24 ハロの帰還
体が空気のように軽くなった感覚がした。
しばらく離れていた懐かしい感覚だ。
「ガル!? 旦那! 体が元に戻っているガルよ!」
「――!?」
「――わぉ、おいらも戻ったさ!」
俺は立ち上がる。
目の前には、男のルアと雄太、魔族のガルナビが見えた。
そして、体を見下ろす。
「体が、戻ってる――!」
「ガル!? ガルもガルに戻ったガル!」
「何らかの力で呪いが無効になったようですね」
「――(こくり)」
俺はホウキの封殺剣を取り出す。
俺たちの歓喜に気が付いたダルマンたちが振り返り、目を見開いている。
「――ぐぬぬ、まだ変身を残していたのですか!? 悪あがきをして負けを認めないつもりですか――ゥ!?」
「食らえ!」
「――うぐっ! なぬ! 目くらまし!?」
トウガラシ爆弾の炸裂でダルマンたちがひるんだ。
「――(斬ル)」
サリスマリスがダルマンをなぎ倒し、長津田さんを奪い返す。そして俺たちの元に長津田さんが戻ってくる。
「長津田さん! 長津田さん! 起きて!」
「――ん!? んん!? み、みんな!!」
「長津田さん! 気がつきましたか!?」
長津田さんが俺の首に抱き着く。ルアと雄太が安堵した。
「やっぱり無事だったのですね! 絶対、帰ってくると――ぅ……」
「事情は後で話します、とにかくその防御札を離さないで!」
「少女が黒騎士の手に落ちた!? ぐぬぬ! こうなったら成敗あるのみ――ゥ!」
「――ああ、成敗してみろよ! 全部忘れるまでひっぱたいてやる!」
「――(ギロリ)」
3秒後にはダルマンたちは悲鳴を上げていた。
「ぐっ! 許せぬ! 解せぬ! 卑怯だ! 不本意だ! ぜったい今のは僕たちの勝ちだ――ゥ!」
地面でダルマンたちが駄々をこねる子供のようにじたばたして不満をまき散らしてわめいている。
「ダルマンたち、正義を振りかざすことはいいが、頭に血が上ると周りが見えなくなることを自覚しろ!」
「それは先生も言えたことじゃないさ……」
「敵つよし! 逃げるべし、撤退すべき――ゥ!」
「逃げるよし、撤退よし――ゥ!」
「満場一致により、撤退いたす――ゥ!」
「少女を守りながらの不利な状況で戦った私たちは卑怯な貴方より高貴であったことは明確――ゥ! 次、お手合わせした時は私たちの完全勝利と思ってくださって結構――ゥ! では――ゥ!」
ダルマンたちはつまずきながらも街に消えていった。
「ごめんなさい、助かりました!」
「やったガル!」
「グシシ!? グシシ!? ぴぎゃ――ッ!」
ずっと頭上に憑りついていた赤い呪いは、男に戻った俺たちの姿を見ると顔を真っ青にした。
そして、風船が割れるように破裂し、飛び散って消えた。
「呪いが解けた、男に戻ったさ!」
「よかった……よかった……。絶対、悪い奴をやっつけるため帰ってくると信じてました!」
「な、長津田さんッ!? ちょっと――!」
視線を戻すと制服の少女たちが駆け付ける。長津田さんがまた抱きついて来た。
「ハロ……」
「ソッチ……」
「ハロくん……」
「――マリアさんたち……」
●
「――アクガリさんの言う通り、わたくしも黒騎士の方たちは悪い人じゃないと思いますの」
「きっとオレたちに言えない何かの事情があるんだゼ。黒騎士を助けることに成功すれば、ヴァーサー卿に呪われたソォスィン国も助けるとこができるかも! オレたちで黒騎士をヴァーサー卿の呪縛から救ってやらないか?」
「それは素晴らしいですの! それでは、明日黒騎士さんにお会いした時にアクガリさんのお気持ちを伝えましょ」
「……うん」
●
「もっと大っきな声で!」
「――してる……」
「全然心にまで聞こえない! お腹から突き上げるように、せ~の!」
「――してる……」
「もっとおっきな声出るでしょ!」
「タイムだ! コミン、ちょっといいか? この愛を強化するなんとか練習にどういう意味があるんだっけ?」
「辛いことや嫌なことは気持ちで吹き飛ばすの! 相手に贈る最高にして最幸のメッセージよ!」
「――何か雑な精神論だな」
昼休みの中庭のガーデンで、金城コミンは”愛を叫び幸せを呼ぶ集会”と称した、聞いただけで恥ずかしくなりそうな生徒会の催し物を開催した。
参加した女子生徒たちに愛がなんちゃらを熱心に語っている。
それを眺めているとマリアが俺の袖を引いた。
「あなたが黒騎士に囚われたのは、愛の力が脆弱だからです」
「そうなの! ウチらみたいに会長さんから愛の修行を受けていれば黒騎士なんてそもそも敵じゃないなの!」
「ハロも愛をどなるぅ!」
「ヴァーサー・クーラーからこの国を守るにはハーモニーの力、愛の力しかないです」
すると、女子生徒たちの中心で金城コミンが叫んだ。
「……もう、ダレかお手本!」
「(ビシッ)」
マリアが手を高く挙げ、女子生徒たちの前にでる。
「愛している!です」
「わぁ! 素敵よ、マリアちゃん! 胸にズキュンズキュンくるわ!」
「――っんぅ……です」
コミンがマリアを抱き寄せる。
「愛してまーす!」
突然、長津田さんが元気よく横から割って入った。
「なッ! なによ涼子ちんッ! いいわよ、とても上手ッ!」
「旦那、鼻血」
金城コミンが俺のネクタイを掴む。
「いい? アナタはみんなを参考に、明日までにおうちの鏡で練習すること!」
「はい」
金城コミンはニコニコしながら部屋を出ていく。
観衆の女子生徒たちも金城コミンを追って引き揚げていった。
そして、数秒前とは世界が変わったかのように教室内は静まり返った。
呆然としている騎士たちも沈黙している。
黙っていてもみんなが俺を意識しているのには気が付いた。
「……えっと、みんな、何から話せばいいか――」
「もうッ! ソッチ、遅いっつーの! ぅぅ!」
「ハロくぅん! よかったぁー!」
ポポとクゥがそれぞれ俺の袖を掴んで乱暴に振り回す。
「痛いって! な、なんだ、そんなに心配だったか!? いつもは素っ気ないくせに!」
「ぐぬぬ……! ――えりーとぉぉ! ぅあああん!」
「うわッ! 鼻水つけんなポポ! わざとだろッ!」
「ハローぉ! 帰ってきたーぁ! これ快気祝ーぃ!」
「クゥ、言っただろ、卵焼きは握らせるな」
マリアが俺の横に立つ。
「――心配させる後輩です。新しいハロを手配させて教会にも迷惑かけたです。これが今日の放課後が期限の始末書です」
「……みんな、ごめん」
「――(こくり)」
「で、ソッチが黒騎士をやっつけたの?」
「ああ、俺とサリスマリスで黒騎士の油断したところをやっつけて、逃げてきたんだ――!」
「――(こくり?)」
「これでアクガリも正気に戻ったと思うです」
「ええ、新しいハロたちも無事に教会に帰還したようです」
「なの!? お世話になった先輩騎士のウチらに、クッキーのひとつも置いて帰らないなんて! ウチは最初から感じ悪い女だと思ってたっつーの! そう、不愛想がソッチにすごく似てたなの」
「これにて、一件、らくちゃくぅ!」




