19 悪党騎士なアクガリ
俺とガルナビと呪われたサリスマリス、ペッキンコッキンで牢屋に急いだ。
俺は黒騎士に変身し、牢屋の扉に立つ。
「サリスマリス、この扉を壊せるか!?」
「――(こくりゥ”)」
うなずいたサリスマリスが攻撃する構えをすると、背後から気配を感じた。
「いいえ、壊させはしないです、黒騎士たち」
戦闘スタイルのマリア、ポポ、クゥが駆け付けていた。
「――くッ! 間に合わなかったか!」
「あれ!? 新手の黒騎士の従魔族たち?すごく汚れたソーサリィなの!」
「ここの呪われた囚人たちを使って、悪さをするつもりですか」
「させにゃぃ! すぐに捕まるぅ!」
マリアたちが俺たちに立ちはだかる。マリアたちは上級従魔族3体を召喚した。
「逃がさないです」
「ガルガルガル! カースな恐ろしさを見せつけてやるガル!」
「――(こくりゥ”)」
「もう今しかチャンスはない! マリアたちを押し返すぞ!」
ガルボロカルホとカース・サリスマリスが激突する。
カースの呪いにより強化されたカース・サリスマリスの刃が、襲い来るガルボロカルホを一撃で打倒した。
マリアがあっけなく倒れるガルボロカルホを冷静に観察する。
「そこの黒騎士の従魔族、なぜガルボロカルホの弱点を知っているです? パルスで加速される前に脚を斬ったです」
「――(こくりゥ”)」
こいつらの正体はサリスマリスとペッキンコッキンだからマリアたちの従魔族の戦いは何度も見ている。
番兵魔族よりも優秀なポポとクゥの上級従魔族のハッフンパッフン、パリクナリクもカース・ペッキンコッキンが繰り出す奇妙な攻撃を受けてひるんで手が出せないでいる。
「もう! 役立たずな従魔族なの!」
自分の部下のハッフンパッフンがあたふたしているのを見てポポがイライラしている。
「こんな手が足りないときに、新人のハロたちはどこで何してるっつーの!」
「ないものねだりしても始まらないです。わたしたちだけで黒騎士を捕らえるです」
「マリィ、ポポ! あっち! あっち! ばかちんたちぃ!」
クゥが楽しそうにはしゃいで指さす先では、どうしてかサリスマリスとペッキンコッキンがどつき合っている。
「――(ゥ”!)」
「ペクソ――ゥ”!」
「おい、何している! ケンカしてる場合か!?」
あろうことか、カース・サリスマリスとカース・ペッキンコッキンが武器を取り出して本気で争い始めた。
止めに掛かったガルナビは混乱した2匹に吹き飛ばされる。
「どうしたんだ!? 2匹とも、どうして言うことを聞かない!?」
「グシシ! ゲハハ! ブヒヒ!」
サリスマリスとペッキンコッキンの頭上の赤い呪いは、七色に変色し、せわしなく喜怒哀楽の表情に切り替えては狂気じみている。
「強すぎるカースの呪いで狂乱しているガルね! 慣れないお嬢さまの力の大きさに理性を失っているガル!」
「く、お前ら、俺の声を聞け! 敵はあっちだ!」
「そうだガルよ! って、あれ? ……ガルぅ……!?」
「グシシ! ゲハハ! ブヒヒ!」
同じくガルナビの頭にも赤い呪いが現れた。
「え!? お前の呪いも変になってる!? 変な風になってるぞ!?」
「ガルぅ――ゥ”? ガルまで、狂乱に!?」
「――(ゥ”!)」
「ペクソッ――ゥ”!」
「なんか知らないけど、黒騎士の従魔族たち、仲間割れしてるなの!」
「これはらっきぃ!」
「今がチャンスです。あの黒騎士を捕まえるです」
マリアたちが俺を目掛けて襲い掛かってくる。
「旦那ぁ、狂っちゃったガルたちを置いて逃げるガルぅ~――ゥ」
「ダメだ! お前らが捕まってもマリアたちが呪われる!」
俺が懐のトウガラシ爆弾の数を数えていると、聞き覚えのある声が聞こえる。
「そこをどくんだゼッ! 黒騎士!」
「――何者です!?」
「ア、アクガリ!?」
軽やかに天井や壁面を蹴りながら登場したアクガリは俺の頭上を通り過ぎる。
「これで正気に戻れってのッ!」
アクガリが混乱しているサリスマリス、ペッキンコッキンの頭に斧を振り下ろした。
「――(ゥ!?)」
「――ペコ!?」
すると頭上の赤い呪いの狂乱が鎮まったようで、サリスマリスがツメをひっこめ、ペッキンコッキンは斧をしまい、仲間割れを辞めた。
「呪いの混乱が解けた!?」
そのまま空中で一回転して俺の隣に着地したアクガリは黒騎士のような漆黒の甲冑をまとって武装している。
「カースの力に心を許したらダメ! オレが相手になってやるんだゼ!」
「あの騎士はアクガリ!? アクガリ、助けに来てくれたですか?」
「ごめんだゼ、マリア。実はオレ、悪党になったんだゼ! 黒騎士の仲間、ヴァーサー卿の手下だゼ!」
「何を言っているです、アクガリ。そこの黒騎士を捕まえるです」
「アクガリ、あんた―――マリアと友達……?」
一瞬体をびくつかせたアクガリは俺の声を無視した。
「そ、それより、このメガネ女子は生徒会か?」
「は、離して! やめて!」
以前、アクガリを乗せていた鳥のような魔族が、暴れる長津田さんを口にくわえていた。
「ここに来る途中でソウルにいじめられていたから、助けたんだゼ?」
「おい、長津田さんに乱暴するな! いや、重要な秘密を知ってるからそのまま――」
「あっ! すごい汚いこと思いついたゼ!」
アクガリが翼の魔族に聞き取れない言語で命令する。
「キャっ! 何するんです!」
「この女子は人質にするんだゼ! 空高く連れてけ、スカイズバイ!」
「――いつの間にです!」
「涼子っちが人質になってるの!?」
「ちょう卑怯ぅ! ぶーぅ!」
翼の魔族が長津田さんを連れ去ってしまった。
「アクガリ、一体何のつもりです」
「黒騎士め、ヒキョウなの!」
「ぶぅ! ぶぅ!」
「へ、えへへへ……!」
アクガリはブーイングを受け、表情をゆがめながらも、慣れないように胸を張る。
「あの人質を返して欲しけれ、従魔族たちを引っ込めろ!」
「……言う通りにするです」
「で、でも!」
「生徒の安全が最優先です」
カース・サリスマリス、カース・ペッキンコッキンが、ガルボロカルホたち従魔族を追い払う。
「ごめんあそばせ、みなさん! シャリスアイル、足止めを」
突然現れたスレイが、引き連れた部下の従魔族に指示した。その魔族がツメを振り上げると、岩を砕き、マリアたちの道をふさいだ。
「よし! 黒騎士、いったん逃げるんだゼ! こっち!」
「す、すまない! 助かる!」
瓦礫の向こう側からマリアたちの声が聞こえる。
「待つなの! 逃げるなっつーの!」
「深追いは禁物、学園に帰還するです」
「……むぅ!」
●
「――ぅぅ」
「ペクソ――ゥ”!」
カースになったペッキンコッキンが人質になっている長津田さんに威嚇している。
「ペッキンコッキン、やめないか! 怖がっているだろ!」
「黒騎士……、オレが信用できなかったから、約束をすっぽかして先に行ってしまったんだな? でもこれでオレが悪い奴だって信じるだろ!?」
「マリアと知り合いだったんだな、アクガリ」
「――ぎくっ!」
アクガリは顔をゆがませる。
「ソォスィン国を守る騎士がなんでクーラーの仲間に?」
「オレがマリアたちを騙してるだけだゼ! そう、大嘘つきがオレの正体なんだゼ! どうだ尊敬したか悪党め!」
「……あ、まあ。マリアたちを本気で攻撃していたことは間違いないし……。アクガリが来なければ今頃マリアに捕まって俺は牢屋の中だった。助かった、ありがとよ」
「――うっせアホ……」
「――(ゥ”)」
「――ぺクソゥ”」
「呪いが伝染したこの2匹がいつまた暴れ出すか……、やっぱりアクガリの助けが必要だ」
「……え? こいつらまでカースな呪いに狂って、それでもまだ牢破りを? 諦めろ、無理なんだぜ!」
「ヴァーサー・クーラーの命令は絶対なんだ。逆らうと後でどんなことされるかわかったもんじゃない……」
「――ヤロ……」
「仕方ないんだ、悪いことだとわかってるが――」
「もしかして、オマエ、いやいや引き受けているのか? ――魔女に脅されてるのか?」
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遅い――ゥ”
女神さまはまだか――ゥ”
本当にヴァーサー・クーラー様の救いはあるのか――ゥ”
予言では救世主は今日という下弦の月を見るまでに我々を解放するはず―――”ゥ
しかし遅い―――! 我々もこれ以上は待てない――ゥ”!
女神の導きに背き、本懐をなすしかない――ゥ”!
美しき者を生贄にして、愛無き儀式を執り行うしかない――ゥ”!




