53 決戦!ヴァーサー・クーラー VS ハロ
「――これが、狂喜乱舞なパーティ、邪気の集まる宴ですか」
「うわぁ……、魔族がいっぱいなの! 怖いの!」
「悪い奴はみんな、やっつけるぅ!」
ひと眠りしたため回復した様子のマリアたちがいた。
「マリア先輩たち、もう大丈夫なのか!?」
「ハロの治癒とお昼寝で全快したです。苦戦しているなら先輩に助けを求めるべきです」
マリアは背後で立ち上がろうとする巨大な魔族にパンチして、再び転ばせた。ポポとクゥは傷ついたサリスマリスを回復させた。
そして、マリアは俺の頭上をにらみつけた。
「ぐしししし!」
俺はその声を聞いて、鳥肌が立った。
「感動の再会なのだ! 救世主ハロ殿! 今日は吾輩の新しい兄弟たちを紹介したいのだ!」
「やっぱり嗅ぎつけて来ていたか! 悪霊め!」
「ヴァーサー・クーラー様のフィシス理論の完成に祝福を!」
マリアが俺の袖をつかむ。
「ここは私たちに任せて、ヴァーサー・クーラーを倒してくるです」
俺はうなずき、サリスマリスを連れて、ヴァーサー・クーラーたちの方へ走る。
立ちふさがる魔族たちはサリスマリスが蹴散らして進んだ。
「もっと、最強の愛の証を見せて!」
俺はそう叫んでいるヴァーサー・クーラーに声が届くところで立ち止まる。
「部下は黙って上位者の言いつけを実行すればいい。結果の責任はアタシが持つんだから」
「夢見が丘の破壊が目的なのかッ!? ここの生徒はどうなるッ! 住んでいる人たちはどうなるんだッ!」
「なによ、アナタも昔からこの夢見が丘を激しく呪ってたじゃない!」
「それは昔の話だ! 今は違う!」
「何も違わない! 何も変わらない! 昔も今も同じよ! そんな身勝手な心変わりが通用すると思うの!?」
「――お前が言うなッ!」
「そーね。アナタとアタシ、ようやく目的が一致したのに、アナタって人はほんと理解できない……」
「お前なんて存在すらしなければ良かった!」
「なら良かったわ! このパーティの開催をもってフィシス理論を公開する! そしたら晴れてアタシはこの世界から身を引く! 奴隷のアナタは更地になった夢見が丘の真ん中で自由を喜びなさい!」
「論点をずらすな!」
不愉快そうなヴァーサー・クーラーは魔族たちの戦闘を眺め始める。
別の魔女2人が口をはさむ。
「フィシス理論のために、夢見が丘のひとつやふたつくらい喜んで差し出すのん!」
「新しい世界のため、未練は捨てること――ぞくっ」
「お前らは黙ってろ!」
俺は再びヴァーサー・クーラーに叫ぶ。
「もういいだろ! 騎士も魔族も、みんな疲れ果てているんだ! こんなことはやめて、学校に帰ろう、な! 明日一緒に今後どうするか話をしよう! 紅茶でも飲みながら、ゆっくりと!」
「アナタのおかげでひとつ理解できたの――。本当の愛が見つかる場所なんて、ひとつしかない……。清らかな心だけが存在する、絶望も憎しみも偽りも疑いもない世界よ! 少なくともここじゃない!」
「俺は満足だ! この夢見が丘でいいんだ! 七不思議も、お化けもあっていいんだよ! 少しばかりなら、失恋も、悔し涙も、思い通りにいかない夢も理想も……、全部ご愛敬なんだよ!」
ヴァーサー・クーラーの魔族から放たれた弾丸は俺の脚元で炸裂し、俺は吹き飛ばされる。
「――ぅぐッ……!」
俺は立とうとすると、地面から赤いヤリが何本も飛び出してきた。魔女がハンティング・イン・ハー・ハートと唱えて、俺は何度も地面にたたきつけられる。
ようやくヤリがおさまり、俺は地面に転がる。うまく息ができない。
俺は地を這いながら、目の前に落ちているホウキの封殺剣に手を伸ばす。夢見が丘の結界が壊れる前に、この魔女を、このパーティを止めなければならない。
突然、白い脚がホウキの柄を踏み、そのままへし折った。
俺はゆっくりと脚の主を見上げる。
そこには、今やもう見慣れた笑顔があった。
「アナタを堕すのは、パーティが終わってからよ……」
そう言った魔女は俺を蹴り飛ばした。俺は岩に激しく体を打ち付けた。額から血が滴り、目がしみる。
視線を落とすと、俺の足元で、胴体をバラバラにされた魔族が苦痛の声をもらしながら片手だけで地面をはいずっている。
あちらこちらで爆発が起こっていて、土砂が舞い上がり、深い霧が立ち込める。
遠くからサリスマリスが俺を救いに駆け寄ろうとするが、背後から襲ってきた体格の良い魔族に体当たりされ地面に倒れる。置き上がろうとするも巨大な図体に圧倒され、何度も仮面を踏みつけられている。
地べたではペッキンコッキンは半分の顔だけで、天に向かってケタケタと舌を出して笑っている。
その近くでガルナビが岩陰で小さく震えている。
俺はヤリを受けてから体の感覚がほとんどない。
マリアたち騎士もどこにいるのかわからない。
「さあ、みんな! フィシス理論がこの世界を作り替える歴史的瞬間に感動しなさいっ!」
ヴァーサー・クーラーが手元にフィシスの書物を取り出すと、呪文を唄い始めた。
すると、夢見が丘の大地が激しく揺れ、木々が地面にもぐり、地割れの裂け目に大地が飲み込まれていく。
時計塔や、ガラス張りのカフェ、子供の遊具、花壇が次々と地面に飲み込まれていった。
地割れの底に引きずり込まれまいと、魔族たちが必死に地面をひっかいて地上へ這いあがろうとしている。
「なあ、学園に帰ろう――」
俺はぼそりと地面につぶやく。
「そう、そこで寝転んでいる救世主のおかげで、未完成だった愛の章が完結したわ! 夢見が丘は今から新世界として生まれ変わるの!」
「――お前が自信満々に掲げているその愛は、愛じゃない――。まがい物だ。そんな簡単に手に入ってたまるか――」
俺は地面に向かってつぶやいた。
「……愛にも恋にも音痴なアナタが良く言うわ」
俺は魔女に溜息をついて見せた。
「いい!? アナタが証明した真実の愛をもって、フィシス理論はここに完成したの! アタシは真実の愛を語る資格があるのよ!」
「――意外と盲目なんだな」
「なんですって……」
ヴァーサー・クーラーは俺を仰向けに蹴り飛ばし、片手を胸に沈め始めた。
「うぐっ……!」
「そうやって、往生際悪く惑わすせいでアタシも不安になってきたわ! アナタの本音を脅して隠している真実をすっかり白状されるわ!」
「――いくら俺の心臓に聞いてもわからないぞ! 脅されても言えるもんじゃない! フィシス理論だが何だか知らないが、言葉や文章で説明できることじゃない!」
「見えるか見えないか、物体か非物体か、そういうことじゃないの! まだそんなことも理解できないの?」
「お前こそ言葉でしか捉えてない! 言ってたよな、自分の足で泥臭く探した真理が本物だって! 人に教えてもらえるようなもんじゃないんだよ――!」
魔女は激しく俺の心臓を握り始める。
「――痛ッ! ど、どんなに困難だろうと、愛って言うのは自力で手に入れるもんなんだよッ! 世界を作り替えてだなんて、せこいことは考えちゃいけないんだ! それはまがい物、偽物の愛だ――ッ!」
そして、ヴァーサー・クーラーは5本のヤリを取り出した。
「アナタの口には聞いてない! しゃべれないようにしてあげようか!」
「……さあな」




