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24 女の子のひみつ

 放課後でも明るい時間は生徒魔族たちの悪事も活発ではない。俺を襲おうとしてくる生徒魔族はまだいない。

 青空の下の屋上では、長津田さんは俺が描いた魔方陣を見つけると、細い肩でため息をついている。


「これもペンキでかかれてる……ひどすぎます……。誰がどうしてこんなことを――」


 長津田さんは、近くに『みんなが困っています。やめてください』と書かれた注意書きを貼り付ける。

 俺が魔族たちから身を守るために施した結界を長津田さんは真剣に調べる。

 校舎内に仕掛けておいた結界が教員らによって消されてしまった。絶対見つからないだろうという場所にほどこしたのに、そのほとんどが処分されてしまっている。

 あとは封殺札など、俺が持ち運んでいる携帯用の武器しかない。


「一体誰が何のために、こんないたずらをするのでしょうか――」

「さあ、さっぱり……」

「犯人は今日も現れるでしょうか?」

「今日は現れないと思う。こうして見回りしているので」


 悲しさを押し殺したような長津田さんの笑顔が俺に向けられる。無意識に唇をかむ。


 仕方ない、気にするな、魔女や魔族から学園を守るためだった、と自分に言い聞かせる。

 今、魔族が現れたらどうしよう。騎士たちがいないのに、凶暴な生徒魔族を抑えられるだろうか。


「あの、その背中のホウキは?」


 俺が肩からかけている普通のホウキにしか見えないホウキの封殺剣を見て長津田さんは言った。


「……自分、掃除が好きなんで」

「偉いです。生徒会長の金城さんもお掃除は大切な習慣だと言ってます」


 その名前に全神経が波打なみうった俺は、封殺札で加工したホウキに手をつかえ周りを気にする。


「あのー、なにか、心配事でもあるのですか?」

「あ、いや別に!」


 視線を落としイタズラを探すふりをする。自分で仕掛けたのだから、ここら辺にないのは知っている。


「ガールフレンドとか、いますか?」

「――づぅえ!?」


 突然の質問を投げつけてきた長津田さんは、落ち着いて俺を見つめてくる。


「……え? あ……え、その……。な、なんで、いきなり?」


 長津田さんは答えるまでこのままずっと見つめ続けるといわんばかりの態度で、目線すら微動だにしない。


「なな、な、長津田さんこそ、さっきのボーイフレンドは!? ヒカルさんとは、もう長いんですか?」

「秘密です!」

「き、訊いた長津田さんから先に教えてくださいよ!」

「じゃぁ、なぞなぞ問題に答えられたら教えます」

「わ、わかった! いいですよ、なぞなぞですね!?」


 長津田さんは空を見上げて唇に人差し指をあてて考える。


「物体じゃないのに、守ったり、ばらしたりできるモノ、な~んだ?」

「物体じゃないのに守ったり、ばらしたりできるモノ……? ヒントあります?」

「”ヒントあります”ですか?」

「はい、ちょっと難しいで――」

「ぶっぶ~! ヒントあります、は不正解!」

「え!? 今のは答えたわけじゃなくて――!」

「うふふ! 私の勝ち!」

「そんな! 今のはなしだ! ずるい!」

「ダメです、回答権はひとり一回までですよ」

「……なら、正解は何すか!?」

「答えも”秘密”です!」

「秘密って、答えくらい教えてくださいよ! 気になるって!」


 物体じゃないのに守ったり、ばらしたり……”秘密”?


「――あっ! なるほど……、秘密ですか!」

「学年2番のあなたでもお手上げでしたね」

「俺だって、もう少し考える時間があれば絶対に答えられて――」

「ダメです、約束は約束です。ガールフレンドは?」

「本当だって! もう少し時間があれば――」

「……時間なんて、ないです」


 さっきまでの優しい長津田さんの表情が消えた。


「……ね?」

「え、その……そんな怒らないでくださいよ、自分の負けだから……」

「……まだ?」

「あの、その……勘弁してくれませんか……?」


 まるで人が変わったような真剣な面持おももちで俺の口からガールフレンドの名前が飛び出すのをじっと待っている。


 目の前の長津田さんはよその奥さんなんだ! ガールフレンドだなんて、す、好きだなんて……言えるわけない……!


「……っふ! うふふ、なーんてね! ――いきましょ!」


 そういうと長津田さんは俺の手を引く。そして背を向け空を見上げる。


「いつもそんな難しい顔をしていると悪いお化けがよってきますよ」

「あの……お化けが見えるんですか?」

「お化けは怖いから嫌いです!」


 日が暮れるまでふたりで歩いた。

 廊下の赤いタイルをどうしてもけて通るクセがあること、このカチューシャがお気に入りであること、毎朝天気予報の占いを見てから登校することを聞かされた。

 俺は長津田さんの話にうなずくだけだった。


 そして、いつの間に、他の強くて優しい誰かに先を越されてしまった。

 俺がもたもたしてたからだ。

 しかし、何年経って大人になろうと彼女は彼女のままだ。

 彼女が笑顔でいてくれさえすればいいんだ。


 制服のポケットと靴ベラの下には襲い掛かる魔族を10体返り討ちにしても余るほどの武器が仕込んである。魔族たちが束になって襲いかかろうとも長津田さんだけは守らなければ。


 長津田さんと、お子さんとが――

 長津田さんの家庭の幸せが一生続くように――


挿絵(By みてみん)


 ついに俺からは一言も話しかけられぬまま、完全下校の鐘がなる。

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