36 スカートに手をしのばせる
放課後の生徒会室では、久しぶりに定例会議に顔を出した長津田さんにニンマリと喜んだ金城コミンがけしからんことをしている。
「ねー涼子ちん! これはこれは!?」
「えへへへ……あの、今日はこれくらいで……」
「今度はこっちのお洋服着てみて! くのいち忍者よ! 学園祭のお化け屋敷の受付にもってこいだわ!」
「そ、そうですね、かわいいです……! でも金城さんが着たほうが、お洋服も喜ぶし、私より似合うと思いますよ!」
「アタシが着ても楽しくないじゃない!」
メイド姿の金城コミンは長津田さんの長津田さんの訴えをまったく無視して胸のあたりをさすっている。
「うちは学級日誌で忙しいなの~、超忙しいなの~」
「みちゅからないの、おまじない中……」
俺はいてもたってもいられず、部屋の隅の傍観騎士3人の中からマリアの手を引いて、コミンの前に突き出す。
「なんです?」
「マリア先輩、これを付けて! どうぞ!」
「これは?」
「最近の女子高生の流行です!」
「――流行り? それは興味があるです」
衣装の中から選び出したネコ耳を、マリアの頭にはめ込む。
「ほらコミン! これ見ろ!」
金城コミンは長津田さんを解放し、前のめりにマリアをみつめ、あらゆる角度からそれを吟味した。
「これはどういうことです? 先輩の頭に何を付けたです?」
「金城ほら、好きだろ? こういうの!」
「……だから?」
「だ、だからって?」
「……ネ、ネコ耳つけたマリアちゃんが、……どうだってのよ? べ、別にぜんぜんそそらないけど」
俺の質問に即答する金城コミンの声が裏返っている。
しかしまずい、マリアに食いつかない……!
「金城、その、別にって、何か感想があってもいいだろ? ……ほら、近くでよく見ろよ!」
「べ、別に! なんともないわよ! マリアちゃんは所詮マリアちゃんだし!」
さらっとひどいこと言いやがった。
「……そそらない、……なんともない、しょせん……です――」
マリアは首をねじり背後の俺の顔をみて、なんともいえない悲しげな表情を作る。
「……やっぱり、わたしに、女子高生の流行りのかわいいは似合わないです」
わずかに肩をたらしたマリアはネコ耳を外してそっと机に置いた。
「校舎の見回りをしてくるです……」
マリアはスクールバッグを背負って生徒会室を出て行こうとする。
「マリィのあんな悲しい顔見たことないなの……」
「かわいそうぉ……」
「おい金城、それは俺も悪いけど、なんであんなにそっけなくしたんだよ!」
横目に見た金城コミンは唇をかんで震えて、マリアを直視しないようがんばっているようにも見える。
「もう……ッ!」
「……なに?」
「もう……無理ッ! やっぱり我慢できないッ!」
金城コミンは扉に手をかけたマリアの小さな背中に激しく食いかかる。
「なんです!?」
「マリアちゃんの獣フェイスなんて反則よ! 業が深すぎ!」
そういうとネコ耳に大きな鈴のついた首輪と黒いしっぽをマリアに装着させ、今一度マリアの顔からつま先までをまじまじと確認した。
「もう心まですっかり呪われそうだわ! マリアちゃん、どうかずっとそのままでいて! もう大好きッ!」
さっそくマリアのスカートに手をしのばせる。
「……長津田さん! あいつが気を取られている今のうちに!」
「み、見回りにいってきまーす」
「――って!? 待って、長津田さん! 服が!」
長津田さんは金城コミンから逃げることに気を取られ、うっかり露出度高めなメイド服を着たまま生徒会室を出て行った。
はっとわれに返った金城コミンはマリアの耳をかじりながら俺をにらみつける。
「アナタずいぶんと卑怯ね、そういう手段は感心しないわ……」
それでもまんざらでもない表情の魔女は最後までマリアをまさぐるのをやめなかった。




