13 クゥとポポ
廊下でルアと雄太が俺に続けた。
「先生のこと、みんな心配しているみたいさね……」
「辛いお気持ちはわかります。しかし、騎士のみなさんに接触することはできる限り避けなければなりません。万が一、これ以上呪いを広めればさらなる負担を彼女たちに背負わせることになります」
「俺が心配してるって! なんでだ? マリアたちは訓練された騎士だ、何も心配いらない! 俺がいなくたってうまくやっていけるだろ! 余計なお世話だ!」
俺は2人を避けるように廊下を進む。
「……監視の目がある中で、どうやって地下へ向かうつもりで?」
「俺に任せろ。騎士は普段はただの女子高生だ、考えがある――」
ルアは任せますと言い、生徒会室に戻る。
俺と雄太が学園の休憩広場のベンチで腰掛けてコーヒーで一服していた。
そこに、よちよちと現われたそいつは自動販売機の前で指をくわえて首を右へ左へ動かして、どれにしようか狙いを定めていた。
これがこいつの日課だ。
「――ぅぅ」
そして、そいつはしばらくそうしていた。
「――ぅ? ぅ? ぅ?」
立ち上がる俺を雄太の手が伸びて止める。
「先生、何する気さ?」
「他の騎士に比べたら俺を疑っていないようだし、まずはこいつから仲良くして、警戒を解かせてみる」
「ルアから止められてるさ! 先生……!」
俺は雄太をベンチに残して、そいつに近寄る。
「――どうしたんだ? クゥ」
「ハロー! 新しい……ハロ……新しい……」
突如落ち込み始めたクゥを見て、俺は財布を取り出す。
「どれでも、好きなの選べよ!」
クゥの横から自販機に紙幣を飲み込ませる。
「そうだ、マリアたちの分も買ってくといい!」
しかし、いきなりクゥはぎょっとした。
自販機の下から突如現われた生徒魔族の中でも曲者で番長なペッキンコッキンは不気味な笑みを浮かべる。
「ペペペーッ!」
「屁っ菌!? 汚いまじょく!?」
「ペコキ!」
ペッキンコッキンはクゥを脅かすと、勝手に自販機に指を突き出した。
「ペ~ッ、ペッペッペッペッペッペッペッペッ!」
クゥは唖然として見届けるだけだ。すると望まない大量のおしるこが自販機の取りだし口を詰まらせた。
「――にゃ、にゃにするだ!」
クゥの苦い顔を見たペッキンコッキンはむっつりとした笑みで校舎の影に消えていく。
クゥは出てきたおしるこを熱そうに手先だけで持ちあげ、見つめる。
「あちち! ――ハロぅ、ありがとぅ……」
クゥはちょんとお辞儀をして、大量のおしるこを抱え、よちよちと生徒会室の方へ帰って行く。
財布の中を見たが空だった。遠くで雄太も肩をすくめる。
「生徒魔族たちはマリアが本調子でないと、騎士にまでいたずらをするのか……」
「じぃ……」
気が付くと、物陰からポポが俺を凝視していた。クゥがポポに近づく。
「あ、ポポ? おしるこあげるぅ!」
「なにそれ!? ひどい! 新しいハロに!? クゥ、それいじめられているっつーのッ!」
ポポは俺をにらむ。俺は首を振る。
ポポが俺の正面に走ってきて、大きくほほを膨らます。
「だから違うって……」
「ウチのクゥを泣かせると、会長さんが許さないなの!」
「泣いてないだろ」
「ソッチが何考えているか知らないけど、会長さんと生徒たちはウチのバリアで守りきるなの!」
「俺が何か悪いことしたか?」
「おしるこーッ!」
ポポは背伸びしてほほを膨らます。
「……それに、ほんっと怪しいつーの!」
「ペーぺッ!」
再びペッキンコッキンが現われる。
「ぺ、ペッキンコッキン!? き、汚い魔族がウチになんのようなの! それ以上近寄るとマリィを呼ぶなの!」
ガルナビが好きそうな黒光りするムシをペッキンコッキンはポポに見せびらかす。
「ペッ! ペクソ!」
「な、な、な、なの! それ、醜いゴキムシなの!」
「ペッ! ペッ!」
「や、やめるなの! そんな汚いの、どうするつもりなの!?」
「ペッ! ペッ! ペッ!」
「や、やめるなの! 触ったら呪われるなの! 怖いなの!」
怖がる小学生の女の子をいじめて反応を楽しむようにペッキンコッキンはポポに黒光りするムシをくっつけようとする。
「――はぅぅ!」
ポポはベンチの下にすべり込み震えだした。
「おい、ペッキン、やめ――」
「グシシ!」
「――ペ?」
赤い呪いのハートが現れ、ペッキンコッキンの握る手ごとムシに食らいつく。
「グシシッ!」
「ぺッ!? えぽけーッ!」
見えない何かにムシを手ごと食われたペッキンコッキンは悲鳴を上げて地面の中へ逃げた。
赤い呪いはムシを飲み込むと、ペッキンコッキンの手だけ燃えるゴミの中へ吐き出す。
そして自動販売機の中に入り込んで、中で暴れだした。すると、取り出し口から冷えたジュースがあふれ出した。
すると物陰から俺を見守っていたクゥが嬉しそうに飛び出してきた。
「あ、ジュース! これ、ぜんぶクゥにくれるぅ!?」
「あ、ああ、そうだな! おしるこは置いて、このジュースを持っていけよ!」
「新しいハロー、ありがとぅ!」
そして、ベンチの下でうずくまっているポポの頬に冷えたジュースをくっつける。
「ぎゃあああ! もうなんなの! あっちいけなの! 汚い魔族!」
不本意そうに口をへの字にしたポポは俺からジュースを奪い取る。
クゥとポポはベンチに座っていた雄太をしっしと追い払うと、ジュースを開ける。
「うまく騎士に気に入られたみたいさね、先生――」
「こういうことを続けて地道に警戒を解かせるしかない」
「グシシ!」
「――な、なんだよ!」
初めて役に立った赤い呪いは俺に買い物袋を差し出す。恐る恐る受け取ると、中にはケーキやプリンやジュースが見える。
「グシシ!」
「……これをどうしろと? ……ってか購買部から盗んできたんだろ、返してこい!」
「あー!おいしそうなの! よこせなのー!」
「あ、プリン! それ、ぜんぶクゥにくれるぅ!?」
ポポとクゥが嬉しそうに駆け寄って来た。俺は頭を抱える。
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「あの女子高生たちが黒騎士に変身する瞬間を、確かにオレは見みちゃったんだゼ!」
「それであの女子生徒たちがヴァーサー卿の仲間であると?」
「マリアたちと同等に戦えるなんて恐ろしいソーサリィな黒騎士なんだゼ! ヴァーサー卿と黒騎士を倒して、狂わされた母国ソォスィンの仲間たちの敵をとってやるんだゼ!」
「しかしどうやって黒騎士の方に近寄るのですか?」
「そしてヴァーサー卿の弱点を吐かせて、フィシスの奴らを根こそぎこらしめるんだゼ!」




