11 新しいハロ、誕生
校舎裏から地下への道が続いていた。
ガルナビの案内で、地下通路の行き止まりまで歩いてやってきた。
「本当にこの先に囚人の待つ牢屋があるのか?」
「結界に触れないようにご注意を。騎士や番兵魔族に察知されます」
ガルナビが行き止まりで秘密の扉とやらを手探りしている。
「ガルナビ早くしろ! こんなところでマリアに見つかったら終わりだ。何も言い逃れできない! それにカースの力はまだ休憩中だ!」
「えっと、この辺だったガルかな? 開けゴマッ! ……あれ? どうしたガル、開かないガル?」
「呪文が間違ってるんじゃないのか!? しっかりしてくれ!」
「ここで合言葉を言うと牢屋への隠し扉が開くはずガル! 合言葉が違ったガルかな? あッ、開け~鬼門ッ! ……開け~神殿ッ!……あれ?」
「先生、諦めて戻るさ!?」
むきになったガルナビは結界に噛みつく。
「ち! 扉の分際でこの最強なガルを! ガルを馬鹿にするなガル!」
「おい、何してる!」
「こうなれば力づくが一番手っ取り早いガルね!」
結界が火花を散らしている。
「ちょっと待て、それはやめろ! 離れろって、落ち着け!」
「魔族め、結界が騎士を呼ぶさ!?」
俺と雄太はガルナビを取り押さえようとするが、同じくらいの体格になっているその魔族を止められない。
「消えるガル! こざかしい難聴な扉め! ガルガルガル!」
「やめッ! ――ぐあッ!」
ガルナビが噛みつく結界が爆発して、激しい閃光をまき散らす。
「結界が反応しました、番兵魔族が来ますよ」
ルアがのほほんとした様子で言った。
「ガル!? どうしたんだガル!?」
「暴れるとマリアたちに気付かれるっていい加減に学習できないのか!?」
ガルナビを引っ張り道を引き返すと、目の前の暗闇から騎士たちが現われた。前にも見た光景だ。
しかし、今回はとんでもない場所で見つかってしまっている。
「異常発見、殲滅するです」
「見つけたなの!」
「発見ッ! かくれんぼ終ーわりぃ!」
マリアたちは既に戦闘スタイルで武装している。
「も、もう来た!? 早すぎる!」
「みちゅからないの、おまじないちゅぅでした!」
「どういうことだ!? つけられてたのか!?」
「そう、クゥのステルス魔術で地下道で待ち伏せしてたの!」
「さっきの女子生徒たちが黒騎士の正体で、地下に潜んでいたですか」
マリアは俺を睨む。
「そしてよく見れば、あの黒騎士とも特徴が一致しているです」
「くそッ! 正体までバレた……!」
「それに、悪い奴が来そうな場所にウチのバリア網を張っておいたの!」
ポポが指を振ると周囲に結界が張り巡らされた。別の地下道のルートで逃げようとしたが、網のように結界に囲まれた。
「これでもう逃げられないなの!」
「かくごするっ! 悪いやちゅ!」
「ソッチたち降参するなの!」
「捕まってしまったら彼女たちに呪いがうつってしまいます」
「わかってるッ!」
騎士たちがじりじりと詰め寄ってくる。
「つまらない言い訳は聞かないなの! おとなしく捕まって隠している裏切りハロの居場所を吐くなの!」
「ガルボロ、ハッフン、パリク、番兵たち、この黒騎士たちを捕まえるです」
従魔族たちが踏み出してくる。
「捕まるもんか! こうなればこのまま黒騎士に変身して逃げるぞ!」
「騎士ちゃんにガルのカースの力を披露するガル!」
「力ずくだ! みんな黒騎士になれ!」
俺たちはさっきのように黒騎士に変身しようとする。
「――って、あれ? どして?」
「ふんぬぅ~ッ! ガルル!?」
「……くッ、どうしたんだ!?」
「へ、変身できないガル!?」
「ガルナビ、お前はさっきからソーサリィを使いすぎなんだ!」
「なぬ!? おおお、おいらも変身できないさ!」
「カースの力がこの空間によって封印されているようです」
俺たちの様子を見たポポが飛び跳ねてはしゃいでる。
「べー、残念なの! 許可ないソーサリィは使用禁止! これがウチのバリア結界なのー!」
「黒騎士の力を封じる結界です。邪悪なソーサリィは使わせないです」
「まずいガル! 騎士ちゃんに捕まっちゃうガル! やられちゃうガル!」
――ッ! マリアたちまで呪いに掛かれば学園は終わりだ!
「さあ、観念してお縄にかかるです。あなたたち女子生徒が黒騎士の正体であること、そして裏切りハロの居場所を白状するです」
俺はルアの顔を見る。
ルアは平然として、また傍観しているようだ。ただし諦めではなく、俺に託せばどうにかなるという楽観的な顔をしている。
「ああ、観念して言うよ。実は、俺たち……」
「せ、先生ッ!」
もう、これに賭けるしかない――!
「……俺がハロだ!」
「――なんです!?」
「はぁ!?」
「にゃんだってぇ!?」
「あなたが――ハロ……ですって?」
「ソ、ソッチの女の子が裏切りハロなの?なわけないなの!」
「ぅぅぅ、くぅ!? ハロくんが女の子で、黒騎士っ!?」
ガルナビと雄太が俺の肩を引っ張る。
「ガルッ!? 旦那、何で本当のことを言っちゃうガルか!?」
「先生、何言ってるんさ! 呪いがうっつっちゃうさ!」
マリア、ポポ、クゥの頭上に、俺たちと同じ赤い呪いが浮かび上がる。
「グシシ!」
「……あ、あ、あなたが、ハロというですか……?」
「なの――、裏切りハロが、女子生徒に……?」
「くぅ……ほんとぉ……?」
「グシシ!」
しかし、俺は胸を張ってこれを訂正する。マリアたち、そして赤い呪いに向けて叫ぶ。
「誤解するな! ――ハロといっても新しいハロだッ!」
「ぐ、グシシ!?」
「……新しいハロです?」
「ほら、みんなの知っているハロが昨晩のパーティでヴァーサー・クーラーにやられてしまったと聞いて、教会から新しいハロとして穴埋めに来たんだ!」
「なるほど、その手ですか。実に面白い――」
ルアがひとりごとをもらし、笑っている。
「つまり、教会から送られてきてた新しいハロだ!」
「――それなら、なぜ正体を隠していたです?」
「教会のハロならコソコソする理由がないの! 黒騎士のクセに!」
「にしぇもの! ウソつくな!」
「グシシ!」
マリアたちの頭に浮かぶ呪いが大きくなる。
「ヴァーサー・クーラーが学園に潜んでいるから、正体を隠して魔女の秘密を調査してたんだ! 敵を倒すには味方からって言うだろ?」
「そ、そうそう! おいらたちは正義の騎士に協力しに来たんさ!」
「そ、そうだガルよ! ガルたちは決して黒騎士なんかじゃないガル!」
マリアは俺たちの言い分を否定するように俺たちに詰め寄る。
「いいえ、新しいハロが来るという報告はないです。それに、まだハロが堕したと確定してないです」
「裏切りハロは見ちゅける! かならず!」
「ハロがいなくなったことを利用して学園に紛れ込んだヴァーサー卿のスパイ、フィシス兇徒の可能性があるです」
「ソッチたち、今考えたような嘘だってのは見え見えなの!」
普段はアホそうなマリアたちも俺の説明に納得しない。
無理やりすぎたか――。
「(おいルア、黙ってないでお前も説得しろ!)」
ルアは顎に手をやって沈黙している。
マリアが俺に指をさす。
「まずは疑いを晴らすためにソーサリィを検査するです。ハロのソーサリィかどうかを精査するです」
「そんなことする必要なんてない!」
「拒否する理由なんてないはずです」
「ソッチ、逃げられると思うななの!」
背後で雄太とガルナビがおびえる。
「(先生! 騎士たち、信じてくれないさ!)」
「(ち、こうなったら……逃げるしかない―――!)」
ルアはさっきからブツブツと呪文のような何かを呟いている。
「(ルア、何か策があるのか?)」
ルアがうなずく。
俺と雄太は逃走用のトウガラシ煙幕爆弾を投げる準備をする。
「あなたから捕まえるです。ハロを名乗る黒騎士……」
「(ルア、どうする気だ? 早くしてくれ!)」
「(――なんとか、手が打てました)」
すぐにマリアの背後から青い光がさし、非戦闘時の小さいサリスマリスが現れる。
「――(こくり)」
サリスマリスはマリアに小包を渡す。
「学園の教会から知らせが届いたです」
「――間に合いました、か」
うつむき加減につぶやいたルアの顔は少し青ざめている。
あのサリスマリスと小包はルアの根回しか、教会裏庭の組織からの。
マリアが俺たちを警戒しながら、小包を開き、中の文書を見つめる。そして3回ほど読み返した後、目を見開き、動かなくなった。
「……マリィ!? マリィってば!」
「ゆ、行方知れずのハロの補充のため……、緊急に新しいハロを補填として送った、と書いてあるです……」
「ウソ!? 教会はあの裏切りハロが魔族たちにやられちゃったって認めたなの!?」
「……そのように書いてあるです」
マリアは再び袋の中身をじっくりと確認すると首をたらし、俺を睨みつけているクゥとポポにそれを譲る。
「――……こここ、こんな手紙でたらめなの!」
取り乱したポポは空中で静止しているサリスマリスに食って掛かる。
「ちょっとサリスマリス! こんな手紙もってくるなんて、ソッチも黒騎士の仲間なの!?」
「――(ぶんぶん)」
そしてサリスマリスはうつむく。
「それはあり得ないです。サリスマリスはずっとわたしたちとハロ捜索に同行していたです」
「……でもでも!」
マリアから生徒会役員として認めるビグニティ紋章の腕章を手渡される。
「……気をつけてハロの任務にあたるです、新しいハロ」
「なにしてるなの! マリィ! 黒騎士の罠かもなの!」
「みぃたちの、裏切りハロはやられなぃ!」
「ポポ、クゥ、落ち着くです」
「でも、マリィ……!」
「教会のもっとも格式高い正式な文書です。ここに書かれた事柄に間違いはないです」
「――そ、そんなぁ!」
ポポは俺に駆け寄り、俺の胸に手を当てる。
「マ、マリぃ! ハ、ハロのソーサリィが聞こえるなのぉ!どうすればいいのぉ!?」
「……だから、そのはずです」
目に涙をためたポポは俺を睨みつける。
そしてマリアは俺に忠告する。
「油断すると、前任ハロのようにヴァーサー卿に堕されてしまうです」
「――任せてください。この神殿学園の事情については、よく知ってる」
気が付くと、マリア、ポポ、クゥの頭上の赤い呪いは消えていた。
「認めないっつーの……こんなの、認めないっつーの……」
「ぅ……ぅぅ、ハロくぅん……」
「――(ギロリ)」
容疑が晴れた俺たちは、マリアたちに付いて地上へ歩いていく。




