18 VSサリスマリス
俺はツメの先端を見て戦慄を覚える。
「それはダメ! ツメの子!」
長津田さんの叫びで油断したサリスマリスと俺の間にまたシールドが発生した。
「ケセラセラ!」
「むっつりめ、あっち行けだガル!」
さらにガルナビの火炎がサリスマリスを包んだ。俺はソウルのシールドに守られ、巻き込まれずに済んだ。
「ソウルのクセになかなかやるガルね……」
「セラセラ!」
サリスマリスは力尽きたようで、火炎が消えると手のひらサイズに収縮していた。
長津田さんの周囲には疲弊しきった魔族たちしかいない。
「ぺぺぺ……えぽけ……」
「み、みんな!」
番兵は地面で倒れこみ、ペッキンコッキンとサリスマリスは肩で息をしている。
「ありがとう、もう頑張らないで――! ごめんね、痛かったでしょ……」
俺を横に長津田さんは傷ついた魔族たちを治療をしている。
「ガ~ルガルガル! むっつりめ、カースなガルの力、思い知ったガルか!?」
「ケセラセラッ! オーウェイ!」
ガルナビとソウルは無抵抗となったサリスマリスや番兵にメンチ切っている。
「ガルナビ、ソウル、もういい! 降参した相手に手を出すな――」
ガルナビは勝ち誇った顔をサリスマリスに今一度見せつけ、俺のもとへ戻ってきた。
「ね、楽勝だガルよ!? 番兵やメス娘たちが束になってもムダだガル!」
「まさか、長津田さんが魔法を使えるようになっていたなんて……。一体どうして長津田さんにソーサリィが……」
「日ごろのお嬢さまの愛のまさぐりでメス娘にソーサリィが芽萌したガルね!」
「――コミンが!? また変な呪いを長津田さんに!?」
「……あの」
長津田さんが俺に声をかける。
「長津田さん、おケガは? すぐに地上へ戻ってください――」
「わたしはどうなってもいいから、この子たちだけは逃がしてくれませんか?」
「旦那、あの娘、自分のパンツがどうされてもいいって言ってるガル!」
「――なッ! そんなこと言ってないだろッ!」
「旦那! 鼻血ブーしてるガル! 大丈夫ガルか!?」
「な、なんでもない! かまうな!」
「私が協力をお願いしたのです、この子たちの計画じゃありません――」
「どうでもいいけど、旦那、早く牢屋を開けるガルね……、カースが疲れたガル。ふぁー、思い出した、ちょうどお昼寝の時間だガル――」
黒騎士なガルナビは地面に寝っ転がる。
「長津田さん、学園を危険にはしません。だからそこをどいてください! ここは危ない場所になる!」
「何が目的なんです?」
「あー、それにしてもニンゲンの体は慣れないガルね……」
黒騎士姿のガルナビが女子高生の姿に戻る。
「ふぅ……旦那、5時間だけ休憩だガル! 囚人解放したら、起こしてほしいガル――」
「って、お、おいバカ! 何してる! ここで変身から戻るな!」
長津田さんの視線がガルナビに向けられる。
「――え」
「な、長津田さん! み、見ないでください!」
俺は長津田さんからガルナビの姿を遮る。とはいっても手遅れだった。
「……え? え?」
「おいッ! 黒騎士に戻れって――ぅ」
全身から力が抜けて、胸が痛みだした。
「胸が……! こんなときに―――ッ!」
俺も長津田さんの目の前で女子高生の姿に戻ってしまった。
「……う……そ……でしょ……」
「―――! これは……深いわけが……うぐっ……」
長津田さんは同じ生徒会の顔見知りの女子生徒が黒騎士であることを知る。
「……その――これは……」
長津田さんは表情を固定して、何も言わずに絶句している。
俺は宙に浮かんでトウガラシ爆弾で遊んでいるソウルに近寄る。
「――ソウル、頼みがある。長津田さんを連れて安全な地上へ。無理やりにでも……」
「ケセラセラ! ラジャ!」
うなずいたソウルは棒立ちする長津田さんの制服の袖に噛みつき、引っ張る。そして長津田さんは突然に叫ぶ。
「……ひ、ひどい! あなたたち、生徒会のふりをして! 仲良くするふりして! お友達のふりして! 一緒にご飯までして! それで黒騎士だったの!?」
「すみません――」
「すぐにマリアさんたち騎士を呼んできますよ! だから悪いことはやめてください! ソウルちゃん、離してッ!」
長津田さんはそう叫びながらソウルに引っ張られて地上で戻っていく。
「ウソ! ――そんな……! あなたたちが黒騎士!? 生徒会に黒騎士!? どうしてみんなを困らそうとするの! あの人を返して! ねってば!」
俺は長津田さんの声を聞かないようにした。
ガルナビが俺の隣でつぶやく。
「旦那、バレちゃしかたないガルね」
「……あ、ああ」
「旦那もそろそろわかるガルね。お嬢さまの愛があればソーサリィが芽生えるし、ありがたいお声が耳を通ればあの能無しソウルが人助けするようになるガル!」
「できれば長津田さんのような正義を助けるように教育してもらいたいな」
「よ、よ~し、このまま牢屋に突撃だガル……って、ペッキンとむっつり!?」
戦意喪失していたサリスマリスとペッキンコッキンが立ち上がっていた。
「――(ギロリ)」
「ペクソッ!」
「サリスマリス!? ペッキンコッキン!?」
「ガル!? まだやるかサリスマリスの野郎! 負けたヤツは帰るガル!」
「――(ぶんぶん)」
「――ペコン! ペッ!」
再び戦意を取り戻し、武器を構えた2匹に、ガルナビが後ずさりする。
制服姿の俺たちにはソーサリィで戦うことはできない。
「カースも消耗して、それに時間もない! マリアたちが来る前に、サリスマリスたちには悪いが力ずくで通り抜けるぞ!」
俺は封殺札を2匹に投げつけ直撃させる。
「――(斬ル)」
「ペッ! ペッ!」
しかし、2匹は痺れる体を振りほどくように、突進を仕掛けてくる。
「サリスマリス、ペッキンコッキン! しつこいぞ! どくんだ! ――くそッ!」
ガルナビはペッキンコッキンの体当たりで吹き飛ばされる。
「い、痛いガル!」
「――ッ!」
サリスマリスはまた俺ののど元にツメを突きつける。サリスマリスの死角から封殺札を取り出すが、ツメに切り裂かれてゴミにされてしまう。
「――くッ!?」
俺は手を上げ、武器を捨てる。サリスマリスはハロの仇である俺を鋭くにらみつける。
「サリスマリスの野郎! やめるガル!」
「――(ギロリ)」
「何してる旦那! 黒騎士で反撃するガルよ!」
「こいつらと戦っていたらマリアたちに追いつかれる! もう黒騎士の力を消耗できない! ――これしかない!」
俺はサリスマリスを睨み返す。
「サリスマリス! ペッキンコッキン、聞け!」
「ガル?」
「――俺はハロだ!」
「――(びくッ!)」
「ぺッ!? ハロ!?」
それを聞いて2匹の魔族は動揺した。
「そう、お前たちの知っているハロが、俺なんだ!」
サリスマリスとペッキンコッキンの頭上に赤い呪いが現れる。
「グシシ!」
「ガル!? 旦那、カースな呪いがうつるガルよ! カースの呪いに憑りつかれるガル!」
「クーラーの命令で地下の囚人を解放している! ハロに戻してもらうために!」
「――ゥ”」
「――ペゥ”」
「グシシシシ!」
サリスマリスとペッキンコッキンの体が赤みがかってくる。顔に濃い影がかかり、いかにも凶悪な魔族のような雰囲気に変化した。
「……あーあ、カースになっちゃったガル!」
今までの青っぽい外見のサリスマリスは、真っ赤な衣装に変わった。そして、俺に突きつけたツメを降ろす。
「今まで黙ってすまない――」
「――(こくりゥ”)」
「ペクソンゥ”!」
カースになったサリスマリスが、俺に抱き着いてきた。
「――(こくりゥ”、こくりゥ”)」
「ああ、心配かけてすまない。全て終わらせて元の姿に戻ろう。――ところで、サリスマリス、そのツメが当たって痛いんだが」




