26 コミンを泣かせた!
必死に目に涙を潤ませた金城コミンは俺を黙らせるため、俺の胸に指を突き刺そうとする。
「みんなに恨まれ地獄に落ちようと、お前に心臓を握り潰されて呪われ冥府を彷徨うとも、長津田さんの夢だけは誰にも奪わせたりしない!」
「……ッ!? 口ばっかりは救世主気取りねッ!」
その指先は俺の目の前でピタリと止まり、震えている。片手を俺を突き刺そうとし、もう片手は胸の前で小さくたたんでいる。
目の前には、見たことないほどに無防備な金城コミンがいた。
なんだか知らないが、これはチャンスなのか!?
今なら魔女を倒せるじゃないか!
武者震いに高まる拳でトウガラシ爆弾を握り締める。
「どうした……? 金城コミン、やれよ! やってみろよ!」
俺は一歩前にでて、胸を突き出す。
「また心臓を傷めつけるのか? さっきのが本音かどうか、俺の心臓に聞いてみろよ!」
金城コミンは一歩後ずさる。
「その呪わしい口が永遠に偽りの愛を述べられないよう舌を引っこ抜いてあげるわッ!」
「だったらすぐに引っこ抜いてこの心臓に聞けよ! 俺だってこの気持ちがわからない!」
「それ以上、醜い心でアタシに近寄るなッ!」
金城コミンは俺の顔を見て、真っ赤な顔をそむけた。
「なら観念してこの世界から出てけ! もう彼女の悲しい顔を見ていられない! もう容赦はしないぞッ!」
「し、信じられない……! やめて近寄らないで!」
魔女は苦しそうに胸を押さえてうつむく。
「……なによ……なんなのよ……」
「知るかッ! 化け物はお前らだ!」
「……やだ……わからない……理解できない」
「ふん、魔女め、苦しそうな演技も堂にはいったもんだな!?」
魔女は噴水のへりで膝を抱えて石のように無口になる。金城コミンは具合が悪そうに、体を震わせている。
「……お、おい……聞いてるのか?」
「……ぅ」
魔女は小さく震えて歯を食いしばっている。すると、あろうことか、体を震わせてすすり泣き始めた。
「――えッ!?」
俺はその想像もできない光景に不意を突かれていた。
「た、たいへん! 生徒会長がホウキで暴力されてる!」
「だ、誰か! あのチンピラをやっつけて! 金城さんが襲われてる!」
部活の女子生徒たちがこっちを指差して、そう叫びながら職員室のほうへかけていった。
「わ、ち、違う!」
俺は構えていたホウキを投げ捨てる。
「助けて……お願い――ゥ”」
金城コミンが苦しそうに言う。
「身体が、熱い……壊れちゃう……心が狂っちゃう――――ゥ”」
「わ、悪かったって、とりあえず謝るから……そ、そんな、泣くなっての……」
「はぁ、はぁ……、心が、矛盾に――呪われて……ゥ”」
顔を真っ赤にして、息を荒げている。額に汗が見える。
どうやら、本当に苦しいようだ。
「ったくッ! ――保健室でいいのか!? 俺につかまれ!」
――いや、待て待て! ずっと追い求めていたチャンスなんだぞ!
――学園から魔女を追い出せという神さまからの思し召しだ!
「……ぅぅ――」
しかし、俺は金城コミンのその表情に息をのむ。まるでか弱い美少女が助けを望んで、苦しんでいるようにしか見えなかった。
俺はどうしようかと迷っていると、突然に隣の噴水が赤い水を吹き出し、宙を真っ赤に染めた。
そして、学園の木々は一瞬にして枯れ葉て、無残な枝たちが分厚い雨雲の下を広がっていく。重苦しい空気が肌を刺し、黒い霧が学園を包み込んでしまった。
ルアの言葉を思い出した。
ヴァーサー・クーラーがこの世界の心臓を握っている危険な状態であるという言葉を。
下手にこいつを倒してしまえば、一緒に世界もおかしくなってしまうっていうのか。
空の闇の雲の中から、巨大な雨雲のような腕が現れ、俺の頭上に手をのばしてきた。
「……う、うわッ!」
さらに、噴水からあふれ出したどろっとした赤い水が手の形に変化して、金城コミンに掴みかかろうとした。
「――ちッ、何でこうなるんだよ!」
俺は金城コミンを掴んだ赤い手をホウキで払いのけ、金城コミンを奪い返し、両手で抱える。
「――長津田さん、ごめんッ!」




