37 生徒会長とデート
昼休み、校舎裏で俺はトウガラシ爆弾や封殺札などの武器となる素材を探していた。
トカゲ、ヤモリ、クロネコを見つけようとするが、雄太とルアは全く協力する気がないのか、チアリーダー部の女子生徒を眺めたり、壁にもたれて手帳を見ている。
「では貴方は長津田さんが助かれば、騎士の皆さんに負担をかけてもいいと?」
愚痴をこぼした俺にルアがそう答えた。
「長津田さんが襲われるのを見過ごせるか! それに、マリアたちは騎士だから仕方ないだろ!」
「おいらもそれに同感さ、触らぬ女神に呪いなし。騎士たちに任せるさね」
「つまりそういうことなんです。僕たち教会裏庭の組織は貴方の考えとまったく同じです」
雄太はルアの説明を聞きながら、植木鉢をひっくり返し、トカゲを探しているふりをしている。
「守るべき対象が複数である場合は、時にそれらを天秤にかけ多少の犠牲を受け入れ、彼女からの犠牲が最小限になるよう――」
「それだ……! そうしよう!」
名案を思いつき、ルアの教会裏庭を擁護する一人しゃべりをさえぎる。
しばらく2人にアイディアを説明している途中で、相談相手を間違えたことに気が付いたが、とりあえず意見を聞いてみた。
「魔女は何か街で重大な問題をしでかすつもりでいる。だから戦いとか物騒なことからアイツの興味を逸らすことができたらそれに越したことはない、だろ?」
「魔女の興味ねぇ……」
「猫耳のマリアもいいが、さすがに毎日そんな不憫な思いをさせては俺の気が引けるからな」
ルアは考えているふりをしていた。人差し指でリズムを作りながら笑っているから思考していない、間違いない。
「女性向けのデートスポットですか? 僕にはそのような経験も知見も――」
「デートじゃないッ! つまり、カフェでも、スイーツでも、ダンスでもおはじきでも何でもいい!あの魔女が夢中になれる女子高生らしい健全な暇つぶしだ! 得たいのしれない戦いなんて忘れてな!」
「なるほど。彼女の興味のベクトルを安全な方向へ誘導するという試算ですね?」
「さっきからそう言ってるだろ! だからアイディアだ!」
「金城さんが楽しめる遊び……そうですね――」
「魔女の趣味……。かわいい女子と、紅茶が好きで……えっと――」
ルアと雄太はそれから何も言わなくなった。そして一同は考え込む。
ルアは何かひらめいたように言った。
「他の女子生徒にたずねてみたほうが確実なのでは?」
ルアが意味ありげな表情を見せる。そして上を見上げた。
「じぃ……」
ルアの視線の先、2階のベランダに気配を感じる。俺はそれを見て、しばらく考え却下した。
「あいつらはぶっ飛んでる、まともな意見が聞けるとは到底思えない」
俺はそいつらを見ずに、しかし聞こえるように言った。
場所を変えようと2人に提案し、方向転換すると、何か湿ったものが俺の頭に着地した。
「ナイシュインっ! くぅ!」
「クゥ、すごいなの! 雑巾は60点ね! ウチは黒板消しで90点を狙うなの!」
「――お前らいつも、俺が怒りだすのをわくわくして待っているんだろ?」
「えぇッ! 何しゃべってるかぜーんぜん聞こえないなの! あ、ソッチ、頭に雑巾のっけてる! 日光浴で露天風呂!? だっさッ! きもいっつーの!」
俺は頭の上の雑巾を投げ捨てる。
「お前ら、ひとつ聞いていいか?」
「ひとちゅだけよ~!」
「ねえ、クゥ、それすごい可愛いー、セクシーなの!」
人差し指を口に当てて上目遣いのクゥのボケに対して、ポポがツッコミを入れた。
「あのなー! 明日から猫耳はマリアじゃなくてお前らの役目にしようと思うんだが、コスプレの希望があるか? 忍者か? バニーか? あ、チアリーダーもいいな!」
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今日は午前中のみの授業だった。夢見が丘高校の近くの夢見が丘公園で、生徒会のメンバーと待ち合わせる。
小学生くらいの子供が遊具で遊んだり、ランニングやスポーツをする大人たちが利用する、この街で有名な公園だ。
ここの公園の象徴で、伝説の丘と称される小高い丘が夢見が丘と呼ばれ、この街の名前の由来となっている。
捕虜のガルナビはうろちょろし、護衛のサリスマリスは大人しく静止している。
「ガルル~ゥ! 蝶ちゃんたち、美味しくいただくから待つガル!」
ガルナビはガを追いかけまわしている。学園の生徒たちと同様、この2匹の魔族は普通の人の目には映らないようだ。
「ガルは学外に出るのは初めてガル! 騎士ちゃんたちの許可がなければ外出できない規則の結界だガル」
ガルナビは捕えたガを口の中で吟味している。俺は眉をしかめる。
「ビグニティのおまんまは旨いけどビグニティ魔族はろくでなしばかりだガルね」
ガルナビは俺の背後でじっとしているサリスマリスを挑発する。
学園結界の外に踏み出したときから、いつもは気配だけのサリスマリスがくっきりと姿を現していた。
戦いのときよりずいぶん小さくなり手のひらサイズに収まる気味悪い仮面のぬいぐるみは沈黙を続ける。
「サリスマリス、お前も教会裏庭の魔族だって聞くけど、俺がクーラーの仲間っていう秘密を騎士たちに言うつもりはないんだろ?」
「――(こくり)」
小さいサリスマリスは明後日の方を見つめながらうなずいた。
「そのムッツリはお口をもがれたみたいに全然しゃべらないガル」
サリスマリスはガルナビの発言にツメだけ尖らす。どうやら怒っているようだ。
「まぁまぁ、同じ魔族なんだろ、仲良くしようよな?」
「国が違えば魔族も敵だガル!」
ガルナビはガを吐き出した。ガは何事もなかったかのようにどこかに飛んでいく。
「ひとつ誤解のないようにしたいのが、ガルは戦いが嫌いガル。他の野蛮な魔族や騎士ちゃんとは違うガル」
「……というと?」
「ビグニティ教会の手先の暴力騎士ちゃんと違って、ガルならもっと平和に知的に世界を治めるガル。お嬢さまが夢見るようなみんなが笑顔な世界を作りたいガル!」
「まさかお前みたいな奴の口からそんな考えが聞けるとはな……」
反論しようとしたガルナビは何かを見つけたように俺の背後に隠れる。
「ハロ」
マリア、ポポ、クゥの現れた。いつもと変わらぬ制服姿で小走りに駆け寄ってくる。
ポポとクゥは時より俺の顔色を伺うようにしている。
「ヴァーサー卿は? 魔族は?」
「大丈夫、ここら辺は安全だ」
「みぃもパトロール、頑張ぅ!」
「ぅえ……だるぅ」
ポポは俺と目が合うと、あからさまに怪訝な表情を作る。
すると後ろからマリアが俺の袖を引いた。
「いいですかハロ。この平和な街にもヴァーサー卿が招いた目に見えぬ邪気がはびこり、健全な市民や誇りある歴史、なにより女神である金城コミンを奪おうと手ぐすね引いてるです。油断せずにパトロールに取り組み、フィシス兇徒ら、特にヴァーサー卿から金城コミンを護衛するです」
あり得ない話だと知っている俺は適当にうなずく。事情を知るガルナビはくすくすと笑い、サリスマリスは黙っている。




