12 クゥ、泣いちゃダメです
マリアたちが俺たちを生徒会室に招き入れた。
「お邪魔します――」
「ハロたち、ここで長旅の疲れを癒すです」
「ちなみにー!」
突然にポポが俺たちに向けたように叫ぶ。
「生徒会室は強力な結界で守られてるから、外側からも、内側から、内側からもッ!邪悪なソーサリィは無効なのッ!」
「そぉ! 誰もここでは悪さはできなぃ!」
「それは、安心だな――」
マリアたちは生徒会室を出ていく。
「……黒騎士を探してくるです」
その後、俺たちはソファーの倒れ込み、しばらくうつむいて沈黙していた。
「――ルア、さっきのサリスマリスがマリアに送った手紙だが、あんな便利なことできるならなぜ最初からそうしなかったんだ?」
「ルアは教会とずぶずぶさ、なんでもできるじゃんさ!」
「……ええ、まあ」
「危機を切り抜けたっていうのに、なんでそんな顔する?」
女子になったルアの表情は暗い。男の時のルアのように、書棚にもたれかかり書類を眺める顔は憂いある美少女だった。
「……何か問題でもあるのか?」
「新しいハロが就任する……。この通達を教会から送らせるために、教会裏庭の幹部や危険な人物たちに多くカシを作ってしまいました。いずれ、莫大な見返りが必要でしょう」
「そ、そうなの?」
「仕方がありません。クーラーさん相手に手ぬるい手段では平和を守れませんからね」
「しかし、お前のおかげで生徒会にまでなることができた。ありがとよ」
「ええ」
「その莫大な見返り、俺も何か手伝えることがあるか? 世界を守るためだなんだってする」
●
「でもマリィ! もしかしたら、黒騎士かもなの!」
「――(こくり)」
「敵を逃がすどころか生徒会に受け入れるつもりなの!?」
「――(こくり、こくり)」
「ポポ、クゥ、気持ちはわかるです。しかしソーサリィ診断でもビグニティ教会の正式なハロのソーサリィであるという判定が出ているです。黒騎士ではないです」
「でもソーサリィの心音を聞いただけなの!ちゃんと診断すれば、黒騎士のソーサリィかもなの!」
「あやしぃ! 信じられにゃい! もう一回調べるぅ!」
「わだかまりや疚しさで心を曇らせ他人を疑うようになってしまっては騎士として学園を守ることはできないです。騎士の最大の敵は心の汚れです。さもなくば黒騎士のように邪悪なソーサリィへ堕ちてしまうです。この辛い現実も受け入れるです」
「じゃあ裏切りハロは、本当にパーティでやられちゃったの――?」
「――、騎士たるもの、弱者は堕されてしまうです」
「ぅぅ……」
「クゥ、泣いちゃダメです」
●
俺と雄太はある場所を目指して廊下を歩いている。
「新しい生徒会のメンバーとして受け入れられたはいいが、疑われているに違いない」
「でも、あの手紙で先生を本物のハロだって納得したんじゃ?」
「そうだと信じたいんだが、その証拠に――、見て見ろ……」
「――(じぃ)」
振り向くと廊下の曲がり角から、不気味な仮面がこちらを見ている。
「いつでも物陰からサリスマリスが目を光らせ黒騎士容疑な俺を監視しているんだ。あれからずっと……」
「げ、マジさ……」
「また地下に行こうとすれば、黒騎士であることは簡単にばれて、斬り付けてくるかもしれない……」
「八方ふさがりさ……せっかく女の子の姿でごまかせてたのに!」
「牢屋にたどり着けず、この行き詰った状況を見ればコミンもあきらめるか、助け舟を出さざる負えないだろう」
「でも、あの魔女に話が通じるかな?」
到着した生徒会室の扉に”恋煩いな相談室♪”と書かれたカードが垂れさがっている。
「廊下まですごい行列、みんな女子ばっかりさ……」
列の端っこの女子が”最後尾はココ、只今60分待ち♪”と書かれたプラカードを持っている。
「間違いない――! コミンがいる!」
列に割り込み生徒会室に入ろうとすると列から手が伸びる。女子生徒が俺の袖を掴んできた。
「ちょっと! 順番待ちが見えないの!? ズル抜かしよ!」
「生徒会だ!」
俺は生徒会役員の腕章を取り出し、生徒たちに堂々と権力を見せつける。
雄太を廊下に残し、教室に入るとコミンがいた。コミンに向き合った対面に女子生徒が座っている。
「きっと貴方は幸せになれるわ! 自信を持つことから始めることね!勇気を出すのよ!」
「私、もう一度頑張ってみます! 会長さん、いつも相談に乗ってくれてありがとうございます!」
悩みが解消されたのか、女子生徒は涙を流しながらも笑顔に満ち足りた表情で部屋を出ていく。金城コミンが女子生徒に手をふる。
……相談?
……俺がこんな状況なのに、のんきなもんだ。
「素敵! この学園にも愛のセオリーが広まってきたわ! ……はい、次の女の子!」
俺はその女子生徒が退室したらすぐ扉に鍵をかけ、次の女の子の入室を阻止した。
金城コミンは俺の顔を見て、目を細める。
「……アナタさっき相談してあげたでしょ、しつこいわよ」
「悩みがある! 絶望的な悩みが! 知ってるだろ!? もし知らないなら聞きたくないか!?」
俺はなるべく強い口調で宣言したが、金城コミンもそれ以上に重い口調で返した。
「――ここでそんな話はやめなさい」
「いいやコミン聞いてくれ! 地下への道が封鎖された! 校舎ではいつもサリスマリスに監視されてる! ポポ、クゥは偽物と疑ってる! 黒騎士になれば結界で捕まる! どうだ!? もうどうにもなら―――」
机をぶったたいた金城コミンが指を横につまむと、俺の舌が固まった。
「は、はひふるッ!?」
マリア、ポポ、クゥ、サリスマリスが室内の俺の様子を監視していた。
「じぃ……」
「ぅぅ……」
「……」
「……(ギロリ)」
マリアたち、そしてサリスマリスから勘ぐってますと言いたげな視線が俺に向けられていた。
「女の子のおしゃべりは災いのもと、気をつけなさい」
背後のマリアたちの盗み聞きに気が付いていたのだろう、金城コミンは俺に忠告した。俺がうなずくと、この舌は許された。
教室の扉が開けられると弱々しい表情の女子生徒が入ってくる。
「――こんにちは」
「な、ながつ……――」
長津田さんを護衛しているサリスマリスは俺を警戒するように睨みつけてくる。
長津田さんは俺に会釈をした。俺も会釈した。
「――これからは同じ生徒会として、よろしくお願いしますね」
目を見ない長津田さんの態度はよそよそしさを感じる。
ハロと入れ替わりでいきなり現れて生徒会になった奴なんてそれは警戒して当然だ。
そしてマリアたちも部屋に入ってくると、いつの間にかコミンの姿が消えていた。
マリアたちは俺を警戒しながら、日々の事務処理を始めた。
「今日も会長宛ての手紙がこんなに来ているなの」
ポポはドアに埋め込まれているポストの中に詰まった手紙をすくい出しテーブルの上に散乱させる。
「恋愛の相談、夢見ヶ丘怪奇現象の悩み、ほとんどは女子生徒のものです。ハートのシールで封がされているです」
マリアは俺に生徒会の業務の説明を始める。もちろんその内容は全て把握している。俺はうなずくだけだ。
クゥは『本日の相談は終了しました』と書かれたプレートを生徒会室の扉にひっかける。
「――生徒会騎士の任務は学園の生徒の心の平和、そして生徒会長の金城コミンさんの護衛です。夢見ヶ丘にはびこる凶暴な魔族から人間を守るです。例え自分を犠牲にしても――犠牲にしても――」
「――ぅぅ……」
「う、裏切りエリートなハロはきっと帰ってくるなの! そしてヴァーサー・クーラーに協力した罪を白状させて牢屋にぶち込むなの! 心配する必要なんてないの! ――ってマリッ!?」
突然マリアが持っていた花瓶を落として割った。花が無造作に散らばり、水が床を這って広がる。
長津田さんがマリアに駆け寄る。
「マリアさん! 大丈夫ですか!?」
「会長さんが言っているです。常にきれいな心にするためには疑いや怒りは追い出さなければならない――。生徒会室をキレイにしておけばいつかハロも帰ってくるです」
マリアは小さくしゃがみ、散らばった花瓶のかけらを拾い集める。
「マリィ……」
「まりぃ、元気だすぅ」
「――せ、先生、こんなところにいたさ?」
「――行きましょう」
雄太とルアが俺を生徒会室の外へ誘う。俺は生徒会室を後にした。
「――大丈夫、きっと帰ってきますから」
「それまで、わたしが、2人分、頑張るです――」




