29 ヴァーサー卿
俺は魔族たちがしゃべっている途中に、サリスマリスと一緒に奇襲を仕掛ける。
対して巨大な魔族が俺を狙って振り下ろした斧で地面がえぐれる。
俺はホウキの封殺剣で魔族の尻をひっぱたいた。魔族は電撃に包まれ、悲鳴を上げながら痺れて倒れた。
続いてサリスマリスも長津田さんを抱えながらも巨大な魔族1体を打倒した。
「――ッ! サリスマリス! 危ない!」
俺の声に気が付き振り返ったサリスマリスはすでに手遅れのはずだった。長津田さんをかばうようにしたサリスマリスの仮面の目の前で、巨大な魔族が振り下ろした斧がピタリと止まった。
灰色の光が盾となり、振り下ろされた斧を受け止め、サリスマリスを守ったようだ。
「ガルガルガル! どこぞの下劣な魔族に、ガルの手柄はよこさないガルッ!」
「ぐっ! 出来損ないのガーゴイルめ、邪魔するか――ゥ”!?」
斧を受け止めたのはガルナビの唱えた魔法による盾だった。ガルナビが指を回すと、魔族に囲まれたサリスマリスの周辺にシールドが発生した。
すぐに反撃したサリスマリスは魔族の腕を切り落とし、他の魔族たちを一閃した。さらにサリスマリスが大きく腕を振りおろすと、空間を切り裂き巨大な魔族たちを全て吹き飛ばした。
巨大な魔族たちは地面に倒れ、悔しそうに何かをぼそぼそとつぶやいている。
一方、連続した攻撃でサリスマリスは疲労が重なった様子で、肩で息をしている。
俺は倒れている魔族たちに言った。
「――もういいだろ、お前ら、関わってくるな! 俺たちは出てくからな!」
砂埃の中で魔族たちのうなり声が聞こえる。
「なぜ、なぜだ! 我々が地下で腐し堕落した力をもってジテも、この者ダチにすら打ち勝てぬのか――ゥ”」
ギシギシと音を立てて、魔族たちは斧を取り、立ち上がる。
「ちっ! まだ立ち上がるのか、こいつら――!」
「ゴノままだと、我々は一生女神さまの微笑みをいダダけない――ゥ”」
倒れた巨大な魔族たちは錯乱しているようだ。
「今ゴソ、呪われし神殿破壊の斧を披露するのだ――――ゥ”」
巨大な魔族たちは正気を失った様子で、口から自身の体と同じくらいの大きさの真っ黒な斧を取り出した。
魔族の口から産み落とされた斧は、地面にぶつかり、地割れを起こす。
「な!? げ、下劣な魔族どもめ、正気ガルか!? 学園ごとぶち壊すつもりガルか!? お嬢さまが許さないガル!」
「母国を破壊ジタ罪深き斧、再び我らに自由を与エダまえ――ゥ”」
狂った様子の魔族たちがその巨大な斧を取り上げて、一斉に振り上げた。
邪悪な空気が斧に集中して、周囲に禍々しい風が吹き荒れる。
「し、神殿破壊の斧!? ま、まずいガル! 旦那! 逃げるガル!」
「我ら虐げられる魔族の夢が叶わぬ神殿なら、堕してしまえ――ゥ”」
しかし突然、魔族の振り上げた死神殿破壊の斧を、何かの赤い一閃が粉砕した。
「――なんとッ! 邪気が消えた!? 有り得ない! どうジタというのだッ――ゥ”!」
巨大な魔族たちは手から神殿破壊の斧が消え去り、困惑する。
宙から2人の人影が降りてくる。
「あ、あいつらは……!」
ヴァーサー・クーラーの手下の2人の魔女たちが俺の前に立ちはだかる。
「今日のヴァーサー卿があんなにうれしそうなのは、お前が原因だったのん?」
1人がそう言う。
「――お前ら! 何の用だ!」
「みんな楽しみに待っているのに、こんなところで道草して――ぞくっ」
もう1人がそう言う。
「知るか! 永遠に待たせとけ! あんな嘘つき魔女!」
「なら、手と足と口をもいで、無理やり連れてくのーん、ね、マベラン?」
「デリスゥ、お口はもいじゃダメ。悲鳴が聞けない――ぞくっ」
2人の背後に魔族たちが不満そうな声で割り込んできた。
「ドコの者だか知らナイが――ゥ”!」
「阻む者は恨みがナグとも、この世界ガラ退場願おう――ゥ”!」
2人の魔女は巨大な魔族をにらんだ。
「にゃーんで、ソォスィン国の魔族がビグニティ神殿にいるのん?」
「あなたたちの自由のおうちはここじゃない、卿の言いつけを守らなきゃ――」
「ワからぬ虚言を並べて! 聞く耳もたぬ! これら小さキ者たちすら打ち倒せぬ我々に女神さまの祝福などありえないッ――ゥ”!」
「うーん、ヴァーサー卿の計画を邪魔してるの気が付いてないのん?」
「あらら、心が病気みたい、わたしたちフィシス上級役職者だってのに――びくっ」
巨大な神殿破壊の斧の一振りが、不意を突いてデリスゥという魔女に直撃して、地割れが起きた。
隣で仲間が斧に潰されたというのに、マベランという魔女は涼しい顔をしている。
「がははは! そう! 立ちはだかる障害が多いホド、その先の自由ニハ価値があ――ゥ”?」
しかし、地面に食い込んでいた斧が粉砕し、黒い槍が巨大な魔族ごと貫いた。苦しそうなうなり声とともに、魔族の巨大な体が地面に崩れ落ちる。
デリスゥは倒れた魔族の体に立って、様子を見ていた他の魔族たちに視線を向ける。
「そーんな心の病をもった魔族が、フィシスのファミリーになれるわけないのーん」
「母国再建のため、さら地で畑仕事してと卿に言われてるはず――ぞくっ」
「――(斬ル)」
不意をつくように、ツメをむきだしにしたサリスマリスが力を振り絞り、マベランの背後へ襲い掛かる。
そして、マベランの背中にツメが突き刺さる。
「……まあ?」
マベランは全く他人事のように、自分の腹から飛び出した3本のツメを眺める。
サリスマリスはマベランから離れる。
「あら、あたしも保健室につれてって――ぞくっ」
俺に向かってマベランはそう言って、冷ややかにサリスマリスをにらんだ。
「サリスマリス、無駄だ。下がれ」
サリスマリスはふらふらと俺の近くへ戻る。
「この世界に無駄なことなんてないわ。アナタの嘘偽りの恋を除けば――」
その声で俺は怒りがこみ上げた。
デリスゥ、マベランが視線を送った先には赤い魔女が立っていた。
ヴァーサー・クーラーだ。
巨大な魔族たちはヴァーサー・クーラーを見て、驚愕していた。
「あの冠、紋章、邪悪を論破する呪い仕掛けな槍…まさか――!」
「あれは、まさか、女神さま――ゥ”!?」
「我々はナンてご無礼を! ソコのお2人もフィシス役職者!? そうとは知らず――ゥ”!」
「……おいき」
巨大な魔族たちはヴァーサー・クーラーの低い声を聞くと、慌てて地面を掘って地中に消えていった。
ヴァーサー・クーラーは俺に視線を向ける。
「その力の源……純情、いや、愛? それとも嫉妬かしら――?」
ヴァーサー・クーラーは俺の方へ歩み寄る。
そして傍らで傷つき力なく座り込むサリスマリスを見た。
サリスマリスは折れたツメをヴァーサー・クーラーに向けて構える。
ヴァーサー・クーラーは弱ったサリスマリスに手を振りかざし、手に電撃をため込む。
「やめろ! 目的は俺だろッ!」
「ご主人のために堕す寸前まで心を惜しまないなんて、やりすぎね」
サリスマリスは俺の顔を見て、最後を悟り、うつむく。
「……ッ! おい、魔女、聞け! こっちを見ろ――ぐッ!」
俺はホウキの封殺剣でヴァーサー・クーラーに突撃するが、魔女の背後から伸びるしっぽのようなヤリに弾き飛ばされた。
そして、サリスマリスは魔女の電撃に包まれ、地面に倒れた。
サリスマリスから白い煙がたちのぼり、体は動かなくなった。
「お前……口のきけない奴に、よくもそこまでッ!」
魔女は微笑した。




