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29 アクガリの何という暴力

「なぜそうまでして解放なんだ!?」


 俺は雨の中の金城コミンに問う。


「お前の大事な学園を荒らすような囚人たちをやっつけちゃいけない理由はなんだ!?」

「ソォスィン国を裏切り滅ぼした魔族たちに愛を教えなさい! 母国を支えるために帰郷して、国のため愛のために仕えさせるよう愛国心を誓わせるの」

「囚人たちはアクガリの国を滅ぼした魔族でソォスィンを恨んでいる! それにお前の大事な長津田さんが人質になってる! 女神さまの一声で囚人たちは言うことを聞きそうなもんだがな!」

「アタシが命令すればみんな帰郷するでしょうね」

「だったらすぐお前がッ!」

「それじゃ解決にならない。祖国の主の号令で帰さなければ、何度だって心を呪い、何度だって牢屋に帰る。そして歪んだ心で夢見が丘を汚す」

「祖国の主って、アクガリのことか!?」

「囚人もあの子も救いなさい! 愛のために!」


 コミンはベランダから飛び降り、ぬかるんだアルファルトに着地する。


「アタシは涼子ちんを助ける、一緒に来なさい」


 コミンがホウキの封殺剣を投げる。


「必ず成功させるの。アナタが白紙にしたフィシスの愛のページを埋める、償いのチャンスでしょ!?」

「――わかったよ!」


 俺は地面のホウキを拾い上げる。


「おいアクガリ聞こえるか!? 地下は結界だらけで袋のネズミだ! 動かずにそこで待ってろ!」


 地面からはアクガリの返事がない。

 マリア、ポポ、クゥが牢屋の入り口に集まっている。

 そしてコミンを見る。


「……で、アクガリのいる地下にはどうやって行けば……?」

「――まったく情けない奴隷ね!」


 金城コミンが片手で俺の襟首を掴むと、そのまま軽々放り投げる。


「ぐあ!」


 俺は噴水の中に落ちる。


「アタシにあんなことしたんだから――」


 金城コミンは自分の右手をさする。


「埋め合わせ、してよね」


 俺は底のない噴水をいつまでも深く落ちて行った。

 尻に激痛が走ると俺は地下にいた。


「――ごほ、ごほッ! 痛ッ! コミンめ、乱暴すぎるだろ……!」


 俺は倒れた番兵魔族たちの体に着地していたようだ。


「――えぽけ……」

「ふん! 番兵くらい造作もないんだゼ! 黒騎士がいなくたって囚人を解放……ってヤロ!?」


 見渡すと10体ほどの番兵が倒れている。


「アクガリがこの番兵たちを……ひとりで?」

「――立ち去レ」

「ったく、しつこいゼッ!」


 突然に起き上がった番兵を、すぐにアクガリは手のひらで張り倒す。


「な、何体でも来いだゼ! ぜぇ、はぁ、ぜぇ……」

「アクガリさん、もうやめません? もしかしたら、もう黒騎士さんは……」

「いやだ! 絶対に諦めない! 黒騎士との約束だ! 金城コミン会長も諦めなければ必ず願いが叶うって!」


 アクガリは肩で息をして震えながらもしっかりと地下の奥を見据える。


「そこまで本気なアクガリさんを見れてうれしいです、お手伝いしますの。ソォスィン国の平和のためにも」

「アクガリ。そのためにはあのマリアたちの従魔族たちをどうにかする必要がある」


 俺は指さす。ガルボロカルホ、ハッフンパッフン、パリクナリクがこちらを見ている。


「騎士、来タルマデ――」

「侵入者ヲ――」

「足止メスル――」


 上級従魔族が地下の暗闇からこちらへ向かって忍び寄っていた。


「う、マリアたちの直属の!」

「お前が倒したこの番兵とは違って頭も腕もいい、どうするつもりだ?」

「ビグニティの魔族がなんだ! オレの覚悟はそんなもんでくじけないんだゼ! みんなひざまずかせるんだゼ!」


 アクガリは震えて、肩で息をしている。

 俺が従魔族を攻撃するわけにもいかないし、こうして侵入者アクガリと肩を並べていても疑いをもたれる。


「アクガリ、そこの縄で俺の手を縛れ!」

「ふえっ!? な、なんで!?」

「そして思いっきり殴れ! 今すぐ、早く!」

「ヤロ!? 気がおかしくなったのか!?」

「作戦だ! 俺が人質で盾になる! それであの従魔族たちを油断させて、その隙にやっつけろ!」

「そ、そんなの、いきなり言われても……!」

「アクガリさん、従魔族たちがこっちに! ハロさん、お手を失礼します!」


 スレイは落ちていた手ごろな縄を掴み、俺の縛り始める。アクガリも手伝う。


「――こ、こんなプレイは、好きじゃないんだゼッ!」


 マリアたちの従魔族たちが斧を構える。


「ヤ、ヤロめ! ……盾になってソウルになっても恨みっこなしだゼ!」


 俺の心の準備が出来てないうちに、アクガリは俺を平手で殴りつける。


「ぶへっ!」


 俺は吹き飛ばされて壁に激突した。

 すると、それを目撃したガルボロカルホが後退りする


「――ナント言ウ暴力!?」

「ヤ、ヤロ、どうだった!? うまくできたか!? ね! ね!」


 謎にはしゃぐアクガリとそれを褒めるスレイが見える。

 焦げ臭い匂いがする懐を見ると、あの一発のビンタで防御札が焦げていていた。


「……冗談じゃない、マリアの比じゃない! アクガリ、い、今の作戦は取り消し! 手加減してもこれじゃ話が違……うげッ!」


 アクガリの平手が俺の顎に直撃して、俺は壁に叩きつけられる。


「まあ! アクガリさん、素敵です!」

「うぐっ……やめだ! もうよひてくれ! おい、ガルボロカルホはち、助けてくれっ!」


 アクガリは自分の手を見つめ、そのときに感触を確かめている。


「――ぞくっ」


 アクガリは何かに目覚めた顔をしている。


「……ぱぁぁぁ」


 そして、さらに俺を殴るつもりらしく、手もみしている。


「阻止スル――! ハロがソウルに堕ス前二!」

「さあ、ハロのヤロ! 邪魔したら自分の命がないと、女の子みたいに泣いて叫べだゼ!」

「顎かいたくて、叫へない……」

「――邪悪なソォスィン騎士、それ以上ハロに手を出すナ」

「――我々は、武器を降ロス」


 マリアたちの従魔族たちは俺を気遣って武器を置いた。

 アクガリは無防備なガルボロカルホたちにも平手打ちを入れて張り倒し、全滅させた。


「……えぽけ」

「あ、あいつら……すまない――」


 血も涙もないこいつより従魔族たちによっぽど人のぬくもりを感じた。


「よ、よし、人質ハロを連れて先に進むゼ!」


 上級従魔族たちは痛々しいうめき声を上げ、這いながら地上へ逃げて行った。


「――(ギロリ)」


 サリスマリスが駆けつけた。そしてアクガリにツメを向ける。


「よせ、大丈夫だサリスマリス、これは演技だ、多分。一緒に囚人解放を手伝え」

「は、早く囚人のいる牢屋に案内しろ、ヤロ! じゃないと、ひっぱたくんだゼ!」


 アクガリは手を振り上げて俺を脅す。


「ア、アクガリ! 今は敵はいないんだから人質の演技はしなくていいんじゃないか!?」

「……え! あ、そう、そうだった!」


 アクガリは残念そうだった。


「うふふふ」


 アクガリの手が俺の制服の袖をしっかりとつまんでいる。


「そこまでです」


 マリアの声が聞こえる。ポポ、クゥの姿もある。


「た、助かった、マリアさん! ……いや、こっちに来ないで、マリアせん――ぐへッ!」

「――ふん、見ての通り、ヤロが人質なんだゼ!」


 サリスマリスは慌てて自分のツメにも俺と同じように縄をくくり付け、マリアたちに見せる。


「――(こくり、こくり)」

「ということで、マリア先輩、俺たち人質になってしまい、すみませんが急いで牢屋に行きたいそうなんで、そこをどいてく――」

「ハロ、自己犠牲も騎士の使命……、ソウルになっても厳しい先輩を悪く思わないでほしいです」


 マリアは手に炎を宿す。今の俺はアクガリの盾になっている。


「え!? ちょ!」

「エリート、ちょっと痛いけど、学園の平和のためなの! 覚悟なの!」

「ハロぅ! 歯を食いしばるぅ!」

「マリアさんたち、それは白状すぎや――ぐあッ! ……アクガリめッ!」

「邪魔するとこうやってヤロをひっぱたくゼ!」

「ハロに拷問は無効です。こういうこともあろうかと、先輩が日ごろから強烈な鉄拳制裁で訓練しているから、それくらいでは根をあげないです」

「そ、そうなのか?」

「ハロさん、実はMですの? うれしいです、お友達ですね。実は私も恥ずかしながら――」

「え、スレイは”ス”だから、エスじゃないの?」

「そうです、アクガリの言う通りです」

「えー、2人とも何にも知らないなの!? なら知識人なウチが恋のイロハ、SとMについて教えてあげるの!」

「そぅ! 英語のお勉強よりたいせつぅ!」

「へ、へぇ、そうなんだ! じゃあちょっと教えて欲しんだけど―――」


 騎士たちは俺を無視して、きゃっきゃと輪を作り自分たちの話に夢中になり始める。


「――サリスマリス、今のうちだ! バカみたいな話で盛り上がっている隙に縄をほどいて牢屋に急ごう――! 長津田さんはもうそこだ!」

「――(こくり)」


 サリスマリスが俺の縄を切ろうとした時だ。


 胸にあの強烈な違和感がよみがえる。


「――嘘だろ、今かよツ!? また胸が締め付けられて……ッ!」

「――(ゥ!?)」


 サリスマリスも頭を抱える。

 俺の脚元の地面が発光して、周囲に衝撃波が広がった。


「――何事です!?」

「ぅあッ!」

「なんなの!?」

「はぅ!?」


 騎士たちはよろめき、驚いた表情で周囲を見渡す。


「なにごとですか!?」

「あ! エリートがいない!?」

「――ハロ!? ハロはどうしたです?」

「ハロくん!? い、いちゅの間に消えたぁ!?」

「あれ、ここにいた人質ヤロは!?」

「おかしいですの」


 周囲を包む黒い煙が引く。

 騎士たちが俺の姿に気が付いたが、それは俺を見る目ではなかった。


「――く、黒騎士です!?」

「嘘なの! 黒騎士が復活したの!?」

「にゅ!? 囚人を解放しに来たぁ!?」


 俺は自分の真っ黒な姿を見降ろし、頭を抱える。

 もしかして、コミンが俺を再び呪い黒騎士に?

 驚いたアクガリが俺に駆け寄る。


「く、黒騎士、やっぱり来てくれたんだな!」

「――……ああ」

「ハロは? どこに消えたです!?」

「――ハロは、今やっつけた」

「――(こくりゥ)」

「嘘です! さっきまでそこにいたです!」

「あんたらが隙だらけだから身動き取れないハロをやっつたんだ! 簡単だったな!」

「ならハロを返すです!」


 俺はアクガリにつぶやく。


「……アクガリ、今のうちに地上へ逃げろ!」

「黒騎士を置いて逃げられるか!」

「そうはいかない! 俺は牢屋を開ける! あとは任せろ!」

「まあたいへん、見てみなさん! アクガリさんが黒騎士の人質になってますよー!」


 マリアは俺を睨む。


「アクガリを騙しハロをやっつけた罪で裁くです!」

「でも人質にアクガリっちがいて、うかつに攻撃できないの!」

「卑怯な黒騎士ぃ! アクガリ返すぅ!」


 アクガリと俺とで人質の人命尊重の具合が違いすぎる。

 スカイズバイとカース・サリスマリスがマリアたちに牽制攻撃を行う。

 マリアたちがひるんだ。


「今だアクガリこっちだ!」


 その隙にアクガリの手を引い地下の奥に走る。


「――走れ! 牢屋はそこだ!」

「まったく! お、遅いんだゼ! 探してたんだゼ! ずっと、ずっと!」

「ああ、悪かったって……早く囚人を脱走させよう!」


 地下の突き当たりには巨大な牢屋の柵があり、俺は牢屋の鍵を取り出す。


「黒騎士、本当にまた脱走させるのか? 出してもどうせまたオレたちを襲って牢屋に戻るかも!?」

「ああ、かもしれないな」

「地上に出たらまた生徒を襲うかもだし!」


 地上にはコミンがいるから生徒を襲いでもしたらヤリで何とかするはず。


「大丈夫だ! 早くしないと――って何を!?」


 牢屋の鍵穴にカギを指す俺の手をアクガリが掴んでいる。


「やっぱりやめてみないか、黒騎士! 囚人解放は悪いことだ! 悔しいけどハロのヤロが正しい!」

「手を離せ! マリアが来る!」


 俺の手を掴むアクガリは深刻な顔だ。


「オレ、最初は黒騎士を騙してヴァーサー卿をやっつけようとした! けど、本当は悪い奴じゃないって確信して……ヴァーサー卿から黒騎士を助けたいんだ!」

「こいつらを脱走させれば俺は魔女から解放される! その手を離せ!」

「ボスが怖いんだろ!? でも、きっといつの日かハロがヴァーサー卿を追い出してくれる! だからもうこんなこと辞めて、ハロを返して、魔界に逃げるんだゼ!」

「ハロは役立たずだ!」


 アクガリが首を横に振る。


「お願い! オレが信じるハロを信じて!」


 アクガリは俺を見つめる。


「気遣いはうれしいが、俺を救うことはできない、そういう仕掛けなんだ――!」

「そんなにヴァーサー卿が恐ろしいのか? 弱みを握られてるのか? ならオレに相談してくれだゼ!」

「魔女に逆らえばみんな呪われてしまう! アクガリこそ帰った方がいい! 俺のみたいに手遅れになる前に!」

「大丈夫! オレはフィシス理論をよく知っているから呪われない!」


 背後からマリアたちが扉を破壊する音が聞こえる。


「アクガリさんたちに追いつかれてしまいますの!」

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