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10 なんでスカート短くした?

 この調べ物の続きをしたいと言ったルアについていく。

 理科室を管理する教員は、隣の準備室で眠らされている。


 実験機材と向き合う白衣のルアは、さっき採取した黒騎士のソーサリィを試験管に移して、何かの実験をする。

 果たしてこの緊急事態の中、ご丁寧に白衣、おまけにメガネまで装着する必要があるかどうかは疑問だが、俺は何故かこいつの好きなようにやらせてみたくなり、黙って見届けた。

 いつの間にかスカートも他の女子生徒と同じくらいの膝上まで短くしている。

 そして手元の実験の邪魔にならないよう、長い髪をヘアゴムで結んで横に垂らしている。

 男の時は戦闘中でさえ、まるで金にケチな奴みたいに魔法を使うことを渋っていた。さらに気が付けばピンチの場から消えている。

 今では背後の手を伸ばせば届く試験官でさえも、魔法を使って目の前に移す。些細な動作も横着して魔法を利用する。

 雄太は隣でルアの実験を眺める。


「分析のための試験官の数は十分ですね、さっそく取り掛かります」

「――ああ、頼むよ」


 俺はルアの顔を睨む。


「私の顔に何かついてます?」

「女の顔が張り付いてるな」


 俺はその私という言葉が鼻についた。ルアは俺の怪訝な表情に何かを察し、笑顔を作った。


「心配せずとも大丈夫です、そう長くはかかりません。隣の部屋の教員も30分は眠るよう呪文をかけましたし、マリアさんに見つからないよう魔法で施錠を施してあります」

「なんでスカート短くした?」


 俺はなるべく唐突になるタイミングを見計らった。雄太は不思議そうに俺を見る。


「生徒たちに溶け込むためですが」

「俺はこのリボンを外すのにも説明書が必要な程だ。だがお前はさっきも手慣れたように女子制服をした」

「へへへ、ルアのやつ、気持ち悪いくらい女の子に詳しいさね」

「まるでこの状況を予測して準備してたかのように」

「へ?」

「そうでしょうか」

「腹の内を探るようだが、やけにこの状況を楽しんでないか?」


 俺の問いに、ルアは露骨に笑顔をしまい込んだ。


「僕はいつでも真剣です」

「なら、たかが試験官で軽々しく魔法を椀飯おうばん振舞ぶるまいできるなら、俺が魔女に苦しめられているとき陰から魔法で助けてくれてもいいんじゃないのか? 魔女に見つからない場面でよ」

「……確かに、そんなに魔法が使えれば、先生をいくらでも援護できるさ」

「それは、不快な思いをさせていたようで、申し訳ありません」

「ヴァーサー・クーラーの無茶苦茶を止めたいんだよな? この世界を守りたいんだよな?」


 ルアは実験の手を中止し、俺を見る。


「教会裏庭の目的と、貴方の目的は一致しているはずです。貴方の呪いが拡大しないよう、彼女の命令の早期完了のため、今は必要だと考え魔法を使い時短を図ろうとしているだけです。決して貴方の緊急事態を楽しんだり、いたずらに延長しようなど考えていません。それにヴァーサー卿の計画に僕が介入すれば消されることは間違いなく、それは以前に彼女のオフィスで堕された記者の――」

「ずいぶん多弁なことだ」


 俺が説明をぶった切ると、ルアは黙る。


「お前の生い立ちや事情をとやかく訊くつもりはない、ちょっと気になっただけだ。さあ作業を続けてくれ、魔法を存分に使ってよ。俺は手が離せないお前のためにいちごミルクをおごってやる。雄太、来い」


 俺と雄太は廊下を歩く。雄太は静かに切り出す。


「先生はルアを疑ってるさ?」

「俺に気づかれないように状況を手引きしているようにも見える。協力するポーズをしてるだけかもしれない」

「先生の言う通り、あいつはいつも大事な時に消えちまうから、何故か信用できないさね」

「いずれハロが不要になったり、教会裏庭にとって都合悪くなったら、躊躇せずに俺を消すかもしれない」

「それっておいらも?」


 俺がうなずくと雄太は顔を抑える。


「あいつが何をどう考えて、俺たちに言えないどんな事情を抱えているかわからないが、少なくとも今は目的達成に協力はしている。しばらく様子をみよう」


 俺と雄太がジュースを持って理科室に戻ると、ルアは白衣を脱ぐ。実験が済んだようだ。


「もういいでしょう。見つからないうちに片付けます」

「で、何か分かったか?」

「先ほどの戦闘で得たサンプルからカースのソーサリィを解析したところ、クーラーさんが過去に堕したハロのソーサリィが検出されました」

「……過去に堕したハロ?」

「クーラーさんが保有していたその亡きハロのソーサリィにカースの力を仕掛け、黒騎士として貴方に憑りつかせた。姿を偽装して、騎士の目を欺き、囚人開放を達成できるために」

「な、ならすぐに地下の囚人とやらを開放しにいくさ!」

「雄太、慌てるな……ところで、ルア……」

「なんでしょう」


 さっきの問いの続きが再開するのかと予想したのだろう、ルアは俺に重苦しい顔を見せる。

 俺は安心させるためいちごミルクを渡す。


「話せるなら聞かせてくれ――」


 ルアはいちごミルクを受け取り、うなずく。

 俺はルアの言葉でどうしても引っかかった点があった。


「ヴァーサー・クーラーは、過去にハロをやっつけたのか?」

「生徒会室までたどり着けたのは貴方が初めてです」

「……なんで俺だけ助かって、――というか生かされてるんだ?」

「クーラーさんの理論を擁護するフィシス教徒の皆さんがとても熱心で、ハロは見つかればすぐに堕され、そしてすぐに次のハロが教会から送り出されます。しかし貴方は特別で、クーラーさんのフィシス理論に必要な材料だった。訓練を受けていない人間の貴方がハロになるのは特例です」

「――材料って、おい。そのいい方」

「失礼承知の表現です」


 雄太が俺の肩をたたきなだめる。


「僕の考えですが、クーラーさんに直接関わるハロという過酷な任務は貴方しかこなせない」

「……長津田さんが笑っているならそれでいい。しかし、今は違うな」

「平和のためにはまず金城さんを笑顔にしなければなりません。もし解放した囚人が暴れだせば止めればいいのです。最も恐れるのは、彼女が貴方に失望し、不満を持ったこの世界を滅ぼすことです。昨夜のパーティのように」

「やっぱり俺が一番の犠牲になれってか!?」


 ルアが真顔でうなずく。

 雄太は呆れた顔をする。


「――ちッ! ならば女神さまの仰せの通り、さっそく黒騎士の力を利用して得体のしれない囚人とやらを解放だな!」

「前髪がうまくまとまらないさ……風が強い日はこれだから……」

「どうやら時間もないようだ」


 退屈そうに机に体育座りしていたガルナビがぴょんとジャンプする。


「それなら捕囚たちがいる牢屋の地下道の近道を案内するガル!」

「マリアたちに見つからないのか!?」

「ガルがいつも脱走に使っている獣道けものみちだガル。それに、この地下道は毛細血管よりぐちゃぐちゃで、騎士ちゃんの鳥頭なんかじゃ3歩で迷子だガル!」

「なら急ぐぞ」

「準備します」

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