23 この街に住む戦士、漢、ダルマン
ルアの視線の先には巨大な影がいくつも見え、その中に長津田さんの姿が見える。
そのうちの1体が前に出て来た。
「――なんだお前らは?な、長津田さんを返せ!」
「ひ、ひぃ!」
俺は近づいて来たそいつを見上げる。
「この少女はそなたという魔女の手先を騎士たちが打倒すその日まで、私たちが保護いたします」
「何だって!? なんだお前らは!」
「あれはビグニティの魔族、正義気取りなダルマンだガル!」
「ダルマン!?」
「昔からこの街に住む戦士の魔族です。とても賢く、普段は大人しいはずですが」
「私たちはビグニティ国の善人であり戦士であり、なにより平和と愛を守る漢であります。夜が訪れた夢見る街を歩けばなんと面前で女子が辱められているのです。貴方たちによってです。激しい公憤を覚えた次第であります」
「そう見えたかもしれないが違う……って”興奮”だとッ!?」
「落ち着てください。”そっちの意味”ではないかと」
「それに、ビグニティ神殿学園の地下捕囚の解放を目論んでいるのですね?」
「聞かれていたか……なおさら逃がせないな」
「憂う者がいれば慰め、落胆する者がいれば肩を叩く、兼愛無私な女神である金城コミン嬢の教えに倣い、悪を粛清いたします」
「――またコミンか!? どいつもこいつも!」
「――ッ、痛っ!」
「長津田さん!?」
「魔女の力に呪われし黒騎士をビグニティの正義のもとに打倒してみせます。予言の女神、金城コミン嬢の街に穢れはいらないのです」
そう言った先頭に立つダルマンは拳をたたき合わせた。
「肉弾戦なら私たちの力を存分に披露できます、さあ、お手合わせ願います! 魔女の僕たちよ!」
「――痛っ! 押さないで!」
「守っているつもりだけど、ダルマンたちの巨体に挟まれて長津田さんが苦しそうさ!」
長津田さんの体に結界が機能しているときの火花が散っている。
「彼女の所持する防御札が物理的な衝撃を中和しています。しかしこのままの状態では札は摩耗し続け、その効果は長続きしないでしょう」
「ダルマンとやら聞け! 戦う前にその子を安全な場所に連れて行ってからにしてくれ! 気が散って勝負にならない!」
「なるほどです……が、謀は見透かします。愛無き夜の街に女子を置き去りにすれば、そなたの仲間が再び連れ去る。おや、その顔を見るに、図星ですね?」
「ああ、わかったぞ、話が通じないッ! ガルナビ、こいつらをやっつける間だけ長津田さんにシールドを!」
「できないガル! 黒騎士なガルにはそんな呪術を使う繊細さはないガル!」
「カースのソーサリィは攻撃に特化しています」
「仕方ない、黒騎士に変身しろ! すぐにケリをつける!」
俺たちは黒騎士の姿に変身する。
「その気になってくれましたね! ヴァーサー卿の黒騎士殿!」
「あの分からず屋を蹴散らすガル!」
「――(ぎろりゥ”)」
「夢見が丘の平和のため、正義を執行します!」
ダルマンたちが大勢を低くして、何かを繰り出そうとしている。
「――秘儀! 豪肉爆弾!」
俺は身構える。
すると何かを叫びながらダルマンたちが俺たちに体当たりを仕掛けてきた。
「それはただのタックルだガル! どんな恐ろしいソーサリィを仕掛けてくるかと思いきや――ぎゃるるるッ! ぷしゅぅぅ……」
突然俺から標的に変更されたガルナビはダルマンの体当たりで吹き飛ばされた。そのまま地面で伸びてしまい、女子生徒の姿に戻る。
「や、やりました! 敵を打倒しまし――ぐあぅあッぐえあ! おうふっ!」
俺と雄太、ルアは歓喜しているダルマンたちに向かって容赦なくトウガラシ爆弾を投げ込んでいた。
「ひぃ! すぐにやっつけるさ!」
爆弾の煙の中で混乱したダルマンたちは悲鳴を上げている。
「――(ギロリ)」
サリスマリスはツメを振り上げて空間を切り裂き、ダルマンたちに衝撃波をぶつけている。
ダルマンたちは吹き飛ばされ、転げまわる。
「ぐぬぬぬぬ! 見知らぬ邪悪な黒き炎……! 私の拳ですら貫けぬ邪悪な鎧……! この肉体と魂に変えても黒騎士に天誅を!」
ダルマンたちは拳を天に振り上げ、自分たちを鼓舞し始めた。何かの儀式を始めた。
それまでの様子とは変わり、体に炎をまとった姿になる。そして、目を三角にして俺たちを睨む。
「ダ、ダルマンたちの目がすわってるさ! やばい顔してるさ!」
「……ええ、怒ってしまいましたね、私たちは! もう手加減の時間は過ぎました――ゥ!」
「……うっ!」
「おい、落ち着け! お前ら! せめて人質を保護したのなら責任もって大切に扱えっての!」
「魔女の手先に聞く耳もたぬ! 毒あるフィシスのささやきは私たちには届きません――ゥ!」
「あぅ――……!」
「あの魔族たち、頭に血が上って! 周りが見えてないさ!」
「それに、さっきのダルマンの発狂でメス娘が気持ち悪さとショックで気絶してしまったガル!」
「長津田さんが押しつぶれてちゃうさ!」
「あれ以上暴れられたら護符が壊れてしまう!」
サリスマリスがダルマンたちを切りつけるが、ダルマンたちはひるまなくなった。
「まだまだぁッ! さぁ、もっと来てください――ゥ!!」
「――(ゥッ!?)」
ダルマンから突き出された拳の衝撃波でサリスマリスが引き飛ばされる。
「あいつら、なんて力なんだ――!」
俺たちは後ずさりする。
「おや? その青ざめた顔を見るところ決着のようですね! ヴァーサー卿の僕だけの実力は見受けられました――ゥ!」
「……ちッ!」
「がしかし、金城コミン嬢に薫陶を受けた私たちの強靭なこの肉体と研ぎ澄まされた精神が悪しき騎士の力をしのぎ、はるかに勝っていたと解釈してもおごりすぎではないでしょう――ゥ! 誰がどう見ても、私たちの完全勝利です――ゥ! さあ敗北を認めて、囚人開放を諦め、魔界に帰還すると誓ってください――ゥ!」
「言いたい事しゃべり終えたならその子を離せ! 苦しがってるだろ! それに、俺たちを倒さなければ囚人を解放するぞ! 目的は俺たちだろ!? さ、かかって来いよッ!」
「見え透いた挑発に乗るほど私たちは冷静さを欠いていません――ゥ! 囚人の管理は騎士の使命、私たちには無関係――! よってこの女子、連れ帰り保護させていただきますよ――ゥ!」
「あのダルマンめ、正義をほざいておきながら、本当はメス娘が目的だガル!」
「どんな理由であれ他人を傷つけてはならないという金城コミン嬢の教えを思い出したのです――ゥ! また手合わせ願います、黒騎士殿、さらばです――ゥ!」
「マズイさマズイさ! なんだか知らない変な魔族に長津田さんが連れ去られちゃうさ!」
「俺がいながら、長津田さんを奪われてしまっては――!」
突然に体の力が抜けた。
「く、カースのソーサリィが尽きたか……こんな時にッ!」
俺は足から崩れ落ちる。
ルア、雄太、ガルナビも地面に倒れこんだ。
「く、な、長津田さん――!」
俺は長津田さんを抱えて立ち去るダルマンの背中に手を伸ばすが、力が残っていない。




