33 ニーソな生徒会長 VS ナイトな女子
魔女の写真を片付け終えた少女たちは生徒会室内で散開する。
マリアは机の影にしゃがみ、ポポはカーテンに巻きつき、クゥはまだ部屋の中を走ってさまよっている。
「……あら? みんなの楽しそうな声が聞えたんだけどなぁ~?」
どうしてここに魔女が!?
「あれれ!? 誰もいないの!? おっかしーなぁ~!」
膝を抱えて椅子の陰にしゃがむマリアに尋ねる。
「あの、マリア先輩? これはどういうことですか……?」
マリアは俺を睨むだけだった。
最初に狙われたのは、俺の真後ろで植木鉢に頭をうずめ観葉植物に擬態しているつもりを決め込んだクゥだった。
「あれれ? くぅちゃんがいないなぁ~、どこに隠れてるのかぜんぜんわからないわ~」
「(みちゅからない、みちゅからないの、おまじない……)」
「なんだそのおまじない」
「しぃ!」
クゥは俺を見上げて怒った。
「……でも変ねぇ? ここら辺から、クゥちゃんの甘ーいかおりがするわ~」
抱き込んだ植木鉢に顔だけうずめ、隠れているつもりでいる滑稽なつむじを見ると、金城コミンは唇に親指をあてたまらなそうな笑みを浮かべる。
「クゥちゃんの香り、このお花の中からするわ~」
「(みちゅからない、みちゅからない、みちゅからない、みちゅからない、みちゅからない、みちゅからない……)」
「あれ? これ、アタシがクゥちゃんにあげた髪飾りじゃない!? あれれ~」
「――痛ッ!」
金城コミンは俺を突き飛ばし、クゥに飛び掛る。
「ということで、かわいい女の子、発見!」
クゥはへるぷっ、へるぷっ! と叫びながら抵抗するも、あっという間に制服を脱がされてしまった。
金城コミンはクゥを握った手の形を思い出しながら、手帳にペンを走らせる。
「将来は悩ましいナイスなバディになりそうね……ふふふ」
恐怖に我慢できず飛び出したのはポポだった。
「そのスキにウチは、さささささ……」
クゥが犠牲になっているうちに部屋を抜け出そうとしたポポは飛び出したコミンに抱きつかれる。
「何、何!? 会長さん!? ……そこは――、らめなの!」
「ダメって何が!? いいじゃない!」
「ウチ、美少女ランク中の下だし! そんなおっきくないから、さ、さわっても楽しくないから……なのッ!」
「なに言ってるの! アタシは楽しいわよ!」
ポポは金城コミンのテクニックによって一瞬で出来上がった。
気付くとマリアは観念したのか、2人がやられている姿を見て立ち尽くしている。
「あ、いたいた! マ~リアちゃんっ!」
制服を着た魔女に抱き着かれたマリアは微動だにせず、コミンのまさぐり攻撃に耐えている。
「生徒会の絶対倫理斉唱……。ひ、人の喜びをわが喜びに……、ひぃ、人の苦しみをわが苦しみに……」
いつもより早口のマリアは内股で震えだした。
「みんな偉いわ! アタシがいなくても毎日の日課を進んでこなしているじゃない! あーもうッ、マリアちゃんの素直さは言葉を失うほどの可愛さねッ!」
赤面にまみれたマリアが俺の直視に気づき、注意してきたので窓の外へ視線をそらす。
「――こ、これ以上……立っていられない……です……っ」
悪魔の十字架に縛られ果てたマリアは金城コミンの足元に崩れ落ちる。
「んふふ、いいわ、これだわ!」
「……楽しそうだな」
俺は絶望と諦めで、もう争う気はないが、一応ホウキの封殺剣を手に構える。
「夢見が丘の街で、恋を愛だと勘違いして泣いている子が大勢いるわ! 乙女が愛を呪ってしまう前に、なんとしてでも恋のトスを繋げるの! レスキュー少女よ!」
「――は?」
金城コミンは『本日の放課後、夢見ヶ丘に現地集合♪』と書き慣れたようにホワイトボードにペンを走らせ丸っこい文字を書き並べると、続いてカラーペンで生徒会みんなの似顔絵のイラストも描き加えた。
「学園内もそうだけど、市街地も見回りが必要ね、恋を肥やして愛に成長させるの。これがアナタの生徒会の初仕事よ!」
金城コミンが指をくるりと回すと、俺の握っていたホウキの封殺剣は巨大な一眼レフカメラとなり、ずっしりと両手にのしかかる。
「ぅ……会長さっ、んを守る――です……」
●
俺は魔女にやられてしまった騎士たちを残し生徒会室を去る。
廊下を歩きながら一眼レフカメラのレンズをのぞく。
「騎士たちはとっくに生徒会長に飼いならされていたというわけだ。お前の言ってた特別な仕掛けというものがはっきり見えたよ、ルア」
ルアは俺ににらまれていることに気がつき小さく肩をすぼめる。
「ヤリを振り回す彼女より、制服を着て生徒会の皆さんと微笑む彼女のほうが貴方にとって魅力的でしょう?」
「ならマリアたちが騙され、あんなことされていても構わないってのか!?」
「親睦を深めるためのスキンシップだと金城さんがおっしゃっております。もちろん、貴方が考えているような意味のないじゃれあいでもありません」
ルアは廊下の窓から、体操着姿で校舎の外周を走る生徒たちを見ている。
「ひそかに呪術が仕掛けられているのです」
「なんの呪術……?」
「学者の研究によると彼女からは無意識に思考を阻害するフェロモンが生成されているそうです。それにより騎士の皆さんの直感がかき乱され、単純な外見の違いでは金城コミンさんの正体に気が付けないのです」
俺はルアの一人しゃべりを聞きつつカメラを操作する。
「彼女の企みはなんでしょう? 夢見が丘の街に繰り出すなんて初めてです」
俺の背後に気配を感じる。
「サリスマリス、お前はあの魔女が街で何をしでかすつもりか、見当つくか?」
「――(ぶんぶん)」
試しに浮かんでいたサリスマリスを撮影するが、液晶画面にはサリスマリスの姿が写らなかった。




