6 歯を食いしばって、突くわよ!
そして巨大な化け物は目を見開き、俺にのしかかるようにとびかかってきた。
「み、見逃してくれ! 俺は何もしちゃいないッ!」
「――伏セロ」
「なッ!?」
蒸発したはずの少女が俺を目掛けて放った衝撃波を、化け物が俺に覆いかぶさるようにして守ってくれたようだ。
「――逃ゲ……ロ……」
そうしゃべった化け物は仰向けに倒れて動かなくなった。
何事もなかったかのように少女は再び俺に指を向けて電撃を集めている。さっきの衝撃波を再び放とうとしている。
俺に向けてだ。
「――やめろ!」
俺は背を向け駆け出す。
すると、別の巨大な化け物が少女の背後を取った。
顎を蹴り上げられのけぞり、そのまま腹を槍で切られた化け物は地響きを立てて崩れ落ちた。少女は槍を大きく振り払い、倒れた2体の巨大な化け物を見下ろす。
そして、少女の横にうっすらと影が現れる。
「お見事です、ヴァーサー・クーラーさま。そして、心より祝福を申し上げます」
何もない空間から巨大な銅像のような化け物が現れて、少女に背後から話しかけている。
「ワタクシどもが何千年もかけてここから退くよう口説いてきたのですが、まさかあのニンゲンの一言でこうも頑固な結界が絶望に堕すとは驚きです。これで神殿学園も卿の手中です」
銅像のような化け物は崩壊したモニュメント像を見る。手下のような様子でその少女にもくもくと説明を続けていた。
やがて少女はその手下を無視して、槍を携え俺の方へ歩み寄ってきた。
俺はその場で力なくそいつの無表情な顔と、物騒な槍を見上げる。
「お、俺はあの化け物の仲間じゃない……」
そいつは俺の顔を見て嬉しそうな顔を見せる。
「学園の自由を束縛する結界は、アナタのホオズキの毒より醜悪な疑いの呪文で、身ごもった魔力が消滅し論破された―――」
その声を聞いて思い出した。
地下で耳にした女のささやき声と同じだった。
「わ、わかった! あのときだな!? 地下でお前らを悪く言ったことは謝る! 俺がどうかしていた! だから見逃してくれ、頼む!」
俺は地面に向かって謝罪を叫んだ。
「顔を上げなさい」
「すまなかった、だから――ぃぐッ!? ぐあああああぁぁッ!」
少女は顔色を変えずに、俺の脚に槍を突き立てる。そしてそのまま槍をぐりぐりと動かし始める。
「痛ッ! な、何で! どうして突き刺すッ! 俺は何もしちゃいないッ!」
「いいえ、アタシが送った素敵な呪文を心から読み上げてくれたアナタに、感謝のカタチよ」
「これが感謝!? なら今すぐやめてくれッ! 抜いてくれ!」
乱暴に槍が引っこ抜かれる。俺は壁にへばりつく。
「……ぐッ! な、何でこんなことを――ッ、うぐぁっ――ッ!!!」
俺の腹から槍の先端が飛び出した。
「ヒドい世界になったものね。他人を信じなければ、自分の抱えていた夢さえも偽ろうとする」
「……うぐっ!」
再び乱暴に腹から槍が引き抜かれる。
「自分の理想が現実に反しているとかたくなに拒絶するその心は邪魔ね。どうすれば幸せになれるか、その体に教えてあげるわ」
2度もヤリを受け、仰向けに倒れた俺に、逃げ出る力はどこにもなかった。
少女は槍を、今度は両手で握り直し、俺の上に振り上げた。
そして、俺の顔に狙いを定める。
「ちょ、ちょっと待ってくれ……よせ――、し、死にたくない・・ッ」
「そう! それよ!」
少女から笑顔が消え、怒りの表情が張り付いた。
「どうして! なぜ人は不幸よりも、見ず知らずの死を恐れるの?」
「し、知らない! わからない! もうやめてくれ! たぶん俺は人違いだって!」
「エスノセントリズムね! けしからないわ!」
少女は再び槍を振り上げる。
「すまなかったって! だからっ!」
「なんですって!? このイオマンテは残酷な祭りではない、奇抜すぎるだけよ! 受け入れなさい!」
「何を言っているかわからない! 地下のことは謝るッ! 出来心だったんだ――ぅぅ!」
「どうして泣くの? 新しい自分へと導いてあげるのに」
俺は首をふり、涙を流して懇願した。
「――何でも言うこと聞くから! 命だけは……ぅぅ」
少女はぴくりと眉を動かした。
「え……? ――何でも?」
そして少し考え、槍を持つ手をおろした。
「――そ、そう、な、何でも聞く! だから命だけは!」
少女は首をかしげ、槍を放り投げた。
そして俺の正面でしゃがむ。
白く細い指先で俺のほほをゆっくり、じっくりなぞる。
「……愛の下僕になる?」
俺はわけがわからず、震えてうなずいた。
「この世界のすべての悲しみ、苦しみ、堕落を論破して、本物しかない新世界を導く覚悟はある?」
俺はこの場が許されるならと何度もうなずいた。
「そう、決まりね!」
少女はうれしそうな声を出し、片足で蹴って俺をひっくり返す。
「うぐッ……!」
「まずお腹の奥にしがみついているその本音をえぐりだして、フィシス教徒の入信書に同意させるわ!」
そう叫んだ少女は、俺の胸へ細い指を突き刺した。
「うげあッ! 何を!?」
突き出された指はじっくりと腹に沈んでいく。
「――ぅ”、な、――何を、あがッ――!」
少女は楽しそうに俺の腹をかき混ぜ始める。
「本音はどこにいるのかなぁ? ……ん? ――あ! いたいた!」
心臓の鼓動が悲鳴を上げるように、波打ち始める。
「――ゥッ、ぐあァァァァ!!」
「歯を食いしばって、いくわよ……!」
「そ、それはよせッ――! きっとダメなやつだッ!だ、だのむッ!」
少女は笑顔のまま、何かをつかんで、引っこ抜く。
「や、やめ――ッ、ぐぎゃああああぁぁぁぁああああ!!!」
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【作者つぶやき】グギャアアアアア。




