22 守りたい天然メガネな幼馴染
休み時間になると俺は教室を飛び出しマリアを探し回った。マリアが近くにいれば生徒会室でも、あの魔女の金城コミンも姿を現すことはないだろう。
その小さな先輩はだいたい生徒会室にいた。
「はぁ、はぁ、先輩! マリア先輩! 探しましたよ……!」
「入るときはノックをすると言ったです」
生徒会室は特に強力な結界で守られているとマリアは言っていた。
壁には、金城コミンが生徒たちと仲良く交流している写真が飾ってある。
俺は生徒会室の奥の『会長室』と表記された生徒会長の別室の扉を見る。
あの魔女ヴァーサー・クーラーである金城コミンの部屋だ。
「……マリアさん、ちょっと来て!」
俺は生徒会室ポストの中に手を突っ込んでいるマリアの手を取り、恐る恐る会長室扉を開き、中をのぞく。
金城コミンの生徒会長プレートが見えた。部屋の中には魔女も魔族もいない。さわやかな風がカーテンを揺らしているだけだった。
「許可なく会長室に出入りすることは禁じているです」
マリアは唖然とする俺をのけて、会長室の扉を閉じた。
「それで、この手はいつまで先輩の手をつかんでいるつもりです」
「あ、すみません……。ちょっと生徒会長で気になったことがあって……」
俺の手から解放されたマリアは机に戻る。俺は書類を眺めているマリアに聞く。
「あのマリアさ、いえマリア先輩。生徒会長の金城コミンは、どこにいるんですか?」
「あなたもですか。……そんなに会長さんのことが気になるなら自分で学内を探せばいいです」
書類に目を通しているルアと目が合い、俺に笑顔を送ってきた。
「マリア先輩、――あの魔女を、ヴァーサークーラーを倒せますかね?」
「倒せるよう、日々訓練しているです」
「じゃあ、昨日俺を襲った魔族たちは今どこにいるんです?」
「ヴァーサー卿の計画に加担した生徒魔族たちはデススタディお仕置き教室にてお仕置き中です」
「学園にいるんですか?」
「ヴァーサー卿の手下の何者かに結界を破壊されてしまい、魔族がニンゲンに姿を見せることができるようになったです。姿を見せてはならないと学園規約に記していますが、それも理解できないお馬鹿な生徒魔族にはお仕置きで覚えさえるのが手っ取り早いです」
「……あの魔女は次いつ襲ってきますか?」
「現在、学園特別警備中になるです」
「……あの、他の2人の騎士は今どこに?」
「現在、学園特別警備中になるです」
俺はルアを一瞥してから、マリアに近づき、タイミングをうかがって質問してみた。
「あの、……ヴァーサー・クーラーの正体に見当ないんですか?」
「現在、特別調査中になるです」
「まったく心当たりも!?」
「ハロ、もしかしてあなたはすでにヴァーサー卿の潜伏先に目処があるです?」
「え!? あ、いえ全然、そういうわけじゃ……」
マリアはわずかに首をかしげた。
「金城コミンの顔を見たことは?」
「昨日の放課後にここで見たです」
「ヴァーサー・クーラーの顔を見たことは?」
「忘れもしないです」
マリアは極秘と書かれた引出のカギをあけて、写真を取り出し、机に並べる。
「あなたは忙しい先輩を質問攻めにする前に、この資料を見て自分で知識を蓄えるです」
マリアが資料として出した写真には、ヴァーサー・クーラーや手下の魔族たちがうつっている。
その中には、護衛対象と記された金城コミンと生徒たちが仲良く写っている写真もあった。
「この先輩さまの目は節穴なのか――」
「ハロ、何か言ったです?」
「いえ、頼りになる先輩、ありがとうございます」
それを聞いたのか、ルアが小さく笑った。
チャイムが鳴ると、マリアは立ち上がり生徒会室を出ていこうとする。
「ちょっと! どこに行くんですか!? お、俺も一緒に!」
俺は立ち上がりスクールバックをつかむ。
「あなたには学園警備の任務を与えるです。先輩は警備強化のため教会から新たな従魔族を手配してくるです。あなたの先輩は忙しいです」
「で、でも俺ひとりになりますよ!?」
「お天気の日は邪気なソーサリィが低下し、生徒魔族たちも悪ふざけを自重するです」
「魔族たちはマリアさんがいないと知れば、また襲って来ますって!」
「また弱音を言うですか」
「あの……頼みますから、……こ、ここにいてくれませんか? まだハロの任務もよくわからないし」
「その泣き言をやめなければ、また鉄拳制裁するですよ」
「――だって……その、ひとりじゃ不安で、助けてよマリア先輩!」
俺はビンタしようとするマリアの手を強く掴んでいた。マリアと目が合う。
「手、痛いです。離すです。口答えで飽き足らず、先輩に暴力するですか」
「――あ、す、すみません。わざとじゃ……」
マリアは解放された自分の手をさすっている。
俺はうつむき、どう訴えてマリアに残ってもらおうか考えていると、扉の閉まる音と同時にマリアはいなくなっていた。
「マリアさんたちが彼女の正体に気が付かない背後には面白い仕掛けがあるんですよ。いつか理由がわかります」
横からそう告げたルアといても魔族に対して全く抑止力にならないと知っている俺は、恐るおそる生徒会室から出た。
しばらく廊下を歩いていた。
すると知っている女子生徒の姿が見えた。
「……ん? あの人は――」
『風紀委員』の腕章をつけた少女が廊下を歩く生徒たちにチラシを差し出している。
ある生徒はそれを受け取るとつき返して、またある生徒は興味なさげに床に捨てた。
俺は足元に落ちているチラシを拾う。
『警備委員の募集』
『度重なる”お化けたちによる”いたずら対策として放課後に学園内を見回る警備委員を募っています――』
『変なお札や魔方陣を校舎に描く事件が相次いで――』
俺が魔族に攻撃したトウガラシ爆弾や封殺札の残骸の写真も、犯人の手がかりとして印刷されている。
「……これは、まずい!」
顔を上げるとそのチラシを配っている女子生徒が駆け寄ってきた。
「え、あ、いや……」
俺はトウガラシ爆弾、封殺札をジャケット裏の奥深くにしまいこむ。
「長津田さん、生徒会だったんですね」
同じクラスのメガネがトレードマークの長津田涼子さんだ。
「あれ、私の名前なんで知って――? あ、ごめんなさい、あなたは、えっと……確か、えっと……」
長津田さんは目の前の男がクラスメイトだと気が付き、そして名前が思い出せないようでいる。
ついに俺の名前を思い出すことを諦めたようで、申し訳ないという表情と、ごめんねというような笑顔を見せる長津田さんがかわいそうなので、先に自分の名前を伝えた。
「あ! そうそう、あなたのお名前は知ってたんだけど、どういう漢字で書くのかを思い出してただけなの!」
いつまでも謝る長津田さんが気の毒になり、話題をすりかえた。
「あ、あの、このチラシは?」
「これね! 放課後の防犯のための見回り役員を募集して――きゃッ!」
廊下を走ってきた男子生徒にはねられた拍子に、長津田さんは抱えていたチラシを床に散らかしてしまう。
ゆっくりと華奢な体が廊下に崩れる。
「お、おい! お前! 危ないだろ! 気をつけろッ!」
立ち止まった男子生徒は俺の顔を見ると、『ほざけイタズラの犯人! お化けでも探してろ!』と言い放つ。
「……ちっ」
俺はうつむく。
「違います! 犯人はお化けちゃんです! ここの生徒はそんなことしません!」
長津田さんが小さく叫んだ。それを聞いて野郎は口を開いた。
『うるせ天然メガネ』と聞えたような気がする。いや残念ながら野郎はそう口走ってしまった。
「待てよ……」
男子生徒は『なんだよ? チンピラエリート』と俺をののしった。
「てめえぇ! 答えろ! どこが天然で、うるせえってんだ!? 俺にもわかるようにメガネ以外の部分を説明しろ、あんッ!」
野郎は逃げ出す。
「待てごらッ! ここでちゃんと長津田さんの前で指つめろッ!」
怒りのホーミングダッシュを切ろうとした俺の手を長津田さんの柔らかい手が包む。
「……ぁぅ!?」
彼女の握る手から温もりがじんわりと流れ込み頭の中が心地よく麻痺して怒りを忘れた。
「えっと……」
「……え?」
「あの、いいですか?」
「あ! だ、大丈夫ですか? 怪我してないですか?」
「……い、痛いです!」
「どこか怪我を!? 誰か早く救急車と大学病院に電話を!」
「だから……その手を離してくれます?」
気がつけば俺は長津田さんの手をしっかり握り返していた。
「……あ! ああ! ごめん!」
俺が手を離すと長津田さんは立ち上がり、スカートを払い、チラシを拾い始めた。
俺も一緒に拾うのを手伝った。
「……と、ところで、イタズラするお化けでも目撃したんですか?」
俺はチラシを拾い集めて長津田さんに渡す。
「みんな笑って言います、お化けなんていないって、……あなたも本心はそうなのでしょ?」
「え……い、いや、自分は別に……」
「生徒はみんないい人です! やんちゃなお化けちゃんたちが……、ぅ……こんなふうに、悪ふざけで、い、いたずらしているだけなんです……!」
俺は恐る恐る核心に迫る内容を聞いてみた。
「――お化けがいたずらしているところ、見たんですか?」




