38 みんなのアイドル、金城コミン
「さぁ! 生徒会パトロールスタートよ!」
背後からその声を聞いた騎士3人は小さく飛び上がり、スカートを押さえる。
「街で生まれた純愛たちを保護しにいくわよ! ハンカチを濡らしベンチで泣く可愛い女の子を見かけたら即アタシに知らせなさい!」
やっぱり何か想像のつかない妙なことを言い出した。
しかし、アイツを女子生徒から魔女にさせないためのプランはしっかり用意した。
あの後、ポポとクゥを中庭に呼び出し、金城コミンが好きそうな趣味や遊びをそれぞれ100個言えと命じた。
さもなくば2人が最高に可愛くセクシーに見えるバニーガールとチアガールのコスプレ衣装を買ってきて生徒会室の備品にすると伝えたら、1分足らずで目的が達成できた。
そのメモ書きは懐にある。
「マリアちゃんたちはあっちを見てきて! アナタはアタシについてくる!」
コミンが指をくるりと回すと俺のネクタイがコミンの向かう方向へ引っ張られていく。
「ちょっと待てって! みんなで探したほうが効率がいいだろ!」
俺はルアに助けを求める。ルアは微笑んで手を振った。ポポとクゥは俺にべぇと舌を出している。
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放課後の夢見が丘の街では、さまざまな学園の制服姿の生徒たちが思い思いの時間を過ごしていた。
ケーキ屋に並ぶ女子生徒、ベンチで写真を撮り見せ合う女子生徒、スイーツ片手にした女子生徒たちの姿がある。
足取り軽く繁華街を進む金城コミンの後を、姿を消したガルナビとサリスマリスと一緒についていく。
いつ魔族が襲ってきてもいいように、トウガラシ爆弾、封殺札、魔術の準備は整えてある。とはいっても最も危険なものは目の前にいる笑顔の美人生徒会長だ。
それにサリスマリスもいるから大丈夫だ。
天気がいいこともあって、親子連れ、それに学園で見る顔もちらほらある。
すれ違う通行人はコミンを上から下まで見ては話題にしている。
よその学園の女子生徒たちが道端のベンチからこちらを見て話し合っている。
「ねー、あの子、見てよ! 夢見が丘高校の!」
「超ーきれい!」
「まるでアイドルみたい!」
「……で、なによ後ろの怖い顔した男子は?」
「……ストーカーかしら、距離とって後ろをつけてるみたいね」
俺はうざったくなり、なるべく金城コミンから距離を離して歩いた。
それからずっと他校の生徒が金城コミンを見ては仲間内で話題にしている。
「ね! 休憩にしましょ!」
突然目の前に飛び出した金城コミンの弾ける笑顔に驚いた。指さした先には公園の湖のそのほとりのおしゃれなカフェがあった。
ガラス張りの建物のため、店内の様子が丸見えなのだが、どうやら女子しかいない。
「ん、ん!? あれ! 生徒会長さん!? 見て、金城さんがいるわよ!」
「うわ! ほんとだっ!」
「私服も素敵! かわいいー!」
「金城さーんッ!」
金城コミンの存在に気付いた夢見が丘高校の生徒たちが、湖のほとりから手を振る。対してコミンも笑顔で返す。
「外で待ってる」
「はあ!? そうやってつんけんしてるからクラスメイトの女子が近寄ってこないんじゃない! 練習だと思って少しくらい付き合いなさい!」
「……練習? っておい!?」
金城コミンが勝手に俺の腕をつかみ、カフェの中に連行する。
女子たちがきゃっきゃ騒ぎながら、テーブルを囲みパフェやアイスをつついている。
早速、金城コミンは注文カウンターで店員の姉さんにあれやこれやとメニューを指さしている。俺はそれを傍らで見守る。
俺は顔を背けて、顔を見られないようにしていた。
聞き耳立てているとコミンはすでに10品くらいのメニューを注文しているが、さらにオーダーを続けている。
「な、なあコミン、そんなに注文して、大丈夫なのか?」
金城コミンは何かのトッピングを吟味し始めており、俺の声は届いていない。
その様子はスイーツに夢中になる普通の女子高生にしか見えないのだが、うかつなことに、カウンターに前かがみになり胸が強調されて、さらに背後から見るスカートの角度もきわどいことに、目のやり場に困る。
そして、カフェの外には俺と同じ心境の野郎どももいた。
「おい、見ろよ、超かわいくね?」
「スタイルよすぎだろ!」
「うわ、胸でけぇ!」
「みんな、そこじゃないだろ。ほら、下を見ろよ……」
湖の岸で腰かけている男子生徒たちがデレデレと金城コミンの危なっかしいスカートを眺めていた。
「――ち、ここからじゃガラスの反射でどうなってるかよく見えないぞ! くそ!」
そういう悔しそうな声が聞こえる。
「……筒抜けだぞ、スケベどもが」
俺は善意でも人助けもする気はないが、なんとなく金城コミンを背にして腕を組み、野郎たちの壁となることにした。
「な、なんだあの邪魔な奴! 彼氏か?」
「んなはずないだろ、あんなチンピラみたいな奴が」
「それより、なあ、誰かあの子の連絡先ゲットして来いよ!」
その男子生徒たちはじゃんけんをして盛り上がり始めた。それを睨む俺の背中が小突かれた。
「ね! アナタやこの子たちのぶんもあるのよ! 手伝いなさいよ! まったく気が利かないわね!」
甘いものを両手いっぱいに持ちきれないほどに抱えた金城コミンは俺にその半分を預ける。
そして店内ベンチに座り、フルーツやクリームで華やかになったテーブルを眺めて笑顔になった。
サリスマリスとガルナビは隣のテーブルについて、顔ごとスイーツに食らいついたり、ツメで器用に仮面の下にクリームを運んだりしている。
その2匹の様子は人間には見えていないのだろうか心配になっていた俺に、金城コミンがテーブルをトントンと叩き注意を引いてきた。
「アナタ、奴隷として気配りする素振りくらいはしなさいよ! なんのエスコートもないし、ずっと眉間にしわ寄せてそわそわ落ち着かなくして!」
「悪かったな――」
「こうやって女の子とデートするの初めてなの?」




