22 チンピラ女子生徒
目的もなく俺は歩き続けた。長津田さんは俺の少しうしろを足音も立てずについてくる。
俺が黒騎士であることをマリアたちに話せないから自分で監視しているのか?
コミンが指示したと言っていたが、コミンが俺の自由を奪う理由はないはずだ。
なぜコミンはアクガリを連れ去ったり、俺に不利な状況を作ろうとする?
これじゃ地下の囚人たちの元へたどり着けないじゃないか。
長津田さんの視線が背中に刺さる。
「――あの人がいなくなり、黒騎士が、……あなたが現れた」
「――!? いきなり何を!? ―――いつか返しますから……待っててください!」
「それに、地下では私に攻撃が当たらないよう戦っていたでしょ……」
「違う! 人質にするためだ!」
「あなたの後ろ姿はあの人に似ています」
長津田さんは俺の腕の腕章を見つめる。
女の子の勘だと言っていた長津田さんは肝心な時に鋭い。
「さ、さっきからなにを言っているのか全然――!」
「あなたは本当は悪い黒騎士じゃないんでしょ? いい人なんでしょ?」
「違う! 俺は魔女の手下だ! ハロをやっつけた黒騎士だ!」
「あなたが人をやっつけるようには見えません!」
「いいや、そんなの思い違いです!」
「そうやってあなたは何かを隠している!」
「――ッ! 俺は牢屋をあけて凶悪な魔族たちを世に解き放つ悪い奴なんです!」
「――なんですって!? どういうこと!?」
しまったッ――!
「さっき花壇で暴れたお化けを、もっと解き放つの!? 約束が違うッ!」
「長津田さん! ――痛ッ!?」
長津田さんが俺に封殺札を投げつけた。
「マリアさんッ! 誰か来てッ! この人が黒騎士です! 制服を着た、悪い人なんですッ!」
「――ッ! 待って!」
「誰かッ! この人を止めて!」
俺は姿を消していたサリスマリスを見る。
「くッ! 頼む!」
「――(こくりゥ)」
サリスマリスは逃げる長津田さんの上着のポケットから封殺札、トウガラシ爆弾を奪い取り、手際よくポケットを空にする。
「――ッ!! ぅ――……! 誰か……誰か……!」
「これ以上叫ぶと牢屋に閉じ込めます! ハロと一緒に隠してしまいます!」
「それがいい! あの人に会わせて! 今すぐ……!」
「――そ、そんなこと言わないでください!」
長津田さんがしゃがみ込み、また泣き出してしまった。
「あの……、学園に帰りましょう――」
「触らないでッ!」
長津田さんは道の真ん中でうずくまっている。
「ぅぅ……返して……」
しばらく長津田さんをどう家に帰そうか考えていると、あいつが生還したようだ。
「……って、ちょっとヤロ、なに泣かしてんだよ――……」
「アクガリ、よく無事だったな……」
「オレのお尻が奪われるかと思って何とか隙を見て逃げてきたら、メガネの女子にひどいことをして……」
道の真ん中に突っ立っているアクガリの髪はボサボサで、制服が乱れている。
「黒騎士オマエ、本当はヴァーサー卿の手下じゃないんじゃ?」
「――そう思わせるような努力はしている」
「悪い奴を演じてるっていうか、根はいい奴なんじゃ……。オレも、オマエが魔女の手下じゃないほうがうれしい……っていうか――」
「アクガリ!」
「――ひ! ――な、なにっ!」
「ヴァーサー・クーラーに会うチャンスが欲しいんだろ? 今晩こそ牢屋を破る! 日が落ちたら、夢見が丘の公園で待ってる!」
「わかったゼ――! 急だけど、すぐに準備をしてくる……」
アクガリは何度も振り返り去っていく。
「ぅ――ぅ……」
●
「予言の女神、金城コミン嬢の志を継ぐ同士たちよ。今こそ正義の光で悪を明らかにしよう」
「聞いての通り、魔女の手先である黒き賊がビグニティの地下の邪悪を解放しようともくろんでいます」
「さらに、罪なき少女の心を惑わし、虐めているのです」
「誇り高きビグニティ男児の私たちには、拳と剛健のみを武器に悪に立ち向かう義務があります。異論はありませんね?」
「おっすッ! 満場一致により、突撃いたす!」
「おっすッ!」
●
夜になり、会社帰りの人が賑わう駅前のスーパーで、俺は買い物カゴに棚にあるだけのそれを放り込む。
それを見てルアと雄太は不思議そうにしている。
「どうしてこんなにたくさんの幼児向けのミルクやおやつを?」
「……先生に聞くさ」
「長津田さんが毎晩帰りが遅くなって、お子さんたちの面倒を見れてないはずだ――俺の責任で……」
「彼女にお土産に持たせるということですね」
スーパーから出ると、サリスマリスと長津田さんが待つ駐車場に向かう。
「――ぅぅ、……どうして……なんで――。早く帰ってきて、助けて……」
長津田さんは泣き止まないが、その手にはしっかりと封殺札を握っている。
「サリスマリス、長津田さんの家まで道案内を」
「――(こくりゥ)」
俺たちの後ろをついて歩く長津田さんのすすり泣く声がずっと聞こえる。
サリスマリスやペッキンコッキンまでも感染した呪いでおかしくなってしまった。
長津田さんの悲しむ姿はこれ以上は耐えられない。
前を歩くルアが足を止める。
「ね、君たち、かわいいね!」
「一緒にボーリングでもどう?」
俺は無視してそいつらの横を通り過ぎ、ルア、雄太、長津田さんも俺に続く。
そいつらは舌打ちしたり、笑ったりしていた。
「あの方たち、夢見が丘学園の生徒でしたね」
「隣のクラスのナンパ野郎だ! 気色悪い――」
後ろからそのうちの男子生徒の1人が俺の腕をつかんできた。
「――なんだ!」
「ね、聞いてるの? そこの黒髪の子! 家まで荷物を運ぶの手伝うよ」
俺は無言で振りほどく。
「ち!」
「ち」
「……は!?」
俺はイライラしていた。
「おい、よせって、こんな夜に叫ばれたら、学校に連絡されるって!」
「――いいから、離せ!」
男子生徒は仲間の制止を聞かず、つっかかってくる。
「ね、メガネの子! なんで泣いてるの? もしかして、あの子にいじめられてたりするわけ? 俺たちと一緒に――」
それを聞いて俺はルアに荷物を預け、振り返り腕まくりする。
「お前らこそ、殴られても女みたいに泣き叫ぶなよ」
男子生徒は笑う。
「なんだこの女!? チンピラみたいじゃないか!」
「そういえば、隣のクラスに似たような勉強できるチンピラがいるな!」
「誰だよ、そんな奴いたか?」
「え?名前は確か――」
「良い子の時間は終わりだ。さっさとおうちに帰れ。お化けに襲われても知らないぞ」
「いけないなそんな乱暴な言葉遣いしちゃ!お化けも怖がってにげちゃうだろ!」
にやけ顔の裏に怒りを見せる男子生徒がスクールバッグを地面に落とし、首を鳴らし俺に向かって歩いてくる。
「せ、先生、よすさ! 以前の先生を知っている同級生さ! 正体がバレたら呪いが伝染するさ!」
「こいつは前にも俺につっかかってきて、泣かせてやった――、大丈夫だ」
俺は雄太が止める手を振り払う。
「それって男のときでしょ!? 今は女子の体格だってこと忘れてないさ!?」
横を見ると、別の男子生徒が長津田さんの手を引いる。
「ねえ、ねえ、悩みを聞いてあげるからさ、俺たちとカラオケいかない? 気分がすかっとするよ?」
俺は長津田さんを強引に誘おうとしたそいつの顔面に一撃を入れてやった。
鼻を抑えて男子生徒が地べたに尻をつく。
そして、拳から腕の付け根まで激痛が走った。思った以上に女子の体はもろかった。
「くっそ! 痛てぇな! ……おいメガネ! お前の顔は知ってんだぞ! 明日学校でこいつらのいるクラスと名前を聞き出してやるからな!」
「なんだと、お前ッ!」
「その辺にしましょう。これは単なるリスクです。何のメリットもない行為です」
俺はルアの忠告を無視して、つっかかってきた男子生徒を睨む。
「サリスマリス、手を出すなよ、風紀を守るため一発殴るだけだ――」
「殴りやがったな不良女め! 泣いても許して――……」
突然に男子生徒が立ち止まると、その驚いた視線は俺たちの遥か頭上に向けられた。
「……なッ!? なんだこいつら!」
「で、でかッ! 気味悪い、着ぐるみか!?」
そう叫んだ男子生徒たちは逃げていった。俺は男子生徒がひるんだ視線の先を見る。
そこには無数の人影のようなものが見えた。
この体が女子だからという理由なのか、その光景に戦慄を覚えた。
俺と雄太は後ずさりする。あろうことかサリスマリスまでもが一歩退いた。
「キャー!」
「長津田さん!? どこに!?」
悲鳴と同時に振り向くが、長津田さんの姿が見えない。
「どうやら彼らは、裏の事情を知っているようですね」




