28 圧倒的ピンチ
「――かぷぅ! だガル!」
「キャ! 何!? 頭に何かくっついてる!?」
「お嬢さまの言いつけだガル! メガネ娘、こっちに来るガル!」
「え、なんで!? 怖いお化けのぬいぐるみが浮いて、しゃべって、噛み付いて、引っ張って……ぅ……」
「ガルガルガル! お嬢さまの下僕のガルはすごく怖いガルよ! もっと泣き叫んでいいガルよ!」
「ほ、本当に、この学園にお化けちゃんたちが……いた……の……?」
慌てふためく長津田さんはあっという間に気絶して、校舎裏に引きずられていく。
「長津田さんをどうする気だ! ――待て、この野郎!」
その魔族を追いかけて校舎裏へ走る。
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体育倉庫の扉が開いていて、中では長津田さんは倒れていた。
「長津田さん! しっかり!」
「うぅ……」
魔族を見たショックで気絶しているようだ。
異様な空気を感じ、周囲を見ると、ここは体育倉庫の中ではなかった。
現実が歪みだして、邪悪な空間が広がっていく。
「――くそ、罠か!」
やがて、砂漠のようなさら地に岩や瓦礫が散乱した、荒れ果てた風景が広がる。
どこからか魔族たちの笑い声が聞こえる。
俺は見えない魔族たちに向かって叫ぶ。
「お前ら、目的は俺だろッ! この子は関係ない! まずは、この子だけここから出せ、話はそれからだ!」
すると周囲から次々と魔族たちが現れて、俺に武器を向ける。
「お嬢さまの下僕の生徒魔族たち、力ずくでも2人を連れて行くガル! みんな突撃だガル!」
「なッ!? 魔族がこんなに!?」
俺が逃げ道を探して振り返ると、背後からぬるっと見覚えのある魔族が現れた。
「わッ!? お、お前は!」
雄太を助けてくれた、仮面の化け物、生徒会の従魔族だ。
「あのときの、サリスマリスか!? 味方してくれるのか!?」
「――(こくり)」
サリスマリスという生徒会の味方の魔族はうなずいていた。
「ここから逃げる方法は!?」
サリスマリスはツメを剣のようにとがらせ、魔族たちに剣先を向ける。
どうやらあいつらを倒せばいいらしい。
俺は持っていた護符を長津田さんの力のない手に握らせる。
「長津田さん、これ持ってください、防御札です」
「……ぅ」
この護符で魔族からの攻撃は防げるはずだ。
「オーウェイ! サーヴェイ! 減らず口の過ぎるハロをやっつけるガル!」
サリスマリスは魔族たちの攻撃をかわすと、敵陣に切り込み、1体、また1体とツメで切り裂き、打倒していく。
一方で、俺を狙って魔族が放った斧や火炎が飛んできて、長津田さんの近くの地面で魔族の火炎が弾けた。
「……ぅッ!」
「お前ら! やめろ! 攻撃するなら長津田さんじゃなくて俺だ!」
サリスマリスも圧倒的数の生徒魔族たちに囲まれてしまい、四方から斧を振り下ろされて苦戦を強いられている。
「見るガル、騎士ちゃんの援護がないと、訓練された従魔族も雑魚だガル! 日頃の学園での恨みを晴らすガル!」
俺が魔族に囲まれ苦戦しているサリスマリスの方へ走り出すと、ペッキンが俺の前に立ちはだかる。
「……ペッ!」
「ハロの旦那、紹介するガル! ペッキン族の番長、ペッキンコッキンだガル! ハロの旦那のおかげでお嬢さまにこっぴどく怒られたときのお礼がしたいって聞かないんだガル!」
「ペクソッ! ジネッ! ハロッ!」
「ああ、あのとき生徒会室の隅でしっぽ巻いて震えてた無様な化け物な! あの情けない姿は覚えてるぞ!」
「ペクソ!? お前、無礼ッ!」
怒りに震えるペッキンコッキンという魔族から、数えられない無数のカマが俺めがけて放たれた。
後ろには長津田さんがいることに気が付き、ホウキの封殺剣でカマをはじく。
しかし、落とし損ねた1本のカマが長津田さんに直撃した。防御札が身代わりに、長津田さんの体に触れる寸前でカマを粉砕した。
「お前ッ! 何しやがる!」
背後から飛んできたサリスマリスのツメが、ケラケラ笑うペッキンコッキンの額に刺さる。
ペッキンコッキンは地べたにポトリと落ち、舌を出しぴくぴくと震えている。
俺に駆け寄ったサリスマリスは魔族たちとの交戦で片腕を失っていて、羽織はところどころ切られていて、仮面からは赤い血が滴り、宙に浮かんでいるのがやっとのように、ふらふらと平衡感覚を失っているようだ。
「おい、お前、だ、大丈夫か!?」
「――(こくり)」
「ええい、あのメガネ娘を囮に狙えばハロは腰砕けになるガル! その隙に邪魔する生徒会の従魔族をやっつけるガル!」
魔族たちはサリスマリスに標的を変えた。
「サリスマリス、もういい、長津田さんは頼む……」
サリスマリスは血が滴る仮面を横に振り、ツメをとがらせる。
「いいから! 俺が突っ込んで奴らを引き付けている間に長津田さんを連れて逃るんだ! 早く!」
「―――(ぶんぶん)」
サリスマリスはうなずかない。
「これ以上、関係ない彼女は苦しませない! だから行け……!」
そのときだ。
俺のホウキの封殺剣が光りだし、折れた柄の部分が元通りに復活した。
「なんだ! ……胸が熱い!?」
「救世主ハロ――」
傍らのサリスマリスの声が聞こえる。
「マスター、心ノ調和ヲ――」
「……心の調和?」
「心を合わせれバ――、全てニ打ち勝てル―――」
そして、地面に片手をついていたサリスマリスの失っていた片腕が再生した。
「げ、従魔族の力が増しているガル! マズイことになる前にやっつけるガル!」
サリスマリスの体から光がこぼれて、仮面から戦意が沸き上がっているのがわかった。
俺も不思議と体の疲労感が抜けて、ゆっくりと立ち上がる。
「何でまだ立てるガルか!?」
「サリスマリス! 一緒に長津田さんと脱出するぞ!」
「――(こくり)」
サリスマリスは大きく両手を振り上げると、空間を切り裂くように風が巻き起こり、振り下ろした時には周囲の魔族たちが吹き飛ばされていった。
「ぎゃるるるる……ぅ!」
そして、魔族たちが倒れている向こう側に、サリスマリスの攻撃の衝撃で切り裂いたであろう、ぽっかり空いた空間から現実世界の校舎が見えた。
「で、出口だ! あそこから出られるぞ!」
「――(こくり)」
すぐにサリスマリスが長津田さんを抱きかかえる。
俺は地面に転がって身もだえているガルナビやペッキンコッキンたちの間を歩きながら、出口で歩く。
「がるぅ……」
「お前のボスにいっておけ! 今度学園の生徒に手を出したら、魔女の正体を騎士たちにバラして大勢でけしかけるってな!」
「ハ、ハロの旦那! 待つガル、そう言わずにおとなしく来てほしいガルよ! ね? ね?」
「長津田さんにあんなことして何を言う! 邪魔だ!」
俺の足にしがみつくガルナビの小さな手を振りほどく。
長津田さんを抱えたサリスマリスがついてくる。
「こ、こんな失態、お嬢さまに知れたら―――え!? ギャルルルル……!」
後ろで悔しがっていたガルナビが悲鳴を上げた。突然現れた魔族の足に踏みつぶされていた。
踏み潰した足の主はどんな顔をしているのか確認しようとするが、俺はだいぶ上空を見上げていた。サリスマリスもそれを見上げている。
他の魔族とは比べ物にならない、サリスマリスの倍以上の背丈の巨大な魔族が俺を見下ろしている。
黒い甲冑をまとった、恐ろしい斧を握る、おぞましい魔族の姿があった。
そいつは俺をぎらついた目で見降ろしていた。俺は一歩下がる。
「――み、見ない顔だな、お前も魔女の手下か?」
「女神さまに逆らうことができるほどに、貴様らニンゲンは自由を与えられているのだ――ゥ”」
さらに別の巨大な魔族が現れる。
「ニンゲンよ、その幸せになぜ気づかない――ゥ”」
「そ、それはお前たちのほうだ! あの魔女にいいように騙されてるんだ!」
「慈しみに恵まれすぎて、かえって盲目の不自由を被っているのだ……ゥ”」
次々と巨大な魔族が現れる。
「くッ!」
「堕落にうな垂れてこそ女神さまのお言葉に初めて感謝できる、一度その幸せを葬ってやろう――ゥ”」
そういった5体の巨大な魔族が、学園へ戻る亀裂の出口に立ちふさがる。
「ソォスィン国の亡霊め、それはハイエナ行為だガル! ハロはガルが連行して女神さまに捧げて、株を上げ――ギャルルルル……!」
ガルナビはまた踏み潰された。
「女神さまが救世主の首をご所望というならば――ゥ”」
「女神さまに供物として捧げ、手柄を上げた我々は見事にフィシス教徒に認められ、女神さまの祝福で自由の世界へ復活するのだ――ゥ”」
「母国を倒してから1000年ぶりの騎士との聖戦、心が躍る! さあ、救世主、剣を取るのだ――ゥ”」




