7 そんな恥ずかしいモノ、アタシに見せないでッ!
廊下を歩き、あいつの姿を探していた。
ふと窓の外を見ると、学園にいてはいけないはずの姿がある。
「――いた……! やっと見つけた!」
俺は学園内でもっとも整った中庭の扉を突き飛ばし、そいつを探す。
「セラセラ!」
「ソウルめ、なんで学園内に! どけ、どくんだ! あいつがいるんだろ!?」
俺は宙に浮かぶソウルたちをかぎ分けて、ソウルたちの視線の真ん中に突き進む。
「いい、己に厳しく、人にはやさしくよ!」
「セラセラ!」
草花で彩られた中庭で、金城コミンがソウルたちに熱心に語りかけている。
「体も心も他人から奪うものじゃないの! 自分の運命を呪っちゃダメ! 幸も不幸も、身に降りかかる全てのことに心から感謝するの! わかったなら元気よくいてらっしゃい!」
「セラセラ!」
金城コミンの演説に感動すると、ソウルたちははしゃぎながら宙に溶け消えた。
魔界という別世界からヴァーサー・クーラーのフィシス理論によって、ビグニティ教会公認で留学している生徒魔族たちがこの神殿学園に住み着いている。
魔族の本懐はこの世界を守る騎士を倒し、ヴァーサー・クーラーの悪事に協力すること。
そして戦いに破れた魔族たちはソウルという抜け殻の魂となり、復活のためこの街にはびこっている。魔族の信念とする美的感覚はクーラーのために戦い、朽ち果て、散ること。
そんな獰猛な魔族は人の話に耳を傾けることはない。耳をかすのは、この夢見ヶ丘で一番美しい少女で、実は魔界のスーパーアイドルであり、哲学王、女神と呼ばれるヴァーサー・クーラーこと、金城コミンにだけだ。
周りに生徒たちがいないことを確認し、俺は金城コミンに詰め寄る。
「今日は素敵な悩みをもった患者さんがたくさんね」
「ちょっといいか、これはどういうつもり――、っておいッ!」
金城コミンは俺を突き飛ばす。
「いっけない! あの子の約束の時間だわ!」
俺は自分の変わり果てた姿を見せつけるが、無視したコミンは走り出し、校舎の中へ消えた。
「コミン! ちょっと話が――っておい!」
コミンを追いかける。草花が彩る女子らしいガーデンテラスにたどり着いた。
「……この学園にこんな場所があったなんて」
俺は金城コミンの姿を探すと、長津田さんと制服の魔女が紅茶を囲んで話をしていた。
コミンは俺の反応をうかがいながら長津田さんの腰を引き寄せ腕をからませる。
本来ならぐッっとくる女子同士の抱きあうシーンなのに――。
そもそも長津田さんに迷惑かけている諸悪の根源はコミンだ。
「いい涼子ちん! 辛いことや悲しいことがあってもね、ふさぎこまなければ必ず光がさすわ!」
「ほ、ほんとですか……」
コミンは長津田さんの体を自然にさりげなく撫でまわしながら、励ましの言葉を耳元でささやいている。
無抵抗に構えた長津田さんの体が無礼にまさぐるコミンの手により時折小さく跳ねる。
「――なんだか、元気がでました。また頑張って探してみます。いつもありがとうございます!」
コミンはいいえーと答え、長津田さんは軽い足取りで出ていく。
「次のパーティはいつにしようかしら! もっとフィシス理論を深めて、愛を広めなきゃね! 世界をひとつに愛し合うために!」
「あのコミン、いいか?」
「それにしても――アナタ」
「ああ、それだよ! 見てくれよ! 変な呪いでこのありさまだ! スカートの中に風が入り込んで外は気持ち悪いんだ!」
「――ん?」
「パーティを邪魔したことは謝る! だから早くこの体を戻してく――ぐッ! い、いきなりなにを!」
コミンは以前に俺から奪い取った心臓を胸元から取り出し、突っつき始める。
「アナタ、少し様子が変ね? 何か隠し事しているのは明らかだわ」
「隠すどころか、見ての通りだ! ――ぐッ! その心臓を返せ!」
「どんな理由があれ奴隷がアタシに秘め事は許さない! 昨日みたいにいきなり見たことも聞いたこともない謎の愛を目の前で見せ付けられちゃ、それはアタシだってびっくりするわ!」
「お、覚えてるのか――!?」
「……まったくあんなことして、どんな顔でアタシの前に現れるかと思いきや――」
「女の子の顔だよ! パーティで変な呪いに掛かってこんな姿になったんだ!」
「へー」
「……な、なんだよ!」
「さぁ、吐いて! じゃないと心がもたないわよ!!」
金城コミンは心臓を激しくもむ。
「ぐあッ! だ、だから、元の姿に――あッ!やめてくれ!」
コミンは掌の過熱気味のハートを指でこねながら問いかける。
「頼むコミン、呪いを解いてくれっ!!」
「呪い? アタシが!?」
「ああ! お前の仕業だろ!?」
「何を言ってるの!? 呪いなんてこの世にないわ! そんな汚い概念はフィシス理論で全て論破したもの! この世界は盲目でもわかるくらい美しい!」
俺は金城コミンの顔色を伺いながら、切り出してみた。
「気を悪くするなよ……。俺が騎士たちに投降しようとしたから、女になる呪いを仕掛けて逃げられなくしたんだろ!?」
金城コミンは頬杖をつき溜息をもらす。
「――アナタ、ホントちょっと変よ……。病気でももらったの?」
「お前からな!」
金城コミンは首をかしげる。
そして俺を無視してポストの手紙を読み漁り始める。
……こいつ、まさか、このまま白を切るつもりなのか――!?
「そんな手紙じゃなくて俺を見てくれ! ……悪いがこのまま姿が戻らなければマリアたちに相談しなければならない! だが、姿が戻った男の俺は裏切り者として捕まり、もし拷問されたら知っていることをしゃべるかもしれない――! だから……!」
金城コミンはむっとして手紙をテーブルにたたきつける。
「はぁ!? 降伏なんてできると思ってるの!? アナタはアタシの奴隷よ、忘れたの!?」
「だからお前もそれは困るだろ!? この女の体を元に戻せ!」
「――女の体?」
金城コミンはまた首をかしげた。
俺は不愉快そうにスカートを指さす。
しかし金城コミンは手紙に視線を戻す。
「それに、女の子は捕まっても牢獄なんてないわ。世界に必要な真の愛を育めるのは乙女だけだから」
金城コミンが長津田さんの座っていた横のイスをなでる。
「そう、乙女にはもっと別の利用価値があるもの!」
「べ、別の利用価値って?」
物陰から盗み聞きしていたであろう雄太が現れる。俺は物陰で不安そうにしている雄太に近寄る。
「雄太、来てたのか?」
「先生! 騎士たちに自首するのはやっぱりダメさ! 女の子だから辱しめを受けて、お嫁に行けなくなっちゃう!」
「……バ、バカ! こいつの話を信じるな!」
「なんとかして金城に頼んでくれさ! じゃなきゃおいらたち!」
「今こうして頼んでるだろ! 聞いちゃいねーが!」
「グシシ!」
俺の頭上の赤い呪いが突然姿を現し、金城コミンに首を垂れている。
俺は赤い呪いを指差し、金城コミンに不平を言う。
「……コミン見ろ、みんなにもこの呪いが移って困ってるんだ!」
俺は金城コミンに寄り付く赤い呪いをにらむ。金城コミンはその呪いを見て苦虫をかんだ顔をした。
「――な、なによそれッ!? そんな恥ずかしいモノ、アタシに見せないでッ! いいから早くしまってッ!」
俺は頭に血が上り、金城コミンの元に駆け寄り、頭を下げた。
「もうわかった! お前の勝ちだ! パーティで突然あんなこと言ったり、触ったりしたことは謝る! だから面白がって茶化してないでこの呪いを解いてくれ!」
「……はッ?」
「それに、地下の囚人を地上に連れ戻すって命令だが、こんな体じゃ学園を自由に動き回れない! 元の姿に戻してくれたらすぐに取り掛かるから!」
「さっきからなんの体裁を気にしてるの!? ぐずぐず言ってないで早く任務を完了しなさい! もうッ!」
「おい待て! お前に救いを求めてる囚人だったら、女神さまご本人が直々に牢屋にお迎えに上がったらどうなんだ!?」
「アタシは新鮮な恋を探すのに忙しいのッ!雑務は奴隷の仕事!いい報告だけ待ってるわッ!」
金城コミンは手紙をポケットにしまい、席をたつ。俺は金城コミンの背中に嘆く。
「……俺が……捕まってもいいって、言うのか――?」
「ええ、アナタがビグニティ教会に捕えれても、涼子ちんはアタシがちゃんと面倒みるから後のことは心配しないでーっ!」
金城コミンや少しいやらしく舌を出して見せた。
「――ッ!だからって――」
「だ、か、ら! すぐに囚人を解放しなさい! その体はいつまでも”貸して”あげないわよ! 女の子になったくらいでいちいちわめきたてないで!」
はっと目を見開いた金城コミンはいたずらっぽい顔を見せ、かわいくすねた。そしてスキップで出かけて行った。
俺は絶望して頭を抱えた。そいつを追いかける気も失せた。
「なんなんだよ、ふざけやがって――」




