32 女子高生な騎士たち
そして、金城コミンはペンを手でくるくる回しながら、どこか遠くの誰かに話すように窓の外を見つめ、妄想でうっとりしている。
「今日の放課後、風紀委員として生徒会室に来たあの子を捕まえて、どんなかわいいお洋服を着せようかしら!」
あの子という言葉を聞いた俺は無意識に金城コミンの顔をにらむ。
「あの子のかわいい体に白いドロッドロの生クリームをすり込んで、ピンクのリボンで手足縛って、さくらんぼをくわえさせて――」
そうつぶやきながら、机に長津田さんと思わしきメガネの女子のイラストを描き始めた。それはほとんど裸であった。
机の中から紅茶が揺れるカップを取り出して、再びペンを走らせる。
俺はコミンからペンを取り上げる。
「なーに? アナタもリクエストがあるの?」
「その下品な口をすぐ黙らせないと、この爆弾でぶっ飛ばす!」
俺は懐のトウガラシ爆弾を掴むが、何十人もの生徒たちが金城コミンと俺を注視していることを思い出した。
「それから、語尾ににゃん、って付いちゃう魔法をかけて、それからそれから――」
――っ――、胸が……まただ――!
「そんな風にがんばって否定しているけど、本音は嘘をつかないわ、さ、意見を聞かせて?」
俺の腹から飛び出した心臓が金城コミンに向かって走り出す。
「――なッ!? ちょ、ちょっと行くな!」
俺は胸から逃げ出し、机の上を走って隣の机に向かっていく心臓に飛びつくが、金城コミンの手の方が早かった。
「どうやら、コノ子はアタシに賛成みたいね?」
すると、赤いハートにペンを突き刺し、湯気の立ち上るカップの中にそいつを押し込んだ。
「――ぁ”――ぐッ”……熱ッ!」
「えへへ、どうしたいのー? シャイな心がドキドキしちゃって、ほんと忙しいのね」
教室を覗き込んでいる生徒たちからは、心臓は見えてないらしく、誰もが金城コミンに熱い視線を送っている。
いつの間にか窓際まで退避していた雄太も何故に俺が苦しんでいるのか見当がついていないようだ。
金城コミンはカップから心臓をつまみ上げ、指でピンと弾き飛ばした。
「……ッぅぐ――ほげぁ!!」
俺の胸に着地したソレは、胸の中に潜って逃げる。
「ご主人と違って、素直ね」
「……ち、ちくしょう!!」
俺は立ち上がり走り出すと、床に置いてあったバケツにつまずきながら、教室から逃げ出す。
廊下で男子生徒にぶつかり、曲がり角で滑って転びながらも、生徒会室に逃げ込む。
「マリア! マリアさん! マリア先輩! どこなんだよ、こんな時に!」
そして生徒会室の内側から鍵をしめ、対魔族用の結界札を貼り付ける。
「何の騒ぎです?」
「マ、マリアさん! ここにいたんですか? 今日は学食警備の担当じゃないんですか?言ってくださいよ! 探したじゃないですか!」
「教会の仕事が立て込んでいるです」
マリアはテーブルに向き直る。
俺はマリアの背後のソファーに腰を下ろす。
「まあいい、ここなら安全だ。助かった………え?」
マリアが熱中している広いテーブルには、ヴァーサー・クーラーの写真が広がっている。
「マ、マ、マリアさん、一体何してるんで……?」
マリアは首をかしげる。
「どうしたです? まるで魔女でも見たような顔をしているです」
気が付くと、書棚に向き合うルアがいて、俺にウィンクした。
マリアに言ってしまいたい、学園内をうろうろしている神出鬼没の生徒会長がその魔女の正体だってことを。
「でもこの姿……学内のどこかで見かけたような……気がしないこともないです……」
マリアはヴァーサー・クーラーをとらえた写真をみつめる。
そして生徒会室の壁には金城コミンと生徒たちが写った写真が飾ってある。
なぜ、なぜ気が付かないんだ――!
マリアはヴァーサー・クーラーの写真を眺めて首をかしげるばかりで、ルアを横目に見ると相変わらず馬鹿にしたように微笑している。
俺はマリアから写真を取り上げる。
「お願いですマリアさん! 金城コミンに張り付いてください!」
「なぜです?」
俺はマリアの手を握る。
「こんなに探しても見つからないならいつも学園にいない生徒会長が何か秘密を握っているかもしれません!」
「それなら自分で調査するです」
マリアは俺の話を真に受けていないのか、俺の手を振りほどきヴァーサー・クーラーの写真の鑑定を再開した。
俺は再びマリアの手から写真を取り上げる。
「騙されたと思って一度調べてください!」
「それを返すです、仕事の邪魔です」
人の話を真剣に聞こうとしないマリアのもう一方の手をとる。
「先輩! 聞いて! 金城コミンが何か秘密を握っているはずだ! それを解き明かせば、きっと学園は平和に――ぅッ!?」
タコウィンナーが飛んできた方を見ると、あの2人の少女がいた。俺がにらむとわざとらしく弁当をつつき始める。
「お弁当、お弁当、うれしいーなの!」
「ハロぅ! クゥのお弁当、食ぅ?」
俺は駆け寄ってきたクゥがフォークに差したタコウィンナーをくれるそうなので、ありがたく頂こうと口を出したが、ポポが先に食いついた。
「タコゲットなのー! もぐもぐ……」
「はい、うりきれー! 閉店! ざんにぇん!」
俺はそいつらに何も言わなかった。
「紹介するです。ポポと、クゥです」
「くぅ!」
「ソッチが救世主なの!?」
「あー、あのときの」
俺はできるだけ白々しく言ってやった。
「マリィ、あんなのが救世主なの? 超弱そうなんだけど!」
ポポという落ち着きのない女子生徒は俺に指を向ける。
「ずいぶん馴れ馴れしいもんだな――、初対面であんなの呼ばわりされる筋合いはな――」
「困ったらなんでも頼るです、エリートに」
「はぁー!? えりーとだからって調子に乗ったらマジで怒るの! そして、ウチのことは姫って呼ぶなの!」
「ひ、姫……?」
ポポはフォークを俺に向けると、剣のように振り回し始めた。俺は窓の外を見て無視した。
「よぅッ! ハロー!」
視界に入ってきたそのクゥというとても無邪気に見える女子は、俺に手のひらを見せて、あいさつしたようだ。
「よ、よう――」
「この子がクゥです」
「にゃいっ! ばいばーい!」
クゥとやらは俺の手をとり、そこに卵焼きを握らせると満足してポポと弁当をつつき始める。
こんなアホみたいな騎士たちで騒がしい生徒会室でも、金城コミンよりましだ。
ポポとクゥが弁当箱をハンカチにくるむのを見たマリアは、生徒会室の真ん中に立つ。
「では改めてビグニティ神殿学園騎士団の任務と教訓をみんなでおさらいするです」
マリアは人差し指を前にだす。
「騎士の使命は暴れ狂う魔族たちから生徒の安全を守ること、そして――」
運動会の開幕式のような選手宣誓が始まった。
「「神殿学園を守ること、特に―――」」
ポポ、クゥが一緒に叫んだ。
俺は女子生徒3人のやりとりについていけず、パイプ椅子に深く腰掛け、ヴァ―サー・クーラーの写真を眺める。
どちらにせよ、生徒会室は安心する。いくらあの制服を着た魔女も、この騎士のたまり場に乗り込んでくるわけがない。
マリア、ポポ、クゥが叫んだ。
「ヴァーサー・クーラーから金城コミン会長を守るです」
「コミン会長をヴァーサー・クーラーから守りまーす、なの!」
「でぃーふぇんす、でぃーふぇんす!」
俺はヴァーサー・クーラーの写真を放り投げる。
「まーた何か馬鹿みたいなこといってら――」
なになに……金城コミンを守る?
ヴァーサー・クーラーから?
アホか、金城コミンがヴァーサー・クーラーなんだよ!
「はぁああ~いっ!」
そう、この声を聞いただけで体中にみみず腫れができそうだ。
俺はあいつが生徒会室の扉から顔を覗かせているのに気が付き、椅子からひっくり返る。
あろうことか金城コミンの生徒会室への侵入に対し、騎士たちはヴァーサー・クーラーの写真を急いでかき集めることに夢中になっている。
「(生徒会長が来たようです、騎士の誓いは終了です)」
マリアは小声で俺に怒鳴る。
「(なにしてるですハロ、写真を隠すです、早く写真を片付けるです)」
「(学園の秘密を隠すなの!)」
「(早くぅ! 早くぅ!)」
それまで気配を消して書棚に向かっていたルアは全く関心なくこう言った。
「まあ、ご覧ください」




