27 それセクハラなんだゼ!ヤロのエッチ!
マリアが学園に戻るのを見届けた。
俺は川辺を歩く。
「――なんでだよ、あとちょっとで黒騎士をヴァーサー卿から救えたのに――ぅぅ」
川の流れる音に重なって、岩陰から泣きすする声が聞こえる。
「あの、――アクガリ?」
「黒騎士か!?」
「――いや、ごめん、俺だ」
「ハロの――ヤロ……」
「隣、いいか? スレイは?」
「母国を救う手がかりないから国に帰ったゼ。オレももう帰らなきゃ……」
「そうか……」
「さっきはごめん、オレ、取り乱して、ムキになって――」
アクガリはうつむき続ける。
「ヤロが黒騎士をやっつけるのも平和のためだから、当然なんだよな……。邪魔してマリアたちも怒ってるだろ?」
「なんで黒騎士に執着する? 悪い奴らだろ?」
「ヴァーサー卿の脅しに悩んでた黒騎士を助けるつもりだったんだゼ……」
「黒騎士を助ける? ヴァーサー・クーラーから?」
「うん。これ以上ヴァーサー卿に呪われる者が増えてはダメ、誰もオレの母国のように不幸にさせたくない――! だから、ここでアイツと待ち合わせして、ヴァーサー卿を追い出して……」
アクガリはさっきまでの戦いの勢いはなく、膝を抱えて川の流れを見ている。
「実は、黒騎士が魔界に帰るとき、お前との約束を守れなくて悪かったって――」
「――く、黒騎士が? 本当か!?」
「黒騎士のピンチにも助けてくれたし、相談にも乗ってくれてうれしかったって。ヴァーサー・クーラーも囚人を諦めたらしく、黒騎士も任務から解放されたらしい――」
「良かった……。でも、もう会うことは……ないのか……」
「……かもな」
「それなのに、なんでヤロが落ち込んでるんだゼ?」
「べ、別に落ち込んでなんか――」
「黒騎士さんも笑顔で故郷に帰られたのですよ。アクガリさん、お気を確かに」
「スレイさん、いつの間に? 帰ったんじゃ?」
「わたくしはアクガリさんのお節介なおつきですの、ふふふ。アクガリさん、行きましょう」
スレイが歩き出した。
「ヴァーサー卿をやっつける方法もなくなったし、ソォスィン国に帰る――。地道にフィシスに論破された国の再建を進めるんだゼ……」
アクガリもゆっくりと立ち上がる。
「じゃあなヤロ、油断して魔女にやられ――ふわッ!」
「ほらッ!油断するなだろ!お前の方が危なっかしいって」
アクガリが石畳につまずき態勢を崩し、俺がその肩を受け止める。
「……ちょっと、め、めまいが――……」
「らしくないな、気をつけろ――。こんなんじゃ家に着く頃にはケガだらけだ」
「――うん」
アクガリは俺の顔を見上げ、目を細める。
「余計なお世話だゼ……ヤロめ」
そっぽを向いたアクガリは俺からすぐに離れ、うつむく。
「…………ふん、おかしいな――!」
「な、なに笑ってるんだッ!? 感動のお別れのとき、人の顔見て笑うなんて!」
「い、いや違うんだ! アクガリってこんなに小さかったんだなって――!」
「ひっ! む、胸はこれからだッ!」
頬を膨らませたアクガリはそう叫ぶと、走り去っていく。
「む、胸じゃない! 背のこと……、いや、なんでもない――」
「うっせ! 言い訳すんな! セクハラなんだゼッ! ヤロのエッチ!」
アクガリはスレイに追いつく。
「また遊びにくるからな! ――って、勘違いするな! マリアたちに謝って、いっしょにスイーツ食べるんだ! じゃあなだゼッ!」
「ああ、帰っても、魔女やフィシスには手を出すなよ! アクガリが呪われないか心配だ!」
いきなり立ち止まったアクガリは振り返る。
「――ヤロ」
「なんだ!?」
「……ぼそっと、黒騎士みたいなこと言うなだゼ」
●
「ごめんなさい!」
「何をしているメイド奴隷、そこは掃除するなッ! それに触れるな――ゥ!」
「ごめんなさい!」
「おい、メイド小娘がこんなこともできないのか――ゥ!?!」
「ごめんなさい!」
「見ろ、床が汚いから靴が汚れた! この靴高かったのだぞ――ゥ!!」
「ごめんなさい!今お拭きします……」
「その素足、高いのか!? 地下で売ってるのか! ?ガハハハ!」
「実に間抜けな小娘だ! これは何もない牢屋で愉快な見世物だ――ゥ!」
「(――あのお化けの腰のカギは……この牢屋の扉のカギ?)」
「今夜が地上制圧前の最後の晩餐だ! ワインを全部開けろ――ゥ!」
「あの、お注ぎします……」
「ほぉ、わかってるではないか――ゥ!」
「ワインが足りないぞ――ひっく!」
「これで全部です――、どこかに残ってないのですか?」
「ちょうどいい、メイド娘! 血だ! 生き血をよこせ!」
「わ、私の血!?」
「ほら、ナイフだ! 自分でやれ――ゥ!」
「……そ、そんな! 冗談ですよね? わたしにはまだメイドの役目が――!」
「どうせ今夜生贄になるんだ! 何を躊躇する――ゥ!」
「……わ、わかりました、ぅぅ――」
「早くしろ! 酔いが冷めちまう――ゥ!」
「どけ間抜けども!おい娘……そのナイフを返せ。そのナイフをこっちによこすんだ――」
「……え、あ、はい! お、お返しします!」
「てめぇ……、何水差してんだッ――ゥ!」
「妙に素直だからだ。――それとそのメイド服のポケットの中身も全て出せ。よからぬ物を潜ませてないか確認させろ」
「ククク! 何を警戒している? こんな細くて軟弱な小娘にナイフ一本で何ができるというのだ――ゥ!?」
「ガハハ! 態度と図体はでかいくせに、可哀想なくらい小心者だな――ゥ!?」
「おい、今笑ったやつはみんな斧を取れ……わからせてやる……ヒックッ!」
「ガハハハ! 酔っ払い同士でムキになったぞ! いいぞ、やれ! ……ヒックッ!」
「ギャハハハ! 堕せ! 魂を奪い合え! ……ヒックッ!」
「(……)」




