにやった」
「――愛無き者はこの世に不必要、ヴァーサー卿もそう言うだろう――ゥ」
「長津田さんまで生贄にしてみろ。ヴァーサー・クーラー、騎士たちも黙っちゃいない。が、その必要もない。この天邪鬼どもめ――!」
俺はホウキの封殺剣を握りしめる。
「……囚人? ……囚人だと? 我々はもはや囚人ではない――ゥ」
「好きなだけほざけ」
巨大な図体をそらした囚人の体から、黒い泡が浮き出してくる。
「ヴァーサー卿が差し向けた黒騎士が自らを犠牲にしてまで我々を救おうとした――ゥ! その事実に我々は感動し、愛の存在を感じた――ゥ! ようやく我々は女神さまにより救われるのだ――ゥ!」
「だったらぐずぐず言ってないで、大好きな女神さまの言いつけ通りその斧をしまって国に帰ったらどうだ? 学園を荒らしアクガリと長津田さんにまで手を出して、さすがの女神さまの気分も変わってくるぞ!」
「我々が望む新世界は我々が作る――ゥ”! 魔女ヴァーサー・クーラーの悪しきフィシス理論、そして黒騎士の邪念というアンチテーゼに学び、我々はこうして自由を手にしたのだ――ゥ!」
「は? お前は何が言いたい!? また混乱してるのか?」
黒い泡に包まれた囚人は両手を空へ掲げる。
「そう! ようやく女神さまの愛を断ち切ることができた――ゥ”! 我々を縛るものはもう何もない――ゥ!」
囚人は学園を見渡し、斧を振り上げる。
「愛の幻想を超越し、究極の虚像を手に入れる! つまり、我々こそが――」
そう叫んだ囚人は斧を振り下ろし、けたたましい電撃音とともに屋上の結界を破壊した。
「クレイジーラブの捕囚なのだ――ゥ”!」
囚人の体から翼が生えると、暗い空を覆うほどに膨張した。
「……クレイジーラブの捕囚!?」
翼を得た囚人たちが空に浮かび上がってくる。
「この世界を狂乱させ、すべての愛を破壊し、新たな絶望を作るのだ――ゥ”!」
「……何を言っているんだ! 駄々こねて暴れたいだけなら、よその世界でやれッ!」
「狂っているのは愛無きこの世界であり、我々はその犠牲者――ゥ! 悲しき我々を、偽りの女神、仮面をかぶった死神であるヴァーサー卿は見放したのだ――ゥ! その証拠に、こうして待ちわびる我々のもとに現れないではないか――ゥ”!」
「……あいつは魔女だが、お前らを心配していた! だから斧を置け!」
捕囚たちに囲まれた俺は後ずさりする。
「自由の捕囚たちよ耳をふさぐのだ! 偽りの救世主に騙されてはいけない! ヴァーサー卿の愛は偽り――ゥ”、我々の感覚をだます幻惑なのだ――ゥ”!」
捕囚たちの斧が俺を狙う。
「我々には帰る国はない! 信じる者も、愛する者も、夢も希望も――ゥ”」
「……全く手に負えないな、よし、すぐにヴァーサー・クーラーを呼んでくるから、ここでおとなしく待ってろ――」
俺は屋上から結界に守られた校内で逃れようと走り出す。
「見よ、メイド奴隷よ! あれが哀れな救世主の背中だ――ゥ!」
捕囚の手のひらの上で長津田さんは苦しそうにしている。
長津田さんが縛られていた校庭の儀式の祭壇にはアクガリが縛り付けられている。
アクガリは必死にもがいている。
「ち、いつの間に!? ――すり替え上手だなッ!」
「愛有るメイドを捧げてしまうにはもったいない! 代わりに愛無き騎士を供物に捧げるのだ――ゥ!」
「くそおッ! おい、ルア! サリスマリス! どこにいる! 早くしろ!」
そう叫びながら俺はホウキの封殺剣を構えて、突撃する。
「愛などない! 愛などないのだッ――ゥ!」
捕囚が放った衝撃波で俺は吹き飛ばされ、壁に激突する。
「ぐあ、痛ッ!」
制服が黒く焦げ付く。
「なんて力だ! 早く2人を助けなければ――!」
同時に黒い衝撃波が学園内に広がり、校舎の緑を一瞬にして枯らし尽くした。
「ククク、噂程でもない、愛無き救世主――ゥ!」
校舎への逃げ道を捕囚がふさぐ。
「――ちッ! ……ルア! サリスマリス!」
俺は校舎に向けて叫ぶが、助けは見込めなかった。
「偽りの救世主よ、我々と同じように女神の矛盾に狂うがいい――ゥ”」
捕囚が斧を振りおろす。
「ガルッ!捕囚めい!」
ガルナビが俺の目の前に飛び出し、シールドを発生させ、斧を防ぐ。
「どけッゥ!」
「ギャルッ?!」
ガルナビが俺の胸元へ弾き飛ばされる。羽が濡れて解けていた。
俺は雨に濡れないようガルナビを軒下に投げる。それをキャッチしたペッキンコッキンもあたふたしている。
「それは偽りの友情か――ゥ!?」
「ガルナビ、雨の中ででしゃばるな!」
再び捕囚が俺に斧を振り下ろす。
「――ッ! 痛ッ!」
俺はホウキでその一撃を受け止める。しかし、柄が折れて、俺は吹き飛ばされる。
「愛無きッゥ!」
捕囚がすかさず振り下ろされた斧に対して、俺は防げないとわかっていたがこうするしか方法はなく、すでに消耗して焦げた防御札を握り締める。
すると鈍い音がして、顔を上げると、俺に振り下ろされた斧を何者かが受け止めた。
それも拳でだ。
「――!? お前!」
そいつのおかげで俺は命拾いした。
「予言の女神を祀る神殿学園が邪悪な雲に覆われて、駆けつければ悪しき囚人の脱走ですね――」
そいつは斧を軽く払いのける。拳でだ。
囚人たちが一歩退いた。
「ビグニティの平和は僕たちがこの拳で守ります」
「ダ、ダルマン!?」
捕囚の斧をあのダルマンが受け止めていた。
さらに次々とダルマンたちが現われ、俺を守るように捕囚たちに対峙する。
「おっす!」
「救世主ハロ殿、生還されたようですね。お節介かと思いますが、ここは僕たちが助太刀いたします」
「おっす!」
「お、おっす――」
「……ビグニティの持たざる戦士たち? なんという哀れな丸腰――ゥ」
「救世主ハロ殿、長津田嬢が囚われていて何を躊躇しているのですか。人質を取る敵を目の前にしてうろたえてはいけません。あのような卑劣漢は拳でわからせるのです」
「それはダルマンが言えたことガルか!?」
「お前ら、助けてくれるのか!?」
「金城コミン嬢の果樹園を荒らし、子供たちの夢を脅かす異国の侵略者を退けましょう!」
「ダルマンたち、どうして!? 俺は……!」
「同士たちよ、命に代えてもビグニティの救世主ハロ、そして生徒たちを守るのです」
「おっす! 噂に聞く正義の執行人、ハロ殿に加勢いたす!」
目の前で黒騎士からハロの姿に戻ったというのに、ダルマンたちは覚えていないようだ。サリスマリスの言った通りだった。
あの時はダルマンたちは負けそうになり理性を失い取り乱していたからだろう。
「だがダルマン、この雨は魔族の体を――」
「女神さまの薫風を受けた僕たちに打ち倒せぬ邪気はありません――! そう、最初から本気で突撃しますよ!」
しかし、囚人たちは不気味に笑う。
「その滑稽な丸腰に、この嘆きの雨はさぞ身に堪えよう――ゥ」
「ダルマンめぃ、頭の悪さが弱点だガル――」
ダルマンたちの体に黒い雨粒が降り注ぐ。
しかし、本気となったダルマンの体の熱気により、雨粒はすぐ蒸発してしまい、濡れることはなかった。
「くッ! 何も持たざる者が心だけは女神の希望で着飾りおって……ゥ! 邪魔するのなら恨みはなかろうと堕すのみ――ゥ!」
ダルマンたちは襲い掛かってくる捕囚たちと取っ組み合いを始める。
「ダルマンたち! ここは頼んだ! 儀式を止めてくる!」
「おっす!」
捕囚に立ち向かうダルマンは活気のある返事をした。
「僕たちがあの日救えなかった長津田嬢を、救い出してください!」
「お前が言うなだガル!」
「ペクソッ!」
ガルナビとペッキンコッキンは軒下からシールドやカマ投げでダルマンを援護した。
俺はダルマンたちにその場をまかせて戦場となった屋上を後にする。
校庭に出ると学園の上空で捕囚たちの儀式により巨大な十字架が出現している。
中心にはアクガリが縛り付けられている。
俺の目の前に、主を助けるためどこかに身を潜めていたであろうアクガリの従魔族が降り立つ。
「スカイズバイ? ヤリの具合は大丈夫なのか!?」
冷静そうなスカイズバイはうなずき、俺を背中に乗せて高く飛び上がる。
アクガリの顔が見えるところまで飛んできた。
「ぅぅ……」
「アクガリ! 聞こえるか!?」
「ヤロ、……来なくていいのに、これじゃオレまた足を引っ張ってるんだゼ……」
諦めたようにアクガリはうつむく。
「オレは愛のない子なんだ――放っておいてくれ……」
「そんなことない! 手を伸ばせ!」
「スカイズバイ、お前もオレが嫌いなんだろ――?」
アクガリはスカイズバイに訊いた。
「アクガリ、国に戻ったらあの囚人たちにも耳を傾けて、口が聞けない魔族たちを大切にすればいい!」
「ぅぅ……ヤロ――」
泣きじゃくったアクガリは差し出した俺の手を取る。
俺が手を引くとアクガリはスカイズバイの背中に乗りこんだ。
「ハロ、ごめん……」
「あとは捕囚たちだ! あいつらを納得させて帰国されなきゃな! できるか、アクガリ?」
「――うん、できるかな……え!? スカイズバイ!?」
突然にスカイズバイがよろめいた。
「なんだ!? どうしたんだゼ!?」
宙にいる俺たちの近くで、何かが花火のように爆発している。
校庭を見下ろすと、囚人たちが俺たちを打ち落とそうと口から火炎を打ち上げていた。
何発かを避けたが、ついに火炎を胴体に受けてしまったスカイズバイは急降下した。
俺たちを乗せたまま校庭に不時着した。
「……痛ッ! あの捕囚め!」
「痛てて……」
顔を上げるとダルマンたちがいた。
どのダルマンもボロボロの恰好で、背中を丸めて歩いている。
校門に向かって逃げていくように見える。
「おい、ダルマンたち、どうした!? 逃げるのか!?」
聞かなくてもわかっていた。
「……かたじけない救世主ハロ殿――。異国の者には僕たちの正義の拳が理解できないようだった――無念です」
傷ついたダルマンたちは撤退、撤退と叫びながら俺から逃げるように学園外へ走り去る。
「おいダルマン! 長津田さんを取り返すんじゃなかったのか!? おい!」
黒い甲冑の捕囚たちが俺たちを取り囲む。
「救世主よ見たか、あの愛無き姿を! これが女神による虚像の愛だ―――ゥ!」
囚人たちは勝ち誇ったようにしている。




