6 スカートをたくしあげて
休み時間で賑やかな廊下を歩けば、赤い呪いだけがぴったりと背後をついてくる。
俺はハラハラしてスカートを抑えながら歩くが、すれ違う生徒たちは俺のことなんて気にしていないようだ。まさか俺だと気が付くはずもない。
俺は赤い呪いを一瞥する。一体なんなんだ、こいつは。ルア、雄太、ガルナビ以外には姿が見えないし、特に害もない。女にさせられた以外は。
後ろでニタニタしながらずっと俺を見ている。ひたすら気味悪い。
思い返すと、以前クーラーに人質に取られた俺の心臓のような形をしている。
生徒会室の前の長い階段の前で立ち止まる。
――階段、か。
この角度ではスカートの中が見えてしまわないだろうか?
俺は振り返り人目を気にした。
「――バカげてるッ! コミンめ、妙な気分にさせやがって!」
「ギャぁああああっ!」
突然、絶叫に似た女子の悲鳴が廊下に響く。
「悲鳴!? どこだ!? 生徒魔族のいたずらか?……こんな時に!」
旧校舎の廊下の方だ。
授業中の教室から抜け出した生徒たちが野次馬のように集まって指をさしている視線の先を見る。
「どこのクラスだ、あの子? 悲鳴すごかったな」
「見たことないけど、1年よね?」
「でも、どうして悲鳴なんか。お化けでも見たのか? こんな昼間から」
廊下の真ん中に青ざめた顔をした女子生徒が立ち尽くしている。
教員の指示でざわついた生徒たちが教室に戻る。教員はその女子に一声かけて、教室に戻った。
人がはけたところで、俺はその女子生徒に近寄る。
「あの、そこの君、大丈夫かい? 変なお化けでも見たのかい?」
「おおおお、おいらの体が――! おいらの体が……おおお、女になっちゃってるさ!」
「……な、なにを言って?」
「女になりたいとか言ったから女になっちゃったんさ!」
「――ど、どうしたのかな?」
「せ、先生! 助けて! こんなの嫌さッ!」
こんな風に俺を先生と呼ぶのは――……
「まさか――! と、とりあえず、こっちだ!」
その女子生徒の手を引っ張り駆け出すと、曲がり角で知らない女子生徒に声をかけられた。
「早急に手を打たなければなりませんね」
「――誰だ?」
「ふふ。僕ですよ。僕」
そのきれいな顔立ちの女子生徒は自分の前髪をつまみ吟味する。
「感染するタイプの呪いでしょう。おそらく、その赤い発光体が深く関係しています」
そう言うと俺の頭上の赤い呪いを指さした。雰囲気こそはあいつだが、性別が全く逆のものになっている。
「よくできた魔法ですね、制服まで女性のものに、ふふ」
「そんなこと言っている余裕があるならこの失神している雄太を運ぶのを手伝えっての!」
「……――ル」
振り向くとまた知らない女子生徒が困っている様子が見えた。
その女子生徒は、自分のスカートをたくしあげて涙を拭き始める。
「ちょっ――!」
「だ、旦那まで、ガ、ガルを忘れちゃったガルか?」
「ガルナビ、こっちに来い!」
俺はその泣き叫ぶ女子生徒もつれて駆け出す。
生徒たちの目を避けるため、人気のない旧校舎の廊下に逃げて来た。
廊下の隅、4人は古びた木製の床に座り込む。
「そうだガル! 旦那がさっさと騎士ちゃんに投降しないから呪いが伝染しちゃったガル!」
「こんな女の子の姿は嫌さ! 先生、早く魔女にごめんなさいして、この呪いを解いてもらうさ!」
「とにかく落ち着け!」
「こんな姿、誰にも見られたくないさ!」
雄太は男子便所に逃げ込んでいった。
「雄太、違う! そっちは男子便所だ! 女子はあっち!」
「不思議と貴方に接触した人間は多くいるはずなのに、どうして僕らだけに伝染したのでしょうか?」
俺は長津田さんやマリアたち、多くの生徒、魔族と接触したが学園内は普段と変わらない様子である。
あれから女になってるとか叫び騒ぎになっている様子はない。
「やはり、貴方の正体を知り、この呪いの発光体を視認してしまうことが伝染の条件ではないでしょうか?」
「俺が正体を教えた相手は女になる――。つまり、俺が女になっているとマリアたちに相談したら……」
「この呪いが感染する、でしょうね」
「じゃあマリアたちに相談することも、捕まることもできない、というわけか……!」
「騎士たちはもともと女の子だから、呪いは移らないんじゃない?」
「女性が男性になる可能性も否めません」
「え……そんなわけ……」
「……騎士の誰かで確かめるか、雄太?」
「や、やめるさ! そんな恐ろしいことを!」
「この呪いを解く方法は、これを仕掛けた彼女の命令を遂行することでしょう」
ルアがきれいな顔で俺に向き直る。
「とにかく、地下の囚人たちの解放を急ぎましょう」
「またアイツの言いなりになるしかないのか……! 心臓と長津田さんを人質にするだけじゃ飽き足らず、――どうして!」
「いいえ、この呪いは貴方への脅しのためではありません」
「……じゃないだと?」
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「彼、どこにいるのかもわからないの?」
「――そう……困ったわね。今日の放課後ももう一度、夢見ヶ丘を探してみましょう」
「ええ、危ないのはわかっています。だけど、もし本当にお化けに捕まっていたら助けなくちゃいけません。そうでしょ?」
「よかった! あなたはいいお化けさんなんですね! さっそく一緒に彼を探しましょ!」
「――(こくり)」




