4 黒騎士
「武器をおろしてくれ! 昨日のパーティはすまなかった! 俺が悪かった!」
「そう、悪いのはあなた――。すぐに裏切りの容疑のある”ハロを返す”です!」
「お、俺を返す? どういうことだ!?」
「あの黒騎士を捕まえて、ハロの居場所を聞き出すなの!」
「なにを言っている! 俺がハ――ッ!?」
そう言ったマリアはすぐに空いている拳に炎をまとわせると、俺の顔面に向かってパンチを繰り出す。
「や、やめろッ!」
「ッ!?」
すると突然俺の首元から黒い衝撃が放たれ、驚いたマリアは即座に退いて距離を取る。
俺は恐る恐る自分の体を見下ろしてみた。
「……こ、これは!? 嘘だろ!?」
手には黒い甲冑が装備されていて、頭には兜、腰回りにも頑丈な鎧で固められている。まるでマリアたちと同じ戦闘スタイルのようだった。
「グシシ!ここにおられるのは――」
「ち、違うんだ! 呪いで体が変身してしまって、俺が実は――!」
「ポポ、クゥ、あのヴァーサー・クーラーの汚れた黒騎士を殲滅するです」
「違う! 聞いてくれ! こんな奴らとは仲間じゃない! 俺は敵じゃない!」
マリアが俺に向かって再び突進する。しかしマリアの目の前に黒い火炎が炸裂し、攻撃を阻んだ。
「ッ!?」
「マリィ⁉」
「新手なの!?」
騎士たちの視線が俺の背後に向けられる。
「――あれは、黒騎士の仲間? 増援ですか?」
俺は振り向くと、俺と似た黒い姿の騎士3人が立っていた。
「――な、なんだお前ら!」
その黒い騎士たちが表情が見えず、何も語らなかった。
「グシシ! こちらも紹介するのだ! ヴァーサー・クーラーさまを支える黒騎士たちなのだ!」
突如現れた謎の黒騎士たちは手を振り上げて、黒いオーラを集める。
「……見たことない邪悪なソーサリィです!」
マリアたちは従魔族を召喚して、前方に配置する。
一方、黒騎士たちは集めたオーラをマリアたちに放つ。ポポがとっさにバリアを作り出してオーラを防ぐが、黒いオーラに飲み込まれたバリアは溶け去ってしまう。
「えッ!? うそなの!? ウチのバリアが一撃で消えたの!?」
身構えていたマリアたちは高く飛び上がり、続いて放たれた黒騎士たちの攻撃を避けた。
「――ッ! 何という邪悪なソーサリィ攻撃です!?」
逃げ遅れた騎士たちの従魔族が黒いオーラに包まれ、地面に倒れる。そして力なく手から斧をこぼした。
「ハッフンパッフンがやられたなの!?」
「パリクぅも!?」
黒騎士たちに対峙したマリアが後ずさりする。
「未知の敵にこれ以上の戦闘は危険、ポポ、クゥ、撤退するです」
ポポとクゥはうなずき、従魔族たちも撤退した。
俺は胸を押さえながらマリアたちが撤退するのを見届ける。
そして他の黒騎士たちは黒いオーラを閉まった。
そしてクレイジーソウルが俺の前に楽しそうに踊り出る。
「グシシ! 黒騎士殿がフィシス理論を否定する騎士どもをひざまずかせるだよ! 黒騎士殿、さっそく女神さまに戦果をご報告するのだ!」
黒騎士たちが訓練されたように、一斉に踵を返して、後ろを振り返る。
「――ッ!? ……お前ッ!」
振り向くと、昨晩パーティで大暴れしたあいつの姿が見える。
岩の上に仁王立ちして、俺たちを見下ろしている。
黒騎士たちは甲冑をガシャリと音を立てて、ヴァーサー・クーラーにうなずいた。
「コミン、そんなことより! この姿を元に戻してくれ!」
魔女は俺の申し出を無視して、くるりを髪をなびかせて消えようとした。
「ちょっと待て! どういうことだ、地下の囚人って!?」
「早くとりかかるの! 愛をはき違えると憎しみに変わるから! もし、囚人たちの嘆きの雨が降る前に解放できなかったら、アナタの大切なものを生贄にするわ」
「その命令は無理だ! こんな身体じゃマリアにも追われて、学園も自由に歩けない!」
「よーく鏡で自分を見つめなおして考えを巡らせなさい! 勉強だけできてもダメよ!」
「――待てってッ!」
魔女がそう言い終わると、その姿も宙に溶けていた。
そして俺の目の前が真っ白になる。
●
「うぐッ……ここは?」
「――あれ?」
「……ッ!? ――な、長津田さん!?」
目が覚めると俺は廊下に倒れていたようで、長津田さんが心配そうに寄り添っていた。見渡すと、他にも生徒たちが俺のことを心配そうに眺めている。
「え、あの、大丈夫ですか!?」
「――魔女は!? クレイジーソウルは!?」
「なんのこと? 落ち着いて、生徒会室前の入口で倒れていましたよ」
「――さっきのは全部の幻?」
周りを見渡すがコミンや黒騎士、クレイジーソウルの姿はない。
一体さっきのはなんだったんだ……。
しかし、なんだか頭がくらくらする。まるで熱を出して体調を崩したときのようだ。
「保健室に行きましょう、肩を貸して――、あ、担任の先生にも連絡しなきゃ、どこのクラスですか?」
長津田さんの手がそっと肩に置かれる。長津田さんにしかできない初対面の相手に向ける気づかいを感じる。
何を言っているんですか長津田さん、同じクラスでしょ。
「先生! どこさ! あ、長津田さん!」
雄太?
「ゴミ箱、ダストシュートの中、全部調べたけどどこにもいないさ!」
「早退しちゃったのかな。生徒会や魔族のみんなも探しているのに……」
「まさか、本当に、罰として教会に消されて――!?」
おい! 俺はここに――
雄太は俺の横をかすめて、走って行ってしまった。
雄太、なんで無視するんだ?
追いかけようとしたが、足が重たく、節々(ふしぶし)が痛い。それに、声の具合もおかしい。
「くっそ、待てよ、雄太!」
ドンッ。
ぶつかった。
「おっと、失礼しました。考え事をしていて。大丈夫ですか? お怪我は?」
ルアは俺に手を差し伸べる。
なんだよ、気味悪い――。
「旦那が行方不明だガル! ま、まさか、騎士ちゃんに捕まりそうになったから、お嬢さまに消されたんじゃ!」
ガルナビ、俺はここに……!
「ガル? 人間のクセにガルが見えるガルか!? ギャルルル! き、騎士ちゃんたち?」
「生徒魔族の学外への脱走と破壊活動は、学則第1000から5638条と留学禁止事項のすべてに違反するです」
「ごめんなちゃい! ごめんなちゃい! 暴力はいけないガル!」
「ハロも黒騎士に奪われ、ヴァーサー卿ーが学園内に現れた、チビは何を知っているです?」
「い、意地悪な騎士ちゃんにはな~んにも教えないガル!」
「なら拷問してあげるなの!」
「はくじょぅ!」
みんな、さっきから俺はここに……。
突然、マリアはガルナビを隠すように俺の方へ向き直る。
「ガル!? 何するガ―――!」
マリアさん、助けて……!
「このチビは幻想です。それは記憶にとどめておく価値すら無いですから忘れるです」
知ってますよ! 魔族がいることも! 俺は生徒会の――ッがはッ! ……ッ、苦し! マ、マリアさん、助けてください――ぅッ、俺ですって、……ぅぐッ!
さっき黒騎士になってから……ッ! ――胸が――痛い――……!
「大変、体調が悪いんでしょ! 私が保健室に!」
な、長津田さん、俺は大丈夫です……ッこの程度であんな女に負けていられ……ぅッ――!
「この子、生徒魔族を見てしまったショックで錯乱してるなの?」
「生徒が魔族を見てはいけない、これはあまり使いたくないのですが仕方ないです」
マリアがアメ玉のようなものを取り出す。
ちょっと! 待って! ――それは記憶消しの薬!
一般生徒が魔族の姿を見てしまった非常時の薬だ。
「学園の秘密を知ってしまった生徒にはこの記憶消しを飲ませ、知るべきでない記憶を抹消するです」
「そうなんですね、お化けちゃんたちを忘れてもらうために……」
……ッ! ごほっ! ごほっ! でも、そ、その前に魔女の秘密を聞いてくれ――ごほっ!
叫んで訴えようにも、のどに何かが詰まっているようで声にならない。
長津田さんが俺の口にアメ玉を押し込もうとする。
「あんなに苦しそうにして! 早く楽にしてあげるなの!」
「アメちゃん、喰ぅ!」
クゥとポポが俺の手脚を押さえる。
「ひやだ! ひゃめろ! 離せッ!」
「心配ないです、この薬はとてもおいしい、女の子にも飲みやすいイチゴ味です」
「ひゃめろ! 俺はひゃろだ! ひゃろなんだ!」
俺は少女たちの羽交い絞めから脱け出し、窓から飛び出す。
「あ、逃げたなの!」
「にゃんと!」
「サリスマリス、あの子を捕まえるです」
「――(こくり)」
サリスマリスが俺に向かって突進してくる。
「グシシ!」
しかし、赤い何かが、追ってくるサリスマリスの目の前に現れる。
それはクレイジー・ソウルのようで少し違う赤い何かだった。
邪悪な笑みを浮かべて、宙に浮いている。
「グシシ! ばぁ!」
「――(びくッ!?)」
突然に赤い呪いの絶叫に驚かされ、サリスマリスがひるんだ。
……逃げろッ!
俺は走って廊下から脱出し、学園から離れた。




