35 ナイトバトル
金城コミンがいない生徒会室で、ガルナビ1匹がイスに縛り付けられている。3人の制服騎士がそれを囲んでいる。
ガルナビは紐をかみ切り、俺の頭の影に隠れてマリアたちの詰問から逃れようとする。
「最後にもう一度問うです。知っているヴァーサー・クーラーの情報を暴露するです。これ以上優しくは聞けないです」
「ガルのお口は頑固だガル! これくらいの脅しじゃ割らないガルぅ!」
ガルナビは汗を滝のように流しゴキちゃんを抱きしめる小さい手は震えて時折俺に助け舟を求める視線を送る。
こいつに俺がクーラーと関わりがあることをうっかりしゃべられたら……。
「まぁ、マリア先輩、この生徒魔族が重要な情報を握っているとは思えませんけどね……」
「そそ、そうだガルよ! こんなザコなガルが大切な秘密を知っているわけないガル! ね、……ね、旦那!? ……ね!?」
「ハロはチビに懐かれているみたいですね」
「な、なわけないっすよ! こんな魔族と関わりたくないって!」
「ガルガルガル! 騎士ちゃんに秘密で、ガルと旦那はお嬢さまの下僕仲間として友達以上、つまり戦場の兄弟で――」
俺はガルナビからゴキちゃんを奪い取る。
「あ! 何する旦那! 返すガル!」
「……え……下僕仲間って聞こえたなの?」
「早く吐け、この馬鹿魔族め!」
俺は首をかしげるマリアに言う。
「耳をかさないでくださいマリア先輩! この魔族は虚言癖があるんですから!」
ガルナビは俺の手からゴキちゃんを奪い返す。
「ね、ゴキちゃん、潔白なガルにひどいことする騎士ちゃんもいたもんだガル!」
ガルナビはゴキちゃんと対話をはじめる。
「ガルはこのお口がどんなに裂けても、お嬢さまが街で『恋する少女たちの恋を摘む』なんて絶対に一言も微塵も言えないんだガル!」
――じゅぼぼ。
「ぎゃるるるるぅ!」
「熱ッっちいい! ちょっとマリア先輩! 危ないじゃないっすか!」
マリアの放った火炎により、ガルナビの抱えていたゴキちゃんは無残な黒い灰と化した。
「そ、そんな! ガルのゴキちゃんが真っ黒焦げ!?」
「ヴァーサー卿は女子生徒を襲うつもりですか……、証拠はおさえたです、録音をとめるです」
「ったく、チビはいつも手間取らせるなの」
「証拠、ゲットぅ!」
「ガルはまた大変なポカしちゃったガル! 油断してお嬢さまの計画を……!」
「証拠を教会に提出して、神殿学園外での武装強化の申請を受諾させるです」
騎士たちは手際よく書類を片付け始めた。
ガルナビは哀れな家族の無残な姿に駆け寄り、涙を流す。
「街に出た会長さんがヴァーサー卿にその身を狙われる可能性があるです。ヴァーサー卿の率いるフィシス兇徒の組織は綿密で、その戦闘力は強大です。よって、私たち生徒会騎士は連携をとって学園を守らなければならないです」
「同感だな、生徒を守ることが俺たちの使命だ」
「いいですか、ハロ。先輩の話をちゃんと心に留めておくです。愛と平和を願う生徒会長さんのため何としてもヴァーサー卿からこの丘を守るです」
「そ、っそうすね……」
ヴァーサー・クーラーから金城コミンを守る――もう、めちゃくちゃだ……。
俺は頭を抱えていると、生徒会室の室内から、見知らぬ荒地の風景に早変わりしている。
「場所が、変わった!?」
「ここは現実世界と乖離した空間です。いくら戦っても生徒がいる学園に影響はないです」
「なんでガルもここに連れてくるガルか!?」
「敵を知ることは重要、チビも演習に協力するです」
「味方の弱点を敵にさらすなんて、ガルに到底できないガルね!」
「今度新しいおもちゃ、――じゃなくて新しいゴキちゃんを買ってやるから、な?」
「もう、協力しちゃうガル! 今日だけの大サービスだガル!」
「連携をとるためにお互いの戦い方を勉強するです。まずは私たちの幻影騎士と戦うです」
そう言った隣のマリアが宙を仰ぐと、遠方に別の戦闘服姿のマリアの姿が見える。そして、その周囲にはさまざまな魔族の姿が現れる。
「幻影騎士? 偽物?」
「人形に宿した私たちのソーサリィが操作する身代わりの騎士や魔族です。実戦のように、遠慮なく真剣に殲滅するです」
「ガルガルガル! 騎士ちゃんのしょぼい能力でガルたち魔族を止めることはできないガルね! 演習に協力するガル! そして恐怖させてやるガル!」
ガルナビが指をふると、同じく10体の魔族たちが現れる。
敵対する偽物のマリアたちは表情なく、俺たちに向かって武器を見せる。
「うーちの偽物もみせてあげるなーの!」
「偽物ぉー、登場ぅ!」
続いて、遠方の敵陣にポポとクゥの姿が現れ、さらに騎士の従魔族10体が追加された。
「ハロ、いいですか。敵を効率よく殲滅するためには味方同士で連携することが勝利の要になるです」
「早く、そっちが先陣を切って、切り込むの! 救世主なんでしょ!?」
ポポが俺の背中を突き飛ばす。
「――ふざけるな! 俺一人でお前らの偽物3人と、あれだけの魔族を相手にしろって!?」
「安心するの、ウチがソーサリィ魔術のバリアでソッチを守ったり、援護したりするなのー!」
ポポはニヤリとする。びっくりするほどわかりやすい悪意に、戦場ではこいつは信用できないと確信した。
俺の背後からサリスマリスが出てきて、俺の横に並び、ツメをとがらす。
「ふん、お前らなんかの援護なんて必要ないんだよ! 演習なら存分にお前らの偽物をやっつけてやれる! な、サリスマリス!」
サリスマリスの剣術に合わせて、ソーサリィの意識をサリスマリスに送ると、強烈な切り裂きの衝撃で魔族の偽物4体が吹き飛んで、砂になって地面に落ちた。
「え? ええー!? なの!?」
「やるぅ! ハロくん、しゅごぃ! くぅ~!」
「どんな騎士にも心を開かなかったサリスマリスから、これほどの力を引き出す連携力を持つですか。しかし学園守護の任務に就く以上、それくらいできて当然だと思うです」
「ふん、ウチがソッチみたいな偽エリートより、ずっとずっ~とエリートだってとこ、見せてあげるなの!」
ポポの偽物と魔族の偽物がセットになり、俺へ攻撃を仕掛けてきた。
するとクゥが前に出て、何かの呪文を唱えた。
「いないいないのー……、おまじないっ!」
クゥの魔術で俺とサリスマリスの姿が、まるで分身を並べたのように複数に分裂した。
そして偽物ポポの放った攻撃が別の俺の分身に直撃した。ポポは悔しそうに地面を蹴る。
「ち」
「は?」
俺はポポをにらむ。
「仕方ないよね、だってクゥはかくれんぼが上手なの! もう、どこにいるか見当もつかないなの」
「うん! みぃ、いじゅ、プロ!」
「クゥの得意技ステルス魔術によりその回避能力は上昇するです」
偽物クゥは俺に向かって魔術攻撃を仕掛ける。
「そーなの! ウチだって最強の姫な騎士なの! これを見て納得するなの!」
そういったポポは手のひらを突き出し、俺の正面に青く透き通った盾を展開し、偽物クゥたちからの攻撃を防いだ。
「ポポはバリアな騎士です。攻撃を軽減するソーサリィ魔法があるです」
「ポポが敵なら、魔族を盾で強化される前に先にやっつけるんだな?」
「なの!? マリィ! エリートに余計なアドバイスを教えちゃらめなの!」
「ところでハロ、油断です」
俺がポポをちゃかしていると、偽物マリアが目にも止まらない速さで接近してきている。
「マリィはパルス魔術の騎士、味方の動きを素早くしてくれるソーサリィ魔法なの!」
マリアは俺に向かって何かの呪文を唱えると、偽物マリアが放った攻撃を素早い身のこなしで避けることができた。
しばらく演習が続き、クゥが退屈しだして、ポポがわがままを言いだすと、頃合いを見たマリアが終了を告げた。
「街に出るための戦闘準備は整ったです。明日は会長さんを守れるよう全力を尽くすです」




